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無職は今日も今日とて迷宮に潜る【3巻下巻12/25出ます!】【1巻重版決定!】  作者: ハマ
8.ネオユートピア

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360/373

ダンジョン攻略21

12月25日3下巻発売します!!

 顔を合わせると、二号は直ぐに消えてしまった。


 遠くに転移されてしまい、追い掛けるのは無理。どうやっているのか、魔力の痕跡も消しているので、追跡も不可能だった。


 それでも、この街にいるのは確定した。

 あとはどこにいるのか探すだけなのだが、一週間探し回っても見つけられなかった。


 そう、一週間だ。

 それだけの期間いたのに、何の成果も上げられなかった。連れ去られたという黒一の仲間も、裏切ったという探索者もいなかった。その上、二号からのアクションも何も無かった。


 調査をして、子供の怪我を治して、病人を完治させて、観光して、調査して、食糧配って、みんなで飲んで騒いで、調査する。

 そんな静かな時間だけが過ぎて行く。

 

 この間に、街から出て行った人達が戻って来る。それに加えて、海外のジャーナリストっぽい人達まで続々と集まっていた。


 何しに来たんだこいつら?

 そう思って尋ねると、この街に出現する化け物の調査に来たのだという。それに、治安が良くなった街と比べて、治安が悪化したこの街との比較も含まれているそうな。


 彼らがここにいられるとやり難い。

 二号が何か仕掛けて来たら、彼らを庇える自信が無い。

 なので、危ないから帰ってくれと追い返そうとしたのだけれど、邪魔するならその顔ばら撒くぞと脅されて、泣く泣く撤退した。


 ◯ねばいいのに。


 ジャーナリスト達は化け物を求めて、彼方此方取材を行っている。

 もしも襲われたとしても、絶対助けてやらん。

 俺を脅した罪は風船よりも重い。


 気を取り直して調査していると、早速強盗に襲われている奴らがいた。


 ほら、だから帰れって言っただろうが。

 いいっていいってお礼なんて、次からは気を付けろよ。

 ん、なに?

 助けないんじゃなかったのかって?

 馬鹿野郎! あの人達はな! 世界中に俺達の顔を拡散する力を持っているんだぞ! 助けなかったら、悪者として世界に晒されるんだぞ! 助けないなんて選択肢は、最初っからないんだよ!


 総司が呆れた顔で見て来るが、こいつは情報の怖さを知らんのか?


 探索者だからってな、悪評流されたら社会的に死ぬんだよ。いざという時、働き口が無くなるんだよ! いつまでも探索者やっていられると思うなよこの野郎。


 そう力説すると、総司から、


「そこから一番遠いあんたが言うのか?」


 と呆れを通り越して、諦めの境地に至った顔をしていた。




---



 俺は、二号が何をしたいのか理解していない。

 俺だけでなく、ここにいるみんな理解していない。

 そもそも、人格が変わっているのだから、その考え方も変わっているだろうから分かるはずもない。


 ジャーナリスト達がやって来た翌日の朝、事態は動いた。


 突然、街の外に多くの気配が現れたのだ。


 なんだ?

 立ち上がり気配を探ると、それがモンスターのものだと気が付く。


 大道と目が合う。

 ちょっくら行って確かめて来ると告げると、俺は空に上がり何が起こっているのか確認して、顔を顰める。


 街を囲うように、モンスターが姿を現して行く。

 だが、全て弱いモンスター達だ。

 精々30階までに生息しているモンスターで、麻布先生はともかく、他の奴らからしたら脅威にもならない。


 でも、その数がえげつない。


 千を超えて万を超え、この街の人口を余裕で超える数のモンスターが集まっているようだった。


 まさか、ダンジョンによる侵食がこの段階まできたのか?

 そう嫌な予感がして、息を呑んでしまう。だけど、それは杞憂だった。モンスターは動かず、明らかに何者かに操られているからだ。

 それに、女性が何かを割って、モンスターを出現させているのも見えた。


 あれは敵だ。

 たとえ人でも、これは駄目だろう!


 女性を止める為、風属性魔法を操り襲撃する。

 しかし、間に入った探索者によって阻まれてしまう。


 街への被害を意識して放った魔法だが、まさか防がれるとは思わなかった。

 それだけ強い探索者だ。


 恐らく、奴らは黒一が言っていた裏切り者だろう。


 ならばと、収納空間から土を取り出して地属性魔法を使い、石の槍を作り上げる。


 殺すつもりはない。

 だが、大怪我くらいは負ってもらう。


 狙いを振り絞る。


 それを真下に向け、迫る二号に放った。

 石の槍は二号の獣の腕に当たるが、傷も与えられずに砕け散る。


 瞬間、全身を獅子の獣に姿を変える二号。


 いつか見た景色だな。

 そんな呑気なことを考えながら、守護獣の鎧を纏い、不屈の大剣を取り出して迎え討つ。


 凶悪な牙を剥き出しにして迫って来る。

 その口を切り裂いてやろうと、不屈の大剣で横薙ぎにするが、突然口が閉じられ捕まってしまった。


 何がしたいんだ?


