124.勇者パーティー:メイド1
「初めまして。リュキュルシア・キ・ド・シンジドラゴンと申します。リュキとお呼び下さい。魔王を討伐するまでの旅の皆様のお世話をさせて頂きます」
今日、新たに勇者パーティーのメンバーとして紹介されたのはメイドだ。
メイド服に身を包み、亜麻色の髪をシニョンに纏め、大きな丸眼鏡を掛けた10代半ばの女性に見える。
身長も160cmと女性としては平均的だが、メイド服からこぼれんばかりの大きな胸は嫌でも目を引いた。
とは言っても、今この場でその爆乳に目を向けているのはディーノだけだ。
大人びているもののアルベルトはまだ8歳の子供で性的に女性を見る年齢ではない。
まぁ、そろそろそう言う事が気になる御年頃になりつつあるが。
ジルは逆に「大きな胸は邪魔になるよねー」と同情していた。
パトリシアは平均的な自分の胸と比べて何故か悔しそうにしている。
そしてこの場では一番そう言うのに目を向けそうなブラストールは、リュキの容姿よりも名前の方が気になったらしく、何か考え事をしていた。
「シンジドラゴン……? 確か、アキンドーの南のミラーワルド王国の王族が……まさかな」
で、もう1人の新たな仲間であるクーガーはこの場には居ない。
早速商人として、クロキが用意したリストではない、ちゃんとした物資を購入しに向かっていた。
「今年、オリジャル・バトラーメイド養成学校を卒業したばかりですが、首席で卒業した優秀なメイドです。これから皆様の旅を快適なものになる事をお約束いたします」
リュキを連れてきたディケイは捕捉する。
ディケイの言うオリジャル・バトラーメイド養成学校は、アキンドーの南にある王国、ミラーワルド王国にある執事とメイドを育てる学校だ。
ハーフハート大陸では有名らしく、各国の貴族の子息令嬢は作法・礼儀を学ばせるために養成学校にわざわざ送り込んでいると言う。
12歳から15歳まで3年間と短い期間ではあるが、卒業するまでに何人もの子息令嬢が養成学校を退学していく中での主席での卒業だ。
リュキはかなり優秀なメイドなのだろう。
「いえ、今年卒業したばかりの実戦を経験していない小娘に過ぎません。ディケイ様がおっしゃられるほど優秀とは今はまだ言えません。これからの旅で判断していただければ……」
「そう畏まらなくてもいいよ。俺達はこれから旅を共にする仲間なんだ。もう少し気楽にしてくれ」
「メイドは主人に仕える者です。対等と言う立場ではなく、主人の下に付きます。この場合はアルベルト様が主人となります。私はアルベルト様に仕える者としてお世話させていただくことになります」
アルベルトは仲間としてもっと気安くしてほしかったのだろうけど、リュキはメイドとしてこのパーティーに加入したと、自分を下に置けと立場をはっきりさせていた。
『ふーん、このメイド、自分の立場をしっかり分かってるじゃない。それも坊やに仕えると言う点でも好感が持てるわね』
『えー、確かにこのパーティーのトップはアル君だけど、ジルちゃんを蔑ろにしたらそれはそれで面白くないよ~』
『客観的に見てもリュキの行動は正しいですね。ですがあくまでこのパーティーの中心的立場であるアルベルトがメインと言うだけで、他のメンバーを蔑ろにするわけではありませんよ』
おやおや、何やらお気に入りの女性陣のめーちゃん、ふーちゃん、かめちゃんがリュキを評価していた。
しかもちょっと厳しめ?の評価だが、好評でもあるな。
そんな訳でリュキがメンバーに加わった訳だが、残りのメンバー1人を待つ間のジル達の王宮での生活は激変した。
養成学校を首席で卒業したと言う謳い文句に過言は無く、何と言うか優雅になったと言うか余裕が生まれた感じが漂っていた。
激変したと言ったが、明確に何かかが変わった訳ではなくただただ生活の基本がしっかりしただけなのだが、それだけで見た目が全然違ったのだ。
ベットメイク、食事の支給、洗濯、掃除などなど、それ以外の事にもさり気なく絶妙な距離感で接してこちらの気分を快適にしてくれる。
え? 王宮のメイドはどうしたかって?
アルベルト達に限りリュキがお世話をすることになったので、遠慮してもらっている。
遠慮してもらってはいるが、アルベルト達が見えないところで王宮のメイドにも嫌味にならない程度に協力を仰いで良好な関係を築いていた。
「いやー、メイド1人でこうもかわるとはな~」
「うんー、何か生活に張りが出てきている感じー? 気分が良いねー」
「恐縮です」
ジル達は王宮の庭園で優雅にティータイムを楽しんでいた。
当然傍に控えるのはリュキだ。
「何かこんなことをしていいのかって気分になるな」
「そうですね。私達は魔王を退治する為に集ったのですが、優雅過ぎて戸惑ってしまいます」
魔王退治の使命を帯びているアルベルトとパトリアにはちょっと楽しむ余裕はないか?
「あ、ど・どうもです。紅茶おいしいです」
「もう初対面って訳でもないのにまだ慣れないのかよ」
クーガーは魔道具が絡まなければ普通に人見知りを発揮し、ディーノはそれを呆れながら窘めていた。
最後の1人を待っている間の束の間のひと時だ。
こんな時間があってもいいだろう。
そう、ティータイムを楽しんでいたが、そこに水を差す人物が現れた。
「やぁ、リュキ。迎えに来たよ」
銀髪の軽薄そうな態度をした男がへらへらしながらリュキに手を差し伸べる。




