ダンジョン攻略20
12月25日3下巻発売‼︎
二号の襲撃を受けたあとは大変だった。
混乱した奴らは、あの化け物を俺達が連れて来たんだと責め立てた。
カメラを持った奴らも、何が面白いのか俺達を撮り続ける。
俺は鎧で顔を隠せていたからいいが、他の奴らは顔を見られて大変だろうな。なんて鼻をほじりながら呑気に思っていた。
結局俺達は、この街から追い出される。
まあ仕方ない。
俺達が誘き寄せたっていうのは、あながち間違いじゃないからな。
急いで車に乗り込むと、麻布先生が尋ねて来る。
え? あの化け物は何なんだって?
……あれが、今回のターゲットです。
いやいや、冗談じゃないですって。
一応、人です。
えっなに? 魔人化しているのかだって?
違う違う、それとは別ですって。多分、自信はないけど。あれは、そういうのじゃない気がするんすよ。
言ってて無理があるなと思った。
あの時の二号は、本気で無関係の人達を殺すつもりだった。
だから戸惑った。
人格が乗っ取られていたとしても、あいつは二号だ。無差別に人を殺すような真似をやるような奴じゃない。
確かに、救う価値があるか自分の目で確かめると言っていたけど、わざわざ俺がいるタイミングでする必要は無いはずだ。
あー意味分かんねー!
あいつ、何がやりてーんだよ!
ミューレの話だと、人類救うとか言ってたから安心してたのにこれだよ。
殺すんなら、俺がいない所でやれよボケ!
守りながら戦うのって、すげー苦手だっつーの!
あの時、二号を即座に殺せば被害を出さずに収められた。
それでも、どういう意図があってこんなことをしているのか問い質したくて躊躇してしまった。
……いや、これは言い訳だ。
俺は、あれが二号だと理解しても殺すのに迷いが無かった。
腕を斬った瞬間に燃え広がらなければ、恐らくそのまま殺していた。
だから戸惑ってしまった。
俺はあいつを、二号を、ただのモンスターだと認識してしまっている。
次に会えば、問答無用で殺してしまうかも知れない。
そんな俺が、どうしようもなく嫌だった。
暗闇の中、車のヘッドライトだけが前方を照らして走って行く。日本のように街灯は無く、ただ道だけ照らして進んで行く。
こんな風景を見ていると、思考が悪い方向に傾いてしまって、最悪な想像をしてしまう。
この思考が二号による洗脳だったらどんなに良かっただろう。そんな下らない期待をしても、無駄なのは分かっている。俺の体に流れる魔力は、大抵の洗脳する力を弾いてしまう。
あんな感染する程度の洗脳じゃ俺には届かない。
……くそ。
この先、俺は二号を殺す。
誰よりも優しかったあいつを殺してしまう。
くそ……。
俺は悪態を吐くと、あの日々を思い出すように目を閉じた。
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多くの車両が走って行く。
車の無い人々は、荷物を背に街から逃げるように歩いて行く。
人々は恐怖しているのか、時折背後を確認しているようだった。
その視線の先には、俺達が向かう街があるのだけれど、これに二号は関わっているのだろうか?
だとしたら、俺達を待ち構えている可能性が高い。
嫌な予感を覚えながらも、俺達は目的の街に到着した。
この街には大きな建物は少なく、戸建てで埋め尽くされていた。小高い丘には何かの教会らしき物があるが、屋根が壊されているようで、廃墟と化していた。
前にいた街と比べて、この街は完全に活気を失っている。
あれだけの人達がこの街を離れたのだから、この閑散とした街並みも納得の行くものだった。
それでも、多少は人も残っており、家屋に侵入して物資を漁っているようだった。
完全に泥棒だわありゃ。
とはいえ、俺はこの国の法律を知らない。もしかしたら、合法の可能性もあるので、無視するのが一番だろう。
そう思っていたのだけれど、泥棒の人数が増えていき俺達を囲んだ。
泥棒達は拳銃を手に、全部置いてけと脅して来る。
いつもなら黒一が威嚇して追い払っているが、今回は趣向を変えたようである。
総司が不可視の力を使って全員捕えると、黒一が男の一人から尋問を始めた。
どうして人が出て行ったのか?
