010.防衛線ー奮闘
『ジル、まずは教会の中へ進入できない様に扉を塞ぐんだ』
「うん、分かったー。へきちゃん出てきてー!」
すると扉の前に巨大な石壁が現れた。
縦4m、横3m、厚さ1mの石壁――へきちゃんは完全に教会の扉を塞ぎ、中へ進入するのを防いでいた。
名前:へきちゃん
形状:長方形型
能力:巨大化
「はーちゃん、えんちゃん、出てきてー!」
そしてジルはぼーちゃんを石空間に収納し、はーちゃんとえんちゃんを石空間から取り出す。
右手に剣型のはーちゃん、左腕に円盾のえんちゃん。
はーちゃんはショートソード位の大きさなのだが、子供のジルが持てば立派な剣サイズだ。
しかも石で出来た剣なので切れ味はなさそうに見えるが、そこはジルの【ストーンコレクター】がはーちゃんに能力を与えている。
名前:はーちゃん
形状:剣型
能力:切断
『ジル、完全に殺る気だな』
「うんー、ここで躊躇ってなんかいられないのー!」
ジルのお気に入りの使用頻度はぼーちゃんの方が高い。
はーちゃんは刃物だけに殺傷力が高いから普段は使いたがらないのだ。
だけど今はそれを使う時だと判断した。
場合によっては人の命を奪う覚悟を決めているのだろう。
本当――に、7歳児か?
先程教会の中から追い出したグレイウルフとは別のグレイウルフがジルの横から襲い掛かる。
だが――
「やーちゃんー!」
ジルが石空間から取り出した飛苦無型の石を投擲し、グレイウルフの頭を貫通しそしてそのまま後ろに控えていた盗賊の胸を貫いた。
名前:やーちゃん
形状:飛苦無型
能力:貫通
飛んで行ったやーちゃんは直ぐに石空間に収納し、再び石空間から取り出すことが可能だ。
やーちゃんの貫通の能力と、ジルの石空間の能力の組み合わせは正にチートだよなぁ。
やーちゃんもまた、殺傷能力が高くふだんは使わないお気に入りだ。
だがジルは出し惜しみをしない。本当に全力で盗賊団に当たる。
「めーちゃんー!」
やーちゃんとは別に取り出したのはブーメラン型のめーちゃん。
ブラン達とのケンカにも使用したが、これもまたチートと言うべき能力を備えていた。
名前:めーちゃん
形状:ブーメラン型
能力:透過
めーちゃんは障害物を透過して目標を攻撃する事が可能だ。
盗賊はめーちゃんを叩き落とそうと剣を振るうが、その剣を透過し盗賊の頭にヒットする。
めーちゃんもまた石空間に収納し、再びジルの手に舞い戻る。
ジルは容赦なく教会へ近寄る盗賊とグレイウルフを倒していった。
勿論俺も遠慮なんかせずに【百花繚乱】のスキルで魔法乱舞する。
臨時に作った簡易防護柵を3匹のグレイウルフがジル目がけて飛びかかってくる。
『【ファイヤーバレット】! 【ストーンブラスト】! 【アイスブリット】!』
炎の散弾、石飛礫、氷の弾丸がグレイウルフを蹂躙する。
「な・何だあのガキ!? くそっ! お前らあのガキを殺せ!」
村人を相手していた盗賊の1人がジルの奮戦に慄いていた。
まぁ、俺の魔法もジルが放っているように見えるからな。
見方によればジル1人で武器――石の武器だが――での無双、魔法でも無双とどう見てもチートキャラです。
「ジ・ジルちゃん!? ちょっ、何やって……って、ええええっ!? メチャ強いんですけど!?」
防戦一方の村人もジルの予想外の強さに驚いていた。
他の盗賊もその盗賊の指示を受けたからか、それとも単純にジルを脅威と見たのか、武器を手に襲い掛かってくる。
そして当のジルは集団で襲い掛かってくる盗賊に怯みもせず、冷静に対応する。
「ぼーちゃんー、伸びろー!」
はーちゃんを仕舞い、ぼーちゃんを取出し伸ばしながら薙ぎ払いを放つ。
近づこうとした盗賊達は予想外の遠距離からの薙ぎ払いに脚を取られ、その場に倒れ込む。
『チャンス! 【ソーンバインド】!』
地面から蔦が伸び、転がっていた盗賊達をその場に縛り上げる。
「はーちゃんー!」
ジルは再びぼーちゃんからはーちゃんへ入れ替えて、【ソーンバインド】で縛り上げた1人の盗賊へ向かってはーちゃんを振るう。
『ジル、盗賊の手足を狙え』
「(うんー? 分かったー)」
ジルはちょっと首を傾げたが、素直に俺の言う事を聞いて盗賊の手足を切って行動不能にした。
ここは異世界だからか命のやり取りが軽く感じる。
郷に入れば郷に従えのことわざがあるように、俺もこっちの感覚に慣れるべきなのだろうけど、だからと言って幾ら盗賊とは言え、小さな子供の手を血で濡らす訳にはいかないからな。
うん、綺麗ごとっちゃぁ綺麗ごとだな。
まぁでも反省や後悔はまずはこの防衛戦が終わってからだ。
ジルには出来るだけ盗賊の相手をせずにグレイウルフに向かわせるようにする。
どうしても盗賊の相手をしなければいけない場合は、さっきと同様に手足を切っておくように言っておく。
『ジル、盗賊共は大人たちに任せてジルはグレイウルフを始末していこう。あの素早い動きにはジルが一番対応できる。盗賊が来た場合は手足を切って対処しろ』
「(うんー、分かったー)」
他の【ソーンバインド】で縛り上げた盗賊は村井人達が対応していので、ジルをグレイウルフへと向かわせる。
ジルはその後、グレイウルフに集中して倒していた。
はーちゃんや、やーちゃんを出し惜しみなく使い、次々とグレイウルフを屠っていく。
勿論俺もジルの援護をしながら、【ソーンバインド】で盗賊の動きを封じながら村人の援護をしていく。
「ジル!? お前何をやっているんだっ!?」
流石に他の村人よりも獅子奮迅の活躍をしていれば、嫌でも目に付く。
当然、親父さんの目にも止まり驚きを顕わにしていた。
「おとーさんー、私も戦うー。戦力は少しでも多い方がいいでしょー? きゅーちゃんも居るからー」
え? 俺?
「きゅーちゃんー、お願いー」
ジルは俺を頭上へ掲げる。
ああ、そう言う事か。
俺はジルの意図を察し、【百花繚乱】から魔法を放つ。
『【エリアハイヒール】!』
俺を中心に放たれた魔法で、村人たちの怪我が一瞬で治る。
「ほらー、役に立つでしょー?」
親父さんは一瞬で癒えた村人を見て少しの間呆けていたが、すぐに気を取り直す。
「ああくそっ、ジル! 後で説教だからな!」
「ええっー!? 何でー!?」
うん、そりゃあ説教されるよ。
けしかけた俺も悪いが、出来れば今回は大目に見て欲しいなぁ。
「ちっ、何でこんな村にこんな規格外のガキが居やがる。グレイウルフをものともしない戦闘力に、一瞬で大勢を癒す魔法まで使うとは。
まぁいい、ここまで俺様に逆らったんだ。覚悟はいいんだろうな?」
おっと、流石にジルの存在が看過できなくなってきたのか、高みの様子を決め込んでいた頭領が一回り大きなグレイウルフと一緒にジルと親父さんの前に現れた。




