ダンジョン攻略21
12月25日3下巻発売します!!
顔を合わせると、二号は直ぐに消えてしまった。
遠くに転移されてしまい、追い掛けるのは無理。どうやっているのか、魔力の痕跡も消しているので、追跡も不可能だった。
それでも、この街にいるのは確定した。
あとはどこにいるのか探すだけなのだが、一週間探し回っても見つけられなかった。
そう、一週間だ。
それだけの期間いたのに、何の成果も上げられなかった。連れ去られたという黒一の仲間も、裏切ったという探索者もいなかった。その上、二号からのアクションも何も無かった。
調査をして、子供の怪我を治して、病人を完治させて、観光して、調査して、食糧配って、みんなで飲んで騒いで、調査する。
そんな静かな時間だけが過ぎて行く。
この間に、街から出て行った人達が戻って来る。それに加えて、海外のジャーナリストっぽい人達まで続々と集まっていた。
何しに来たんだこいつら?
そう思って尋ねると、この街に出現する化け物の調査に来たのだという。それに、治安が良くなった街と比べて、治安が悪化したこの街との比較も含まれているそうな。
彼らがここにいられるとやり難い。
二号が何か仕掛けて来たら、彼らを庇える自信が無い。
なので、危ないから帰ってくれと追い返そうとしたのだけれど、邪魔するならその顔ばら撒くぞと脅されて、泣く泣く撤退した。
◯ねばいいのに。
ジャーナリスト達は化け物を求めて、彼方此方取材を行っている。
もしも襲われたとしても、絶対助けてやらん。
俺を脅した罪は風船よりも重い。
気を取り直して調査していると、早速強盗に襲われている奴らがいた。
ほら、だから帰れって言っただろうが。
いいっていいってお礼なんて、次からは気を付けろよ。
ん、なに?
助けないんじゃなかったのかって?
馬鹿野郎! あの人達はな! 世界中に俺達の顔を拡散する力を持っているんだぞ! 助けなかったら、悪者として世界に晒されるんだぞ! 助けないなんて選択肢は、最初っからないんだよ!
総司が呆れた顔で見て来るが、こいつは情報の怖さを知らんのか?
探索者だからってな、悪評流されたら社会的に死ぬんだよ。いざという時、働き口が無くなるんだよ! いつまでも探索者やっていられると思うなよこの野郎。
そう力説すると、総司から、
「そこから一番遠いあんたが言うのか?」
と呆れを通り越して、諦めの境地に至った顔をしていた。
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俺は、二号が何をしたいのか理解していない。
俺だけでなく、ここにいるみんな理解していない。
そもそも、人格が変わっているのだから、その考え方も変わっているだろうから分かるはずもない。
ジャーナリスト達がやって来た翌日の朝、事態は動いた。
突然、街の外に多くの気配が現れたのだ。
なんだ?
立ち上がり気配を探ると、それがモンスターのものだと気が付く。
大道と目が合う。
ちょっくら行って確かめて来ると告げると、俺は空に上がり何が起こっているのか確認して、顔を顰める。
街を囲うように、モンスターが姿を現して行く。
だが、全て弱いモンスター達だ。
精々30階までに生息しているモンスターで、麻布先生はともかく、他の奴らからしたら脅威にもならない。
でも、その数がえげつない。
千を超えて万を超え、この街の人口を余裕で超える数のモンスターが集まっているようだった。
まさか、ダンジョンによる侵食がこの段階まできたのか?
そう嫌な予感がして、息を呑んでしまう。だけど、それは杞憂だった。モンスターは動かず、明らかに何者かに操られているからだ。
それに、女性が何かを割って、モンスターを出現させているのも見えた。
あれは敵だ。
たとえ人でも、これは駄目だろう!
女性を止める為、風属性魔法を操り襲撃する。
しかし、間に入った探索者によって阻まれてしまう。
街への被害を意識して放った魔法だが、まさか防がれるとは思わなかった。
それだけ強い探索者だ。
恐らく、奴らは黒一が言っていた裏切り者だろう。
ならばと、収納空間から土を取り出して地属性魔法を使い、石の槍を作り上げる。
殺すつもりはない。
だが、大怪我くらいは負ってもらう。
狙いを振り絞る。
それを真下に向け、迫る二号に放った。
石の槍は二号の獣の腕に当たるが、傷も与えられずに砕け散る。
瞬間、全身を獅子の獣に姿を変える二号。
いつか見た景色だな。
そんな呑気なことを考えながら、守護獣の鎧を纏い、不屈の大剣を取り出して迎え討つ。
凶悪な牙を剥き出しにして迫って来る。
その口を切り裂いてやろうと、不屈の大剣で横薙ぎにするが、突然口が閉じられ捕まってしまった。
何がしたいんだ?
