099.聖女
「最初、シアを見つけた時は近くの森で血塗れで倒れていた」
パトリシアはまだベッドの中だが、ジル達は村長の家の裏の小屋で茶を啜っていた。
「エイス村は見ての通り小さな村だからな。近くのセプテム村から色々と便宜を図ってもらっていたんだ。あの日、エイス村の事でまた便宜を図ってもらおうと、セプテム村に向かう途中でシアを見つけた訳だ」
確かに人口30人の本当に小さな村だ。
おそらく開拓して間もない村なのだろう。
「まだ息があったからエイス村に運び、村の者にシアを任せて俺はセプテム村に慌てて走った。セプテム村でシアが酷い目に遭ったんではないかと。その考えは合ってもいたし、間違ってもいた訳だ。セプテム村で目にしたのは村人が惨たらしく殺され村ごと焼き払われた姿だった」
当時のその時の事を思いだし、拳を強く握りしめながら苦渋に満ちた表情の村長。
「俺は最初は野盗に襲われたと思ったよ。だが、その考えは間違っていた訳だ。俺は直ぐにこの地方の領主へ報告へ向かおうとした。エイス村に戻って領都へ向かう準備をしていたところ、シアが目を覚ましたと聞いて何があったのか訊ねようとしたが、シアは取り乱しまともに話を聞く事が出来なかった。だが、大よその事は分かった。分かってしまった」
そう言いながら、村長は大きくため息を吐く。
村長はここで勇人部隊がセプテム村を襲った事を知った訳か。
確かにため息も吐きたくなるわな。
世界の安寧を祈っている教会が、あろうことか村を襲い滅ぼしているんだから。
「俺は直ぐに村中に箝口令を敷き、シアが生きてこの村に居る事を漏らさないようにした。その上で領主にはセプテム村が全滅したことを報告した」
「村長さんー、グッジョブー」
「ああ、当時の俺を褒めてやりたいね」
もし、パトリシアの生存が報告されていれば、クソババァにエイス村をも襲われていた訳だ。
「あの時のシアの取り乱しようから、シア自身にも何があったか想像がつく。だから俺は家の裏にあった小屋を改装し、シアをここで養生させていたんだ。最近は大分良くなったが……」
「最近は思い出さない様にと目を背けていましたから。ですがそれも今日でお終いです。セプテム村の皆様の仇を討つためにもここで立ち止まっている訳にもいきません」
ちょっと、【扇動】が効きすぎたかな?
あまり復讐心に走りすぎて暴走しなきゃいいけど。
まぁ、ずっと臥せっているよりはいいか。
「でもー、話を聞くと、パトリシアさんも勇人部隊に殺されていたんだよねー? どうして助かったのかなー?」
「それは、私も不思議に思いました。彼らに欲望の捌け口された後、間違いなく彼らに心の臓を刺され死んでいた筈なのです」
「確かに俺が見た時も服は血塗れで、胸の所に刺された跡があったな。そもそもシアが倒れていた場所がエイス村の近くの森だ。セプテム村で殺されていたのならどうやって森に来たんだ?」
「そう言えば……胸を刺された後、夢の中で救いを求めて必死に歩いていた記憶があります。今思えば、死んでいるのに夢を見ているのは可笑しいのですが」
実は死んでなくて、無我夢中でエイス村に助けを呼びに行ったと言うのが正解だろう。
尤も、何故死ななかったのかと言う疑問が残るが。
勇人部隊の奴らがパトリシアを殺し損ねたと言う事はあるまい。
まず間違いなく、その時のパトリシアは死んでいたはずだ。
まぁ、その原因が何なのか、俺はもう既に知っている訳だが。
「(どういう事だろねー? きゅーちゃんー)」
『あー、実はな……』
俺はジルにその原因を告げ、村長とパトリシアに話す。
「「【聖女】!?」」
「うんー。きゅーちゃんが言うには、パトリシアさんには【指導者】スキルの他に【聖女】のスキルもあるんだってー」
そう、パトリシアを【鑑定】したところ、何と彼女は2つものスキルを持っていた訳だ。
名前:パトリシア
種族:ヒューマン
状態:衰弱
スキル:指導者Lv35 聖女
備考:セプテム村の生き残り
基本的に、スキルは1人に1つしか授かれない。
だが、極まれに2つものスキルを授かる者が居ると言う。
そう言った者達は2つの祝福を受けし者と呼ばれ稀有な才能を発揮し、世に大きな影響を与えるらしい。
最初は5歳の時の祝福で1つは授かるが、もう1つは10歳までに気が付いたら授かる事があるとの事だ。
そして後から授かるスキルはとんでもないスキルが大半で、世に大きな影響を与える原因らしい。
そう、例えばパトリシアの【聖女】のスキルとか。
スキル:聖女
どんな傷も癒し、極めれば死者をも蘇らせることが出来る。
聖なる力により、邪悪なるものを滅ぼし、死霊などを浄化する事が出来る。
正しき心を持つ限り老化は緩やかになり、老衰でしか死ななくなる。
俺の【百花繚乱】や【森羅万象】のスキルも大概だけど、この【聖女】スキルもぶっ壊れスキルだわ。
それでなくとも【聖女】スキルは聖職者にとっては、そこに在るだけでも敬うに値するスキルだ。
【勇者】スキルに双璧を為す【聖女】スキル。
これを発見できただけでもパトリシアを訪ねた甲斐があったな。
いつ・どこで【聖女】スキルが目覚めたのか分からないが、【聖女】スキルがあったからこそ、パトリシアは生き残ることが出来た。
「私が、聖女……」
とんでもない真実に、パトリシアは呆然としている。
だが、これは俺達にとっては途轍もない幸運だ。
なんせ、あのクソババァを引きずり降ろす格好の切り札だ。
さぁて、首を洗って待ってな、クソババァ!
補足
きゅーちゃん:村長がパトリシアを『シア』と呼ぶのは、パトリシアが村長の姪だからだったりする。
まぁ、だから匿ったりもしてるんだけどね。




