幕間47② 天津大道
12月25日3下巻発売!
No.4の策略は、見事に叶った。
アフリカでの一件は、世界中で大きく報じられたのだ。
その映像は衝撃的であり、存在を疑われていた鎧の戦士が実在するのだと世界中の人々は知った。
おかげで、その目には希望が宿るようになった。
もちろんそれは、全ての人ではない。それでも、多くの人々には希望と映り、探索者による犯罪は減少し、世界中の治安はわずかながら改善したのだ。
これは、快挙と言っても良い。
そして、これから先も治安が改善するのは決定事項になったのだから。
「何で俺がやらなきゃならないんだよ……」
大道は愚痴を言いながら、会場に向かう。
「やかましい。あそこであんな大立ち回りすりゃ、そりゃ注目もされるってもんだよ」
その隣には、大道の母であり探索者協会会長の天津道世がいた。
「そうかも知れないけどよ。これって俺じゃなくて、田中が求められているんだろ? 俺じゃ務まらないって」
No.4の策は上手く行った。
だが、全てが上手く行った訳ではない。
希望の象徴にしようとした肝心の田中ハルト注目されなかったのだ。
理由は大道がいたから。
田中ハルトが姿を消して直ぐに、街中で戦闘が発生した。
戦っているのは、人を丸呑み出来るほどの凶悪な獅子のモンスターに、かっこいい長剣を持った最強の戦士。
戦いは街を舞台に繰り広げられた。
建物を破壊しながら、ギリギリの攻防が続く。
その様子をドローンで撮影したメディアもあり、戦う姿はリアルタイムで世界中に発信されていた。
探索者同士の戦いは、かつてグラディエーターで放映されていたのもあり人気コンテンツではあったが、所詮は人同士での戦いでしかなかった。
そこに悪も正義もなく、殺し合いという認識すら待てない人が殆どだっただろう。
だが、これは違う。
本物の化け物との命の奪い合い。
誰もが、大道の戦う姿に心を奪われた。
最後は、人々の前での決着という劇的な演出までされたのも大きいだろう。
天津大道という男は、世界中で注目される人物になってしまった。
「何で俺が、外のモンスターまで倒したってことになったんだ? 偏向報道でもされてんのか?」
「事情があるんだよ。マヒトは田中ハルトを表舞台に出したかったようだが、それをされちゃ困る奴らがわんさかいるからね」
「……違う」
「何だい、私が嘘ついているって言いたいのかい?」
「そうじゃない。あれは、マヒトさんじゃなかった。ただのモンスターだ」
「……そうかい」
マヒトに大道を預けたのは道世である。
強くなって欲しいという願いを込めて送り出したのだが、思っていた以上にマヒトを慕うようになっていた。
大道は感じなかったのだろうか?
世樹マヒトの内側に潜む異質な何かを。
そう疑問に思う道世だが、それを口にすることはなかった。
大道の表情は悔しさで満ちており、敵討ちをした者の顔ではなかったからだ。
道世と同じように、大道も何か感じ取っていたのかも知れない。
職員の案内に従い二人は進んで行く。
今いるのは、某国で開かれた国際連合総会の会場。
ここで、ある組織が立ち上げられる。
それは、世界中の探索者を取り締まる組織。
国際探索者監督機関。
この組織は本日立ち上げられ、その長に大道が選ばれたのだ。
聖龍剣は手から離れたとはいえ、その実力はトップクラスであり、昨今の人気を鑑みれば当然の選出といえよう。
それに、制御可能な実力というのも選ばれた理由でもある。
もしも田中ハルトが表舞台に出れば、この組織は必要無かった。
ただ力を示し、世界のどこにでも向かうと言えば、それだけで犯罪は激減するだろう。
なら、田中ハルトが道を間違えたら?
誰が取り締まる? 勝てる奴はいるのか?
田中ハルトが敵対する。それだけで、人類は滅びる可能性がある。
故に、大道が選ばれたのである。
意図的に情報を変更し、あの街を救ったのは大道だとしたのだ。
「ちっ、あいつがそんなことするわけないだろう」
「みんな、知らないから怖いのさ。どれだけの口で言われても、あいつの内面なんて知ったこっちゃないのさ。気になるのは、力を持っているかどうかだけさね」
分かってはいても、大道としては納得いくものではなかった。
というか、やりたくない。
国際探索者監督機関の責任者なんて、面倒くさくてやりたくない。
それが本音である。
あの野郎、俺に押し付けやがって。
大道は、道世にやれと命令された時、真っ先に田中に連絡した。
本来ならお前がやらなきゃいけないんだから、早く名乗り出て要職に付けや、と一生懸命和やかな言葉で伝えたのだ。
しかし、田中ハルトの返答は、
『ああね、はいはい、じゃあ俺忙しいから、そんなのやってる暇ないって。俺に手伝えって? 馬鹿なの? 何でそんなのやらなきゃいけないの?
あはは、ちょっとお前やべーよ。仕事押し付けられるとか、絶対ノーサンキューだって。誰がやりたがるんだよ? あっ大道か! やっべ、めっちゃ笑えるわ』
助走付けて殴り倒しに行きたくなった。
今思い出してもムカつくレベルだ。
「大道、その怒り鎮めな。周りが引いてるよ」
「あっ悪い」
ムカついて、怒気が溢れ出てしまった。おかげで、すれ違う人達が萎縮してしまっている。
失敗した。それもこれも田中ハルトのせいである。
この国際探索者監督機関が立ち上がったのも、世界が良い方向に変わろうとしているのも、人々に生きる希望を与えられたのも、きっと田中のせいだ。
「ふう、俺も負けてられないな」
「何ぶつぶつ言ってんだい。みんな待ってるよ」
到着した部屋には、日本の探索者監督署を主軸とした各国の探索者が揃っていた。その中には黒一達の姿もあり、いつも通りの胡散臭い笑みを浮かべていた。
こいつはこき使ってやろう。
そう決意して、大道は皆の前に立った。
マヒト編はこれにて終了。
次から勘兵衛編。これで本編完結となります。
もうしばらくお付き合いください。




