ダンジョン攻略28
いつもの居酒屋、目の前には東風がおしぼりで手を拭いていた。
「いやー、いよいよですね」
そうだな。っていっても、まだまだ離れているけどな。
「ですね……あっ、生二つで。田中さん何注文します?」
枝豆と串の盛り合わせ。あと、シーザーサラダと山芋鉄板、もつ鍋と刺身の盛り合わせ、それから唐揚げとフライドポテトに……。
「ちょい待ち! いきなり頼み過ぎですよ。時間あるんですから、ちびちび行きましょうよ」
おう、そうだな。んで、どうしたんだよ?
別に話すようなこともないだろう?
「ありますよ! 田中さん力解放してから、フウマも結構大変なことになってるんですよ! 今、錬金術師の工房に……あっ、それじゃあカンパーイ!」
おう、カンパイ。
んで、どうなってんだよ?
「田中さんの力に呼応してしまって、魔力を暴走させてしまったんですよ。おかげで工房内が滅茶苦茶! あいつ、日頃から魔力の制御サボっていたから、そのツケが来たんですわ」
おっおう、そうか、なんかごめん。
プハーッ! とビールを一気飲みする東風。よほどストレスが溜まっていると見える。
「ってそうじゃなくて! フウマなんてどうでもいいんですよ。……田中さん、あんた、元に戻れるんですか?」
……何がだよ?
「本気で力使ったら、もう後には戻れないでしょう。どうするんですか? 千里や日向と約束したんでしょう?」
戻れるさ。
戻れなくても、戻れるようになる。
俺は、どんな修羅場だって生き延びたんだぜ。
それくらいやってやるさ。
そう、笑って見せる。
「んな無茶苦茶な……、あっ、生追加で、田中さんどうします?」
緊張感ゼロでびっくりするわ、俺も生で。
料理が次々と届き、アルコールのペースも落ちついて行く。
「美味いっすね、ここの唐揚げ」
そうだな。
「それで、自分が何者になるのか、イメージ出来ているんですか?」
イメージなんてねーよ、成るようにしか成らんだろう。
「いやいや、こういうのはしっかりしといた方が良いですよ。フウマなんて、ダサカッコイイ姿イメージしてますから」
ダサカッコイイって、どんなんだよ……。でも、イメージか、少し考えてみるわ。
「それが良いです。……と、そろそろ時間ですかね。モンスターも狙ってるみたいですし、行きましょうか」
おう、また後で。
「ええ、また」
東風は席を立つと視界が霞み始めた。
さあ行くかと、俺も席を立ち目を覚ました。
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目が覚めると、猿どもに縛られて何処かに連れて行かれていた。
あれ? おかしいな、危険が迫ったら直ぐに起きていたはずなのに。
どうして、こんな状況になるまで目覚めなかったんだろう?
その原因は、猿どもにあった。
こいつらはまるで俺に敵意を向けておらず、ただ無関心に運んでいるだけだったのだ。
おい、と声を掛けると、猿どもは驚いて、木の上から俺を落として逃走してしまった。
そう、木の上からである。
この森の樹木は、どれも樹齢数百年はありそうな巨木ばかりで、木の背もべらぼうに高い。
そこから落とされた俺は、え? となり地面に落下してしまった。
浮遊感を長く感じてしまう。
それだけ、ここの木が高いという証明でもある。
何なんだよ一体。
愚痴りながら風を操って、俺を縛っていた紐を切りイーグルダイブで着地する。
うん、やる必要は無かったけど、海で見た漫画を思い出してやってみたくなった。
さあ、フウマを迎えに行くかと都ユグドラシルを目指す。
確か、錬金術師の工房って言ってたけど、恐らく鎧や大剣を修復してくれた所だろう。
その錬金術師の工房に到着すると、見事に半壊していた。
おいおい、一体何があったんだと近付いてみると、フウマが檻に閉じ込められていた。
本当に何があったんだ?
魔力が暴走とか言ってたけど、それが原因?
