091.VSファイヤードラゴン13匹 1
「はい、そこまでー。ここから先は通さないぞー」
「……! 出たな、『幻』の。まさか本当にS級だったとは」
ふーちゃんに乗って、500m上空を飛ぶクリムゾンドラゴンに乗るハイドラの前に出るジル。
周囲にはファイヤードラゴン13匹を引きつれていた。
そんな状況でも平然としているジルを見ては、ハイドラは苛立ちを募らせていた。
と言うか、何で怒っているんだ? ハイドラにはまだ何もしていなんだが?
「何か怒ってるー?」
「当たり前だ! この俺が言伝の使いパシリにされて怒らないとでも思ってたのか!」
サーセン。思ってました。
あー、クソババァの伝言を頼んだのが、プライドに触った訳か。
「んー? だってファルト村の見張りでしょー? 何かあったら枢機卿のおばーちゃんに伝えるのが仕事じゃないのー?」
「報告するのとパシリにされるのとじゃ全然違うんだよ!」
「そうなんだー。でもファルト村には手を出して欲しくなかったからハイドラに言った方が早いと思ったんだよー」
「クソがっ! この紅鱗の竜騎士をどこまで舐めやがって! ……だが、そんなてめぇの大切な村を滅ぼすために、てめぇ相手にこれだけの戦力を揃えてきたんだ。ハッ! 覚悟しやがれ。てめぇの泣き叫ぶ様を拝んでやる」
おいおい、この程度の戦力でジルに勝つつもりなのか?
もしかしてユニーク個体のファイヤードラゴンか? ちょっと【鑑定】してみる。
種族:ファイヤードラゴン
属性:火
脅威度:B
あ、あれ? ふつーのファイヤードラゴン13匹だ。
と言うか、ファイヤードラゴンの脅威度ってBなんだ。
ついでにクリムゾンドラゴンを【鑑定】してみる。
種族:クリムゾンドラゴン
属性:火
スキル:紅蓮竜Lv63
脅威度:A
お、こっちは脅威度Aか。
所持スキルも【紅蓮竜】となっており、使用できるスキルの内容も【炎牙】【火閃槍】【炎尾鞭】と見たことないような物ばかりだな。ちょっと手強そうだ。
だが、ジルを倒すにはまるで戦力が足りない。
20年迷宮大森林で培ってきたS級の実力をまるで把握してない。
まぁ、把握しろと言う方が無理なのだが。
ジルに【鑑定】結果を伝えると、明らかに馬鹿にしたような態度を取る。
「その程度の戦力で私を倒すつもりだったのー? 泣き叫ぶのはどっちかなー?」
「どこまでも……! もういい、てめぇには体で分からせてやる。やれ!」
怒り心頭のハイドラは、周囲のファイヤードラゴンをジルにけしかける。
13匹のファイヤードラゴンは一斉にジルに襲い掛かるが、流石に空中とは言え、13匹同時に襲い掛かれるわけじゃない。
精々上下左右前後で同時に襲い掛かるのは6匹程度だろう。
まぁ、それも包囲を突破すれば意味ない同時攻撃だけど。
そしてそれはハイドラも予想してたのか、包囲網を突破してきたジルに騎乗しているクリムゾンドラゴンで突っ込んできた。
「死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
高速で突撃してきながらクリムゾンドラゴンは口を開けてブレスを放とうとする。
いや、ブレスじゃないな。
【解析】で見てみると、どうやらこれが【火閃槍】のスキルのようだ。
おそらく高熱による火のレーザーブレスの事だろうな。
「キシャァァァァァァァァァァアァァァァァアァァァァッ!!」
放たれた【火閃槍】によるレーザーブレスがジルを襲うが、ジルはひょいとバレルロールで躱してクリムゾンドラゴンの頭上に位置する。
ジルはそのままふーちゃんを残してジャンプし、ファイヤードラゴンにぼーちゃんを手に向かって行く。
残ったふーちゃんは重力の能力でハイドラごとクリムゾンドラゴンに重力圧を掛けて地面へと叩き付ける。
『2名様地上へご案内~♪』
「ごおぉっ!?」
「ギシャァッ!?」
ファイヤードラゴンに向かって行ったジルは、伸縮で伸ばしたぼーちゃんを振り下ろし首を砕く。
『さぁ、マスターの前に首を垂れるが良い』
『あれ? ジル、もしかしてぼーちゃんの衝撃を乗せたのか?』
「(うんー、そうだよー)」
ジルは首を砕いたが、何故かファイヤードラゴンの目や口から血を流し、体の鱗や翼の皮膜が飛び散っていたからだ。
ジルが【ストーンコレクター】がLv3になってぼーちゃんが授かった衝撃は結構使い勝手がいい。
地面だろうが体だろうが、下手をすれば空気すらも衝撃を伝える事が出来る能力だ。
まぁ、今回は普通にファイヤードラゴンの体に打撃の衝撃を流し、再起不能にしたが。
ジルはまず1匹のファイヤードラゴンを屠った後、自由落下中にぼーちゃんを仕舞い、代わりに左右の手にめーちゃんとやーちゃんを取出し、そのまま左右に放つ。
『あたいの姿を捉えられるかな?』
『Yeahー! BranchPenetratAttack!!』
弧を描いてファイヤードラゴンに迫るめーちゃん。
但しその姿は見えない。
めーちゃんが授かった3つ目の能力は透明だ。
単純だが一瞬の明暗を分ける戦場では、敵の武器を確認できないのは致命的だ。
めーちゃんを捉えられないファイヤードラゴンはそのまま首を跳ねられる。
そしてやーちゃんは、その身を分けて十数のやーちゃんとなってファイヤードラゴンを貫く。
やーちゃんが授かった3つ目の能力はまんま分身。
単一でも脅威だったやーちゃんが十数になって襲いかかてってくるのだ。
敵にしたらたまったもんじゃないだろう。
現にファイヤードラゴンは穴だらけになって落下していた。
めーちゃんとやーちゃんをそのまま石空間に仕舞い、今度ははーちゃんを取り出す。
『よっしゃっ! 俺様の出番だぜ!』
ジルは落下しながらも2匹のファイヤードラゴンに向けて3つ目の能力の飛斬を放つ。
瞬く間に2匹のファイヤードラゴンは真っ二つになっていた。
「よっとー」
ジルの落下も、地面が近くなる頃にはふーちゃんを呼び戻し、重力操作でふわりと降り立った。
この間わずか20秒。
戦闘開始から瞬く間の間に5匹のファイヤードラゴンが倒されたわけだ。
「あと8匹ー」
ふーちゃんの重力圧から解放されたハイドラに向かって聞こえるように話すジル。
おーおー、煽ってる煽ってる。
まさかこうも簡単にファイヤードラゴンが屠られるとは思ってなかったハイドラは戸惑っていたものの、ジルの煽りに再び怒りを顕わにしていた。




