ダンジョン攻略24
12月25日3下巻発売!
ダンジョン81階に到着すると、早速ヨットを取り出して海に浮かべる。
海とはいってもダンジョンの海なので、浮かない可能性があったが、どうやら大丈夫そうだった。
俺は杖を取り出して、トウッとヨットに乗り込むと、帆を下ろして出発進行! と風を当てる。だが、次の瞬間だった。真下から触手が伸びて来て、俺のヨットを破壊してしまったのだ。
宙を舞う俺。
何かの残骸が目の前にあり、それがヨットだと気付くのに数秒掛かった。
それだけ高く打ち上げられたというのもあるが、俺の脳みそが理解するのを拒んでいたというのも大きいだろう。
嘘だろ? ……許さん!
杖先からレーザーを放って触手を薙ぎ払い、海を割ってイソギンチャクのお化けを燃やし尽くした。
よくも俺のヨットを!
風を操り残骸をかき集める。
まだ致命傷ではないはずだ。今直ぐに治癒魔法を、いや蘇生魔法を使えば、俺のヨットは生き返るはずだ!
なんてはずもなく、残骸は残骸でしかなかった。
物を直す魔法なんて知らないし、スキルだって無い。
もう、元には戻らない。
くっ! 悔しさのあまり、杖を握り締めてしまう。
痛い⁉︎ と悲鳴が聞こえるが、俺は構わず握り締めた。
これは願いだから、俺には出来なくても、他の奴なら出来るかも知れないから。だから、必死にお願いするのだ。
するとどうだろう、奇跡が起きてしまう。
俺の魔力を吸い上げた杖から根が伸びていき、ヨットの残骸を取り込んで行く。そしてそれは、ヨットの形を取り戻して行き、前よりも頑丈な一隻が完成した。
これで文句ないでしょ⁉︎ と杖から声が届く。
流石はイルミンスール、俺の要望に応えてくれる。
再び帆を張り、出発進行! と風を送る。
今度こそ順調に進み始め、直ぐに速度を上げて行く。
そして、再び真下からの攻撃にさらされた。
空中に浮くが、今度はヨットは破壊されなかった。流石イルミンスールである。
やるじゃないか! こいつ頭大丈夫かと思ってごめん!
ちゃんと武器をヨイショしつつ、ヨットに魔力を送り魔法を使う。
このヨットは、イルミンスールの杖で作られている。ならば、このヨット自体が杖と呼んでもいい代物になっている。
拡散した光魔法は、広範囲にいる水中のモンスターを消滅させ、海を沸騰させた。
こりゃやばいと、帆に風を送り離脱する。
ギリギリだった。
先程までいた場所が、水蒸気爆発を巻き起こし、巨大な水柱を上げていた。
この程度の爆発で俺が死ぬことは無いが、空高く舞い上がって移動がリセットされるのは嫌だった。
杖が大きくなったことで、魔法の威力は分散されたが、元が強力なせいで気にする必要は無かった。
とはいえ、次は調整して魔法を使った方が良さそうだな。
ヨットを手に入れてからというもの、探索は順調に進んだ。
順調に進んだけど、変わらない風景に心が病みそうになった。
移動が船に乗っているだけというのも、地味にやることが無い。もちろん、風は送り続けているけど、そんなのは片手間ですむ。
とにかく暇。
暇過ぎて熱唱して時間を潰しているのだが、途中で喉がやられてしまって歌えなくなってしまった。
漫画でも読もうかと思ったら、収納空間に漫画は残っていなかった。漫画なんて読む暇ないと、フウマに渡していた。
何をして時間を潰そう。
そう考えていると、水の上に宝箱があるのを発見した。
おお、ここにも宝箱ってあるんだ。
そう感心して近付くと、うんまあ、罠だったね。
疑似餌よろしく、舌の先にそいつが欲しがる物を投影する能力なのだろう。下には巨大な魚がおり、ヨットごと飲み込もうとしていた。
ビーッと始末すると、そいつの腹の中から本物の宝箱が現れた。しかも一つではなく五つも。
こりゃ大漁大漁と宝箱を回収する。