意味の分からない行動を訝しみながらも、その腹に向かって幾つもの風の刃を放ち切り刻む。
負傷して口から血を流しているが、二号は不屈の大剣から口を離す気は無いようだ。
それどころか、更に力を込めており本気で折ろうとしているように見える。
だが、それは不可能だ。
そのはずなのに、こいつが何の策も無しに来ているとは思えなかった。
俺は、収納空間からイルミンスールの杖を取り出し、二号の頭部に向ける。
離さなければ、その頭を吹き飛ばす。
そう脅しを掛けるのだが、まるで気にした様子は無い。それどころか、こちらに向かって来ようとさえしていた。
残念だと、俺は光属性魔法を放つ。
強烈な光はレーザーとなり、獅子の頭部を消し飛ばした。
馬鹿野郎が……。
殺した。
二号を殺した。
モンスターと認識してしまっていても、人格が変わったとしても、こいつは二号だ。
友人で、弟子だった奴を、俺は殺してしまった。
落下する獅子の体から、俺は視線を逸らしてしまう。
油断していた。
この手で殺してしまったと思い、意識を逸らしてしまった。
遺体は、俺が意識を逸らしたタイミングで落下するのを止め、一気に加速して迫って来る。その速度はこれまでよりも速く、完全に意表を突かれてしまった。
気付いた時には間近に迫っており、防御するしかなかった。
右手に不屈の大剣を持ち、左手にイルミンスールの杖で攻撃を受け止めようとした。
それが失敗だった。
イルミンスールの杖が奪われてしまったのだ。
空中を蹴って、俺から離れて行く二号。
その体は、獅子から人へと変わって行き、俺を見て満面の笑みを浮かべていた。
……やりやがったなこの野郎⁉︎
二号にしてやられた悔しさと、生きていたという安堵が入り混じって、何とも言えない気持ちになる。
ただ、恥ずかしいのは確かで、鎧の中の俺はきっと赤面しているだろう。
リミットブレイクを使い、二号を追う。
何がしたいのか知らんが、返せや俺の杖‼︎
怒鳴りながら追っていると、二号は杖と会話をしているように見えた。
対話は直ぐに終わったのか、地上に向かってイルミンスールの杖を振る。
杖から光が生まれ、恵みの力となって降り注ぐ。
それは不毛な大地を緑に変え、生命で溢れた世界に変える力。
そして、モンスターを進化させる力でもある。
「っ⁉︎ リミットブレイク・バースト!」
加速して二号に迫る。
しかし、転移魔法を使われてしまい逃げられてしまった。
まずいまずいまずい⁉︎⁉︎
一段階、上位種に進化するモンスター達。
ゴブリンはホブゴブリンに、オークはハイオークに、トレントは名前は知らんが強力な個体に変わっている。
凶悪に進化したモンスター達。
黒一や大道、それに総司なら問題なく倒せるだろう。
それでも、この街の人達を守ることは出来ない。
焦る気持ちを必死に落ち着けて、地上に降り立つ。
あいつらがモンスターの制御が出来ているのなら、俺はこんなに焦らなかっただろう。
残念ながら、進化したモンスター達は制御を外れ、ただ人を襲うだけの存在になってしまっていた。
全てを殺せるか?
ここから街に到達されるまでに、こいつらを殺し切れるか?
壁を作り出して、街への侵入を塞ぐ?
いや無理だ。スキルが封印されている状態じゃ、街を覆うだけの規模の魔法は使えない!
背後から絶望の悲鳴が上がる。
大勢がこの異常事態に気付いて怯えているんだ。
ああ、ちくしょう〜。
ここにオクタン君が居てくれたら、ハイオークを説得してくれたんだろうなぁ。
なんて下らない冗談を考えながら、やってやるかと気合いを入れた。
18時幕間投稿。




