ダンジョン攻略23
12月25日3下巻発売します!
No.4の一件が終わってから、世界は急速に動き出した。
あの野郎の狙い通り、アフリカでの映像は世界中で視聴され、何故か大道が人気者になっていた。
何でも、一つの街をモンスターの魔の手から救った英雄なのだそうだ。
最初、どうしてあの野郎がもてはやされているんだ?
人の手柄を横取りしやがってちくしょう。
なんて嫉妬してしまったが、俺注目されるの苦手だったわ、と思い出して別にどうでもよくなった。
そんな大道から連絡が来て、あるお願いをされた。
何でも、犯罪を犯した探索者を取り締まる機関が世界規模で組織されるそうで、それに参加しないかという。
お前も一緒に世界の為に頑張ろうぜ! というのを回りくどく説明されたので、適当に煽って断っといた。
つーか、そんな暇じゃないんだよ。
こちとらダンジョン探索しないといけないの。
というわけで、日向と数日間接したあとダンジョンに向かうとしよう。
フウマから、俺も着いて行こうか? 的な視線を向けられるが、いざとなったら頼むとお願いしておいた。
のんびり暮らしているように見えたが、何だかんだでフウマも気にしているんだなって感心した。のだが、
「ブルル」(いや、やっぱ今の無しで)
と、速攻で前言撤回して来た。
どうやら言ってみただけのようだ。
ぶん殴ってやろうかと思った。
まあ、バカ馬は放っておいてダンジョンである。
81階に突入したのだが、どこまでも水平線が続いていて、気が滅入ってしまう。
波打つ水に触れて少し舐めてみる。
塩っぱくてこれが海だと確定した。もしくは、どこまでも大きな塩湖だ。だとしたら、もう海と変わらないだろう。
イルミンスールの杖を取り出して、道を示してもらう。
真っ直ぐどこまでも続いていて嫌になる。
二号は、よくここを突破出来たものだ。
あいつが空を飛んだのを見たこと無いのだが、どうやって行ったんだろう。
その疑問には杖が答えてくれた。
何でも海の上を歩いて行ったとか。
え、この海って歩けんの?
触れた時はただの海水だったが、もしかしたら違うのかも知れない。
俺は試しに海水の上に片足を乗せてみると、足の裏に浮力を感じた。
マジで歩けんのこれ?
正直信じていなかったが、もう一歩踏み出して確信に変わる。
ゴボゴボッ⁉︎
何故なら普通に海に落ちたから。
いや、歩けないやんこれ⁉︎
急いで階段に上がる。
ゲホゲホと咳き込んでいると、杖から楽しげな感情が流れ込んで来る。
へし折ってやろうかと思った。
どうやら二号は、魔法で水を操ってその上を歩いて行ったようだ。
それならそう言えボケ!