てっきり海だから海底にあるものだと思っていたが、どうやらモンスターからドロップする仕組みのようだ。
中身を確認して行くと、うん、まあ当然だよね。
五つ目の宝箱を開けた時、トラップが発動した。
強烈な光に包まれながらも、即座に動けるよう警戒する。だが、何か起こることもなく、モンスターの亡骸が無くなっているくらいで特に変化は無かった。
……いや、あった。
背後に、前の階に続く道があった。
つまり、振り出しに戻ってしまったというわけだ。ちくしょう。
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開き直った。
一回地上に戻り、暇つぶしに良さそうな物を購入して、ベッドで休んだ翌日、再々チャレンジのダンジョン探索を開始した。
もうこれで最後にしよう。
これで、九十階層まで行くのだ。
ヨットに乗り込み、当たり前のように仕掛けて来るイソギンチャクを葬り、出航する。
全速力で進んでも、船の速度は海のモンスターには勝てない。
並行して進むシャチのようなモンスターは、不可視の力を走らせ、俺のヨットを掴もうとする。
空間把握のスキルが無くても、その力は感じ取れる。
不屈の大剣で不可視の力を切り裂き、横薙ぎの剣閃でシャチのモンスターを斬り飛ばした。
水中から魚群が現れる。
こいつらは、前にも現れたモンスターだ。
当たり前のように、光属性魔法で焼き払う。これで終わり、そう思ったが違った。
海に落ちた瞬間に傷が治り、復活したのだ。
空を飛ぶだけでなく、こんな能力まで持っているのか。本当に奈落のモンスターに近付いて来たな。これは、気を引き締めないといけないな。
なので、跡形もなく消滅させる。
奈落に近付いていても、まだまだ物足りない。俺の脅威にはならない。
風でヨットを操り、魔法でモンスターを倒し、漫画を読みつつ進んで行く。やがて夜になり、ヨットの上で仮眠をするが、ペースを落とさずに突き進む。
そんな渡航が数日続くが、それでも終わりが見えない。
上空に上がって確かめたいが、元の場所に戻るかもと思うと、とてもじゃないけど試す気にもならなかった。
一週間が過ぎる頃、暇つぶしに持って来た物が無くなった。
二週目から三週目は、暇過ぎてスキル【自動人形生成】を使って、人魚のオートマタを作り、モンスターと戦わせてみた。
四週目から五週目は、俺の鎧を模倣した戦士を作ってみたり、いろんな武器を持たせて、動きを調整したりした。
六週目から七週目は、【自動人形生成】を改良に改良を重ねて、戦艦を作り出した。おかげで、収納空間に入れていた大量の土は無くなったが、満足する逸品が出来上がった。
戦艦に乗り込むと、俺の意思に従って出航する。
残念ながらヨットよりは遅いが、これは仕方ないと諦めるしかない。何故ならこれは、男のロマンを詰め込んだ物なのだから。
男なら一度は憧れる戦艦。
名前にヤマトなんて付いてたら、テンション爆上がり間違い無いだろう。
最強の戦艦で、世界中の海軍を相手に無双する。そしてゆくゆくは世界征服。
海賊王なんて目じゃないくらいの、スケールの大きな夢物語。
男ならみんな、心が熱くなるだろう……。
……うん、ごめん嘘ついた。
全然テンション上がらないや。
一人で大きな船に乗っても、寂しいでしかない。
こういうのは大勢で、力を合わせて成し遂げるから楽しいのだ。一人だけだと、ただ海を眺めているだけで終わる。
なんて寂しいんだろう。
モンスターも戦艦から放たれるレーザーに焼かれて死んでしまう。我が艦は圧倒的ではあるが、俺のメンタルをゴリゴリに削ってしまう。ついでに、戦闘中は魔力の減りもリミットブレイク・バースト並みに減っている。
なんて非効率な戦艦なんだろうか。
このままだと、五日間くらいで魔力も底を突きそうだ。
一日稼働させたら、またヨットで行こう。
そうしようと決めて、俺は寝室に向かった。
