103.天に代わって裁く者
「私が本当の“天”の枢機卿、ルナフレア・ライフォネスよ」
……マジですか? うん、【センスライ】で確認したらマヂでした。
「な、んだと……。それじゃあ今までワシらの前に現れていたこやつは“天”の枢機卿じゃなかったと言うのか」
「ええ、そうよ」
「何故、そんな真似をしているのかしら?」
「それは貴方方を欺く為よ。私に向けられる目を逸らせれば、それだけ私を狙う事は無くなるし。それに若い私が同じ枢機卿だとそう簡単に認められないでしょう?」
ミリアリアと爺さんの2人に微笑みながらネタバラシをするルナフレア。
ほんわかシスターなのは変わらないのだが、言葉の端はしに黒さが感じられる。
見た目と違って明らかにただ者じゃない雰囲気を醸し出していた。
「ああ、そうそう。トランが言っていた、“天”の枢機卿が『天に代わって裁く者』だと言うのは本当よ。スキル【天罰】。これを持つ者が“天”の枢機卿に選ばれるのよ」
そう言いながらさっきまでトランベルを退かし、ルナフレアは“天”の枢機卿の椅子に座る。
退かされたトランベルは青い顔をしたままだった。
先程までのやり取りを見ていると、代理なのをいいことにかなりあくどい事をしてきたのかもしれないな。
「さて、【天罰】が欲しければ幾らでもくれてやるけど、それでもジルベール様たちを欲しいのかしら? 彼女たちは私が呼んだのに、それを横から掠め取ると?」
ルナフレアの言葉に2人の枢機卿は言葉に詰まる……が、ここで引いてはプライドが許さないのだろう。
敢えて被弾覚悟で踏み込んできた。
「ワシはさっきもこやつに言ったが、殺気を放った不審者を捕まえに来たんだ。お主にそれを阻む権限は無いと思うが?」
「枢機卿との面会は我々窓口を通してもらわなければならないわ。その許可を出すので彼女らを一度こちらに預けて頂けないかしら」
爺さんの方は一応筋が通っているが、ミリアリアの方はちょっと強引かな?
面会にいちいち運営の窓口を通す決まりは無いはずだ。
「……サクラハル、ブライトジン」
唐突に発したルナフレアの言葉に訝しんでいた2人だったが、思い当たることがあったのか顔が青褪める。
「貴方方が自分の不利益になると判断して、独断で裁いた人物ですね。尤も、書類上は私――“天”の枢機卿が貴方方に指示して裁いだことになってますが」
つまり、勝手にやったのをルナフレアは知っていて、書類上何の問題も無いように2人に貸しを作ったって訳か。
それこそここでそれを覆すようなら【天罰】のスキルが炸裂すると。
「まぁ、他にも他人に言えないようなことを沢山しているようですね」
止めに、他にもいろいろ情報を握っていると警告する。
「……裁く権限が“天”の枢機卿にあるなら、不審者の処分を任せよう」
「ああ、ごめんなさいね。面会の許可は下りていたみたい。どうも私の勘違いをしていたみたいね」
流石に分が悪くなり、2人の枢機卿は大人しく引き下がった。
爺さんの方は仕方がないとばかりに、ミリアリアの方は忌々しげに睨みながら部屋を出て行った。
「……ふぅ、何とか引いてもらえたわね。とは言え……ここで私の正体を晒すことになるとはねぇ……はぁ、何の為に貴方を表に出したと思っているのよ」
「……は、申し訳ありません」
「これから“勇”の枢機卿に関する情報を持つ者が来るって伝えていたでしょ? 何を勝手に追い返そうとしているのよ」
「わ、私にはとても重要な情報を持っているようには見えなくて……」
「何? 私の情報網が信じられないとでも?」
「い、いえ。そう言う訳では……」
ルナフレアに問い詰められ、しどろもどろに答えるトランベル。
これって、影武者?で権力を得たのをいいことに、好き勝手やってたってオチか?
