ダンジョン攻略25
12月25日3下巻発売されます。
もう直ぐです!
よろしくお願いします!
ダンジョンを出ると、とりあえず墓参りに向かった。
東風の魂はフウマの中にいるけれど、とりあえず報告しておこうと思ったのだ。
そうそう、ダンジョンの最下層まで行ったんだよ。
81階が最後ってキリ悪くね? どうせなら100階まであったらよかったのにな。
あとな、どうしてダンジョンが出来たのかも分かったよ。それを教えたい所だけど、制限掛けられてしまって話せないんだ。……すまん。
……正直さ、もっと時間が掛かると思ってたんだ。
十年くらい時間掛けてダンジョン攻略して、日向の成長を見守るんだろうなって、勝手に思ってた。
それが、思っていたよりも早く終わりそうだ……。
……何だろうなこの寂しさ。
終わりが近付いて、怖気付いてんのかね?
救える可能性が見えたのに、嬉しくないんだよ。バカみたいだろ?
まっ、やるだけやってみるよ。お前もフウマの中から、すぐ側で見ていてくれ。
「ブル?」
ちゃんと、お前も連れて行くからなフウマ。
「……ブルルル⁉︎」
拒絶して、逃げようとするフウマを捕まえる。
東風の墓参りに行くんだ。当然、フウマも同行させている。
次の探索ばかりは、一人じゃ絶対に無理。フウマが一緒でも厳しいかも知れない、そんな場所に向かう必要があるんだ。
そこは、はっきり言って生きて帰れる保証は無い。死んで当然と思えるような危険な場所だ。
二号が、行くのを断念した理由も分かる。
「ブル⁉︎」
なに? 日向の護衛はどうするのかって?
それなら大丈夫。新しいお友達が増えたから。
それは、スキル【自動人形生成】で作り出した人魚である。
自我が芽生えて戦いを拒絶するようになったが、その強さは折り紙付きだ。
作り出した自動人形は、俺の命令に絶対なので指示をすれば日向や両親を守ってくれるだろう。それに、『三食昼寝付き』という待遇も約束しているので、本人も納得してくれている。
見た目の問題も、尾鰭も人の足に変化させられるように改造しているので、姿はまんま人間だ。これで、日常生活に溶け込めるはずである。
だから大丈夫。
フウマ、お前がそばに居なくても日向は守られる。
だからな、覚悟決めろやこの野郎!
逃げ出そうとするフウマを引っ捕まえて説得する。
何も直ぐに行くという訳ではない、物資を準備するからそれなりに時間は掛かるし、お世話になった人達に挨拶もしておきたい。
というわけだから、お前も準備と挨拶はしておけ。
そうフウマに告げて解放した。
「ブルル……」
不満そうに嗎声くフウマだが、どうやら覚悟は決めてくれたようである。
フウマは風を操ると、一気に舞い上がり実家の方に飛んで行った。
どうやら、フウマにも別れを告げたい相手がいるようだ。
それがどんな存在なのか俺は触れないけれど、喧嘩別れしなかったら良いなと願っている。
さて俺も行くかと、フウマに引き続き舞い上がりホント株式会社を目指した。
ーーー
ホント株式会社に来たのは、本田源一郎との約束を果たす為。
ただ飲みに行くだけなのだが、まあ何というか高級そうな料亭に連れて来られた。
料理はとても美味しいのだが、俺の舌には繊細過ぎてパンチが足りないような気がしてしまう。
こう、もっと調味料をドバドバッと掛けてもらっていいかな? なんて思うほどに、素材の味が活かされていた。
あっはい、美味しいです。
あっはい、酒も美味しいです。
平次のお気に入り?
へー、これってあいつも飲んでたのか……。
因みにお幾らくらいするんですか?