翌日、船艇に行ってみると、宝箱が百個近く積まれていた。
これはどうしたのだろうかと眺めていると、外で戦艦がモンスターを倒すと、モンスターからドロップしたであろう宝箱が取り込まれていた。
どうやら、俺が寝ている間に、モンスターを倒して集めた宝箱だったようだ。
俺はとりあえず、全部外に放出……なんてもったいないことも出来ず、愚かにも開けようとしている。
……ダメだ。ここで開けてトラップが発動したら、また一からスタートになるかも知れない。
そんなことになったら、この二ヶ月近くが無駄に終わってしまう。それは決して許されない。
なのに、何故か手が宝箱に伸びてしまっている。
まずい、これはまずい。
何とかしないと、何とか目の前から消さないと……と考えて、収納空間に全部ぶち込んだ。
ふう、目に毒だったぜ。
これは全部終わってから開封しよう。
どうせ何が出ても俺は使わないだろうから、最悪封印しっぱなしでも問題ない。
今も増え続ける宝箱を背に、俺は外に出る。
イルミンスールの杖を取り出して、ヨットに姿を変化させると、戦艦を収納空間に取り込んだ。
浮遊感があるが、それも直ぐに終わり海に着水する。
同時に、真下にいるモンスターを魔法で倒す。
戦艦は目立つようで、多くのモンスターをおびき寄せていた。これはもう、夜間だけ出すようにした方が良さそうだ。
それからも、何も無い日々が続く。
夜だけは戦艦を取り出して、ゆっくり休んだり。
暇なので、鎧の戦士と模擬戦してみたり、人魚の自動人形を出しっぱなしにしていると、自我っぽい物が芽生え始めていたりといろいろあった。
人魚の扱いはまた考えるとして、ようやくだ。
ようやく目的地に到着した。
そこには島があり、島には似つかわしくない建造物があった。
鉛色の楕円形の大きな建物で、どこに入り口があるのかも分からない。
ここが、この階層の終着点。
建築物をぐるっと周り杖の指し示すところへ行くと、地面から球体が現れた。
敵か? と警戒するが、特に何もなくただ文字で『暗号を示せ』とだけ書かれていた。
何だよ暗号って? と思っていたらイルミンスールの杖から蔦が伸びて来て、その球体に触れる。すると、文字がすらすらと並べられ、『生命ある世界に救済を』と記されていた。
何のこっちゃ、という感想は置いておいて、暗号は合っていたらしく建物の一部が開いた。
ここで気付いたのだが、もしかしてこの階層は、この海にある暗号を回収して、最終的にここにたどり着くのではないだろうか。
俺の推測は合っていたのか、杖から「そうだよ」いう思念が送られて来る。
マジか。
ここに到着するまで二ヶ月近くも経っているのに、別の場所にも行かないといけないって、こんなの無理ゲーじゃん。
二号はよくクリア出来たな。
感心していると、この階を突破するのに五年掛かったのだという。
ずっと潜っていたわけではないだろうが、それでも凄まじい。
俺はほとんど暇していたのに対して、あいつは徒歩で各地を渡りたどり着いたんだ。どれだけ大変だったか、想像も付かない。
きっと俺だったら発狂している。
そんで、フウマと喧嘩してイルミンスールの杖をへし折っていただろう。
……冗談のつもりで想像してみたら、案外ありそうで怖かった。
まあ、そんなのは放っておいて次の階である。と思って建物に入ったのだが、そこに階段は無かった。
あるのは五つのポータルと、更に奥に続く廊下。
杖は廊下の先を指し示しており、この奥に何かがあると教えてくれる。
俺は奥に進む。
その先にあった物は、ダンジョンの終わりとその時代だった。
81階層
海のフィールドにある四箇所の島から暗号を回収し、最終的に中央の島に向かう。各島には、次に向かうべき島の位置が記されており、最低でも二ヶ月以上の移動時間が必要になる。




