013.王都へ
「アル君が【勇者】スキルを授かったー!?」
今日、『祝福』を受けに行ったアルベルトと母親だが、戻ってきたのは悲壮な顔をした母親だけだった。
そしてその後慌てて戻ってきた親父さんが母親から詳細を聞き、ジルを呼び出し何があったのかを話した。
アルベルトに何があったのか、それはアルベルトが【勇者】スキルを授かると言うとんでもない事実だった。
【勇者】スキルは称号系と呼ばれ、特殊系に属するスキルだ。
称号系はその名の通り称号としてのスキルなのだが、ジルの【ストーンコレクター】を見れば分かる通り、特殊系らしく特殊能力を授かる事が稀らしい。
その中で【勇者】スキルは特殊能力を授かる筆頭だ。
職業系スキルよりも能力上昇が大きく、様々なスキルを使いこなすと言うとんでもスキルだ。
そして【勇者】スキルがどのスキルよりも重視されるのが、魔王に唯一対抗できるスキルだからだ。
魔王は勇者と同じく魔族の中で【魔王】スキルに目覚めた者がなり、魔族を纏め支配する事が出来るスキルだ。
そしてその力はありとあらゆるスキルを使いこなし、圧倒的な魔力、絶対防御と言う無敵とも言わざるを得ない力を宿すと言う。
そして【魔王】スキルに唯一傷をつけることが出来るスキルが【勇者】スキルなのだ。
ジルの住むファルト村の国はそれ程被害を受けてないが、今現在も魔王が世界を支配しようと戦争を行なっている。
各国は連合を組んで魔王に対抗しているが、魔王を討つと言う決定打に欠けている為ジリ貧な戦いを強いられていた。
そこに現れたのが【勇者】スキルを持つアルベルトだ。
「【勇者】スキルを持つ者が現れた場合は直ぐに王都の教会に知らせが行く。そして各教会に設置されたテレポーターの魔法陣で【勇者】スキルを持つ者は王都へ連れて行かれる」
「つまり、アル君は強制的に王都へと連れて行かれたー?」
ジルの言葉に親父さんは重々しく頷く。
なんでも【勇者】スキルを授かった途端、テレポーター魔法陣から王都教会のお偉いさんが現れ、有無を言わさず泣き喚くアルベルトを母親から無理やり連れ去ったのだと言う。
「そんなー! アル君はまだ5歳になったばかりの子供だよー!?」
「準成の儀までに教会で鍛えるそうだ」
この世界では10歳で準成の儀、即ち一人前と見なされ大人に交じって仕事をすることが認められ、15歳には成人の儀として成人として扱われる。
「無論、年に1回は帰省は許してもらえるらしいが、やっとの事で現れた待望の勇者だ。何処まで融通を利かせてもらえるか……」
ここで俺はふと疑問に思った事をジルに聞いてもらう。
「アル君が王都教会で引き取ると言う事はー、当然私達にそれなりの補償はあるのー?
可愛い弟が家族から強引に引き離されるんだものー、私達にそれなりに誠意を見せるのよねー?」
「……いや、何も無い」
親父さんが重い口を開く。
俺はそれを聞いて憤然とした。
勿論、ジルもだ。
強引に幼い子供を家族から引き離しておいて、何の補償も無いってか!?
【勇者】スキルに目覚めたアルベルトを教会に差し出すのは当然ってか?
ふ・ざ・け・る・な!
何様のつもりだ、Alice神教教会よ!
それにアルベルトも10歳までの5年間、勇者として教会で鍛えるだ?
まだ5歳になった子供が無理やり親元を離されて、そんなのに耐えられるわけねぇだろ!
まともな勇者に育つもんか。
そしてそれはジルも同じ思いで――
「アル君は泣き虫だから勇者にはなれないよー。なるとしてももう少し大人になってからじゃないとー」
「分かってる、そんな事は分かっている! だが教会の意向には逆らえんのだ! だから頼む、その怒りを抑えてもらえんか」
親父さんは怒りを滲ませながらもなんとか抑えてジルに懇願する。
母親は急に引き離された事にショックを引きずられて悲しみに暮れており、言葉を発することは無かった。
『本来なら、こんな田舎村から勇者が排出されたことに喜ぶべきなんだろうが……やり方が強引すぎだ。人類がどれだけ魔王軍に追い詰められているか知らないが、こんなんじゃ反発を買うに決まっている』
「(ううんー。それだけ教会の力が民衆に浸透しているのー)」
『逆らう気力が奪うんじゃなく、そもそも逆らう発想すらなくするって事か』
「(うんー。だけど私は違うー。アル君を取られて黙ってるなんて出来ないー)」
『どうするつもりだ?』
「(それは勿論、取り返すー!)」
『いいのか? 教会を敵に回す事は勿論、勇者を希望していた世間すら敵に回す可能性もあるぞ?』
「(大丈夫ー。教会や世間が敵に回ろうが私はアル君の味方なのー)」
『そうか、分かった。ジルがそのつもりなら、俺も協力しよう。と言うか、所有物である俺は所有者であるジルの意向には逆らえないからな』
「(きゅーちゃん、ありがとー)」
黙っているジルを親父さんは訝しんでいた。
この間の盗賊団騒動と言い、これまでのジルの行動を考えれば突拍子もない事を起こすのは目に見えていたからな。
親父さんが警戒するのも頷ける。
――が、それで止まれるジルじゃない。
「おとーさん、おかーさん、私、アル君を連れ戻してくるー」
「なっ!? ジル、お前何を言って――!?」
「ジルちゃん!?」
驚く両親を余所に止める間も無く、ジルは時間が惜しいとばかりに家を出て王都へと向かう。
だがこの時俺は無理にでもジルを説得して王都行きを辞めさせるべきだったと後悔する事になる。
まさかこの王都行きの旅がまさかあんなことになるとは知らずに―――