 意味の分からない行動を訝しみながらも、その腹に向かって幾つもの風の刃を放ち切り刻む。

 負傷して口から血を流しているが、二号は不屈の大剣から口を離す気は無いようだ。

 それどころか、更に力を込めており本気で折ろうとしているように見える。


 だが、それは不可能だ。

 そのはずなのに、こいつが何の策も無しに来ているとは思えなかった。


 俺は、収納空間からイルミンスールの杖を取り出し、二号の頭部に向ける。


 離さなければ、その頭を吹き飛ばす。

 そう脅しを掛けるのだが、まるで気にした様子は無い。それどころか、こちらに向かって来ようとさえしていた。


 残念だと、俺は光属性魔法を放つ。


 強烈な光はレーザーとなり、獅子の頭部を消し飛ばした。


 馬鹿野郎が……。


 殺した。

 二号を殺した。

 モンスターと認識してしまっていても、人格が変わったとしても、こいつは二号だ。

 友人で、弟子だった奴を、俺は殺してしまった。


 落下する獅子の体から、俺は視線を逸らしてしまう。


 油断していた。

 この手で殺してしまったと思い、意識を逸らしてしまった。


 遺体は、俺が意識を逸らしたタイミングで落下するのを止め、一気に加速して迫って来る。その速度はこれまでよりも速く、完全に意表を突かれてしまった。


 気付いた時には間近に迫っており、防御するしかなかった。

 右手に不屈の大剣を持ち、左手にイルミンスールの杖で攻撃を受け止めようとした。


 それが失敗だった。


 イルミンスールの杖が奪われてしまったのだ。


 空中を蹴って、俺から離れて行く二号。

 その体は、獅子から人へと変わって行き、俺を見て満面の笑みを浮かべていた。


 ……やりやがったなこの野郎⁉︎


 二号にしてやられた悔しさと、生きていたという安堵が入り混じって、何とも言えない気持ちになる。

 ただ、恥ずかしいのは確かで、鎧の中の俺はきっと赤面しているだろう。


 リミットブレイクを使い、二号を追う。


 何がしたいのか知らんが、返せや俺の杖‼︎


 怒鳴りながら追っていると、二号は杖と会話をしているように見えた。


 対話は直ぐに終わったのか、地上に向かってイルミンスールの杖を振る。


 杖から光が生まれ、恵みの力となって降り注ぐ。

 それは不毛な大地を緑に変え、生命で溢れた世界に変える力。

 そして、モンスターを進化させる力でもある。


「っ⁉︎ リミットブレイク・バースト!」


 加速して二号に迫る。

 しかし、転移魔法を使われてしまい逃げられてしまった。


 まずいまずいまずい⁉︎⁉︎


 一段階、上位種に進化するモンスター達。

 ゴブリンはホブゴブリンに、オークはハイオークに、トレントは名前は知らんが強力な個体に変わっている。

 凶悪に進化したモンスター達。


 黒一や大道、それに総司なら問題なく倒せるだろう。


 それでも、この街の人達を守ることは出来ない。


 焦る気持ちを必死に落ち着けて、地上に降り立つ。


 あいつらがモンスターの制御が出来ているのなら、俺はこんなに焦らなかっただろう。


 残念ながら、進化したモンスター達は制御を外れ、ただ人を襲うだけの存在になってしまっていた。


 全てを殺せるか?

 ここから街に到達されるまでに、こいつらを殺し切れるか?

 壁を作り出して、街への侵入を塞ぐ?

 いや無理だ。スキルが封印されている状態じゃ、街を覆うだけの規模の魔法は使えない!


 背後から絶望の悲鳴が上がる。

 大勢がこの異常事態に気付いて怯えているんだ。


 ああ、ちくしょう〜。

 ここにオクタン君が居てくれたら、ハイオークを説得してくれたんだろうなぁ。


 なんて下らない冗談を考えながら、やってやるかと気合いを入れた。

18時幕間投稿。


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― 新着の感想 ―
強くなりすぎて思い切りやれなくなってしまったか…
これは田中君さんが、世紀末ヒャッハー衣装に換装して、イケハイオークとして、野良ハイオークを率いる流れか?wktk
なんだか話の展開のためにいいようにやられる感じ 今までのハルトと地続きな感じがしない
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