009.防衛線ー参戦
「何ですって!? 盗賊団がこの村に!?」
先に教会へ避難したジル達は神父に盗賊団がこの村を襲撃しようとしている事を告げ、教会に籠城する準備をお願いした。
「よりにもよって餓狼盗賊団ですか」
「そんなにやばい相手なのか? 神父様」
「ええ、厄介な相手なのですよ、ブラン君。
餓狼盗賊団の頭目は数十匹のグレイウルフを従えているのです。おそらく【調教師】か【調教】のスキルを持っているのでしょう。ただでさえ大勢を従えた盗賊団だけでも厄介なのに、更に数十匹の魔物ですからね」
あー、さっきのグレイウルフも盗賊団の頭目に従ってたのか。
先行した盗賊のスキルが【窃盗】だったのでちょっとおかしいなとは思っていたんだが。
おそらくグレイウルフは先行した盗賊に従う様に命令を受けていたんだろうな。
ブラン達がグレイウルフ3匹を撃退できたのも頭目でない盗賊が指揮していた所為もあるのだろう。
「人間と魔物を同時にしなければならない相手です。国からも重要討伐指定されている盗賊団ですね。
我々は隣町からの駐在騎士様が救助に来て頂くまでの籠城をすることになります。皆様もお手伝い願います」
神父はジル達に手伝いを頼み、直ぐに籠城準備へと取り掛かった。
……あれ? この村既に包囲されているんだよな?
どうやって囲みを突破して隣村へ救助申請に行くんだ?
古来より、籠城は救助があっての戦術であって、救助の無い籠城は凄惨な事になるのが目に見えている。
…………これって結構ヤバい?
いやいやいやいやいや!
盗賊団の思い通りにさせてやるもんか。
いざとなったらチートスキル【百花繚乱】を持つ俺様も加入するしかないな。
そうなった時はジルも防衛戦に加わることになるのだが……
ジルの戦闘力を鑑みれば決して悪手ではないのだが、出来れば防衛戦に参加はさせたくないんだがな……
ここは大人たちの防衛力に期待しよう。
そうこうしているうちに村中に連絡が行きわたったのだろう。教会へ大勢の村人が避難して来た。
中にはブラン達の家族も居り、ジルの母親とアルベルトも避難して来た。
ジルも家族との再会を喜び、教会の中で他の村人たちと一緒に無事に終えることを願っていた。
俺は【気配探知】で教会の外で防衛戦の準備をしている大人たちを確認する。
どうやら全員が教会に籠城して救援を待つわけじゃなさそうだ。
まぁ、教会は中から攻撃できるような作りにはなってないし、全員が籠城して隣町からの救援を待っていても教会の守りが破られるのは目に見えているから外で迎撃するのは仕方ない事だが。
……ああ、やっぱり場合に寄っちゃジルも参加せざるを得ないかもな。
取り敢えず村の戦力を確認しておくか。
防衛戦に参加する村人は全部で12人。
戦える大人の男たちと言う事なのだが意外と少ない。
さらにこの村では戦闘系スキルを持っている大人は3人しか居ない。
その1人はジルの親父さんであり、【狩人】のスキルを持つ狩人だ。
実は村一番の狩人であり戦闘筆頭者だ。
他の2人は【戦士】スキルや【大剣士】スキルを持ってはいるものの、実際の職業は農家であるためスキルを鍛えることは殆んど無く、ある程度の戦闘しかできないのだ。
因みに殆んど賭けになるが、【戦士】スキル持ちは他の村人2人と一緒に包囲網の薄いところを突破して隣町へ救助要請に向かったみたいだ。
おそらく犠牲覚悟で【戦士】スキル持ちが足止めをし、残りの村人2人が救助要請に向かうのだろう。
その為、教会前の防衛には戦闘系スキル持ちはジルの親父さんともう1人のみで、残りの10人の村の男達はほぼ素人と言っていい。
だがここでやらねば村は壊滅するのだ。
出来れば盗賊団には戦闘スキル持ちが少ない事を祈りたい。
そしてついに戦闘が始まった。
【気配探知】により、盗賊22人、グレイウルフ41匹とかなり大規模な集団が教会に迫って来ているのが分かる。
強奪よりも村人の蹂躙を優先したらしく、ほぼ真っ直ぐに教会へと向かってきていた。
教会の外では戦闘音が鳴り響き、教会の中では村人が怯えながら互いに寄り添っていた。
俺は【気配探知】で教会の外の戦闘状況を確認する。
盗賊22人、グレイウルフ41匹相手にジルの親父さん達は善戦していた。
だが多勢に無勢、どう見てもファルト村の方が不利だ。
今もまた1人、村人が倒された。
どうやら命には別状が無いようだ。今はまだ。
そしてその開いた防衛線の穴にグレイウルフが入り込んでくる。
ああ、ヤバい。どんどん防衛線が崩れていく。
ジルの親父さんも盗賊を1人2人と倒していくが、こちらの防衛戦が崩れるのが早い。
そうこうしているうちに教会の扉の前に1匹のグレイウルフが突っ込んでくる。
教会の扉の衝撃音に中に居た村人たちの顔が恐怖に染まる。
こうなったら仕方がない。ジルには悪いが覚悟を決めてもらおう。
『ジル、このままだとグレイウルフが中に入ってくる。扉の前に行け。俺達で撃退だ。
――いや、俺達も参戦だ』
「(わかったー。じゃあこのまま押し返して外に向かうねー)」
『すまんな。出来れば子供のジルをこんな争いに向かわせたくは無いんだが』
「(ありがとー。でも私も役に立てるんなら喜んで参加するよー。私の【ストーンコレクター】もだけど、きゅーちゃんの【百花繚乱】の魔法は有効だからねー。
それにここで頑張らないとおかーさんやアル君や皆が死んじゃうからー)」
うーん、これから本物の戦闘に向かうって言うのに、怯んでる様子は見受けられない。
それどころか自ら戦いに向かう意思すら見せている。
俺のスキルの有用性や、ここで負けたらどうなるかをちゃんと理解しているのだ。
本当に、7歳児かと疑いなくなるほど聡い子だな。
「アル君はおかーさんを守ってー。おかーさんー、アル君をお願いー」
ジルはぼーちゃんを石空間から取出し扉の前に向かって走る。
「ジルちゃん!?」
「おねえちゃん?」
母親とアルベルトが突然のジルの行動に驚き、周囲に居た村人も何事かとジルに注目していた。
そして扉の前に来ると同時にグレイウルフが扉の一部を破壊し侵入してきた。
が、侵入と同時に直ぐに外に弾き飛ばされることになる。
「ぼーちゃん、伸びろー!」
ぼーちゃんの伸縮突きにより、破壊した扉の穴へ追い返される。
ジルもそのまま穴から外へ出て扉の前に陣取る。
「ここから先は通さないよー!!」
俺は直ぐに【気配探知】で周囲を探り、敵味方の配置を確認する。
教会前は村人、盗賊、グレイウルフが混戦状態で、それより少し離れた場所でジルの親父さんと数人の村人が盗賊主体に立ちまわっていた。
そしてそれよりもさらに離れた場所で餓狼盗賊団の頭領と思しき男が一回り大きなグレイウルフと一緒に高みの見物を決め込んでいた。




