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この石には意志がある!  作者: 一狼
第2部 「猛女」 / 第5章 Alice神教教会・対決編
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Side-14 アルベルト5

「残念だが、ここから先は通さなねぇぜ」


 俺がそう言うと、ユーグ部隊長が訝しんだ目をこちらへ向ける。


「あん? 何を言っている。ちょっとばかっし強くなったみてぇだが、てめぇみてえなクソガキが俺に敵うと思ってんのか?

 と言うか、今はてめぇに構っている暇はねぇんだよ。おい、お前らこいつの相手をしてやれ」


 煩わしげに手を振りながら周囲の部隊員に指示を出す。


 周りの部隊員も先ほどのババァの話の内容が気になるのか、気もそぞろに俺を囲おうとする。


 まぁ、全員が全員従う訳じゃないんだけどな。


「あ? 何やってんだお前ら」


 ユーグ部隊長が部隊員から守ろうとする5人を見て眉を潜めた。


「あー、一身上の都合により、勇者様に付く事になりました」


「そうね、今の私達の上司はアルベルト様って事になっているので」


 ちょっと不本意ながらも渋々俺に従ってくれるマードックとコーリン。


「例えユーグ部隊長とは言え、この方を傷つけさせるわけにはいかないんでね」


 相棒のクリムゾンドラゴンは居ないが、【竜騎士】の力は【騎士】をも圧倒するハイドラ。


「自分はもうユーグ部隊長に付いていけないであります。これからはアルベルト様の部下となります」


「ユーグ部隊長は強いけど、今のあたしの勘はこっちに付けって言っているニャー。と言う訳で覚悟するニャー」


 懺悔とばかりに俺を崇拝するルホースと、野生の勘ゆえか強者よりも俺に従う事にしたキャトラ。


 その5人が俺に迫りくる部隊員を押し止める。


 姉さんが生きているって分かってから、俺は勇人部隊の切り崩しに掛かった。


 まぁ、切り崩しと言ってもタダの実力行使なんだけどな。


 実力的に言って、今の俺は勇人部隊の方でも上位の強さに入る。


 勇人部隊はある意味、力こそ権力と言える舞台でもあるから、俺としてもやりやすかった。


 だけど一癖も二癖もある部隊員を従えるのは簡単ではなかった。


 だが、何度も繰り返し挑むことによって、やっと1人を従えさせることに成功した。


 元々勇人部隊の悪事を目の当たりにして良心を咎めていた上に、何度も挑む俺のその姿に心を打たれて改心して俺に従ってくれたのだ。


 それがルホースだった。


 彼は懺悔とばかりに俺に勇人部隊のこれまでやってきた悪事を告白してきた。


 俺はこの時、自分の能天気さに怒りを覚えた。


 こいつらの勇者の代わりに世界を護る勇人だと言う表向きの言葉を信じていたのだ。


 だからこそ、俺はこいつらを憎しみはあるが仲間でもあると言う意識はあった。


 だがそれはまるっきりの偽りだったのだ。


 そこからはもう、俺はこいつらを殺さんばかりの勢いで挑んでいった。


 そのお蔭か、俺の気迫に感銘(?)を受けたキャトラがこちらに付いた。


 元々、勇人部隊のやり方に辟易していたらしく、抜ける為のきっかけを伺っていたらしい。


 そして残りのマードック、コーリン、ハイドラだが、姉さんと再会した時から間をおかずに動きがあった事から、おそらく姉さんが何かをしたのだろう。


 ただマードックとコーリンが渋々なのに対し、ハイドラが熱狂的とも言える忠誠を誓っているのはちょっと引くくらいだったりする。


 ……姐さんは一体ハイドラに何をしたんだろう。


「てめぇら、そのガキに付くって言うのか。それがどういう事か分かっているのか?」


「確かにこいつらは赦されない事をした。だがそれは俺の元に付くと言う条件で恩赦を与える事にした」


 ユーグ部隊長がマードックたちを揺さぶろうとするが、俺はそれを遮り彼らを護る。


「はぁ? クソガキ、てめぇにそんな権限がある訳ねぇだろ」


「権限があるかないか関係ない。俺が勇者の名においてそうすると決めた。だから彼らは俺の部下であり、新たな勇人部隊――『新勇部隊』の隊員だ」


 部隊員を護るのは部隊長の役目だからな。


「ちっ、面倒な事をしくさりやがって……!」


「お前たち、俺はユーグ部隊長を反逆罪で拘束する。その為の時間を稼いでくれ」


「「「「「了解(ニャー)!」」」」」


「何をやっているのですか! さっさとその小童を黙らせて最上位会議室へ急ぐのです!」


 ババァが焦ってユーグ部隊長をけしかける。


「あぁ、分かってるよ。俺に逆らった罰を与えたいところだが、今は急ぎなんでな。手加減は出来ねぇと思え!」


 ユーグ部隊長が剣を抜き放ち、俺に迫ってくる。


 早い!


