097.エイス村
「私はS級冒険者のジルベールですー」
ジルはそう言ってS級冒険者の証の虹色に輝くプラチナのギルドカードを見せる。
S級のギルドカードを見た村人の男は流石に驚いていた。
「え、S級冒険者!? マジだ! すげぇ!」
「それで、パトリシアさんは居るー?」
「あー、それだけど、この村にそんな人は居ないぞ」
村人の男はさも当然に言う。
「えー? 本当ー?(きゅーちゃんー、どうー?)」
だが俺には通用しない。
嘘発見の【センスライ】により、村人の男が嘘を言っているのが丸分かりだ。
『どうやらパトリシアってシスターはこの村に居るのは間違いなさそうだな』
「(そっかー。でも居ないって言っているよー。どうしよっかー?)」
『うーーん、取り敢えず、村長に会ってみるか。もしかしたら村長なら話が通じるかもしれないし』
「(分かったー)えっとー、それじゃあ村長さんは居るー?」
「お、おう。村長ならこの道を真っ直ぐいたところの真ん中の家に居るぜ」
「ありがとー」
村人の男の言う通り、進むと他の家よりも多少まともな家があった。
「ごめん下さいー、村長さん居ますかー?」
「あん? 誰だ、今はこんな時間に」
こんな時間って、まだ昼前なんだけどな。
……ああ、村の今の時間なら畑仕事中とかだからか。
家の中から出てきたのは40代くらいの村長にしては思ったよりも若い男だった。
「……どちらさんで?」
「私、S級冒険者のジルベールですー。パトリシアさんって言うシスターさんの事について聞きたいことがあって来ましたー」
ジルが再びS級のギルドカードを見せながらパトリシアについて聞いてみる。
村長はS級のギルドカードに驚きながらも、ジルの発したパトリシアと言う単語に不思議そうな顔をしていた。
さっきの村人の男と言い、演技が上手いな!
「シスター? こんな小さな村だけど教会はある。けど、そこに居るのは神父様でシスターではないぞ。誰かと間違ってないか?」
上手い受け答えだな。
これだと嘘を言っているか分からないぞ。
『ジル、パトリシアの村の名前を言え。それでそれなら嘘は付けないはずだ』
「セプテム村の生き残りのパトリシアさんだよー。知らないですかー? ここに居るって聞いたんですけどー」
「セプテム村が盗賊に滅ぼされたのは知っている。そこに居たシスターもな。だがもう誰も生き残っていない」
誰も生き残っていないと言うのは嘘だな。
ふむ、【索敵】で探ってみるか。
俺は【森羅万象】の方でこのエイス村に【索敵】を掛ける。
【森羅万象】での細かい操作なら村の何処に誰が居るかが分かるからな。
エイス村は8戸の29人と、そこに教会の神父を加えて30人の本当に小さな村だ。
つまり、ここにパトリシアが居るのなら31人居る事になる。
……ビンゴ。
【索敵】にパトリシアの名前があった。
村長の家の裏だ。
家の影に隠れて見えないが、そこに小さな小屋がありパトリシアが居るみたいだ。
「ふーんー、じゃあ家の裏にある家は何なのかなー?」
ジルにその事を伝え、村長にカマを掛けさせてもらう。
「はぁ? 裏にあるのは家じゃなくて物置小屋だぜ」
「えー、小屋だったんだー。てっきり人が住めるように改装されていたから家かと思ったよー」
「な、何言っているんだよ。普通の小屋だろ」
村長は今度は明らかに動揺しているのが顔に現れていた。
「中を見させてもらってもー?」
「いや、見せる理由がねぇ。あんたは確かにS級冒険者かもしれないが、何でも言う事を聞かなければならないわけじゃねぇ」
まぁ、確かにそうだな。
さっきの動揺とは打って変わって冷静に対応してくる村長。
『ねぇ、何で村長は、パトリシアさんを、匿ってぃるんだろぅ……?』
へきちゃんに言われて気付く。
そういやそうだ。
なんで縁もゆかりもないパトリシアを村長は匿っているんだ?
……もしかして村長はセプテム村で起こった惨劇の真実を知っている?
そうか、ここですべき対応は村長に真摯に接する事だ。
村長はパトリシアを助けようとしている。
俺達も助けようとしている事を伝えるのがおそらく正解だ。
「村長さんは、セプテム村で起こった惨劇の真実を知っているんだねー?」
村長は何も答えない。
ただ、顔の表情に僅かだが変化があった。
「私もその真実を知っていますー。その真実――教会に対応する為にパトリシアさんに話を聞きたいんですー」
「……っ! あんたも教会の非道を知っているのか!」
「うんー。正確にはある枢機卿の非道なんだけどねー。私もその枢機卿に因縁があって、何とかしたいと思ってるのー。このまま好き勝手やられるのは癪だからねー」
「あんたも教会の被害者なのか。
…………そうか。分かった。シアの元へ案内しよう。ただ、あの子はあの事件以来精神が不安定だ。出来ればあまり刺激しないで欲しい」
村の壊滅がトラウマになっているのか。無理もない。
幸いと言っていいのか、俺には【百花繚乱】や【森羅万象】の精神を安定させる魔法があるからな。
落ち着かせて話を聞くのは大丈夫だ。
「大丈夫ー。無理な事はしないからー」
ジルの言葉を信じてくれたのか、村長は重々しく頷いて家の裏にある小屋に案内してくれた。