おいおいどうしたんだと近付いてみると、フウマが「ヒヒーン⁉︎」(ごめんて! 許してって⁉︎)と泣き叫んでいた。
まあ、それはいいとして、ドワーフっぽい人達に事情を聞きに行く。
あっ違います。フウマの関係者じゃないです。
ただ何があったのかなって気になって……。
へー、へー、ああそうなんですね。
魔力暴走させて、周り全てを薙ぎ払ったと。
あっ、関係者じゃないんで、好きにやっちゃって下さい。
背後で、「ヒヒーン‼︎」(テメー! このー‼︎)と喚いているが、知らん。
テメーでやったんなら、お前が責任を持って対処しろ。
昨日、俺と別れたフウマはカザト錬金術工房にお邪魔したそうだ。
まるで当たり前のように入って来たフウマは、前にもいた定位置でくつろぎ始め、タブレットを使って当たり前のように都ユグドラシルのエンタメをあさり始めたそうな。
おいおいフウマ何やってんだ? と問いただしても、今日だけよろしくと言って動こうとしなかったそうだ。
しかし、カザト錬金術工房は守護者の装備を扱う、都ユグドラシルでも最重要の工房の一つ。知り合いとはいえ、工房に置いておいて良いはずもなく、「フウマ出ていけ」と命令したそうな。
フウマは冷たく言われた言葉にショックを受け、落ち込みながら部屋を出て、廊下でくつろぎ始めたそうな。
駄目だなこの馬。
そう判断した工房主は、フウマに頑丈な首輪を付けて十人掛かりで引っ張っていったそうな。
しかし、ここを追い出されたらくつろげる場所を失うフウマは抵抗した。もちろん魔法なんて使ってなかったが、激しく踏ん張り抗ったという。
そんな時、急激にフウマの力が増大して行くのを感じ取り、何だ? と皆が動きを止めてフウマを見た。
するとそこには、魔力を必死に抑えようとするフウマ。
これはやばいと皆が退避しようとする。
しかし、それは間に合わなかった。
フウマは魔力を暴走させて、辺りに破壊の風を撒き散らしたらしい。
幸い、フウマは制御可能な魔力を使い、範囲内の者達を保護したおかげで犠牲者は一名も出ていない。
それは不幸中の幸いだったと安堵する。
誰かが死んでたら、俺が蘇生魔法を使わないといけなくなる所だった。俺自身も力の制御が完璧ではないので、何が起こるか分からないので助かった。
とはいえ、工房は見ての通り半壊。
守護者の装備も駄目になっており、えらい損害が出ているらしい。
『お前さんが弁償してくれてもいいんだぞ、召喚主さんよぉ〜』
とは、カザト錬金術工房の工房長の言葉だ。
いえ、人違いです。
僕部外者なんで帰りますね。
「ヒヒーン‼︎ ヒヒーン‼︎」(そいつだ! そいつが真犯人だ‼︎)
去ろうとする俺を犯人に仕立て上げようとするフウマ。
マジでどうしようもない馬だな。
とはいえ、このままだといつまでも出発出来ないので、妥協案を出そうと思う。
なあ、これを元通りにしたら、見逃してくれないか?
そう尋ねると、どういうことだ? と興味を持ったようだ。
恐らくだけど、建物だけなら元に戻せる。特殊な物は不可能だけど、ある程度なら再現出来るはずだ。
そう、何となくそう思ってしまっている。
事情を説明すると、試しにやってみろという。
壊れた建物に触れて、トレースを使い魔力を送ると元の形のイメージが流れ込んで来る。
地属性魔法を使い、イメージに沿って形作って行く。
『これは、なんともまあ……』
背後にユグドラシルが現れて、修復する様子を眺めているが気にしないで集中する。
これで分かったのは、建物に残った技術は再現出来ても、独立した物を作り出すのは無理だった。その物自体に触れて、情報を得られたら再現出来るかも知れないが、物が粉々になっていたら情報も何も残っていない。
それが、今の俺の限界。
ただ、この先があるというのを、漠然と理解してしまっている。
何者になるのかイメージする。
これは、大事なのかも知れない。
もう余り時間は残されていないけど、真剣に考えてみよう。
工房の修復を終えると、フウマは解放された。
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『また力が増しておるのう』
ユグドラシルは跪く者達に良い良いと手を振りながら、元に戻った建物を見上げる。
戦闘能力では同列の中でも最弱であるユグドラシルだが、こと支援や回復、豊穣などの技術は突出していた。
そんなユグドラシルでも、錬金術師達が創り出した技術を再現するのは難しかった。もちろん不可能ではない。ただし、それなりに時間があればという話になる。
田中ハルトのように、建物の情報から一瞬で再現するなど不可能なのだ。
力の向き不向きはあるが、一つの分野でユグドラシルは追い抜かれたことになる。
『悔しいのう。……じゃが、頼もしい』
今の田中ハルトの力は、聖龍にも匹敵する。
それに加えて、力がまだ増す余地があり、フウマという召喚獣もいる。
あれだけの力があれば、もしかしたらと期待してしまう。
『ハルトよ、お主が向かうのは、イルミンスールでも敗北した存在ぞ』
そう、小さくなって行く彼の背に告げる。
もう旅立ってしまった。
もう、立ち止まることは無いだろう。
『どうか、無事でいろよ』
ユグドラシルは、ただハルトの無事を願っていた。




