118.首都アキンドー
「獣人王国の国王は人前に出た話はあまり聞かなかったが、ありゃあ納得だ。あんなのがホイホイ人前に出てたら普通の人じゃ寿命が持たないぜ」
シフォン国王達が去った後、ブラストールがため息交じりに言う。
「ですね。人化した姿でもあれだけの威圧を放っているとなると、外交も儘ならないでしょうし」
「ああ、だから国王の妻――女王様が外交を専門にしているらしい」
「……女王様も麒麟なんでしょうか?」
「……そういやそう言うのは聞いた事はないな。確か人間、だったはず」
「それなら先程の王子様は麒麟と人間のハーフなのでしょうか?」
「いや、麒麟はどんな生物とも子をなす事が出来るが、生まれてくるのは麒麟だけだと聞いたことがある」
ブラストールとパトリシアはシフォン国王についてあれこれ話しているが、俺は話の中に出てきた女王がちょっと気になった。
確かに麒麟はどんな生き物とも子を生すことが出来るが、麒麟は余程の事が無ければ子を生すことなしない。
女王はかなり気に入られたと言う事だろう。
ジェラート王子が確か30歳だったから、女王の年齢は50代~60代と言ったところか?
決して若い年齢じゃないが、何処か引っかかるんだよなぁ。
【第六感】がその女王について反応しているが、いい意味でも悪い意味でも無く、ただ引っかかる、それだけなんだよ。
「首都のアキンドーに付いたよー」
シフォン国王たちが去った後、ジル達は馬車で首都アキンドーへと向かった。
アルベルトはジェラート王子との闘いで疲労していたので馬車の中で寝ており、パトリシアはアルベルトを診る為、傍に付いていた。
ブラストールもシフォン国王のオーラに当てられて精神的に参っていたので、馬車の中で休んでいた。
なので、今回はジルが御者をやり首都アキンドーを目指していたわけだ。
首都アキンドーは大きな城壁で囲まれ、大勢の商人等が通っていると思われた巨大な門は閉じていた。
おそらくベンケー騒動で北から来る商人や旅人が訪れなくなったことと、ベンケー警戒の為に門を閉じていたのと思われる。
門の前には門番が4人ほど居り、ジル達の馬車が近づくと驚きを顕わにしながらも警戒していた。
「止まれ! 貴様たちは何者だ? この先にはベンケーが現れて誰も通れなかったはず」
「えーとー、ベンケーの問題なら解決しましたよー」
「何? 本当か……?」
「あー、後、私達は勇者一行だよー。この国で仲間と合流する予定なのー」
ジルの勇者の言葉に、門番たちは警戒から一変、緊張に包まれた。
「ゆ・勇者パーティーの方ですか!? 失礼ですが、証明になる物は……」
「これでよろしいでしょうか?」
止めた馬車からパトリシアが降り、門番の1人に包んでいた書類を見せる。
Alice神教教会と連合軍との連名による、勇者パーティーの証明書だ。
「お、おい! 隊長を呼んで来い! それとベンケーが居なくなったことも伝えろ!」
証明書で勇者一行と確認が取れると門番たちは直ぐに行動を開始する。
そこからはあっという間に展開が進み、ジル達は王城に案内されアキンドー国王の前に居た。
案内されたのは広い会議室で、ゆったりしたソファーにジル達は腰を掛けている。
アルベルトはまだ疲れが抜けきっていないのか、ソファーに深く腰を沈めてゆったりしていた。
「勇者様がわが国で他の仲間と合流をすると連絡を受けて歓迎の準備を進めていました。しかし勇者様が到着すると思われた頃に、北の街道にベンケーが出たと聞いてどうしようかと頭を悩ませていたのですが、まさか勇者様自ら問題を解決していただけるとは」
アキンドーの国王は40代くらいの髭を蓄えたおっさんで、どうにも国王っぽくは見えなかった。
どちらかと言うより、着ている服とかから商人と言った感じに見えるな。
商業国の先入観があるからそう見えるのか?
「いえ、こちらとしても勇者としてあのような所業を見逃すわけにもいきませんでしたので。それに、商業国の流通が滞るのは各国の経済や大勢の民に被害が出ますし、引いては我々勇者パーティーにも影響が出ますから」
「おお、流石は勇者一行。我が国だけでなく大勢の民の事を考えてとは、世界を救うに相応しい行いです」
ジル達勇者一行の代表はパトリシアと言う事になっており、アキンドー国王に対応していた。
パトリシアは聖女であるが、同時にAlice神教教会の勇者関連を取り纏める“勇”の枢機卿でもあるからな。
パトリシアは北の街道で起きたアルベルトとジェラート王子の闘いの顛末と、シフォン国王の到来の一連をアキンドー国王に話す。
「北の街道がベンケーに封鎖されて、問題が大きくなり始めた頃に兵士を派遣したのですが、まさかベンケーの正体がビーストロアの王子でしたとは。正体が判明した時は私は頭を抱えたものです」
「隣国の王子を傷つける訳にもいきませんからね」
「ええ。ですがそれだけではないのです。これは勇者様たちだからお話ししますが、実はアキンドー国はビーストロアの後ろ盾になっていただいているのです」
「どういうことだ?」
ブラストールは相変わらずのぞんざいな態度でアキンドー国王に聞いてきた。
この男、相手が国王だろうと態度は変わらない。
ある意味一貫してて清々しいな。
「それはこの商業国の成り立ちに関係しているのです」
そう言って、アキンドー国王は商業国アキンドーの成り立ちに付いて語り出した。




