141.連合軍
連合軍――正式名称は、西大陸人類連合軍。
本部は西大陸の中央のプラチナナイト帝国そのもので、1つの国を中心に西大陸の戦力が集まって魔王軍と争っている。
とは言え、ここ数年は魔王軍に押されて戦線が北上しており、プラチナナイト帝国に迫っていた。
そんな中、勇者の存在が明らかになり、最前線に赴くとなれば士気が上がり、何とか押し止めている状態らしい。
アルベルト達は連合軍本部に向かう途中に第5軍ホワイトシールド中隊を襲っていた魔王四天王の1人、紅蓮のルールー率いる魔族たちと遭遇し、これを退けた。
その後、何のトラブルも無くすんなりと連合軍本部に到着した。
「お待ちしておりました、勇者様! 総司令官がお待ちです。どうぞこちらへ」
まずは連合軍の総司令官に到着報告と挨拶と言う事で、本部に着くなり指令室へと通された。
「城そのものが連合軍本部とは。話には聞いていたけど、随分と剛毅だな」
「総司令官がこの国の皇帝ですからね。皇帝自ら国を魔王軍の前線基地としたことで可能になった戦略でもあります」
アルベルトの呟きに、案内してくれている兵が答える。
軍事国家プラチナナイト帝国。
プラチナナイト帝国は軍事に特化しており、その戦力は西大陸の中でもトップクラスだ。
軍人でなくとも国民1人1人が単体でも戦闘可能な技術を要しており、いざとなれば義勇兵として参加する事も厭わない帝国だ。
その為、連合軍を結成する際に、トップとして据えられたのがプラチナナイト帝国の皇帝だ。
そして総司令官に選ばれた皇帝は、皇城を連合軍の本部とし、プラチナナイト帝国そのものを連合軍の拠点としたのだ。
今、案内され城の中を歩いているのは、勇者アルベルトをリーダーとした戦闘部隊である4人だ。
後方支援部隊であるディーノたちは、それぞれの役割をこなすために別行動をしている。
ディーノはスレイプニルの面倒と馬車のメンテナンスに。
クーガーとフレイドは物資と食料の補給に。
リュキはアルベルト達に付いて行きたかったみたいだが、一段落した後の休息やその他の手続きをする為に責任者に会いに行った。
「それにしても、まさか勇者様が自らその箱を運びになるとは思いもしませんでした」
「あんた、この箱の事を知っているか? ホワイトシールド中隊の隊長殿は極秘任務だって言ってたが」
そう、ルールーに襲われていたホワイトシールド中隊が運んでいた箱は、アルベルト達が運んでいたりする。
魔王四天王に狙われたこともあり、このままホワイトシールド中隊が運ぶのは危険だと思われ、それならばと、移動速度もあり、勇者パーティーであれば尤も安全ではないかと言う事でアルベルト達が運ぶことになったのだ。
ホワイトシールド中隊はそのまま囮として箱を運ぶふりをして本部に向かう事になっている。
とは言え、確かにブラストールの言う通りホワイトシールド中隊の隊長は極秘任務だって言ってたよな。
「ああ、失礼しました。私は連合軍の参謀を務めておりますジャン・ジ・メイトと申します。この極秘任務の作戦を立てたのは私なのです」
ありゃ? 一般兵かと思ったらまさかの重鎮だったよ。
「なるほど。そりゃあ箱の事は知ってて当たり前か」
「それで、箱の中身は何なのー? 極秘任務にするくらいだから物凄い物なのー?」
「それは、総司令官の所へ案内してからのお楽しみです。その箱は、勇者様に関係のあるものなので」
ジルの疑問に、ジャンは悪戯を仕掛けた子供のようににんまりと笑う。
ほぅ? この箱の中身はアルベルトに関係がある、と。
まさか、聖剣とかベタなものじゃないだろうな。
「総司令官、勇者様ご一行をお連れしました」
ジャンは指令室の前に着くと、ドアをノックしてアルベルト達を案内してきたことを告げる。
「入ってくれたまえ」
ジャンがドアを開け、アルベルト達が中へ入ると部屋の中央には大きなテーブルがあり地図が広げられており、そして数人がテーブルを囲むように話し合っていた。
テーブルを囲む数人の中で、ひと際目を引く人物がいる。
整えられた金髪に、蒼い目、精悍な顔立ちでありながら獰猛な笑みを浮かべたイケメンフェイス。
体格もむさ苦しくない程度に程よい筋肉が付いたがっしりとした肉体。
そしてその動作の1つ1つが洗礼されており、王者の風格を漂わせていた。
おそらくこの者が連合軍の総司令官であり、プラチナナイト帝国の皇帝なんだろう。
「おお、お初目にかかる、勇者殿。私が西大陸人類連合軍総司令官のスタージュン・フォン・プラチナナイトだ」
「初めまして。俺はアルベルトだ」
そう言って差し出された手を握るアルベルト。
って、おおおい! 言葉、言葉使い!
うわぁ……そう言えば、クソババァとユーグの教育の所為で、アルベルトは少々歪に育ってしまっていたっけ。
パトリシアは本部に来るまでの旅の中でそれなりに注意はしてきてはいるが、数日やそこらで直るほど単純にはいかなかったみたいだな。
「うむ、元気な若者ではないか。期待しておるぞ、アルベルト殿」
どうやら総司令官殿はアルベルトの態度にそれ程気にしてはいないみたいだ。
寧ろ若者特有のやんちゃさを認め、懐の深さを見せた。
アルベルトと総司令官殿の挨拶の一方で、ジルは思いがけない再会を果たしていた。
「久しぶりだな。ジル殿」
「あれー? シルバー? 何でこんなところに居るのー?」
指令室に居た数人の中に、見知った顔であるシルバーが居たのだ。