ここで何が起こっているのか?
この男達を見なかったかと、写真を見せながら尋問していた。
つーか、黒一ってこの国の言葉喋れるんだな。
なんだか負けたような気がして、ムカついた。
黒一の質問に泥棒は答える。
この街に化け物が現れるようになり、人々は怯えて暮らしていた。
その怯えを助長するかのように、この街を仕切っていた勢力の人の生首が、道端に晒されていたそうな。
更に次の日には、刑務所で暮らしていた囚人の半数が首を刎ねられていた。更に翌日には、残りの全員がやられた。そして先日、一般人まで殺されたそうだ。
事態を受けて、次は自分かも知れないと怯えた住人が、この街を去って行ったという。
残ったのは、体が不自由な人とその家族、ここで最後を迎えたいと願った人、ここ以外行き場の無い人達。それから、化け物を信じていない連中や、危機感の足りない奴らだ。
それで言うと、こいつらは後者だろう。
んで写真の男だが、残念ながら二号のことは見ていないらしい。
黒一は、泥棒達にたっぷりと脅しを掛けたあと解放した。
その姿はまるで、死に掛けた腹いせに八つ当たりしているようにも見えた。
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この街に到着して、丸一日が経った。
残っている人達は案外多いようで、通常通り店を開いている人達もいた。
だが活気は無く、出歩く人達は怯えている。
俺達が泊まっているホテルは、ほとんど従業員がおらず清掃も行われていない。
風を操って、埃だけでも外に追い出しているが、ダニとかの虫はどうしようもない。だから、部屋だけを借りて、みんな探索で使っている寝具を使用していた。
なあ、昨日も思ってだんだけど、お前のそれ豪華過ぎない?
へー、その寝袋って五千万もしたんだ。
ちょっと貸してみ。
嫌って? おいおい、俺とお前の仲だろう?
前に酒奢ってやったじゃねーか。
え? 奢られてないって? 寧ろ、お前に奢っただろうがって?
そうだっけ?
まあいいじゃん、一回だけだって。
試してみるだけだからさー。
って、うわ臭っ⁉︎ えっ臭っ⁉︎
ちょっ⁉︎ 何でこんなに臭いんだよ!
言い過ぎだろって?
いやいや、おまっ、これは臭過ぎるって!
洗濯してる⁉︎ つーか大道、風呂入ってる⁉︎ なんか黄ばんでるんですけど⁉︎
やべー物直に触っちまった。
よく見たら、フケみたいな物まで付いているし、バッチさ百点満点のような寝具だ。
こんなので寝てたら、病気になるわ!
洗ってこい馬鹿野郎! と収納空間から液体洗剤とスポンジを取り出して、大道を部屋から追い出した。
マジで無理。
あんなに汚いって知ってたら、絶対に近付かなかった。ていうか、夜の虫ってこの地域の種類じゃなくて、大道の寝具から発生した物じゃないだろうな。
うえ〜。
何もしないで戻って来たら、遥か遠くに吹き飛ばしたろ。
そう決意していると、遠くから見られている感覚を覚える。
急いで窓を開けると、風属性魔法を操り空を駆けた。
しかし、視線を感じた方向には何も無く。
代わりに、俺達が泊まっているホテルに向かって魔法が放たれた。
ちっ!
弾丸のように加速してホテルに戻ると、落下する巨大な火球に向かって手を叩いた。
パン! と鳴ると魔力の波が発生して、火球に向かって行く。
波は魔法をただの魔力へと変換、全てを打ち消し無効化する。
ふぅと一息つくと、魔法を放った馬鹿野郎を見る。
ようと声を掛けると、笑みを浮かべて手を振ってくれた。
二号の姿は、懐かしいあの森の日々を教えてくれる。
それなのに、俺はこいつを人間と認識出来ていない。
それが、無性に悔しかった。




