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この石には意志がある!  作者: 一狼
第2部 「猛女」 / 第5章 Alice神教教会・対決編
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102.“天”の枢機卿

「何故ここにって? さっきも言ったが、物凄い殺気を感じてそいつらをしょっ引きにここに来たんだが?」


 “戦”の枢機卿のアクアリアス・ザイアードがジル達を睨みながら言う。


「あら、彼女を連れて行かれては困るわ。最初に目を付けたのは私よ?」


 ジル達を捕まえようとしているアクアリアスの爺さんに待ったを掛ける“政”の枢機卿ミリアリア。


「残念だが優先権はワシにある。なんせ天下のAlice神教教会のアリスティラ大神殿で殺気を放っていたんだからな。神殿の護りも担っている神殿騎士の団長としては彼女らの取り調べが必要だ」


「たかが殺気だけで捕まえると?」


「ふん、人を殺さんばかりの殺気だぞ。十分殺人未遂の容疑者だ」


 む、一応さっきの【威圧】はトランベルとその部下の潜んでいた4名に向かって放ったのであって、周囲には影響がないはずなんだがな。


 それをこの爺さんは感じ取ったと言うのか。


 “戦”の枢機卿の名は伊達じゃないって事か。


「分かったのならワシに付いて来い。じっくり話を聞かせてもらおうじゃないか。例えば“勇”の枢機卿に関する話などをな」


 ……なるほどな。殺気云々は口実か。


 要はこの爺さんもクソババァに対する情報が欲しい訳か。


 “戦”の枢機卿は脳筋だと聞いていたが、思ったよりも知恵があるな。


 まぁ、腐っても枢機卿の席に座っているくらいだから腹芸の1つぐらいは出来るか。


 ふむ……さて、ここにクソババァに対抗する枢機卿が3名揃っている訳だが……


 誰と協力をするべきか。


『あたいはこいつらに付いて行くのは反対だね。こいつら強権派なんだろ? 曲がったことする奴はあたいは大っ嫌いだね!』


『俺様はこの爺さんが気に入ったな。ちょっと頭が回るみたいだが、上手く回せるんじゃないか?』


『Hey! 初志貫徹って諺もあるZe! 最初のPlan通り“天”の枢機卿でOkじゃNe?』


『ふむ、私としては“政”の枢機卿の方が話の通りが良さそうな気がしますが』


 ふーちゃんは強権派に協力を仰ぐのは反対。


 はーちゃんは強権戦闘派。


 やーちゃんは強権雑務派。


 ぼーちゃんが強権行政派。


 うーむ、どうするべきか。


「アクアリス枢機卿。貴方まで彼女らが“勇”の枢機卿の情報を持っていると思っているのですか?」


「うん? ワシはそのように聞いているが? なんだ、貴様はそんな事すら聞いておらんのか。“天”の枢機卿はその程度の情報すら仕入れられないのか」


「ほっときなさい、アクアリス。所詮は“天”の枢機卿よ。雑務をこなすだけしかできない無能の輩よ」


「聞き捨てならない事を言いますね。貴方方は何も分かっていない。何故“天”の枢機卿と呼ばれているのかを」


 ミリアリアの挑発に流石に見過ごせなかったのか、トランベルが怒りを滲ませながら2人を睨む。


「ほぅ、面白い事を言うな。“勇”の枢機卿の次に閑職と言われた“天”の枢機卿に秘密があったのか?」


 睨まれた爺さんもちょっと興味が湧いたのか、ミリアリアに続いて挑発をしてきた。


「『天に代わって裁きを下す者』。それが“天”の枢機卿の名の由来ですよ。つまり、“天”の枢機卿は異教徒や、Alice神教教会内での裁きを独断で下す権限を持っています。今ここで私が貴方方2人に裁きを下し、枢機卿の座を剥奪する事も出来るのですよ」


 独断でって……おいおい、それじゃあ“天”の枢機卿は好き勝手に自分の気に入らない奴なんかを粛清する事が出来るって事かよ。


 だから『“天”』の枢機卿なわけか。


 ジルは思わずクローディアを見るが、クローディアも流石にこの情報は仕入れていないらしく、小さく首を横に振る。


「ど、独断でって、そんな勝手な事を出来る訳ないでしょう……! それも枢機卿の権限を持つ私達をも裁けるって」


「ふん、大方こやつの大法螺だろう。教皇様にお伺いすら立てずにワシ等を裁けるものか」


 流石に2人の枢機卿は怯んでいた。


 トランベルの言う事が事実なら、今ここで2人を枢機卿の座から引きずり降ろすことが可能だからな。


「その教皇様からも認められたのが“天”の枢機卿ですよ」


 ……どうやらマジっぽい。


 【センスライ】でトランベルの言葉に嘘が無いか判断したところ、本当の話だった。


「ちっ、貴様……本当にワシ等を裁くつもりか?」


「さて、どうしましょうか。私をコケにした罪を償う意味でも裁きを下したい所でしたが、私にも慈悲が無いわけではない。私の機嫌を上げるのにはどうしたらいいでしょうかね?」


 2人の枢機卿をやり込めた事に機嫌を良くしたトランベルは、嫌らしい笑顔を見せていた。


「(ねぇー、きゅーちゃんー。なんか私達無視されちゃってるねー)」


『……だな。協力を持ちかけに来たのに何でこうなった……?』


 これ以上話がややこやしくなれば困るんだがな。


 と言うか、トランベルが一歩リード状態だと、俺らはお払い箱にされちまう。


 ここに来た意味が無くなるぞ。


「盛り上がっている所悪いけど、トランにはそんな権限は無いわよ?」


 えーい! ここに来てまた新たな登場人物か!


 ……って、ありゃ? 彼女はジル達をここに案内してきてくれたプラチナピンクヘアーのふんわりシスターじゃないか。


「あら? 貴女、トランベルのところの事務方じゃありませんの。貴女空気が読めなくて? 枢機卿の話に割って入るなんて、下っ端の癖に随分と図々しいわね。トランベル、貴方部下の教育はどうなっているかしら? ああ、好き勝手出来る権限があるんだから部下なんてどうでもいいのかしら?」


「嬢ちゃん、ワシ等枢機卿に覚えを良くしてもらいたい気持ちは分かるが、今は邪魔だ。機嫌がいい時にでも話しかけるんだな」


 ミリアリアは何とか巻き返そうとトランベルに嫌味を言いながらふんわりシスターを追い払う。


 爺さんも不機嫌な表情をしながら手で払う仕草をする。


 そんな2人の枢機卿を見ながら、さっきまでの上機嫌から一変、慌てたように腰を浮かし動揺するトランベル。


「あ、ちょ、待っ……」


「2人とも勘違いしているわよ。トランは“天”の枢機卿でもなんでもないわよ」


「「……は?」」


 ……はぁぁっ!?


 ちょ、枢機卿じゃないって……え? だって、執務室で事務をして……は? さっきだって自慢げに“天”の枢機卿について語ってじゃないか! ど、どういうことー!?


「彼は私の影武者。ん? 影武者とは違うかな? 要は代理人よ。で、私が本当の“天”の枢機卿、ルナフレア・ライフォネスよ」












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