 ユーグ部隊長のスキルは【英雄】だ。


 自分より強い敵を相手にした時は無類の強さを発揮するが、自分より弱い相手をした時にはスキルは発動しない。


 つまり、相手が強かろうが弱かろうが【英雄】スキルを持つユーグ部隊長には敵わないのだ。


 それにただでさえ、【英雄】スキルにより強いユーグ部隊長はスキルに頼らなくても敵を倒せるようにと鍛えており、素の強さでもかなりの強さを誇る。


 いや、スキルに頼らないでその強さを手に入れたと言うのが、ユーグ部隊長の強みとも言えよう。


 だからこその、この速さだ。


「ぐっ!」


 俺も剣を抜き、ユーグ部隊長を迎え撃つ。


 まともにぶつかっては【英雄】スキルを持ち、素で強いユーグ部隊長には勝てない。


 まぁ、姉さんなら勝てるだろうけど。


 俺が分析した結果、ユーグ部隊長に勝てる方法は2つ。


 1つは不意を突いた攻撃。つまり奇襲だ。


 その場合は【英雄】スキルは発動しない。


 だからこそ、ユーグ部隊長は素でも強くなろうと鍛えたのだろうけど。


 2つ目は、瞬間的に強くなること。所謂、火事場の馬鹿力と言う奴だ。


 これは一瞬だが、【英雄】スキルのブーストを上回ることが出来るのだ。


 もう既に相対している以上、俺が勝つ可能性があるのは火事場の馬鹿力だ。


 勇者が奇襲など取るべき手段ではないから残されたのは火事場の馬鹿力しかないんだけどな。


 5人の新勇部隊員たちは少人数ながらも勇人部隊員を押し止めてくれている。


 だが流石に人数差がある為、徐々にだが押され始めていた。


 こちらもユーグ部隊長と切り結んではいるが、流石に強い……!


 しかも余程教皇様たちを亡き者にしたいのかいつもの精彩差を欠き、殆んど力任せに剣を振るい、魔法も荒が目立つ。


「ちっ! 思ったよりも粘りやがるな! いい加減くたばっておけや!」


 焦っているのか、大振りの一撃が放たれる。


 ここだ!


「【サンダーボルト】!」


 俺は一撃を剣で受けつつ、準備していた雷魔法を放つ。


 天から降り注ぐ雷が俺をも巻き込んでユーグ部隊長に落ちた。


「がっ!?」


 雷の直撃により、一瞬硬直するユーグ部隊長。


「がぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!」


 初めから落ちてくる雷に備えていた俺は力を振り絞って無理やり硬直を抜け出し、限界以上の力でユーグ部隊長を攻撃する。


 ガガッ!!


「っそったれ。まさか捨て身の攻撃をしてくるとはな」


 吹き飛ばされたのは俺の方だった。


「な・んで……!」


「あー? そんなの簡単だよ。予め仕込んでおいたカウンタースキルを使ったんだよ。雷に対する【サンダージャケット】をな」


 よく見れば、ユーグ部隊長は雷を纏っていた。


 俺の【サンダーボルト】を利用して【サンダージャケット】纏い雷化したのだ。


「ま、健闘したが所詮ここまでだな。俺に敵う奴なんかいねぇ。精々暫くはベットの上で俺に逆らった事を後悔してな」


 ゆっくり近づいたユーグ部隊長は剣を掲げ、俺に向かって振り下ろす。


 5人の新勇部隊員はそれを止める為に駆け寄ろうとするが、今度は逆に勇人部隊員に足止めをされてしまう。


 限界以上の火事場の馬鹿力を使った俺は、起き上がる事が出来ずに振り下ろされる剣を見ているだけだった。


「はいー、そこまでー」


 ガキンッ!


 朱色の棍が地面に突き刺さり、それがユーグ部隊長の剣を止める。


「アル君―、頑張ったねー。ここからはお姉ちゃんに任せなさいー」


「なんだ、てめぇは……?」


「貴方達に鉄槌を下す者よー」


 ……ちぇ。自分で何とかしたかったけど、結局は姉さん頼りか。


 でも、これでもう何の心配もいらない。


 だって、姉さんがここに居るんだから。












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