ダンジョン攻略26
12月25日3下巻発売!
日向が一歳になっていた。
あれから一年が過ぎたのかと思うと、感慨深いものがある。
ネオユートピアの跡地前では、慰霊祭が開催されたらしく、多くの人が参列したという。
あの日、あそこにいた人達も参加していたそうで、俺を除いたメンバーも参加していたそうだ。
それならそうと教えて欲しかった。
え? ニュースでもやっていたし、大々的に報じられていたって?
俺も聞いてたってマジ?
母ちゃんに言われて思い返してみると、んー……やっぱり覚えてなかった。
あの時は、二号のこととか、ダンジョンの攻略を進めることしか考えていなかったので、外部の情報に触れようとしていなかった。
聞いていた全てを、完全に聞き流していたのだろう。
俺も一回行っといた方が良いかな? そう考えたけれど、やめておいた。
ある意味、あの騒動の元凶には俺もいる。
俺がもっと早く登場していれば、あの騒動は起きなかった。二号の娘も暴走しなかった。それに、もっと上手く立ち回っていれば、もっと積極的に介入していれば、あの悲劇はくい止められたかも知れない。
それが出来なかった俺が、犠牲者に向かって何と言えばいいのか分からない。
祈るのなら、相応の成果を持って行った方がいいだろう。
というわけで、フウマと一緒にでかけるから、明日からしばらくの間帰れないから。そう実家の晩飯時に告げた。
これまでにも、数ヶ月家を空けていることが多かったので、母ちゃんと父ちゃんは、「ああ、そう」と軽い感じである。
うん、もっと心配してもいいんだぞこの野郎。なんて言えるはずもなく、寂しい思いをしながら食卓に付いた。
因みに、人魚の自動人形は家族に紹介している。
最初、俺にも彼女が出来たのかと喜ばれたが、違うと否定するとあからさまにガッカリされた。舐めんなよ。その内、連れて来てやるからな!
とはいえ、受け入れられたのは良かった。
順応し過ぎなような気もするけど、警戒心持てよと思わないでもないけど、まあ良かった。
因みの因みに、今はもうミューレが修復した家に住んでいる。一時は観光客が訪れて大変だったけど、その足も無くなり、今では平穏に暮らせている。
頻繁に狐が出入りしてはいるけど、フウマの友達らしいので、きっと大丈夫だろう。
翌日、んじゃ行って来るよ、そう母ちゃんと日向に告げる。父ちゃんは朝早くから仕事に出ているので、その時に挨拶は済ませている。
いってらっしゃーいと母ちゃんが適当に送り出すが、珍しく日向が泣き始めた。
おお、どうしたオシメか? そう思ったが、日向はヨチヨチと歩いて俺の所に来ると、ヒシッと抱き付いてしまった。
ギュッと服を握り締めており、中々離してくれない。
母ちゃんも困惑していて、どうしたんだといった様子だ。
おいおいどうしたんだ?
そんなに俺と離れたくないのか?
なんて揶揄ってみるが、余計に泣いてしまって離してくれない。
もしかして、どこに行くのか何となく察しているのだろうか?
俺は日向を抱えて、優しく撫でる。
大丈夫だ日向。俺が強いのは、お前が一番知っているだろう?
必ず帰って来る。約束する。
だから、俺にお前の未来を守らせてくれ。
今度は、必ず守る。そう決意して、日向と目を合わせる。
すると、日向は泣き止み、掴んでいた手を離してくれた。
日向を母ちゃんに渡すと、「行って来る」そう告げて、家を出た。
ーーー
フウマに乗ってダンジョンに到着すると、ポータルで81階に向かう。
81階には、飛んで来たポータルの他に、四つのポータルがあり、それぞれ奈落のどこかに繋がっていた。
適当にその内の一つに乗ると、さっさと奈落に向かう。
到着した瞬間に、モンスターが襲って来るが、大量の石の杭で突き刺して絶命させる。
ったく、やっぱ奈落はやばい所だな。
モンスターの凶悪性もそうだが、ポータルの前で待ち伏せされるのなんて初めての経験だ。
ヒリ付く感じが、奈落に戻って来たのだと実感させられる。
俺も結構強くなったつもりだが、油断出来ないと直感が告げて来る。
どんだけヤバいんだよ、ここはよぉ。
余りの恐ろしさに、ニィと笑えて来る。
別に全力で戦えるから嬉しいのではない。
ただ、この広大な世界がとても魅力的に映ってしまっただけだ。
すーはーと深呼吸をして気持ちを落ち着ける。
今は、テンションを爆上げしている場合じゃない。やるべきことをやるんだ。
イルミンスールの杖を取り出すと、行き先を示してくれる。
目的地はかなり遠いが、フウマの速度なら一ヶ月以内には到着するはずだ。
フウマに跨ると、大きく嗎声、駆け抜ける。
多くのモンスターを置き去りにして空を駆けるフウマ。だが、一部のモンスターはフウマに追い付いてしまう。
本気ではないとはいえ、フウマの速度に追い付くとは、流石は奈落のモンスターだ。
そんなモンスター達を斬り捨て、さっさと先を急ぐ。
どれだけの時間が過ぎたのか分からない。
だけど、杖が指し示す目的地にはたどり着いた。
そこは巨大な大樹がシンボルになっており、地上よりも遥かに発展した文明を築いた場所だった。
どう見ても都ユグドラシルだよ、この野郎。
おいどういうことだと、杖をギチギチと握り締める。
すると、あははっと楽しそうな感情が流れて来た。今の俺なら、握力だけでこの杖を破壊出来る気がする。
『これ、辞めんか』
そんなことやっていたら、エメラルド色の髪の少女、ユグドラシルが姿を現した。
もしかして、お前が呼んだのか? そう問うと、そうだとユグドラシルは頷いた。
おいおい、俺の覚悟をどうしてくれんだよ。
このまま真っ直ぐ向かって、決着付けるつもりだったんだよ⁉︎
出鼻挫かれまくりじゃねーかよちくしょう!
