ダンジョン攻略22
12月25日3下巻発売!
街を覆うモンスターを蹴散らして行く。
はっきり言って、このモンスター達は弱い。
だがそれは、俺にとっての話で、街の人達からしたら、たった一体でも街を壊滅させてしまえるだけの力を持った化け物達だ。
ホブゴブリンが魔法を使い街を狙ったので、魔力の波を起こして魔法と周囲一帯のモンスターを破壊する。
これだけでも、モンスターを全滅させることは出来るのだが、如何せん数が多い。しかも、街に到着させたら多くの人が犠牲になるというクソ仕様だ。
だったらと、高火力の魔法で一気に決着を決めたいが、その余波は間違いなく街を破壊するだろう。
ったく、自分の力強さが恨めしいぜ。
もう、地道に始末して回るしかないなと覚悟を決めて、俺は加速する。
途中から、街で二号と大道が暴れていたが、どうにも様子がおかしい。
二人が戦うのは何となく予想は出来た。
大道は二号の弟子で、今も尊敬しているという。
もしも、二号が狂気に呑まれているのなら、終わらせてやりたいと思うのは当然なのだろう。
だから渋々、長剣を貸した。
というか、押し負けた。
毎朝毎晩、俺の部屋に来ては「長剣貸してくれ」とアタックして来るのだ。俺がトイレに入っているのも気にせずお願いしに来るので、もういいや、テメーの好きにしろ! と渡してしまった。
もうね、おっさんから迫られる恐怖って、恐ろしい通り越して悍ましいね。
一応、二号とは戦うなとは言っておいたが、無理だろうなとも思っていた。せめて、俺が到着するまで持ってくれたらと思っていたのだけれど、何かがおかしい。
二人が対等に戦えている。
俺の見立てだと、二号が圧倒的に強いはずなのだが、大道は互角に渡り合っている。
というか、明らかに二号が弱っている。
どういうことだ?
今すぐにでも二人の所に行きたいが、まだモンスター達は残っている。
……仕方ない。
街から離れた場所に移動すると、あるスキルを発動する。
このスキルを使うのは、まだ慣れていない。
下手したら力が暴走して、街ごと滅ぼしてしまうかも知れない。そんな凶悪な力を秘めていた。
「森羅万象」
限界突破の全能感とは違った、世界に溶け込むような感覚。
全てを見透せるようになり、全てを意のままに操れるのではないかと錯覚しそうになる。
この感覚の中で、あることを知る。
二号が、世樹マヒトの魂が、もう無くなっている。
今、二号の体を動かしているのは、二号がNo.4と呼んでいたあの化け物だ。
何故、こいつがこんなことをやったのか、そんなの知りたくもなかったが、このクソみたいなスキルのおかげで、No.4の思いが感情が願いが流れ込んで来た。
ったく、ふざけんなよ。
全部俺に任せやがって、こちとら神様じゃねーんだよ。
人々に平穏をってな、そんなこと俺が出来るわけねーだろ。
No.4の魂は、もう消えかけていた。それこそ、今二号の肉体を動かせているのが奇跡と言ってもいいほどだ。
そんな限界状態のNo.4は、黒一に動きを封じられて、大道に斬られた。
途端にNo.4の命は霧散して、魂が無へと帰ってしまう。
それでも、No.4は満足していた。
人々の目に希望の光が宿ったのを見て、満足して逝った。
くそ……。
後味の悪さに苛立ち、俺は力を行使する。
全てのモンスターを捕捉し、ただ押し潰す。
衝撃で地震が起き、モンスターの亡骸から急速に緑が生えて来る。地割れした所からは水が溢れ出して、溝に沿って水が流れて窪地が池になる。
これは俺の力の制御が甘いから、余波でこのような惨状を巻き起こしてしまった。
というか、スキルが制限されていなけりゃ、これも使う必要はなかったんだがな。いつ外れるんだよ、この腕輪。
ふう……。
息を吐きながら力を解除すると、急激な立ちくらみに襲われてしまう。
軽い頭痛を治癒魔法で抑えて、俺は大道の元に向かった。
ーーー
獅子の獣の姿で亡くなっているNo4。
二号の姿に戻ることも可能だったんだろうが、あくまでもモンスターとしての死を選びやがった。
大道がイルミンスールの杖を持って近付いて来る。
ん? ああ杖ね、あんがと。
二号が死んでたの知ってたのかって?
