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もう帰っていいでゴザルか?

「あぁ!お目覚めになられました!」


目覚めたエレインの目に従者であるテミロの姿が映った。

その後ろにはラシャーナとセレスメイアの姿もある。

ラシャーナはテミロに退室したのを確認すると、エレインが横になっているベットに腰を掛けた。


「またアナタにエレクシルの霊薬を使う羽目になるとは思わなかったわ」

「あの・・・私は・・・?」

「アナタは呪術の代償によって、死にかけたのよ」

「え・・・?」

「普通、こんな事は起きないのだけど、アナタは呪術にとんでもない適性が有るのね。

呪術は発現した効果に応じて代償も大きくなるのよ。

それでアナタは死にかけたってわけ」

「また・・・助けてもらったんですね。その上、貴重な霊薬まで」

「いいのよ。でも、困ったわね。

また、アナタと私の間に秘密にしなければいけない事が増えちゃったわ」

「呪術の事ですか?」

「そうよ?もう、分かってると思うけど呪術は使ったら駄目よ?

呪術が使えることを誰かに言っても駄目」

「・・・でも、私、他に適性が・・・」

「それでもよ。適性の事はセレスメイアに何とかしてもらうわ。

呪術に適性が有るとわかったら、アナタを利用しようとする者が現れるわ。それに・・・アナタは人として当たり前の幸せを失う」

「・・・え?」

「呪術の代償は、術者の大事なモノよ。

アナタ、大事な物や大事な人は居る?」

「い・・・居ないです」

「だから、代償がアナタの体に及んだのよ。

もし、大事な物や大事な人が居れば、アナタ自身よりも先に、そのモノが代償となるの」「そんな・・・」

「アナタが呪術者である事が知れれば、アナタと親しくしようとする人は居なくなるわ。代償となる恐れがあるから」


エレインは急に恐ろしくなった。

そして、この場に居ないナナマルに気付く。


「あのっ!ナナマルは・・・?」

「無事よ。

彼に影響が及ばなかったのか、彼の魔法防御能力のお陰で呪術を跳ね除けたのかは解らないけれど・・・」

「そうですか・・・良かった」

「とにかく、今後は呪術は使わないようにね。

それじゃあ、私は行くわ。

入学の日取りは遅らせておいたから、ゆっくり休みなさい」


そう言ってラシャーナは部屋を出る。

セレスメイアも、その後を追った。


「ラシャーナ!」

「どうしたの?セレスメイア」

「あの子はどうするの?」

「あの子ってエレイン?どうもしないわよ?

ナナマルの事が解るまで今のまま、ここに置いておくわ」

「危険よっ!あの子、アナタを慕っている。

アナタに呪術の影響が出るかもしれない・・・!」

「大丈夫よ。私の耐魔法防御はアナタも知ってるでしょ?」

「でもっ!でも、あんな恐ろしい呪術・・・防げるわけが」

「そうだとしても、ナナマルを手放す訳にはいかないわ。

あれは、世界を変える程のモノよ」

「でも・・・。ラシャーナに何かあったら、私・・・」


ラシャーナは大きく溜息をつき、意を決したように口を開いた。


「私、これからナナマルの所に行くの。貴女も来る?」

「・・・え?でも、さっきは、まだ早いって・・・」

「そうね。でも、実際に見せなきゃ納得しないでしょ?」

「わ、分かったわ。・・・世界を変える程のモノ。

見せてもらおうじゃないの」


セレスメイアは何を見ても驚かないつもりだった。

何せ殆ど適性者の居ない呪術の適性者・・・しかも、けた外れの力を持つ少女を見たばかりだったからだ。

しかし、ラシャーナの言うとおりナナマルを見ていないのだから、それを見た上で改めてラシャーナを説得するつもりで居た。

いくら精巧なゴーレムが居ると言っても、あんな冗談みたいな呪術の方が重大だ。

そう思っていた。


「そんな・・・まさか喋るなんて」


それが、セレスメイアの第一声だった。


「な、中に!中に誰か入っているんでしょう!?

