ダンジョン攻略19
12月25日 3下巻発売されます!
街外れにダンジョンがあるというので、一旦そこに向かうことになった。
ダンジョン前には警備員が立っており、中に入ろうとする人を検査していた。
検査の内容は、しっかりと装備をしているかと、ちゃんと仲間はいるかというのを確認しているようだった。
大半の人は装備も碌に無いようで、その場で弾かれている。
そりゃそうだろう。
何の装備もなくダンジョンに挑めば、大半が死んでしまう。ツノウサギに串刺しにされて終わるか、その先の痺れ蛾に殺される。行ってもゴブリンまでだろうな。
こう考えると、警備員を置くという選択は正しい。
それに、弾かれた人達には最低限の装備が支給されている。その傍らでは、装備の付け方を教わっており、パーティの紹介もやっているようだった。
黒一達は通訳を連れて警備員の下に向かい、話を聞きに行っている。
俺と大道は取り残されて、辺りを眺めてぼうっとしていた。
ん? なに?
俺だったらこういうこと出来るかだって?
こういうことって、人助けってことか?
馬鹿野郎、俺が出来るわけないだろうが!
これ、人の上に立つだけじゃなくて、人心掌握してんぞ。
もうこれ、全員洗脳してるって言ってくれた方が信じられるからね。
総司の話が本当なら、この街は劇的に治安が回復している。
武力を持った奴らは治安維持に徹しており、人々の平穏を守っている。食糧事情もダンジョンから採れるオークや薬草類で改善されており、飢えに苦しむ人もいずれいなくなるだろう。
こんなの、俺が出来るわけがない。
やれるとしたら、武装した奴らを殴り飛ばして目の前の命を救うくらいだ。
大勢に、未来のある安心した暮らしなんて提供出来るはずがない。
大道と話をしていると、視線を感じた。
周りから注目を浴びていたが、この視線はまったくの別物だった。
遠く、ここからでは見えないほど遠い場所から見られている。
挨拶代わりなのだろう、一本の炎の槍が上空から降って来る。
俺は石の槍を作り出すと、炎の槍に向かって投擲する。
上空で二本の槍は衝突して、まるで大きな花火のように美しく弾けた。
まるで、俺達の到着を歓迎したかのような粋な演出だ。
まったく、何がしたいんだあいつは。
消える視線と気配を感じながら、俺はため息を吐いた。
ーーー
黒一が仕入れた情報では、二号はもうこの街を離れており、次の街に向かったのだそうだ。
距離はそこまで離れておらず、今から向かえば今日中に到着出来そうだったが、ここで一泊することが決まった。
夜はうん、虫が多くて寝づらかった。
虫程度に刺されるほど、俺の肌は軟弱ではないのだけれど、耳元で鳴る虫の羽音が鬱陶しかった。
なに? 探索で使う寝袋は持って来てないのかだって?
そんな物使うか、いつでも動けるようにフル装備で寝とるわい。
それでよく探索出来るなって?
馬鹿野郎、眠れるなら俺だって寝とるわ!
一人で潜ってたら、自然と身に付いたんだよ。言わせんな、虚しくなるだろうが。
一応、フウマっていう役立たずの召喚獣はいるが、俺が寝たらあいつも寝ようとするので、交代で見張りなんて出来ない。
おかげで、短時間の浅い眠りである程度回復できるようになってしまった。それに、ここ数ヶ月は一人でダンジョン探索をしているので、それが当たり前になってしまっている。
優秀な召喚獣が欲しい、切実に。
なんて寝苦しい夜を過ごしていると、大道が話し掛けて来る。
昼間の魔法?
ああ、間違いなく2号の奴だな。
あんなの着弾したら、あそこにいた奴らは死んでただろうな。
あの魔法はそれだけ凶悪だった。
あれは宣戦布告なのかって?
知らね。
俺が防ぐのを見越してだったから、ただの挨拶じゃね?
え、長剣を貸してくれって?
