Side-13 マリアベル3
あり得ない、あり得ない、あり得ない、あり得ない、あり得ない、あり得ない。
これまで行った不正や悪事の数々は証拠など残さずに確実に隠蔽できていたはずです。
それなのに、今まで代理人を立てて来て初めてこの場に姿を現した“天”の枢機卿であるルナフレア・ライフォネスと言う小娘にこれまで私が、勇人部隊が行ってきた数々の証拠が出されたのです。
しかも、確実に殺したはずの【指導者】のスキル持ちのシスターが生きていた?
おまけに実はそのシスターは2つの祝福を受けし者で、【勇者】に匹敵する【聖女】のスキル持ちですって?
何ですか、その都合のいい展開は。
「マリアベル枢機卿」
ビクッ
これまでほぼ言葉を発しなかった教皇が口を開く。
「貴殿の行為の数々はとても許し難いものである。これにより枢機卿の座を剥奪し、罰を与えるものとする。追って沙汰を渡す。私室にて大人しく待機せよ」
ああああ……
これまで私が築き上げてきた地位が崩れ落ちていく……
「おい」
「はっ!」
アクアリアが部屋の外へ声を掛け、入り口を護衛していた神殿騎士に私を私室へ連れて行くように命じる。
「触らないで下さい! 自分の足で歩けます」
私はなけなしのプライドを振り絞って私を掴もうとした神殿騎士の腕を振り払い、毅然とした態度で前を歩く。
この後、会議室では私の罰の内容を決めるのでしょうか。
いえ、枢機卿の地位を失った私にはもうどうでもいいことですね。
私を私室に連れてきた神殿騎士はそのまま部屋の外で見張りに立っていました。
逃亡の恐れのある私を逃がさないためでしょう。
呆然としていた私はずっと部屋の真ん中で突っ立っていました。
どれくらい呆然としていたのでしょうか。
唐突に声を掛けられました。
「このまま裁きを受けるのかい?」
「誰ですかっ!?」
部屋には誰も居なかったはずです。
それがいつの間にか、ソファーにフードを目深に被った男と思しき人物が座ってました。
「ボクの事はどうでもいいよ。それよりいいのかい? これまで君が築いてきたものが奪われるんだよ。君はそれで納得するの?」
「……いいわけないでしょう! 私がこれまでどれだけ苦労をして今の地位を築いたと思っているのですか!」
「そうだよね。“勇”の枢機卿と言うなんの価値も無い地位でありながら、今や教会の頂点に立つとまで言われたのに、あっという間にパァ。納得しろって言う方が無理だよね」
「何が、言いたいのですか」
この先、この男の言葉を聞いてはいけません。そんな気がするのですが、不思議とそれを止めようとは思いませんでした。
「君を排除しようとしている奴を逆に排除――殺してしまうのさ。そう、教皇や他の6人の枢機卿を全員を」
「――――――――ッ!」
「そうすれば、君がAlice神教教会で一番偉い人になる。つまり、君が新しい教皇様さ!
君の罪を知っている邪魔者は居なくなり、偉い人は君だけになり、信仰は君に集まる。いい事尽くめだよ」
「で、ですが、そんな事をすれば真っ先に私に疑いが掛かるのは目に見えてます」
「そんなの魔族に皆殺しにされたって事にすればいいよ。君は丁度謹慎として部屋に隔離されているからね。君だけが助かる理由はあるし」
「ぁ……ぁぁ……」
「ほら、君が苦労しているのに教皇らは何にも君に報いてくれない。そんな彼らにも罰を与えなきゃ。だからこれは正当な行為なんだよ」
「そう……そうよ。私は苦労してきた。それなのに何故私が居なくならなければならないの? 何故彼らだけが良い目を見ているの? そうよ! だったら皆いなくなればいいのよ!」
「そうそう、その気になって来たね。さぁ! 祭りを始めようか!」
彼がそう言うと、両手を広げ盛大に私のこれからの栄光を祝ってくれる。
だが、ふと見ればそこには最初から誰も居なかったかのように、部屋には私1人が佇んでいた。
いえ、そんな事はもういいでしょう。
私にはやるべきことがある。
私はドアを開け、目的地へと颯爽と歩きだす。
そう言えば、部屋の外で見張りをしていた神殿騎士は……?
まぁいいでしょう。居ない方が都合がいいですから。
「ユーグ部隊長は居ますか!?」
私は勇人部隊が訓練している訓練場へ行き、ユーグ部隊長を呼び出します。
訓練場には真面目に訓練をする部隊員が居ますが、唐突に現れた私に何事かと訝しんでいました。
「あん? どうした枢機卿様」
ユーグ部隊長が訓練場の奥から出てきます。
相変わらずのふてぶてしい態度ですが、今は頼もしい限りです。
「今から最上位会議室へ行き、その場にいる者を皆殺しにするのです」
「……はぁ? 何を言っているんだ? そんな事をすればタダじゃ済まないだろうよ」
「私達の行為が全てばれました。教皇以下、6人の枢機卿全員にです。なので、それらを知る者全てを亡き者にします。そうすれば生き残りの枢機卿は私ただ1人。そのまま私が教皇になれます。そうすれば我々の罪は無かったことに出来ます」
「おまっ……全部ばれたのかよ。はぁ………、にしたって皆殺しはねぇだろう。確実にお前の所為だってバレバレじゃねぇか」
「そこは魔族の仕業にします。教皇枢機卿が全員そろっている場に魔族が現れ皆殺しにしていった、と」
「魔族、ねぇ……。それで騙されてくれれば儲けものだが。まぁ、全部ばれてしまったんだ。どのみち後がねぇからやっても損はねぇか」
何処か納得していなかったユーグ部隊長ですが、渋々ながら皆殺し案に賛同してくれたようです。
ああ! これで私の地位は安泰です。
ユーグ部隊長が他の部隊員を連れて最上位会議室へ向かおうとすると、1人の少年が立ちはだかりました。
「残念だが、ここから先は通さなねぇぜ」
愚かにも、【指導者】である私に盾突こうとするアルベルト様でした。