三千円? ……もっと贅沢すりゃ良いのに。
ナナシが飲んでいた酒は、かなり庶民的だった。
歴史に名を残し、探索者の未来を作った男なら、もっと高級な酒を飲んでもいても良さそうなものなのに。
きっと、あいつの性分がそういうのを嫌ったんだろうな。
なんて感心したのだが、どうやら単純に好きだっただけのようだ。
高い酒も結構飲んでいたらしい。
俺の気持ち返せやあの野郎。
酒を一気に流し込んで、もう一杯もらう。
俺の気持ちを理解したのか、源一郎さんは苦笑していた。
そこからの話は、ナナシの話が中心になった。
以前にも話を聞いたが、それとは別の話をしてくれた。
あいつがどれだけの人を助けたのか、どういう思いでやっていたのか、どれだけの悲劇を食い止めたのか教えてくれた。
話を最後まで聞けたのは、この人の話が面白いというのもあるが、ナナシを側で見て来た人だからだ。
こういう人は、きっと他にもいる。
そんな人達に会って、もっと話を聞きたい所だが、そうするといつまでも踏ん切りが付かなくなりそうだから辞めておく。
話を聞くのは、戻って来た時の楽しみに取っておこう。
酒が進み、源一郎さんは服を脱ぎ捨て、ただのアグレッシブジジイに戻ってしまったけど、中々有意義な時間が過ごせたと思う。
ーーー
翌日、朝から向かったのは、大道の所。
そこでは、ギルドのおばちゃんや他の人達もおり、みんな凄く驚いていた。
よっ久しぶり。
何驚いてんだよ、遊びに来ただけじゃん。
え? どうやって入って来たのかって?
いや、総司がそこから行けるって教えてくれたんだけど……なんか不味かった?
今いるのは、探索者監察署本部。
この街の観光名所にもなっているタワー。その地下に、何とも秘密基地のように隠されてあるのだ。
どうしてここが分かったかというと、大道の魔力をたどっていたら、このタワーに行き付いただけだ。
だけど、地下に降りる方法が分からず右往左往していたら、偶々総司が通り掛かったのだ。
何頭悩ませてんだよ?
ん? なになに、田中ハルト対策?
え? ……何お前ら、俺と敵対したいの?
違う? 敵対しない為に話し合ってると?
何だよ、それなら先に言えよ。思わずやっちまうところだったじゃねーかよ。危ない危ない。
引き攣った顔の奴らを見て、悪いことしたなあと反省する。
冗談冗談と場を和ませようとしても、引き攣った顔は戻らなかった。
なんか、ごめんってなった。
とはいえ、昼から大事な用事もあるので、大道を半ば無理矢理連れて行く。
大道には文句を言われるが、こればかりは仕方ない。
だって、ここで出すと外に出せなくなりそうだから。
到着したのはミンスール教会。
それで、ここまで連れて来て何だよ。と、大道は不機嫌そうにしている。
そんな大道の前に、収納空間からドンッと鎧の戦士を取り出す。
これは、人魚の自動人形と同じく、海で暇している時に作った一体だ。俺の鎧を模しており、中々かっこいい姿をしている。
この自動人形には自我は無いが、いずれ芽生えて来ると思う。
芽生えた世界が、殺伐とした世界だと可哀想だと思い、こいつを大道に任せようと考えた。
大道なら、道を間違えたりしない。
そう確信出来るくらい、こいつは真っ直ぐな奴だ。
きっと、戦士の自動人形だって正しく使ってくれるはずだ。
唖然としている大道に、こいつはお前の言うことを聞くように命令している。と告げると、酷く驚かれた。
うん、こいつをよろしく。
その内、自我が芽生えると思うから、良くしてやってくれ。
飯でも魔力の補充は出来るけど、直接流しても良いから。
え? 何を言っているのか分からないって?
