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この石には意志がある!  作者: 一狼
第2部 「猛女」 / 第5章 Alice神教教会・対決編
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095.7人の枢機卿

 長くて1ヶ月。短ければ10日くらいか?


 クソババァの目を誤魔化せるのはその位だ。


 その間にクソババァを枢機卿の座から引きずり降ろす策を練り実行しなければ。


「そうですか。ならば私は連絡用の魔道具を壊しておきましょう。そうすればグレンタール枢機卿の目を少しは誤魔化せるでしょう」


「うんー。ありがとー、神父様ー」


 ハイドラにファルト村を殲滅させたと嘘の報告をさせたことにより、信憑性を持たせるために王都教会と個々の教会との連絡が付くのはマズイ。


 と言う訳で、神父に頼んでその連絡手段を断ってもらったわけだ。


 まぁ、ファルト村の生存情報が完全に遮断できるわけじゃないで、これも一時しのぎだが。


 さて、クソババァの不正やら犯罪やらの証拠は、ここにクローディアが頑張って集めてくれたわけだが、どう活用すべきか。


 アルベルトにもその矛先が向かずに、クソババァだけを悪者にするとなると難易度が高いんだよなぁ。


 ……いっそのこと、Alice神教教会内部から切り崩してみるか?


 最初は、連合軍や各王国にこの証拠を提出しクソババァを断罪しようかと思ったが、下手をすればババァの手先に握りつぶされたりする可能性もある。


 また、クソババァの管理下にあるアルベルトにも咎が及ぶ可能性もあるんだよなぁ……


 なので、敵の懐に飛び込んでみるのも1つの手かと思ったんだが。


 そう言えば、王都の地下にある転移迷宮で研究している研究者・クォンによれば、教会内では強権派と穏健派の派閥に分れているって言ってたっけ。


 ……ふむ、この証拠を穏健派に持って行けば、アルベルトに迷惑を掛けずにクソババァに一泡吹かせられるか?


 あ、そうだ。折角Alice神教教会の神父様が居るんだから相談してみるか。


「Alice神教教会内の派閥ですか……。確かに教会内には強権派と穏健派の派閥が存在しますが、その証拠は穏健派に出すのはやめたほうがよろしいでしょう。情けない事ですが、穏健派にはその証拠を活用する術がありません」


「穏健派って、そんなに弱いのー?」


「ええ、穏健派を総べるのは“祈”の枢機卿様と“伝”の枢機卿様なのですが、このお二方は王都教会内ではそれほど力は無いのです」


 神父様の話によれば、穏健派のトップである“祈”の枢機卿は神託(オラクル)祝福(ブレッシング)奇跡(ミラクル)などを管理し、女神Alice関連を取り仕切っているのだが、政治的駆け引きなどが出来ない嘘が付けない正直者らしい。


 もう1人のトップの“伝”の枢機卿は各地区の教会との連絡網を管理している情報局を取り仕切っているのだが、ただ情報を事実として管理しているだけで、感情では動かない人物らしい。


 うーん、馬鹿正直ものとやる気なしの2人が穏健派のトップか。


 確かにこれじゃあクソババァの証拠を出したところで手玉に取られそうだな。


「そっかー、それじゃあ教会に証拠を出すのはやっぱり握りつぶされちゃうねー」


「いえ、そうでもありませんよ。実は強権派も岩一枚ではないのです」


 Alice神教教会の枢機卿は全部で7人。


 “政”の枢機卿、“祈”の枢機卿、“戦”の枢機卿、“金”の枢機卿、“伝”の枢機卿、“天”の枢機卿、“勇”の枢機卿。


 “祈”と“伝”は穏健派で、残りの“政”、“戦”、“金”、“天”、“勇”の5人は強権派となる。


 だがこの5人は強権派でありながら、互いに睨みあっている仲だと言う。


 “政”の枢機卿は文字通り教会の運営を行う行政部のトップで、その為教会内で自分の意にそぐわない者は排除する強権行政派。


 “戦”の枢機卿は神殿騎士、聖騎士、神官戦士など戦力を取り纏め役で、政治には疎く力こそ正義の脳筋の強権戦闘派。


 “天”の枢機卿は教会内の雑務をこなす部署の通称雑務部のトップで一見大したことないように見えるが、何を考えているか分からない強権雑務派。


 “勇”の枢機卿は言わずと知れたあのクソババァで、勇者と言う権力を最大限に活用し、欲望を満たそうとする強権勇者派。


 この4つの強権派が互いに睨みあい、四竦み状態になっていると言う。


 なるほどなぁ。穏健派の力が無く相手にされないからこそ、強権派内で誰かが全ての権力を手に入れようとして更に派閥が出来たって訳か。


「あれー? “金”の枢機卿はー?」


 あ、そう言えば“金”の枢機卿の強権派派閥が無いな。


「“金”の枢機卿様は“勇”の枢機卿様の教え子で、強権勇者派の派閥に属しているのですよ」


 “金”の枢機卿は文字通り教会の財務を一手に引き受けている財務部のトップなのだが、“金”の枢機卿――彼女は人の話を信じやすい純粋な人間らしく、クソババァの教え子ときたもんだ。


 まぁ、クソババァが教会内の資金を不正流用している時点でお察しだ。


「んー? それじゃあ神父様は穏健派じゃなく、強権派の誰かに証拠を出した方がいいって言うのー?」


「ええ。強権勇者派の対抗馬として強権派の誰かを味方に付けた方がよろしいかと」


 なるほど。なまじ権力に固執している時点である意味穏健派よりは信用できるな。


 各強権派にしてみれば、勇者と言う切り札を手に入れ、教皇の座に追う手を掛けている強権勇者派を引きずり降ろす格好のネタを手に入れる事が出来る訳だ。


 俺達に確実に協力してくれるだろう。


 完全に信用はせず警戒は怠れないが。


 となれば……どの強権派に協力を依頼するのか。うーむ。


「神父様は誰に協力を持ちかけた方がいいと思うのー?」


「私としては、“天”の枢機卿様に協力を仰ぐのが良いかと」


 “天”の枢機卿?


 確か強権雑務派で、枢機卿の中で一番何を考えているか分からない人物だって話しだったが。


 俺としては“戦”の枢機卿が脳筋で扱いやすいかと思ったんだがな。


 取り敢えず今は神父様の話を参考に作戦を考えよう。


「神父様ー、また相談に乗って下さいねー」


「ええ、Alice神教教会の為、私に出来る事は何でもします。何時でも教会に訪れて下さい」


 俺達は神父様に礼を言い、教会を後にした。














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