知らねーよ。何だかんだで、こいつの中で生きてんじゃないかって思ってたんだけどな……。
こいつは何がやりたかったんだって?
知らね、もう死んじまってんだからもういいだろう。
少なくとも、こいつの死には意味がある。
森羅万象で感じ取った物は、No.4の思いだけじゃない。多くの人の思いにも触れてしまい、この戦いに希望を見出した人も確かにいた。
こいつが命を懸けた行いを、俺は否定することは出来ない。
ただな、俺を巻き込むなボケ。
俺はNo.4の遺体を収納空間に入れながら、そう呟いた。
これくらいの文句は言ってもいいだろう?
その後、壊れた街の復旧に駆り出された。
壊したの大道だろうがと思わないでもないが、まあ手伝ってやろう。
んで黒一だが、いつの間にか消えていた。
きっと何かやっているんだろう。仲間がどうのとか言っていたし、たぶんそっち方面だと思う。
一応、あの探索者達が操られていたというのは伝えているけれど、どうするのかは知らん。
えっ水? ああ、あんがと。
街の外で奇跡が起きてるって?
そうなんだ、良かったな。
あの戦っていた人誰って?
それはな、あそこで瓦礫を撤去しているおっちゃんだ。お礼言っとけよ。
そう水を差し入れしてくれた子供に告げると、大道の元に行ってしまった。
大道は言葉が分かっていないのか、子供の言葉に適当に相槌を打っていた。でも、それがいけなかったようだ。周りから続々と人が集まって囲まれてしまう。
投げ掛ける言葉は、感謝の言葉。
皆が笑顔で、助けてくれてありがとうと感謝していた。
うん、何かいろいろ間違えたね。
でも、まっいっか。
面倒ごとは、全部大道に引き受けてもらおう。
そうしようそうしようと頷きながら、俺はその場を離れた。
No.4と大道が暴れてくれたおかげで、街の中心地は散々な状態になっている。
人々は瓦礫の撤去に追われており、とても大変な状況に陥っている。少しでも力になればと手伝いに向かうと、俺を知らない奴でも構わずに受け入れてくれた。それだけ、人の手が必要なのだ。
でも、これだけの惨状なのに、街の人達の顔に絶望は無い。それこそ、ここに来た時よりも良くなっているくらいだ。
そんな彼らとも別れて、俺は街を抜けて丘にある朽ちた教会に向かう。
時刻は十八時近くというのもあり、空が暗くなり始めていた。廃墟の教会に明かりは無く、薄暗い中を乾いた風だけが吹いていた。
教会から見える景色は、街の広範囲が見渡せる。
昨日まで何も無かった所に緑が溢れており、そこに水を汲みに行く人々の姿が見える。
とても役に立っているようだが、そこはモンスターが死んだ所なんだよな。なんて、どうでもいいことを考えてしまう。
街に灯りが点き始め、ただぼうっとその景色を見てしまう。
イルミンスールの杖を取り出して、何となく隣にぶっ刺す。
何すんじゃい! という抗議の意思が飛んで来るが、そんなの無視だ。
なあ、何でNo.4に力を貸したんだ?
そう問い掛けるとイルミンスールから、
『弟みたいな奴からのお願いだったしね、最後くらい聞いて上げたかったのよ……』
と、寂しそうに教えてくれた。
そうか……。
それ以上何も言わずに、街を眺める。
この景色をNo.4は守りたがっていた。
人々に、生きる希望を抱いて欲しいと、純粋な思いを抱いていた。
もしも二号の感情が正常だったら、同じように行動していたかも知れない。
あの底抜けでお人好しな二号が?
……いや、無いな。
あいつはそんなことしない。
あいつなら、ミンスール教会の力を使って、多くを信者にして洗脳して行ったはずだ。
そう、きっとそうする。
あいつはお人好しに見せ掛けて、腹黒い所もあるからな。
そうだそうだ……。
また、ぼうっと景色を見る。
街の明かりと空に輝く星々がとても美しく見える。この景色をあいつは守りたかったんだろうなって、また何となく思う。
乾いた風が頬を撫でる。
二号が死んだのか……。
ぽつりと呟いたら、いらん実感が湧いて来てしまった。
今はただ。
そう、ただ、二号のことを思っていたかった。




