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この石には意志がある!  作者: 一狼
第2部 「猛女」 / 第5章 Alice神教教会・対決編
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105.VS英雄2

 ユーグは剣を携えながらジルに向かってくる。


 ジルはぼーちゃんを石空間に仕舞い、代わりにはーちゃんとえんちゃんを取出しユーグを迎え撃つ。


 はーちゃんは気刃の能力でロングソード並みの気刃を纏い、えんちゃんはジルの左腕に装備される。


 ユーグの連続の斬撃を、ジルははーちゃんとえんちゃんで捌きながら隙を伺う。


 そう、【英雄】の対策は不意を突く事だ。


 【英雄】スキルは奇襲には対応していない。


 つまり、意識の隙を突かれれば【英雄】スキルが発揮されないのだ。


 まぁ、これは俺達でなくとも対策は可能だが、俺とジル(・・・・)だからこそ不意を突きやすかったりする。


 何せ、ユーグは1対1のつもりだが、実際は2対1……いや、10対1なんだからな!


「おらおらおらおらっ!」


 ユーグは斬撃の激しさを増し、意識を剣に集中させようとしていた。


 そして背後に無数の小さな火球――【フレアビット】を隠しながら放とうとしているのだろう。


 うむ、気づかれなければ効果的だろうな。


 こちらが不意を突くつもりが、逆に不意を突かれようとしていたとは。


 侮りがたし。流石勇人部隊の部隊長だな。


 ならば、こちらはそれを利用させてもらうまで。


 ジルには斬撃に集中してもらい、敢えてユーグに不意を突かれるようにして貰う。


 そして俺は、ユーグが放とうとしている【フレアビット】の中に、【フレアビット】を紛れさせる。


「【フレアビット】!」


 ユーグは斬撃と同時に体を斜めにずらし、背後からジルに向かって【フレアビット】を放つ。


「わわぁー!」


 ジルは慌ててえんちゃんを掲げる。


『えんちゃん、弾き返せ!』


『了解!』


 えんちゃんが【フレアビット】を弾き返すと同時に、時間差でユーグの背後に紛れさていた【フレアビット】を放つ。


「なっ!?」


 ユーグは【フレアビット】を弾き返しただけでなく、背後から迫る【フレアビット】にも驚きを隠せないでいた。


 見方によっては自分で放った【フレアビット】が背後から迫るようなものだからな。


『ジル!』


 そしてその隙を見逃すジルではない。


「やぁー!」


 挟み撃ちの【フレアビット】と同時に、ジルもはーちゃんの斬撃を放つ。


「ちぃぃ!」


 驚くべきことにユーグは【フレアビット】を左腕で払いながら、ジルの斬撃を辛うじて躱す。


 よく見ればユーグは炎を纏っていた。


 そうか、【フレアジャケット】か!


 さっきのアルベルトの時と同じく、【フレアビット】の炎を利用して【フレアジャケット】を纏い【フレアビット】を無効化したのだ。


 だが、こっちの攻撃はまるっきり無駄だった訳じゃない。


 ジルの攻撃は届いていた。


「手傷を負うのは久々だな……【ヒール】」


 ユーグは左腕を振り払い血を飛ばしながら治癒魔法で傷を治す。


 あー……そういやそうか。【英雄】スキルがあるんだから治癒魔法も使えるか。


 治癒魔法を使えないくらい深い傷を与えるか、魔法その物を使えなくするようにしないと決着がつかないな、これは。


「どうせならこのまま降参してもいいんだよー?」


「はっ、バカを言え。この俺様が勝つって決まっているのに、何で負けを認めねぇといけねぇんだ? 寧ろ降参するのはてめぇのほうだよ。今なら負けた後も優しく可愛がってやるぜ?」


「それこそお断りよー」


「そうか、よ!」


 ユーグはいつの間にか間合いを一瞬で詰め、ジルの目の前に居た。


 そしてそのまま大きく振りかぶり剣を振り下ろす。


 ジルは咄嗟にえんちゃんを頭上に掲げて斬撃を弾こうとしたが、何故かユーグは剣を振りかぶってはおらず、下からの剣の突き上げをジルの剥き出しの腹を目がけて放っていた。


「――っ!?」


『なっ!?』


 ばかなっ!? 間違いなく上段からの振り下ろしの斬撃だったはずだぞ!?


 幻影魔法かと思ったが、そうでもない。


 ジルはえんちゃんを頭上に掲げていたので、代わりに右腕で腹を庇おうとユーグの突きの前に差し出す。


 腕にはミスリルのガントレットがあるから致命傷は防げるかと思ったが、何故かユーグの下からの突き上げの剣は、ジルの右の二の腕を突いていた。


「ぁうー!」


『ジル! 【ホーミングボム】!』


「おっと、唐突に現れるな。てめぇの魔法は」


 地水火風系の魔法だとまたジャケット系で無効化されると思い、無属性の自動追尾魔法弾でユーグを迎撃する。


 まぁ、ユーグは直ぐにジルから離れ、簡単に【ホーミングボム】を迎撃したが。


 とは言え……


『どういうことだ? 幻影魔法を使った形跡はない。なのに幻のようにユーグの姿が捉えきれないぞ』


 俺はユーグに注意をしながら、ジルの右腕を治癒魔法で治す。


『……幻刀乱舞流だ』


「幻刀乱舞流ー?」


『ああ、あいつの使っている剣術は虚実を交え相手を翻弄する流派・幻刀乱舞流だ』


 はーちゃんからとんでもない事実がもたらされる。


 おいおい、只でさえ素で強いのに、おまけに相手も不意を突くような剣術流派を使うだって? この野郎、何処まで『英雄』でいるつもりだ。


「へぇ、よく分かったな。そうとも、俺様が使うのは幻刀乱舞流だ。姿は幻の如く、剣は舞い乱れ、気が付いた時には敗北が決まっている幻の流派だよ。さぁて、てめぇは何処まで俺様に付いてこれるかな?」


 この野郎……余裕のつもりかよ。


『……きゅー。ここは俺に任せてくれないか?』


『どういうことだ?』


『オレ様にも剣姫一刀流を使うお嬢の剣としてのプライドがある。このままあの野郎にいいようにやられてたまるかよ』


 はーちゃんの思いがけない要望に俺は考える。


 確かに【英雄】対策の1つ目の策は不発っぽいが、残り2つの策がある。


 このままはーちゃんに任せても問題は無いが……


 普段ジルの道具である俺達はこうして主張をすることは無い。


 それだけはーちゃんのプライドが刺激されたのだろう。


「(きゅーちゃんー、私からもお願いー。剣姫一刀流使いとしてもあの人に負けられないよー)」


『……分かった。やるからには一泡吹かせろよ』


『ああ、任せておけ!』


「(うんー! ありがとー)」


『えんちゃん、ここは2人に任せよう』


 えんちゃんを装備したままではなく、ここは純粋にはーちゃんだけの装備で挑ませてやろう。


『分かった。勝てよ、あ奴らに』


 えんちゃんは素直に石空間に戻っていく。


「ここからは剣姫一刀流として相手するわー!」


 ここからは純粋に流派対流派の剣術の腕が試されることになる……わけじゃないか。


 向こうは【英雄】でブーストしているからな。


 それを踏まえての流派対決だ。












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