『これ、我らを邪魔者扱いするでない。用というのは、その能力封じの腕輪じゃ』
腕を上げて、未だに装着されている腕輪を見せる。
これのおかげで、大半のスキルが使えなくなっており、かなり苦労する場面があった。
まったく、厄介な腕輪だ。
何だよ、これ外してくれるのか?
直ぐに外れるって言ってたのに、全然外れないから困ってたんだよ。
そう告げると、ユグドラシルは俺を睨むように告げる。
『それはもう外れるぞ、何故外そうとせん?』
いや、だから外れないって……。
『外れる。今あるのはハルトよ、お主の意思だからじゃ。……怖いのか?』
何がだよ?
『己の力が怖いか?』
……。
『ハルト、今一度言おう。ここで暮らさぬか? ここならば、お主を受け入れる土台は出来ておる。たとえどのように変わろうとも、我らは変わらぬよ。それだけは約束しよう』
ユグドラシルの言葉は、善意からだ。
俺に、ここを守らせたいとか思っているのなら、イルミンスールから反発が起きているはずだから。
それに、ユグドラシルにそんな考えが無いのは、何となく分かる。根拠は無いけどな。
ありがたいけど、それはいいかな。
覚悟はしてんだよ、もうとっくに。でも、これがあったから縋り付いてしまった。
……返しとくよ。
能力封じの腕輪を外して、ユグドラシルに差し出す。
すると、身体中に力が漲って来る感覚を覚える。
以前はずっと感じていた感覚のはずなのに、今はとても新鮮で、同時に恐ろしく感じる。
全てのスキルが戻った。
ーーー
田中 ハルト(26+13)(混沌)(変化可能)
レベル error
《スキル》
地属性魔法 トレース 治癒魔法 空間把握 頑丈 魔力操作 身体強化 毒耐性 収納空間 見切り 並列思考 裁縫 限界突破 解体 魔力循環 消費軽減(体力) 風属性魔法 呪耐性 不滅の精神 幻惑耐性 象徴 光属性魔法 悪食 勇猛 自動人形生成 森羅万象 血液操作 多重存在
《装備》
不屈の大剣(魔改造) 守護獣の鎧(魔改造) イルミンスールの杖 聖龍剣
《状態》
ただのデブ(栄養過多)
世界樹の恩恵《侵食完了》
世界亀の聖痕 《侵食完了》
聖龍の加護 《侵食完了》
聖天の心部
《召喚獣》
フウマ
ーーー
これで、人で居られる保証も無くなってしまった。
『……馬鹿者め』
すまん、気を遣わせたな。
……助かったよ、日向のことも含めてさ。
『気付いておったか……』
杖を通じて、日向に加護を与えたのはユグドラシルだ。魔力の暴走を抑え、肉体を健康に保つようにしてくれた。
それだけで、もう十分なのだ。
だから、今度はこっちの番だ。
これから、ここを守る戦いに行く。それで、恩返しにさせてもらえないか?
『……ハルト、お主死ぬぞ』
死なねーよ、縁起でもないこと言うな。
ちゃんと救ってやるから待っとけ。
『そうか……必ず生きて戻れよ』
おう。
んじゃ、またな。
そう短く別れの挨拶をして、フウマの腹を蹴る。
俺の合図に従って、フウマは飛んで行く。
離れて行くユグドラシルの顔は、困惑した表情をしており、『そっち?』と語っていた。
何だ? と正面に目を向けると、フウマは都ユグドラシルに向かって飛んでいた。
何でそっち行くんだこの野郎。