強く握りしめて、ギチギチと杖を鳴らして抗議する。
そうしていると、海の中から赤い触手が伸びて来た。それは俺に巻き付くと、海に引き摺り込もうとして来る。
どうやら、さっき落ちたせいで海のモンスターを呼び寄せたようだ。
風の刃で触手を切り落とすと、速攻で本体が現れる。
それは大口を開けた巨大なイソギンチャクで、とてもグロテスクに見えた。地上だとあんなに綺麗に見えるのに、大きくなっただけで悍ましく見えるから不思議だ。
そんな巨大なイソギンチャクを輪切りにして、俺は空を飛び探索を開始した。
この時の俺は、空を行けばモンスターと戦わなくてすむと思っていた。
フィールドは明らかに海に住むモンスターが主力で、空には大した脅威はいないだろうと推測したのだ。
だが、それは間違いだった。
奈落に匹敵するモンスターが、海から飛び上がって空を泳いで来る。
それは魚に見えるが、背鰭の代わりに小さな翼が生えており、当たり前のように空を飛ぶ。しかも、その数は膨大で魚群と呼んでよかった。
というか、ここはイソギンチャクだけじゃないんかい⁉︎
これまでのダンジョンは一階層ごとに一種類増えるだけだったのに、ここには数種類のモンスターがいるようだ。
翼の生えた魚達は、その口に魔力を溜める。
そこから放たれるのは水の……ではなく、光を使った魔法。
レーザーのように放たれた魔法は、正確に俺を捉えている。
チッと舌打ちをして避けると、追尾機能があるのか魔法が追って来る。
即座に手を叩き魔力の波を発生させ、魚達の魔法を打ち消す。魔力の波はそれだけでは終わらず、魚群にまで到達する。
すると、魚達は失速して行き、まるで浮遊能力を失ったかのように落下して行った。
どうやら、魚達が飛ぶのも魔法を使っていたようだ。
そりゃそうだよな、あんなちょっとした翼で空を飛べるはずが無い。何らかの魔法を使っていたのは明白だった。
追い討ちに光属性魔法でビーッとやって、止めを刺しておく。
少しだけ良い匂いがして、お腹が空腹を主張するが、それも蟻蜜を飲めば治る。
クィ……。
さあ行くかと気を取り直して、俺は空を駆け抜けた。
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このフィールドには、しっかりと昼と夜がある。
おかげで、一日の始まりと終わりが分かって助かっている。
助かるのだけれど、飛んで三日経っても終わりが見えないのはどうしてだろう。
飛空するのに魔力的には問題無いのだけれど、メンタル的に問題がある。
いくら広いとはいっても、世界規模で広いはずもないし、何かしらカラクリがあるのだろう。
一旦海面まで降りて周囲を見渡す。
そこで目を疑った。
降りた背後には、前の階に戻る階段があったのだ。
おいおい、これはどうなっているんだ。
俺は三日間空を飛び続けたはずだろう?
夢でも見ていたのか?
それとも何か?
ト太郎が張ってた結界と一緒で、脱出不可能なタイプなのか?
いやでも、杖は方角を指し示しているから、二号はクリアしたはずだ。
……もしかして、水の上を歩くか泳いで行かないといけないの?
ありそうで怖い。
もしも、水上をいかなければならないのなら、かなり厳しい探索になりそうだ。
なあ、お前ならどうにか出来るんじゃない? そうイルミンスールに尋ねると、そうね……、と考え始めて何の反応も返って来なかった。
こいつ大丈夫かと、本気で心配になった。
とはいえ、こうなったら仕方ない。
俺はある物を手に入れる為、地上に戻ることにした。
---
あっどうも愛さん、お久しぶりです。
すみません連絡も入れずに突然。
いえいえ、そんなお気になさらずに。
おお、美桜も久しぶりだな。半年ぶりくらいか?
いいっていいってお茶なんて、ちょっとお願いしに来ただけだからさ。
そう言うと、愛さんの表情が気持ち険しくなった気がした。
これはいけない。
お土産にダンジョン産の物を差し上げて、警戒を解かねば。
これ、つまらない物ですが。そう言って差し出すと、愛さんの表情があからさまに険しくなり、心象を悪してしまった。
どうしてだろうか?
無茶振りをするつもりではいるのだが、たぶん愛さんの財力なら可能な要求だ。
それとも、まだ足りないとでも言うのだろうか?
この欲張りさんめ!
十個ほどの宝箱から取れたアイテムを差し出す。
表情を確認すると、ドン引きしている愛さんがいた。
もしかして、まだ足りないとでもいうのか?