「まぁ良いわ。沙汰は追って言い渡すから。今はこの場を立ち去りなさい。ああ、そこに蹲っている者と周囲に潜ませている者たちも忘れずにつれて行きなさい」
話の展開に付いて行けず動くタイミングを逃していた潜んでいた者達を連れて行くように命じる。
「ふぅ、これでやっとお話が出来るわね。ごめんなさいね。折角来てもらったのに失礼な事をしてしまって。ついでに派閥争いに巻き込んだみたいで」
「ううんー、別に気にしてないよー。それより、おばーちゃん枢機卿を引きずり降ろすのに協力してもらえるのー?」
「ええ、勿論よ。貴女方の持つ情報を渡してもらえれば、間違いなくね。それに……立派な証人も連れて来てくれたみたいだし」
この話の流れで、強権雑務派の協力はいりませんって言えないよなぁ……
まぁ、思ったよりも強権行政派や強権戦闘派よりも力が上だって分かったから問題は無いが。
ジル達はクローディアが集めた証拠をルナフレアに提示しながらどうやってクソババァを痛い目に遭わせるか話し合いをする。
「うんうん、ここまで証拠が揃っているなら間違いなくマリアベル枢機卿を終わらせることが出来るわ」
「あの……ジルさん達の証拠が無くても、ルナフレア枢機卿様の方でも情報を掴んでいたように見えますが……」
確実な証拠が手に入ったルナフレアは上機嫌でいたが、考えてみればパトリシアの言う通りそっちでも情報を掴んでいたように見えたな。
「確かに私の方でもある程度情報は掴んでいたけど、それは彼女が動いていたからよ」
そう言って、ルナフレアはクローディアを見る。
「貴女が動いた事で、こちら側――“伝”の枢機卿の情報網にも引っかかり、そこで“勇”の枢機卿の不正や悪事が発覚したって訳」
但し、“伝”の枢機卿は情報そのものは仕入れても、どう活用するかまでは考えていないと。
あくまで情報を情報としかとらえず、それを使うのはまた別の人間なのだとか。
「まぁ、彼と仲良くなければそれなりに情報は仕入れられないけどね」
「あの、わたくしからもよろしいでしょうか?」
「はい、とても優秀なクローディアさん。出来れば私の部下として働いてほしいのですが」
「それはお断りします。わたくしはシルバー王太子様に仕えてますので。今は特命を受けてジルベールさんに仕えておりますから」
「それは残念。それで何かな?」
「証拠は有った方がいいですが、ルナフレア枢機卿様の【天罰】なら証拠が無くても裁きを下せるのではないでしょうか?」
あー、確かにそう思えるかもしれないが、【天罰】はそこまで便利なスキルじゃないんだよね。
ルナフレアによって【天罰】スキルがあると分かり、【森羅万象】でチェックしてみたんだが、【天罰】は罪の重さに応じた罰を与えるスキルで、発動にはその罪の証拠が必要だったりする。
つまり、勝手に【天罰】で罰を与える事は出来ないのだ。
「と言う訳。だから証拠が必要なの。その証拠を簡単にそろえられるクローディアさんが私の部下に付いてくれれば大助かりなんだけどなぁ~」
「そのお話は先程お断りしたはずです」
「ちぇ~つれないわねー」
「でもー、これでおばーちゃん枢機卿に罰を下せるんでしょー?」
そう! やっとあのクソババァに一泡吹かせられるのだ!
「その事なんだけど、どうせならもっと最大限の罰を与えて見たくない?」
「と言うとー?」
ルナフレアはほんわかした雰囲気を保ちながらもニヤリとした器用な笑みを見せる。
「あの手の人は私のような小娘よりも、同位の役職よりも上の権威ある人物からの裁きが最も効果的なの。と言う訳で、教皇様より裁きを下してもらいます」




