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無職は今日も今日とて迷宮に潜る【3巻下巻12/25出ます!】【1巻重版決定!】  作者: ハマ
8.ネオユートピア

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ダンジョン攻略27

12月25日3下巻発売!

 必死に止めた。

 都ユグドラシルに行く理由も無いので、さっさと目的地に向かおうとしたら、フウマは俺の指示を無視して立ち寄ってしまった。


 おいこの、何でこっちに行くんだよ。

 疲れたって? 俺は乗ってるだけだから楽だろうが、こちとら走りっぱなしなんだよ! って?

 そんなことないだろう、一日に一回くらい休憩取ってんじゃん。


「ヒヒーン‼︎」(それじゃ仮眠も取れねーんだよ‼︎)


 おっおう、そうか、ごめん。


 こちとら久しぶりのダンジョンなんだよボケ。そう怒りを発露するフウマに何も言えなくて、なんかごめんってなった。


 俺は平気だから、こいつも平気だろうって思ってたら違った。これじゃ、ブラック企業の社長と同じだ。


 俺が出来るんだから、お前もやれ。

 やれないんじゃなくて、やれるまでやるんだよ。

 擦り切れて消えるまでやるだ。

 お前の価値はそれくらいしかないんだよ。


 昔勤めていた会社の部長か社長から言われた気がしないでもない言葉の数々。もしかしたら漫画だったかも知れないけれど、ブラック企業で言われていそうだから、まあいいや。


 とにかく、俺はそんな行為をフウマにしていたのだろう。

 これは、顔面に退職届を叩き付けられても文句言えないな。

 もしかしたら、明日には俺の前から消えてしまうかも知れない。

 そうなったらとても困るが、俺にはフウマを責める権利は無い。


 権利は無い。

 でも、逃すつもりもないけどな。

 どこまで逃げても捕まえて同行させる。

 こいつの居場所は、俺はどこに行っても分かるのだから。


 そんなふうに考えていると、フウマは「ブルッ⁉︎」と震えていた。


 都ユグドラシルに降り立つと、フウマはどこかに行ってしまった。もしかしたら、行きたい所があったのかも知れない。


 俺はどうしようかな?

 オクタン君やハヤタさんの所に遊びに行こうかな?


 なんて考えていたら、背後から「田中ハルト?」と女性から声を掛けられた。


 ここで日本語? と疑問に思いながら振り返ると、そこにはミューレのそっくりさんがいた。

 服装は違うし、顔立ちも幾分柔らかく、明らかにミューレとは違う。

 俺は、この女性と会ったことがある。

 だけど、それがどこか思い出せない。

 この感覚はトラウマとかではなく、単に興味が無いから忘れている感じだ。


 なので適当に、久しぶり、と声を掛けておく。


 いつこっちに来たのかって?

 今さっきだけど、そっちは?

 ああそう、だいぶ前に来たんだ。ここ良い所だよな、飯も美味いし。どっか行って来たの?

 さっきアーカイブに行って来た所なのか。

 あそこ凄いよな、たくさんの情報が詰め込まれていてな……。

 ああ、あんたの父親の情報も載ってたんだ。ヒナタのことも知れたと。

 え? ヒナタの姪?


 ……ごめん、あんた誰?


 適当に話を合わせていたが、聞き捨てならない言葉を聞いてしまった。

 女性は、俺が覚えていないのに気付いたのか、ショックを受けて落ち込んでいた。何でも、このやり取りは二回目なのだそうな。


 うん、なんかごめん。


 改めて自己紹介をしてもらって、ああこいつかとなった。


 世樹麻耶。

 二号とミューレの娘だ。

 そして、ネオユートピアを崩壊させた張本人。


 思わず魔法を使いそうになる。

 俺に資格は無いのは分かっているが、怒りを抱くくらいはいいだろう。あれだけの人が死んだんだ。何の責任も取らず、ここでのうのうと暮らしている。

 それを許していいのか?


 麻耶は俺が抱いている怒りに気付かず、ここに来てからの話をする。


 翼を失い、絶望した。

 ミューレより罰を与えられて、今は強制労働を課せられているという。

 やるのは治癒魔法による患者の治療。

 ここでは、ほとんど必要の無い治癒魔法だが、外で戦う守護者は違う。

 共に外に向かい、怪我した守護者を治療しているという。


 麻耶程度の実力では、奈落は生き残れない。

 一歩間違えれば、こいつは一瞬のうちに殺され、モンスターの腹の中に入るだろう。その程度の存在でしかない。

 守護者と一緒とはいえ、外に出ているなんて狂気の沙汰だ。

 それでもこいつは、不満一つ言うことなく、笑みを浮かべている。


 それはまるで、これこそが己の生き方であるかのように。


 ちっ、なんかムカつくな。

 やっているのは、罰と呼ぶに相応しい内容だ。なのに、受け入れて満足までしている。それが無性に腹立たしい。


 なあ、お前はさ、地上でやったことを後悔していないのか?


