093.VSクリムゾンドラゴン
「さてとー、残ったのはハイドラとクリムゾンドラゴンだけど、どうするー?」
「クソックソックソックソックソッ! たかがファイヤードラゴン13匹を倒したくらいでいい気になるなよ! こ、この俺が本気を出せばてめぇ如きが敵う訳ねぇんだよぉっ!!」
「(あれー? まだ闘争心が残ってるねー? うーんー、まだ脅したりなかったかなー?)」
あー、いや。もう十分に脅しは効いているぞ。
あれは半ばやけになって虚勢を張っているだけだからな。
まぁ、相手がやろうと言うのならやるけどな。
どうせなら徹底的にやろうじゃないか。
ハイドラがクリムゾンドラゴンに命令してジルに低空飛行で迫る。
ハイドラはビビっていたが、クリムゾンドラゴンはそこまで怯えてはいなかったな。
流石は脅威度Aのモンスターって言ったところか。
この低空飛行もジルが攻撃をしづらいのが分かっていての行動だ。
実は空中なら四方八方360度に攻撃が可能だが、逆に自分も攻撃されやすかったりする。
なので、クリムゾンドラゴンは低空飛行でジルの攻撃手段を限らせたのだ。
まぁ、ジルには効果が無いけどな!
「そいやー」
ジルは迫りくるクリムゾンドラゴンを、ぼーちゃんを使って棒高跳びの要領で飛び越える。
勿論ただ飛び越えるだけじゃない。
置き土産にへきちゃんを神鋼化した状態で石空間から呼び出す。
ゴォウゥンンンンンッッ!!!
「ギシャァッ!!?」
「おわっ!?」
クリムゾンドラゴンは突然出現したへきちゃんを避ける事が出来ず、まともにぶつかった目を回す。
そしてジルは地面へ着地するまでの間、伸ばしたぼーちゃんでクリムゾンドラゴンを滅多打ちにする。
「えいやー」
打つ。
打つ。
打つ。
打つ。
打つ。
打つ。
打つ。
打つ。
打つ。
打つ。
「キシャァァッ!!」
クリムゾンドラゴンは堪らずその場から上昇し、上空からジルを睨む。
うーむ、あれだけぼーちゃんに打たれてもまだ動けるのか。
さっきのファイヤードラゴンなんかほぼ一撃で倒していたんだが、結構頑丈な。
ボッ!
ボッ!
ボッ!
ボッ!
ボッ!
クリムゾンドラゴンの周りに幾つもの炎の球が現れた。
【火魔法】の【ブラストボム】だな。
ただの炎の球じゃなく、着弾すると周囲に炎を撒き散らしながら爆発する爆裂系の【火魔法】だ。
「降参するなら今の内だぞ!」
これには自信があるのか、ハイドラがクリムゾンドラゴンの上からドヤ顔で言ってくる。
「するわけないじゃんー。こんなの大したことないよー」
「この……! だったらあの世で後悔しろ!」
ドヤ顔している所悪いけど、これ魔法だろ?
だったらこっちには対魔法のスペシャリストが居るからなぁ。
「えんちゃんー」
『魔法は悪手、我が主の前には、我が全て消す為に』
えんちゃんを左腕に掲げたジルの前に、3mほどの光の盾が現れる。
放たれた【ブラストボム】はジルに迫るが、光の盾に触れると全てかき消された。
えんちゃんの3つ目の能力の無効(魔法)だ。
魔法に関してはえんちゃんはほぼ無敵状態だな。
反射(魔法)、吸収(魔法)、無効(魔法)と状況によって使い分けが出来るから、なおさらだし。
今回は【ブラストボム】の広範囲に爆発する爆炎を防ぐために光の盾で魔法を無効化した訳だ。
別に吸収(魔法)でも良かったんだが、吸収しきれなくなると魔法を防ぐことが出来なくなるし、ジルの体にも影響が出て来るから今回は無効(魔法)を使ったわけだ。
クリムゾンドラゴンも【ブラストボム】だけでジルを仕留めれるとは思わなかったのか、【ブラストボム】を放つと同時にジルに向かって飛び、そのまま宙返りをする。
尻尾に炎の纏った【炎尾鞭】スキルだ。
所謂、モ○ハンのリ○レイアのサマーソルトだな。
ジルはそれを、えんちゃんで真正面に受けずに斜めに受けて、尻尾の起動をずらしながら体を回転させそのままいなす。
一回転。
二回転。
三回転。
四回転。
クリムゾンドラゴンは1回躱されただけで諦めずに、何回もその場で回転しながら【炎尾鞭】を放ち続ける。
ジルはそれを躱す。
躱す。
躱す。
躱す。
躱す。
クリムゾンドラゴンはここで攻撃の手を緩めずに、ジルに反撃の隙を与えないよう絶え間なく攻撃を続けてきた。
いやー、気持ちは分かるが、何回転もして目を回さないのかなぁ?
「(きゅーちゃんー、黙って見てないで攻撃してー。折角のチャンスだよー)」
『え? 俺か? まぁ、やれと言われればやるけど。』
確かに連続サマーソルトでその場に止まっている状態だから攻撃のチャンスでもあるな。
よし、折角だからあれをやろう。
『ぼーちゃんも協力してくれ』
『あれをやるのですね。了解しました』
あれと言うのは俺がやろうとしているのは【時空魔法】を使った高度な攻撃方法だ。
いや、高度というより使い勝手が難しいと言った方がいいか?
とにかく計算が難しいのだ。
俺は【並列思考】【クロックアップ】【高速演算】を使い、【時空魔法】の計算をはじき出す。
『よし、行くぜ! 【ユークリッドドライブ】!』
ジルの前に小さな時空波紋のような空間の歪みが現れる。
それと同時に、クリムゾンドラゴンの周辺にも無数の小さな時空波紋が現れた。
ジルは【炎尾鞭】を躱すと同時に、ぼーちゃんを目の前の時空波紋に突き刺す。
時空波紋に突き刺したぼーちゃんの先は、クリムゾンドラゴンの周辺に現れた時空波紋から同時に突き出し、クリムゾンドラゴンを串刺しにした。
「ギジャアアァァァアァァァァァッ!!!!」
時空波紋から突き出た幾つものぼーちゃんに串刺しにされている為、クリムゾンドラゴンは空中に固定されている。
「な、な、な…………!」
辛うじてハイドラにはぼーちゃんは当たらなかったが、目の前の光景に唖然としていた。
【ユークリッドドライブ】は時空間を歪め、時間軸を同時間に重ねる魔法だ。
ちょっと分かりにくい例えだが、タイムマシンで幾つもの未来の自分を連れて来たのだと思ってくれればいい。
ジルがぼーちゃんを目の前の時空波紋から抜くと、串刺しにしていたぼーちゃんも消え、クリムゾンドラゴンが地面へと落ちる。
まだ生きているが、ほぼ虫の息だ。
「(さてー、これでお話ができるねー)」
まぁ、お話?と言うより、脅しだがな。




