初日でゴザル
エレインの卒業後の配属先が決まった。
”資材管理部”という誰も聞いた事の無い名前だった。
プラムとエルバードも同じ場所に配属された。というか、この謎の部署に配属されたのは例の卒業演習で最下位だった3人だけだった。
周りから困惑の声と冷笑が上がる。
どのような場所かはよく分からないが、名前の響きが最下位の者が行くにふさわしそうな場所だったからだ。
「私はてっきりグレン魔導騎士団に配属が決まると思ったのに・・・」
そう嘆くのは戦闘教練では良い成績を残したプラムだ。机に突っ伏して泣いているのを彼女の友人たちが慰めている。
「ち・・・、父上に何といえばいいんだっ・・・!」
そう言うのは座学で優秀な成績を残したエルバードだ。
彼の希望は、どこかの研究所だったらしい。
エレインはと言うと、とりあえず帝都から追い出される心配は無くなったので少し安心していたが、聞き覚えのない配属先に不安も抱いていた。
「なんだか素敵な場所に行くみたいね」
そういってエレインに絡んでくるのはグレン魔導騎士団に配属が決まったレメスだ。
グレン魔導騎士団の素晴らしさや歴史について、ひとしきり喋っていたが、相手にされていないのに気付くと「ふんっ!せいぜい資材管理に精を出せばいいわ」といって立ち去ってしまった。
そして迎えた赴任初日。事前に伝えられたのは日時と場所だけ。
向かう途中でプラムとエルバードと合流するが、3人の間には挨拶さえなく、暗い面持で目的地へと向かった。
指定された場所は王城だった。
王城の衛兵に用向きを伝えると、王城の中から男が現れて、エレイン達についてくるように言って歩き出した。
王城の中ともすれば煌びやかなものだったが、歩き続けれるにつれ、次第に人通りも疎らになり、寂しい雰囲気になってゆく。
そうして着いた場所は王城の片隅にある怪しい扉の前だった。
「わたしは、ここに案内するように言われただけですから」
突き放すように言い放ち、案内の者は帰ってしまう。
仕方なく扉を開けると、そこは倉庫のような場所だった
よく解らない物が煩雑に置かれている、その中央には椅子が有り、男が座っていた。
ひげ面の中年男だ。入ってきた3人に目もくれず酒を呷っている。
恐る恐るプラムが代表して声を掛ける。
「あの・・・。ここに来るように言われたんですけど・・・」
「あぁ、聞いてるよ」
「ここが”資材管理室”なんですか?周りにあるのはガラクタにしか見えませんけど」
「そうだよ。ここは確かに資材管理室で周りにあるのはガラクタだ」
「私・・・自分が、何故ここに配属されたのか理由が知りたいんです!」
「そうか。それは、ここのボスに聞いて貰おう」
そう言うと髭面の男はゆっくりと立ち上がり、床に手を当てた。
何事か呟くと、その手が光って床の一部が消え去り、地下への階段が現れる。
男の後を追って、その階段を下ってゆくと扉が見えてきた。
再び、手を添え何事か呟き、扉を開く。
扉を開けると中は思った以上に広く、数名の男女が慌ただしそうにしていた。
さらに奥の扉を開くと中にはエレインが知る人物が立っていた。
「よく来たわね。エレイン」
「ラシャーナ様!?」
「エレインには私が各地を巡って優秀な魔導師を集めていると言ったことが有ったでしょう?その中でも特に優秀なものを集めて組織を作った。それが此処よ。
彼らには私の為に諜報活動や研究などを手伝って貰ってるわ。
特に表だって出来ないようなものをね」
「”資材管理部”というのは・・・?」
「架空の部署よ。アナタ達には、そこで働いてもらってる事にするわ。
周りの人・・・親しい人にも本当の事は言っては駄目よ?」
「ラシャーナ様、直属の特務機関・・・」
プラムが驚愕の声を上げる。
そしてラシャーナが再び口を開く。
「エレインが此処に来た理由は解るわね?ここでアナタの呪術が役にたつかどうかは解らないけど、アナタを野放しにする訳にはいかないわ。
プラムとエルバードも、呪術の事を知るアナタ達を野放しにできないから、ここに来てもらった。それだけの事よ。それだけが、アナタ達がここに呼ばれた理由だけど、アナタ達が真価を発揮するか、それとも飼い殺されるかは、アナタ達次第よ。
・・・それじゃ、ウディク。後は宜しくね?」
ウディクと呼ばれた3人を案内してきた髭面の男は驚いた表情を浮かべている。
「は!?オレが?オレが、此奴らの面倒を見るのかよ?」
「そうよ?不満かしら?」
「そうじゃねぇけど・・・。案内役だけだと思ったから引き受けたのによぅ」
「それじゃ宜しくね」
そう言ってラシャーナは深く溜息をつくウディクを後にして立ち去ってしまった。
「まぁ、なっちまったもんはしょうがねぇ。お前らついてこい」
そう言って最初に入った部屋に戻ってきた。ウディクは相変わらず慌ただしそうにしている人たちを避け、部屋の隅に居る男に向かって歩いてゆく。
その小柄な男は何やら見た事もない機材で怪しげな事をしている。
魔法薬の精製の授業で見た機材に似ているが、その何倍も複雑だ。
「よう。もう出来そうか?」
「あぁ、出来るよ。フィーリスも頑張ってくれたからね」
男はニンマリと笑う。その顔は整っているとは言い難く、はっきり言えば醜悪だった。
思い出したようにウディクが、その男を3人に紹介する。
「こいつはオンビマだ。不細工だろう?」
「酷い言い様だなぁ・・・」とオンビマが口を挟む
「でもな、かみさんが、さっき話に出てきたフィーリスってんだが、えらい美人でなぁ・・・。
おまけにコイツは魔法薬精製のエキスパートだ。
フィーリスがとんでもない量の魔力を風のエレメントに変換して、コイツが魔法薬を作る。そうして出来たエレクシルを、ある場所に運ぶのがオレ様の仕事ってわけだ」
エレクシルと言う単語に驚いてエレインが声を上げる。
「ラシャーナ様が持っていたエレクシルはアナタが作ったんですか!?」
「そ、そうだが・・・」
「私、その魔法薬のおかげで二度も命を救われたんです!ありがとうございました!」
「あぁ、そうだったのか。・・・それは何より」
オンビマの手を握りしめて尊敬の目を向けるエレインだったが、オンビマの方は照れてしまったのか、その真っ直ぐな眼差しを避ける様に少し離れた床を見つめている。
「いつか魔法薬の作り方を教えてくださいね」
そういうエレインの切望にオンビマが曖昧ながら了承したところで、ようやくオンビマが解放された。そのオンビマにウディクが再び声を掛ける。
「んで?いつ出来る?」
「あ・・・あぁ・・・明日の朝には揃うよ」
「そうか、んじゃあ、お前ら!」
ウディクが3人に向き直る。
「国境近くの街で任務中の仲間に魔法薬を届けるのがオレの任務だ。
それに付き合ってもらう」