だから……。
取り敢えず説明すると、納得してもらえなかった。
そう、納得してもらえなかったのだ。
「ふざけんな、こんなの任されても迷惑だ。お前が作ったんなら、ちゃんと面倒みろよ。だから必ず戻って来い。戻って来るまで、俺が預かっといてやる。絶対だからな!」
……ああ、頼む。
うん、やっぱりこいつは、ナナシの孫だわ。
ーーー
「久しぶり」
「おう、久しぶり」
昼からは、千里と会う約束をしていた。
簡単に挨拶を済ませると、俺達は定番となっているカフェに入る。
正直、何回来ても慣れないこの店だけど、今では一番思い出のある店になってしまった。
「今日もフラペチーノ? 好きだね、甘いの」
「別に好きじゃないし、ただ気に入ってるだけだし」
「それじゃあ、いつまで経っても痩せないよ」
「あえてこの体型に固執してんの。もし痩せたら、千里は俺が誰か分からなくなるだろう?」
「分かるよ。痩せようが、ヨボヨボになろうが、こんな特徴しかないハルト君を、分からなくなるはずないじゃない」
「……本当に?」
「本当だって」
そんなこと言われたら、本気で痩せてみようかと考えてしまう。
うん、そうしよう。
次会う時は痩せた姿を見せてやろう。
「じゃあ、次会う時までに痩せておいてやるよ」
「おっ、言うねぇ。本当にやれるのかな? 痩せるのって、結構大変だよー」
悪戯っぽく見上げる動作があざとくて、魅力的に見えてしまう。
「これでも俺は、意志の強い男なんだよ。痩せるくらい朝飯前だっつーの」
強がりではない。俺がその気になれば、痩せるのなんて簡単だ。たぶん、きっと、間違いなく、未来の俺はやり遂げてくれると信じている。
「じゃあ賭けようか、私はハルト君は痩せられないにベッドする」
「やってやろうじゃねーか! 俺は痩せるに全懸けだ!」
まったく、失礼な奴だ。
その吠え面、次に会うまでに洗って待ってろよ!
千里はあははと笑いながら、ある提案をする。
「じゃあ、痩せた姿見せてくれたら、何でもお願い聞いてあげるよ」
「言ったな? だったら俺は、俺が出来ることなら何でも叶えてやるよ」
「あはは、それじゃあ何でも願いが叶いそうだ」
「おう任せとけ」
いつの間にか、それだけの力を持っちまったからな。
改めて考えると、良くもまあここまで来れたものだと思ってしまう。
切っ掛けはブラック企業を辞めて、次の仕事を見付けるまでと軽い気持ちでダンジョンに潜ったこと。
それからたくさんのモンスターと戦って、愛さんを救って、東風や千里達と出会って、悲しいことや辛いことが沢山あったけど、それでも前を向いて歩いて来た。
フウマを召喚して、奈落に落ちて、ヒナタやト太郎と出会って一緒に暮らした。そこにナナシや二号が来て、楽しい日々が続いた。
それもあっという間に終わってしまったけれど、絶対に忘れることの出来ない日々だ。
ユグドラシルに地上に帰してもらって。
戻ったら戻ったでいろいろあるし、少しの滞在のつもりだったのに、こんなに長い間地上に止まっている。まあ、あっちで何かあれば、杖を通じて言って来るだろうから、今の所は心配ないだろう。
ダンジョンに潜り始めてから今日まで、たくさんの辛いことと楽しいことがあった。
「……ふう」
「どうかしたの?」
「いや、いろいろあったなって思って」
「そうだね……いろいろあったんだよね」
千里が少しだけ悲しそうな顔をする。
記憶は無くても、それが返って辛くなる時がある。
これをやったのは俺だ。その必要があったとはいえ、やったことに変わりはない。
でも俺は、その責任を取ってやることが出来ない。大丈夫だと言って、寄り添ってやることは出来ない。それはあまりにも無責任だから。
俺は、千里の側にいてやれない。
なのに、この時間を終わらせたくないと思ってしまう。
きっと俺は、どうしようもないほどの我儘なんだろう。
「千里、前を向け」
「ん?」
「俺は絶対に居なくならないぞ」
「……ぷっ、何それ?」
「どっかに行っても、絶対に帰って来る。お前が望んでくれるなら、俺はどんな存在になってでもここに帰って来る。約束する」
「ハルト君……?」
俺の真剣な表情に困惑する千里。
分かる。その気持ちはよく分かる。でも聞いて欲しかった。
「俺は……あっ、俺は、お前が……」
「私が?」
「千里のことが……あっ、くっ……場所変えても良い?」
「ええー」
言おうとしたら、周りから視線を集めているのに気付いてしまった。
ここカフェだったの、すっかり忘れてた。
千里は平気そうだけど、俺はこういうの気にするんだよ。
体はこんなんでもな、心はピュアなんだよ。
不満げな千里と二番目に思い出のある公園に移動して、ベンチに座っていろいろと話した。おかげで、帰って来る理由が出来たから、この日は一日幸せな気持ちでいられた。




