122.勇者パーティー:商人3
倉庫の木箱に巧妙に隠された隠し扉から地下に降りていくと、そこには幾つもの鉄格子で区切られた地下牢があった。
そして鉄格子の部屋には奴隷と思わしき者達が10人以上も居た。
一見すると普通の奴隷を扱っているようにも見えるが、ここは隠された地下牢で、明らかに不当に奴隷にされた者も居るように見えた。
奴隷商となるには全国共通の奴隷商ギルドに加入しなければならず、奴隷の仕入れなどはギルドを通さなければならない。
つまり、奴隷を管理しているのは奴隷商ギルドで、ギルドを通さない奴隷は全て違法奴隷となる。
奴隷は大まかに3つある。
借金奴隷と犯罪奴隷と戦犯奴隷の3つだ。
借金奴隷は借金を抱えた者が奴隷となり、人権も得ており主人となる者は借金奴隷の労働に対し賃金も払わなければならない。
そして借金奴隷は借金分の労働、もしくは借金を支払う事により奴隷から解放される。
対して犯罪奴隷は罪を犯した重さにより奴隷期間が決められており、決められた労役期間を主人に仕えなければならない。
尤も罪の重さにより5段階に分けられており、罪の軽い者は人権が認められ労役期間が短く、罪の重い者はほぼ人権が認めれず労役期間もほぼ人生を全うする程長くなる。
残りの戦犯奴隷は、国同士での戦争で人質などになった時に掛けられる奴隷だ。
その為、ほぼ国の要人に使われる奴隷制度で、今は魔王軍と戦闘しているので国同士の争いは無く、現時点では戦犯奴隷は居ない事になっている。
この地下牢に居る奴隷はこの3つには当てはまらないって事だ。
だって、明らかに子供や麗しい女性など、奴隷になりそうにもない者が牢屋に閉じ込められているのだ。
まぁ、年齢や見た目だけで借金や罪を犯していないと判断するのは愚の骨頂だが、【鑑定】を掛けると、間違いなく違法奴隷と表示されており、人さらいや無実の罪で奴隷にされた者ばかりだった。
「おいおい、隠し地下に居るからって違法奴隷って決めつけるのはちと強引すぎやないか? これはわての商会が扱っているれっきとした奴隷やで」
クロキはこの期に及んでまで無実を主張するが、無駄な抵抗だな。
「ふぅん……姉さん?」
「はいー、ちょっとまってねー。(きゅーちゃんー?)」
『ああ、その奥の……ああ、そこそこ、その部屋の机の引き出しの中に帳簿があるな』
当然ながらこの地下室を【サーチ】【解析】は終えている。
この後、ディケイが連れてくる役人の中には【鑑定】出来る者も居るから、直ぐに違法奴隷と分かるだろうけど、これ以上無駄な抵抗をさせないためにもクロキにはもっと分かりやすい証拠を見せつける必要がある。
ジルは言われた部屋に入り、違法奴隷の証拠である帳簿をクロキに突き付ける。
「これを見てもまだ無実だって言い張るつもりー?」
「ぐっ……何で、こんなに簡単に分かったんや……!」
流石にここまでされてはクロキも罪を認めないわけにいかず、悔しさを滲ませながらジルに問うてくる。
「さっきも言ったよねー。きゅーちゃんが全部暴いてくれたんだよー」
そう言って再び俺が嵌まったペンダントを掲げるジル。
「そんなけったいな石が……わての野望をぶち壊したっちゅうんかいな……」
けったいな石とは失礼な。
パッと見た目は白いガラス石に見えるかもしれないが、こう見えても世界で唯一の神銀水晶って言う石……と言うか水晶なんだぞ。
「さぁ、ディケイ殿が来るまで大人しくしているんだな」
ブラストールがクロキを捕縛しようとロープを取り出すが、神妙にしていたと思われていたクロキはニヤリと笑いアルベルト達から距離を取り部屋の隅に移動する。
「確かにわての違法奴隷の秘密がばれてしまっては、もうこの国では商売が出来へん。やけど、このまま大人しく捕まると思っとったらそうは問屋が卸さへんで」
おいおい、この陣営から逃げる気かよ。
少なくとも武力でどうにかなるメンバーじゃないぞ。
「もぅ~、うるさいわね~。一体何なのよ~」
突如隣の部屋から出てきたのは、気怠そうに如何にも今起きたばかりと思われる黒のローブを纏った青い髪をした女性だった。
「ローズぅぅ! 違法奴隷の件がばれた! プランDを発動だ!」
「……っ! 了解!」
さっきまで眠そうにしていた女性――ローズは目を見開いて直ぐにジル達に向けて何かを放つ。
「ははっ! 残念やったな! ローズは【隷属魔法】の使い手や! これであんたらはわての奴隷や! このまま逃亡の手駒とさせてもらうで!」
ああ、違法奴隷が居るのなら、その違法奴隷にする為の【隷属魔法】の使い手が居るのか。
【隷属魔法】のスキルを持つ者はそれほど多くは無い。
そしてその【隷属魔法】使いは祝福で授かった時点で奴隷商ギルドに保護されることになる。
まぁ、そう聞くと奴隷商ギルドが【隷属魔法】使いを囲って悪い事をしていそうだが、実はその逆だ。
【隷属魔法】使いを幼いころからしっかり教育し、道徳を説いて不当な事をしない様にしているのだ。
それだけ【隷属魔法】は強力で世間に与える影響が大きいのだ。
そんな境遇を不満に思い奴隷商ギルドを抜け出す者は、はぐれ【隷属魔法】使いとしてこう言った違法奴隷商人に使われている。
ローズも奴隷商ギルドの道徳に付いていけなくなった“はぐれ”なのだろう。
「さぁて、宰相補佐はんが来る前にとっとオサラバしなければ。逃亡用の資金と国外へ逃げる為のルートの確保を急がないと」
「もぅ~、折角ここまで頑張ったのに~。ねぇ、ここの奴隷たちは置いて行くの~?」
「大人数で移動しとったら足がついてしまう。連れて行くのはこの4人だけや。まぁ、この4人でも十分利益にはなるで。何せ勇者一行やからな」
「わぁお」
クロキとローズはここから逃げる算段とジル達をどう使うか思案していた。
うん、もう逃げ切った気満々だけど、それはちゃんと【隷属魔法】の効果を確認してからした方がいいなぁ~(笑)
「おい、何逃げる気満々でいるんだ? お前らはここで大人しく縛に付くんだよ」
「女神Alice様の教えに逆らう背信者には罰が下されますでしょう」
「悪党らしい足掻きだが、相手をしているメンツが悪かったな」
「知らなかったのー? 勇者からは逃げられないんだよー」
ローズの放った【隷属魔法】に掛からなかったアルベルト達を見て、クロキ達は驚愕していた。
「な・何でや!」
「嘘~っ! あたしの【隷属魔法】が何で効かないの~!?」
それは俺が【隷属魔法】で防いだからだよ。
【隷属魔法】使いには常識だが、【隷属魔法】は【隷属魔法】で対抗できる。
まぁ、でないと奴隷商ギルドは奴隷を扱う事が出来ないからな。
ローズは【隷属魔法】のLvが79とかなり高めだったが、俺の【森羅万象】の【隷属魔法】には敵わない。
こうしてようやくクロキとローズは最後の手段が防がれて抵抗を無くし、大人しく縛に付いた。




