100.アリスティラ大神殿再び
「ふえぇー、ここに来たのは2回目だけど、流石に壮観だねー」
「私もここに来るのは初めてですが、その名に違わず立派な神殿ですね……」
ジル達は今、敵の本拠地であるアリスティラ大神殿に居た。
「それでクローディアー、私達を呼び出した“天”の枢機卿は何処なのー?」
「この時間にこの場所に来るように指示がありました。もう少しすれば私に接触して来た者が来るはずです」
3日ほど前、エイス村でパトリシアを保護した俺達の元に突然クローディアが現れた。
クローディアには王都でのAlice神教教会の最新の情報を集めてもらっていたが、何やら状況に変化があった。
“天”の枢機卿の手の者が情報を集めていたクローディアに接触し、クローディアを通じてジルに接触を図って来たのだ。
どうやら“天”の枢機卿の方でも情報を集めており(当たり前の事だが)、互いの派閥の監視をしていたところに派閥に属していない者が嗅ぎまわっているのを突き止めた。
それがクローディアであり、その後ろに居るのがジルであることも突き止めて、強権勇者派を潰すために互いに協力しないかと持ちかけてきた訳だ。
クローディアとしてはくノ一として素性を探られたことに苦汁を舐めされられたが、これは向こうに接触しようとしていた俺達にとっても重要な事なため、至急ジルの元へ駆けつけた。
ただ、最近聖王国に戻ってきたジルがクローディアと繋がっており、クソババァと敵対している事までもが情報として筒抜けになっているのは些か驚いたが。
元々“天”か“政”のどちらかの枢機卿と接触するつもりだったので、向こうからの接触は渡り船だったが、こちらの情報が筒抜けだったのがな……要警戒だな。
「これが、罠……と言う事はあり得るんですよね?」
「確率的にはあり得るけど、まずないと思うよー」
パトリシアが少し青ざめた顔で周囲を見渡すが、今ジル達が居るのは幾つかある礼拝堂の1つで周囲には誰も居ない。
その為、ここで何が起きても誰にも知られずに世の中から葬り去ることが出来る。
まぁ、罠だった場合だがな。
本当であればパトリシアはエイス村にそのまま預けておくつもりだったが、パトリシアの要望と、クローディアから聞かされた新たな情報により、王都教会――アリスティラ大神殿に連れてくることにしたのだ。
勇者の存在を正式に公表する。
それもあと数日の内に。
思ったより時間が無かったため、俺達はここで“天”の枢機卿と接触し一気に攻勢に出る事にしたのだ。
まだ病み上がりのパトリシアを【回復魔法】等で無理やり持たせながら王都まで戻ってきた。
パトリシアの顔色が悪いのは何も周囲を警戒してだけではなかったりする。
「ジルベール様とクローディア様、……パトリシア様でございますね。ご案内いたしますのでこちらへ……」
礼拝堂に現れたのはまだプラチナピンクの髪の若い女性のシスターで、どこか落ち着いていてふんわりとした雰囲気を醸し出していた。
……むぅ。既にパトリシアの存在を知っているのか。
クソババァが無能なのか、それとも“天”の枢機卿が優秀なのか。
思ってた通り、こりゃあ一筋縄じゃ行かなそうだな。
ふんわりしたシスターの案内の元、ひたすら奥へと進んで行きながらアリスティラ大神殿の構造の説明をしてくれる。
ふんわりしたシスターの説明によれば、アリスティラ大神殿は全部で9つの区画に分れており、教皇の居する区画、共通の区画、後は各枢機卿の7つの区画に分れていると言う。
今案内されているこの区画は、既に“天”の枢機卿の区画内だと言う。
「ですから“勇”の枢機卿様による罠や襲撃を警戒する必要はありませんよ」
その言葉を信じたいところだけど、どこまで信憑性があるかなんだがなぁ~
まぁ、【第六感】のスキルが問題ないと言っているから信じられるだろう。
「貴女が“勇”の枢機卿のスパイである可能性はー?」
「疑うのは当然ですけど、“天”の枢機卿はそこまで甘い方ではありませんよ」
ジルも同じ疑問を持ったらしくかなり踏み込んで聞いてみるが、返ってきた答えは“天”の枢機卿を侮るなって事だけだった。
「ここが“天”の枢機卿の執務室です。この部屋に居る者とお話し下さい」
そう言って、ふんわりしたシスターはジル達を部屋に促し、その場を立ち去る。
ありゃ? 部屋の中まで案内しないんだな。
まぁいい。ここが目的の部屋なら入るまでだ。
『ジル、覚悟はいいな?』
「(うんー、大丈夫ー)」
ジルは頷いてドアをノックする。
『……誰だ?』
部屋の中から壮年の男の声がする。
「S級冒険者のジルベールですー。私に話があると聞いて呼ばれてきましたー」
『S級冒険者……? ああ、そう言えば今日ここに来ると言っていたな……』
おいおい、そっちから呼んでおいて忘れてたのかよ!
『入れ』
俺はちょっとイラッとしたものの、ジルは平然としながらドアを開け中へ入っていく。
クローディアとパトリシアも続いて中へ入る。
執務室は余計な装飾などは無く、質素な作りとなっていた。
ただ、机やテーブルの上には本やら書類やらが山積みとなっており、第二の閑職と言われた“天”の枢機卿でも如何にも忙しいんだと物語っていた。
「ふん、貴様がS級冒険者、『幻』のジルベールか」
“天”の枢機卿は声から判断した通り、40代~50代の壮年の男で、眉にしわを寄せた厳つい顔をした融通の利かなさそうな男だった。
「何故ここに呼び出されたか分かっているな?」
呼び出したって……そっちから協力しようって持ちかけて来たんじゃないのか?
「……? “勇”の枢機卿の件で協力しようって話しなんじゃないのー?」
ジルも不思議に思いながらも、今日ここへ来た理由を目の前の男に述べる。
「違う。自分たちが特別だと勘違いしているようだが……まぁいい。そんな貴様らに私自らの警告だ。貴様らはこの件――“勇”の枢機卿からは手を引け」
…………は? はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!?