自分で考えてしゃべるゴーレムなんて有り得ないわ!」

「あははははっ!」

「何が可笑しいのよ!ラシャーナ!」

「だって、私と同じこと言ってるんだもの」


しばらくナナマルを弄り回していたセレスメイアだったが、へなへなと、その場に座り込んでしまった。


「それだけじゃないのよ」


そう言うとラシャーナは懐から、ルビーを取り出して

ナナマルの足元に置き、セレスメイアを連れて十分離れた後、

「燃えさかれ」と命じた。

天井を焦がすほどの業火がナナマルを包む。

しかし、良く見ると炎はナナマルを避ける様にして燃えている。


「ほら、とんでもない魔法防御力でしょ?

これのせいで、調査が難航しているのよ。

解析魔法も受け付けないんだから・・・」


目を白黒させているのを余所にナナマルが呑気な声を上げた。


「あのう、拙者、もう帰っていいでゴザルか?

エレイン殿が帰ってきたのでゴザルよね?」

「まだよ?もう少し待ってね。

実はナナマルに見てもらいたいものが有るのよ。

セレスメイア。アナタもついて来てね」


二人を連れて別室に移動する。

そこにはナナマルに良く似た魔導兵が横たわっていた。

酷く損傷していて、下半身が失われている。


「見てもらいたいのは、これよ。

これは、ナウザ村・・・トルーナの街から更に東に行った小さな村の近くにある遺跡で見つかったものよ。

ナナマルも、そこから来たのよね。

ナナマル・・・これに見覚えは有る?」

「ふむ。これは拙者のお仲間でゴザル・・・。

いや、お仲間だった者でゴザルかな?」

「お仲間・・・ね。

その遺跡には同じものが数えきれないほど有ったそうよ。

セレスメイア、想像できる?これほど高度な魔導兵の軍団よ。

もし、それが私のモノになったら・・・」

「これが・・・貴女が言っていた世界を変える程のモノなのね・・・」

「そうよ!セレスメイア!アナタにも解ったでしょう?」


確かに驚異的な事実だ。

セレスメイアは思った。

先ほどまでの自分はナナマルを実際に目にしていなかった。

逆にラシャーナはエレインの呪術を実際に目にしていないのだ。

その恐ろしさを過小評価しているように思えた。

とはいえ・・・

圧倒的にエレインに傾いていたセレスメイアの心の中の天秤は、もう一方にナナマルを乗せて微妙なバランスを保っていた。


「ところでナナマル?

遺跡を調査したものによると、アナタの様に動いている魔導兵は1人も居なかったそうよ?殆どが、この魔導兵の様に破壊されていたらしいわ。

アナタ、理由は解るかしら?」

「壊れている理由は解るでゴザル。壊したのは拙者でゴザルから」

「アナタが?・・・何が有ったの?」

「・・・解らないのでゴザル。

魔導兵たちが突然、オウザ様に反旗を翻したのでゴザル。

拙者はオウザ様を守るため、仕方なく、お仲間たちを破壊したのでゴザル」

「オウザ様っていうのは・・・」

「拙者の造物主でゴザル」


ラシャーナは、配下の者にオウザと言う名を調べる様に命令すると質問を再開した。


「誤作動でも起こしたのかしら・・・?」

「ラシャーナ!そうだとすると、この魔導兵も危険だわ!直ぐに・・・」


セレスメイアは心の中の天秤がグラグラと揺れて崩れたように感じた。

取り乱すセレスメイア。


「落ち着きなさい。セレスメイア」

「落ち着けないわよ!あっちも危険、こっちも危険って・・・んむっ」


セレスメイアの言葉が途中で遮られる。

ラシャーナが掌でセレスメイアの口をふさぐ。


「ら、らひゃーな・・・」

「落ち着きなさい。

もう私、いや私たちはフタを開けてしまったのよ。

見なかったことにしてフタを閉じるなんてことは出来ないの。

そして、私は中のモノを必ず自分のモノにする。

その為にはセレスメイア。アナタの協力も必要なのよ。

分かった?」

「わ、分かったわ。ラシャーナ・・・」


野心に燃えるラシャーナの目には有無を言わせない迫力が有った。

それに飲まれながらも、セレスメイアは次第に魅了されたようなとろんとした眼差しに変わってゆく。

二人だけの世界に浸るラシャーナとセレスメイア。

それに構わず、ナナマルが恍けた声を上げる。


「あのう。もう帰っていいでゴザルか?」


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