じゃあ、収納空間にあるアイテム全てを……。と思っていたら止められた。
まず要求を言えと、それから対価を寄越せというのを、愛さんは懇切丁寧に教えてくれた。
いや、薄々気付いてたんだけどね。そうじゃないかって。でもさ、久しぶりに愛さんに会ったからさ、少しくらい絡みたいじゃん。だから、やってしまったわけよ。
というわけで、要求を言おう。
愛さん、船下さい。
「…………え? それだけ?」
沈黙の後、愛さんは拍子抜けしたような表情をした。
この後、愛さんからホント株式会社が所有する三隻を提示される。
愛さんから、どれでも好きな物を持って行っても良いと言われて、テンションが上がる。
太っ腹やなこの人。と思っていたのだが、残念ながら三隻とも、俺が求めている船ではなかった。
俺が欲しい船は帆船。風を受けて走る船である。
エンジンだと、燃料が尽きれば終わりなので、帆船の方が都合がいいのだ。
風ならば、魔法でいくらでも吹かせるし、速度もエンジン以上に出す自信がある。
なので愛さんに帆船ってありませんか? と尋ねると、父が持っていたはずだと教えてくれた。
愛さんの父は、ホント株式会社会長の本田源十郎。
とても逞しい肉体の持ち主で、見ているだけで暑苦しくなる迷惑極まりないアグレッシブジジイである。
船の為とはいえ、会わないといけないのか。
気が滅入るな、本当に。
別に苦手とかではなく、会長なだけあって社会の荒波に揉まれに揉まれまくった猛者なので、どうにも油断ならないのだ。
一度食事に行っただけの関係ではあるが、事の本質を見抜く目はよく覚えている。
あれは、どれだけ強くなっても手に入る物ではない。長い人生と経験により培われた、本物の力だった。
そんなジジイに、俺の了解も得ずに愛さんが約束を取り付ける。
あっ、今からいいんですね。
そうですか。そっか……今からか……。
せめて一日くらい時間が欲しかったが、仕方ない。愛さんも一緒に来てくれるのだし、悪いようにはならないだろう。
え? 愛さん来ないの?
残念ながら、俺一人で行かなければならないようだ。
こうなったら、さっさと終わらせて帰ろう。
そう決めて部屋を出ようとするのだが、愛さんに呼び止められた。
どうやら、ダンジョンのアイテムを持って行かないのか疑問に思っているようだ。
ここは正直に、俺には必要ないんで全部差し上げます。と告げて、今度こそ会長室に向かった。
源十郎さんとの交渉は、案外簡単に終わった。
帆船くれと要求したら、今度一緒に酒を飲んでくれたら良いぞ、と軽い感じで許可がおりた。
本当にそんなことで良いのか?
そう尋ねても、源十郎さんは当然のように首を縦に振った。
船が保管されている場所まで、車で連れて行ってくれ、そのまま収納空間に入れた。
ありがとうございます、と感謝すると続けて、それじゃあこれで、と別れを告げた。
のだけれど、源十郎さんに呼び止められた。
「待ちなさい、君は船舶免許は持っているのか?」
……何それ?
船の購入や譲渡には、船舶免許なる物が必要だと初めて知った。
手に入れるには、免許を取りに行くしかない。と考えたんだけど、乗るのはダンジョンの中で治外法権だし問題無いだろう。
そう源十郎さんに告げると、
「ダメだ。免許を取って来い」
と拒絶されてしまった。
だけど、俺にはそんな時間は無い。
本当はあるけど、面倒くさいから取りたくない。
でも、取りにいかないと船を手に入れられない。
どうしようかなとネットで船を検索していると、船舶免許の要らない三メートル未満のヨットなる物を発見した。
これで良いじゃん。
セーリング競技という船のレースがあり、これの一人用なら免許も必要無さそうだった。
周囲を見回してみると、都合の良いことに一人用のヨットも隣に用意されていた。
それじゃ、これでも良いですか? と尋ねると、力強く頷くジジイ。
どうやらお気に召したらしい。
サクッと収納空間に取り込んで、じゃあまたと別れを告げる。
飲みに行く機会は、俺の予定がひと段落してからでいいというので、お言葉に甘えさせてもらう。
これまでの探索期間を考えると、恐らく三ヶ月は戻れないだろうから。
その頃には、源十郎さんも忘れているだろう。
なんて淡い期待を抱きながら、再びダンジョンに潜った。




