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この石には意志がある!  作者: 一狼
第6章 勇者パーティー・集結編
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120.勇者パーティー:商人1

「初めまして、私はこの国の宰相補佐のディケイ・ドライドと申します。勇者様方がこの国に滞在している間の対応を一任されております」


 アルベルト達の歓迎パーティーを終えた翌日、一行は集められた部屋で勇者パーティーに合流する仲間を待っていた。


 最初に部屋に入ってきたのは、眼鏡を掛けた切れ長なの鋭い目をした黒髪の長身の男だった。


 今名乗ったように商業国アキンドーの宰相補佐のようで、所謂アルベルト達のお世話係だ。


 そしてついで入ってきたのは、ディケイと引けを取らない程の長身の軽薄そうな赤髪の男だった。


「初めまして、勇者はん、聖女はん、勇者の姉さん、神殿騎士はん。わては日用品の鉛筆から兵器の大砲まであらゆる物を扱うアキンドー1番の商会、ゲゲル商会のオーナー、クロキ・ゲゲルギと申します。勇者パーティーの金の管理や物資の取引を担う役割を担当する予定や」


 商人ギルドから派遣された勇者パーティーメンバーか。


 迷宮大森林で会った太陽尾国の裏ギルド所属のマゼンダみたいに、商人って全員エセ関西弁を話すのか?


 ……ああ、アキンドーを興したのが日本人転生者なら関西弁モドキが根付いていても不思議ではないか。


 多分、クロキの名前も黒木とか日本名っぽいのも受け継がれているんだろうな。


「早速で申すわけあらへんが、勇者パーティーの物資の購入一覧を見てもらえへんやろうか。これで良ければわての店で揃えさせてもらいたいんや」


 そう言ってクロキは1枚の紙をアルベルト達に渡す。


 一応、パーティーの代表であるパトリシアが受けとり、一覧を一瞥すると怪訝な表情を見せた。


「アルベルト様、ブラストール様、これは……」


 パトリシアでは判断が付かなかったのか、アルベルトとブラストールに一覧表を見せる。


 まぁ、聖女や枢機卿とは言っても、まだなってから1~2ヵ月しか経ってないからな。


 元々こうやって遠征に出ること自体なかったから、最終的な判断は経験者である者に診てもらうのが当然か。


 だが、その経験がほぼ無いパトリシアが怪訝な表情を見せるとは、一体一覧表には何が書かれていたんだ?


「……おい、クロキとか言ったか? あんたこれ本気か?」


 ブラストールは鋭い視線をクロキに向けていた。


「ガキの俺でも分かるぞ。これで魔王を倒す旅をしろと言われて素直に頷く奴はいないぞ」


 アルベルトも呆れた表情で一覧表の紙をひらひらとする。


『ジル、俺達も見てみよう』


「(うんー)」


 ジルはアルベルトから紙を受けとり中身を確認する。


 ………はぁ?


 ちょ、おいおい、本気でこれで旅をしようとしていたのか?


 その一覧表の中には一番重要である水の購入が全くなかった。


 それだけではない。毛布や火種油と言った日用品も無ければ、食料も乾パンと乾麺、後は肉の燻製だけで他は一切なかった。


 医療品にしても、ポーションの類は一切なく、あるのはマジックポーションが5本とあって無いようなものだった。


 他にも色々と足りない物資だらけで、とてもじゃないがこれで魔王を倒せと言われても無理だと言わざるを得ない。


「ねぇー? 何で一番肝心な水が無いのー?」


「何言うとりますの、勇者はんも姉さんも魔法が使えるんやろ? だったら魔法で水を出してもらった方が銭の節約になるやんか」


「毛布が無いのはー? これじゃあ野宿する時、凍えちゃうよー?」


「や、それも魔法で解決できるやろ? 【保温】の魔法を使えば毛布なんかいらへん」


「ポーションが無いのはー?」


「それも魔法で解決や。魔力切れで魔法が使えなくなったら困るから、マジックポーションだけは用意したんや」


 ……あかん、コイツなにも分かっちゃいない。


 それとも生粋の商売人と言うべきか?


 限りなく金のかからない様に物資を集めているみたいだ。


 それがどんなに勘違いかも知らずに。


「あのなぁ、全部魔法で解決しようとしているみたいだが、俺っち達は魔王退治、つまり戦いをメインとした旅をするんだぜ。なのに魔力消費を前提とした旅をしてどうするんだよ」


「神殿騎士はんの方こそ何も分かっちゃいないやんか。銭は湯水の如く湧くもんやあらへん。連合軍とAlice神教教会から渡される資金は限りがあるんや。それを上手くやりくりしてこそ商売人ちゅうもうんや。引いてはそれが勇者パーティーの為にもなるんやで」


「クロキ様の言う事は最もですが、それでアルベルト様のモチベーションや体調を崩されては本末転倒です。何も豪勢な旅をしようとしている訳ではありません。普通の旅を為されるための資金はあるはずです。何もここまで切り詰めなくても……。物資の輸送にはジルベール様のスキルもあります。量を気にする事も無いはずです」


 そう、この勇者パーティー――連合軍やAlice神教教会にはジルのかめちゃんの能力は伝えてあるのだ。


 本当は教えたくはなかったが、折角持ち運びを全く気にしない能力があるのに使わないのは勿体無いからな。


 ジルにとってはアルベルトの手助けが重要だし、何より時間停止無限収納のアイテムボックスの存在は何もジルだけの専売特許じゃないからな。


 話を聞けば他にも何人もいるらしい。


 特に商人ギルドには必ず5人以上は確保していると。


 ああ、あとアキンドー初代国王のウシワカも転生者らしくその手のアイテムボックスを持っていたとか。


「姉さんのアイテムボックスの話は聞いておるけど、ほんまに持ってるんか? 確かに無限収納のアイテムボックス持ちはそうおらへんけど、おいそれと見つかるもんでもないんやで」


 ああー、これは最初からジルのかめちゃんの能力を疑っていたのか。


『最初から全てを信じろとは言いませんが、初対面でそのような事を口にするとは……客観的どころか全面的に商売人としても信じられない人ですね』


 そりゃあ、かめちゃんも怒るよな。面と向かって言われちゃあ。


 そしてそれに腹を立てたのはかめちゃんだけではなかった。


「おい、姉さんを疑っているのか? 姉さんの凄さを分からない奴が簡単に姉さんを決めるな。そしてこのリストもお前の一存で決めたんだろ? 悪いがこれは採用できない。それと基本的な物資も用意できないお前も信用できないな」


「……わてはこの国一番の商会のオーナーやで。わてはこのやり方でこの国一番の商会になったんや。そのわてを信用できないとはこの国に喧嘩を売ってるんか?」


「ああ、信用できないね」


 アルベルトとクロキが互いに睨みあう。


 あーあ。パーティーメンバーの合流のはずが、今や一触即発だ。


 まぁ、クロキの言わんことも分からんではない。


 確かに無駄を徹底的に削り、利益だけを求めれば国一番の商会にはなるだろうよ。


 だが、それが魔王討伐の旅に当てはまるかと言えばまた別の話なんだがな。


 さて、どうしたものか。












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