嫌だ。大道があれ持ってても二号には勝てないって。諦めて、俺に任せとけって。
それでも? いや、頼むって言われてもなー。
正直、ト太郎が宿る長剣は誰にも貸したくない。ヒナタの形見でもあるし、可能なら武器としても使いたくはなかった。
そんな俺の気持ちを知らない大道は、いいじゃねーかと寝袋のまま近付いて来る。
こいつうぜーなと思っていると、外で異変が起こった。
泊まっているホテルの外に、大勢の人が集まって来たのだ。
集まった大勢の人達は、一般人がほとんど。
探索者と呼べるほどの力を持った奴は、一人か二人しかいない。
そんな彼らが叫ぶ。
ここから出て行けと、私達の平穏を壊すなと心からの訴えを叫んでいた。
もしもこれが、二号の作戦なら厄介極まりない。
何せ、この群衆の一部は何者かに洗脳されていて、大勢を誘導しているからだ。
しかも、その洗脳は感染して広がっている。
洗脳された奴が、次から次に触れていくものだから、この暴動は規模が拡大して行くだろう。
ったく、俺が嫌がることを熟知していやがる。
俺は、襲って来る奴を容赦するつもりはない。
だけど、洗脳された人は違う。自分の意思ではないし、そんな人達を傷付けたら後味が悪い上に、後悔に襲われる。
必要ならやってもいいのだが、ここでやる必要性を感じない。
とはいえ、これどうしようかと頭を悩ませる。
街を出て行けばそれで片付くのだが、どうにも二号が仕掛けて来そうな気配がある。なんて考えていると、黒一達が部屋にやって来た。
どうするんだと問うと、
「正面から外に出ます」
別に悪いことしていませんから。そう黒一は当然のように言っていた。
まあ、確かに何もやってないからな。
黒一を先頭にホテルから出る。
よく見ると、大きなカメラを持った人やスマホを構えている人もいる。
彼らには洗脳された形跡が無く、単にこの騒動を取材しているようだった。
そんな彼らがいても、黒一には関係無いと群集に向かって歩いて行く。
コツコツとした足音が不気味に鳴り、その音だけで群衆は静まり返った。
生物としての本能が訴えて来るのだ。
大型の肉食獣を前にして、小動物が怯えるように。死を体現した存在が、その肩に触れるような錯覚を覚えてしまい、誰も動けなくなっていた。
行きますよ。
そう黒一が俺達に告げる。
はっきり言って、俺は黒一よりも圧倒的に強い。
でも、こんな形でこの空間を支配してしまうような真似は出来ない。
誰も傷付けず、ただその場にいるだけで世界を支配する。
こいつは、存在そのものがイカれている。
そう思ってしまった。
んで、そのイカれた奴の隣に、人を丸呑みしてしまいそうな獅子の化け物が現れた。
突然だった。
理解不能な出来事に、この場にいるほとんどの奴らが動きを止めてしまった。
黒一は即座に動き出し、どこからか黒いトンファーを取り出す。
だが、その動作さえも遅過ぎた。
獅子の化け物はおもむろに腕を振り、黒一を殺そうとする。
その爪はあまりにも鋭利で、黒いトンファーでは防ぐことは出来ない。
だから、俺が動くしかなかった。
収納空間から守護獣の鎧を身に付け、不屈の大剣を手に一人と一体の間に立つ。
振るわれた腕を止めて、俺は獅子の化け物を睨み付ける。
テメーいきなり何やってんだ?
この獅子の化け物は、奈落で襲って来た奴だ。
二号を襲って瀕死の重症を負わせた奴だ。
そしてこいつは、二号そのものだ。
獅子の化け物になった二号は、ニィと笑うと力を込めた一撃を放つ。
爪の斬撃は群衆に向かって飛び、全てを切り裂こうとしていた。
馬鹿野郎!
リミットブレイクを即座に使い、地属性魔法を操り群衆の前に石の壁を生み出す。
斬撃は石の壁を破壊すると、わずかに軌道が逸れて建物を破壊して上空へと消えて行った。
崩れ落ちる石の壁。
切られた建物は崩壊を開始する。
悲鳴が上がる。
洗脳されていたはずの群衆達は、急に正気を取り戻し、現状を理解して混乱した。
化け物を前にして、怯え悲鳴を上げて逃げ惑う人々。
そんな滅茶苦茶な状況の中で、二号は俺に攻撃を……することはなく、群衆を狙って動き出した。
おいやめろ⁉︎ 何考えてんだ‼︎
俺は二号を追い、その攻撃を受け止める。
間近で呼び掛けるが、二号からの反応は無い。
しかも、転移で移動して再び群衆を狙おうとしている。
まさか、本当に心まで?
今のこいつは、奈落で襲って来た頃の化け物のようだ。
ただ弱者を弄び殺す。
そんな最低な化け物と同じ……。
「リミットブレイク・バースト」
二号が転移する先に向かい、現れると同時にその腕を切り飛ばす。
血が舞い散り、返す刀で首を狙うが、その判断は誤りだったと悟る。
舞う血から炎が吹き上がり、辺りに燃え広がったのだ。
多くの悲鳴が上がり、炎に巻かれた人達が苦しみのたうち回る。
くっ⁉︎
二号と斬り結び、がら空きの腹に蹴りを見舞い弾き飛ばす。その隙に、治癒魔法を全力で使い、焼ける人々の命を繋ぎ止める。
だが、炎は消えず再び焼かれて苦しませてしまう。
炎を消そうと、周囲の人が砂を掛けたりしているが、一向に消える気配が無い。
この炎は魔法だ。
なら、その主導権を奪えばいい。
以前まで、初見殺しの技として使っていた技術。
魔力を波立たせる手段を覚えてから、めっきり使わなくなったが、俺が独自に開発した技術でもある。
炎から上がる魔力に干渉して、一気に鎮火させる。
更に治癒魔法を使って、倒れた全員の治療を行う。
蹴り飛ばした二号の方を見ると、そこには誰もいなかった。
獅子の化け物は、姿を消していた。