 これは、わずかな希望だった。

 少しでも贖罪の気持ちがあるならと考えてしまった。


「……はい、とても反省しております。私があんなことをしたばかりに、ヒナタ様を殺してしまった」


 殺してしまいそうだった。

 よりにもよって、ヒナタの名前を出しやがった。

 多くの犠牲者を無視したのもそうだが、ヒナタがまるでお前程度の行動で死んでしまったかのような言葉は聞き捨てならなかった。


 おい、ふざけんなよ。

 たくさんの人達が死んだんだぞ、そいつらに対する贖罪の思いは無いのか?

 ヒナタが貴様程度の行動で死ぬかよ、ふざけたこと抜かすなよ!


 魔力が漏れ出る。

 それだけで、周囲一帯が俺の支配下に入ったのを理解してしまう。

 これだ。

 こうなるのが怖かったんだ。


 これのせいで、目の前の女の思いまで読み取ってしまう。


「……申し訳ありません。こればかりは、行動で示すしかないと思っているんです。いずれ時が訪れたら、必ず……」


 目を伏せる麻耶。

 これだけで、こいつが何をしようとしているのか理解してしまった。


 ダンジョンが世界を飲み込む時、ユグドラシルは地上に守護者を派遣して多くの人を救う。

 こいつは、それに参加して、人々を助けてそのまま地上で死ぬつもりだ。


 これが、こいつの目的。

 そして、贖罪の仕方だと思っている。

 クソみたいで、ふざけた考えだ。


 おい、その考えを捨てろ。ムカつくんだよ、一人で浸りやがって殺すぞ。

 二号が死んだ。あいつの血を引くお前が、そんな生優しい最後を求めるな。

 最後まで救え。死んだ人達の分、最後まで抗って救い続けるんだ。それしかテメーの最後は認めない。

 分かったな!


 死んで楽になるなんて認めない。

 こいつは最後まで、擦り切れて倒れて死んでしまうまで、多くの命を救ってもらう。


 麻耶は呆気に取られて立ち尽くし、ゆっくりと一度だけ頷いた。



ーーー



 麻耶と離れて、俺は誰もいない場所に移動する。

 そこは森の中で、周りには誰もいない。ただユグドラシルの目はあるので、何をしているのか見ているようだった。


 ここでやるのは、さっきの力だ。

 明らかに変質していた。

 森羅万象に似た効果が、俺の魔力に宿っていた。


 まったく厄介だ。

 スキル無しで力を模倣していたからか、スキルの能力も大幅に上がっている。

 これじゃあ、下手に力を使えない。

 魔力の発露だけで影響が出てしまうなんて、不便極まりない。

 日頃から魔力を抑えているとはいえ、これはきつい。少しでも魔力を漏らしてしまったら、これまでのような日常生活を送れなくなる。


 ちくしょう〜。

 こうなったら、ユグドラシルに言って能力封じの腕輪を大量に貰っておこう。そうすりゃ、これまで通り過ごせるだろう。


 一旦結論を出すと、一度魔力を垂れ流しにしてみる。


 ふう…………こりゃまずいね。


 ユグドラシルの支配下の木々を侵食して、奪ってしまう。

 更に、俺の魔力を受けて、木々が別の生命に変化しようとしており、取り返しの付かない状況になりそうだった。


 これはあかん。


 今日は一旦、都ユグドラシルから離れて過ごそう。


 明日になったら、フウマを連れて出発だ。


 というわけで、森に移動した。

 モンスターに襲われるかと思ったが、俺が近付くと逃げてしまう。

 スキルがどういう具合か確かめたかったのに、残念である。


 向かう目的地は、昔住んでいた場所。

 湖は無くなり土で埋まっているが、一部に穴が空いている。これは、ト太郎の骨を奪った奴が飛び出した場所だろう。


 その穴には黒い奴の魔力が残っていて、森の侵食を妨害しているようだ。


 穴に近付き、魔力を流してみる。

 すると、残っていた魔力を消え去り、穴から水が溢れ出した。


 あっやべ、と飛び退くと、そこから水柱が上がり辺りを水が侵食して行く。


 水が地下から溢れ出したからか、大地は陥没して水が溜まり始める。その範囲は、あの頃にあった湖と同じくらいにまで広がった。


 うん、これは俺が望んだからかな。

 昔の光景を思い浮かべて魔力を流したから、こうなったのだろう。


 岩場に座って、広がった湖を眺める。


 あとは家があって、畑があって、ト太郎がいて、ヒナタがいたら昔に戻れるのにな。

 なんて考えてしまうのは、少し我儘だろうか。


 この日は、湖を眺めながら眠りに付いた。


 

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― 新着の感想 ―
なんだろう、物凄い切なさを感じる。 二度と帰らないものの形を必死になぞっているかのような。
麻耶にはいい説教だな。一線超えてしまったら償うしかないしそれでも死なれても困るもんな 田中が実質自然神みたいになったなぁ
火や氷の大怪獣達に並んでしまったか
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