134.勇者パーティー:料理人3
幻の食材・『グランホワイトの角』。
その食材を有しているモンスター、SS級のグランホワイトは鹿のモンスターと言われている。
そしてその名の示す通り、上から下まで全身が真っ白らしい。
ジル達はグランホワイトを探し求めて、大動脈山脈の最西端から山登りをしていた。
まぁ、結局のところ、はーちゃん、えんちゃん、へきちゃん、かめちゃんの反対を押し切り、俺はジルにグランホワイトを捜すのに許可を出していた。
グランホワイトが言い伝えどおりなのか正体不明で強さも判明していないが、神とも言われているモンスターでもある。
破壊神とか邪神とか言われていない以上、神であるからには無差別に攻撃はしてこないだろうと言うのが俺の見解だ。
それに……【第六感】がフレイドに協力して『グランホワイトの角』を入手しろと言っているのだ。
そんな訳で、ジル達は戦闘部隊である、ジル、アルベルト、ブラストール、パトリシア、そして依頼人であるフレイドの5人で大動脈山脈を登っていた。
フレイドは後方支援部隊ではあるが、バトルコックの二つ名の通り、戦闘部隊には及ばないが戦う事も出来る。
それに、グランホワイトから角を手に入れたとしても、もしその場で食材としての処理を施さなければならないかもしれないので、料理人であるフレイドの同行も必須だったのだ。
「ここはまだ山脈の端だからそうでもないが、山脈の奥の方は険しい山道なんだろうな」
「俺っちとしてはこの程度の山道は訓練程度にしかならないが、パトリシア殿は大丈夫か?」
「はぁ……はぁ……だ、大丈夫です。【聖女】スキルの効果で身体能力も上がって舞いますし、【治癒魔法】で体力の回復も出来ますから」
元々戦うために体を鍛えていたアルベルトとブラストールは山道を平然と歩いているが、ついこの間までなんの訓練も受けていなかったパトリシアにはこの険しい山道はかなりの苦行だった。
パトリシアはああは言うが、かなりのハイペースで登っているので付いていくのでやっとと言ったところか。
料理人であるフレイドは、バトルコックの異名に加え、ドワーフであるが故に体力にはかなり余裕がありそうだった。
ジル? ジルは言われるまでも無く、この程度の山道はへっちゃらだ。
迷宮大森林の20年間の大森林深部の生活に比べれば、訓練にもなりはしない。
何せ、大森林と謳いつつも、大森林深部には大渓谷やら大動脈山脈など比べ物にもならない大山脈なんかもあったりしたのだ。
それに比べれば。
「流石は最年少でS級冒険者になっただけのことはあるな。頼もしい限りだ。しかし噂には聞いておったが、その姿でまだ10歳とはな。年齢詐称にも限度があるのではないか?」
「うーんー、それに関してはどうしようもないからねー。実年齢は27歳で、公式年齢は10歳だからねー。嘘はついていないしー」
フレイドの物言いに、ジルは苦笑しながら答える。
ジルが生まれた年からの換算をすれば、公式年齢上は10歳なのは間違いない話だしな。
「姉さんが普通じゃないのはいつもの事だから姉さんらしくて別に構わないが、グランホワイトの住処はまだ先なのか? まだ暫くかかるなら一度休憩した方がいい。このペースだとパトリシアが持たないぞ」
「正確な場所はワシにも分からんぞ。あくまで噂で聞いた程度の精度だ。だが、まだ先なのは間違いないな」
それならばと、一行は一時の間休憩を取る。
「す、すみません。私の為に……」
「別にパトリシアの為じゃないさ。俺もちょっと休みたくなったんだよ。全力で挑むことばかりが全てじゃないからな。サボることも覚えないと」
「くすっ、それはブラストール様の影響ですか? 悪い事を覚えるのも程々にしてくださいね」
「あれ? 俺っちが悪者になるのか? それにしても……本当に居るのかね。グランホワイトは」
アルベルトはパトリシアに気を使って悪ぶってみたが、どうやらパトリシアにはお見通しだったみたいだ。
それどころかブラストールに責任を擦り付けると言う、仲の良さ気な態度を取っていた。
おや? そういや、セントルイズからアキンドーまでのこれまでの旅中、何かとアルベルトはパトリシアに気にを掛けていたな。
最初は、旅慣れないパトリシアに気を使っていたように思っていたのだが。
これはもしかしてそう言う事なのか?
パトリシアもまんざらではなさそう?
それとも勇者としてのアルベルトに気を使っているのだとか?
まぁ、もしそう言う事なら、敢えて悪役に甘んじてくれたまえ、ブラストール。
それはそうと、ブラストールの言う通りグランホワイトが居るのか居ないのか、疑問に思うところだろう。
だが、結論から言えば居る。
俺も【索敵】や【マップ】、【気配探知】、【魔力探知】などで周囲を探っているが、それらしき気配は見つからない。
見つからないのだが、間違いなくグランホワイトはこの山中付近に居ると言える。
何せこの一帯にはモンスターの気配が一切無いのだ。
おそらくだが、この山一帯を縄張りにしているグランホワイトの影響だろう。
「皆が休憩している間に私が周囲を探って来るねー」
お姉ちゃんらしく、アルベルトに気を使ったのかジルが先行して周囲を偵察してくると言う。
ジルよ、それはお前1人が居なくなってもどうしようもないぞ。
ブラストールとフレイドを残してちゃ意味が無いじゃないか。
そこん所は20年経ってもあまり成長していない部分だなぁ。
まぁ、環境が環境だったから仕方がないのだが、あの20年間全く人と接しなかったとは言えないからある程度は対人能力が上がっても良かったのに。
必死に生き延びるのが精一杯で、そういったところまでは気が回らなかったか。
そういや、あいつら元気かなぁ。
尤も、外と大森林の時間の流れが違うから、向こうは大分様変わりしているだろうな。
それはそうと、ジルはふーちゃんを呼び出し山の木々の間を縫うようにして、グランホワイトを捜しに向かった。




