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無職は今日も今日とて迷宮に潜る【3巻下巻12/25出ます!】【1巻重版決定!】  作者: ハマ
8.ネオユートピア

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ダンジョン攻略19

12月25日 3下巻発売されます!

 街外れにダンジョンがあるというので、一旦そこに向かうことになった。


 ダンジョン前には警備員が立っており、中に入ろうとする人を検査していた。

 検査の内容は、しっかりと装備をしているかと、ちゃんと仲間はいるかというのを確認しているようだった。


 大半の人は装備も碌に無いようで、その場で弾かれている。


 そりゃそうだろう。

 何の装備もなくダンジョンに挑めば、大半が死んでしまう。ツノウサギに串刺しにされて終わるか、その先の痺れ蛾に殺される。行ってもゴブリンまでだろうな。


 こう考えると、警備員を置くという選択は正しい。


 それに、弾かれた人達には最低限の装備が支給されている。その傍らでは、装備の付け方を教わっており、パーティの紹介もやっているようだった。


 黒一達は通訳を連れて警備員の下に向かい、話を聞きに行っている。

 俺と大道は取り残されて、辺りを眺めてぼうっとしていた。


 ん? なに?

 俺だったらこういうこと出来るかだって?

 こういうことって、人助けってことか?

 馬鹿野郎、俺が出来るわけないだろうが!

 これ、人の上に立つだけじゃなくて、人心掌握してんぞ。

 もうこれ、全員洗脳してるって言ってくれた方が信じられるからね。


 総司の話が本当なら、この街は劇的に治安が回復している。

 武力を持った奴らは治安維持に徹しており、人々の平穏を守っている。食糧事情もダンジョンから採れるオークや薬草類で改善されており、飢えに苦しむ人もいずれいなくなるだろう。


 こんなの、俺が出来るわけがない。

 やれるとしたら、武装した奴らを殴り飛ばして目の前の命を救うくらいだ。

 大勢に、未来のある安心した暮らしなんて提供出来るはずがない。


 大道と話をしていると、視線を感じた。

 周りから注目を浴びていたが、この視線はまったくの別物だった。


 遠く、ここからでは見えないほど遠い場所から見られている。


 挨拶代わりなのだろう、一本の炎の槍が上空から降って来る。


 俺は石の槍を作り出すと、炎の槍に向かって投擲する。

 上空で二本の槍は衝突して、まるで大きな花火のように美しく弾けた。


 まるで、俺達の到着を歓迎したかのような粋な演出だ。


 まったく、何がしたいんだあいつは。

 消える視線と気配を感じながら、俺はため息を吐いた。


 

ーーー



 黒一が仕入れた情報では、二号はもうこの街を離れており、次の街に向かったのだそうだ。

 距離はそこまで離れておらず、今から向かえば今日中に到着出来そうだったが、ここで一泊することが決まった。


 夜はうん、虫が多くて寝づらかった。

 虫程度に刺されるほど、俺の肌は軟弱ではないのだけれど、耳元で鳴る虫の羽音が鬱陶しかった。


 なに? 探索で使う寝袋は持って来てないのかだって?

 そんな物使うか、いつでも動けるようにフル装備で寝とるわい。

 それでよく探索出来るなって?

 馬鹿野郎、眠れるなら俺だって寝とるわ!

 一人で潜ってたら、自然と身に付いたんだよ。言わせんな、虚しくなるだろうが。


 一応、フウマっていう役立たずの召喚獣はいるが、俺が寝たらあいつも寝ようとするので、交代で見張りなんて出来ない。

 おかげで、短時間の浅い眠りである程度回復できるようになってしまった。それに、ここ数ヶ月は一人でダンジョン探索をしているので、それが当たり前になってしまっている。


 優秀な召喚獣が欲しい、切実に。


 なんて寝苦しい夜を過ごしていると、大道が話し掛けて来る。


 昼間の魔法?

 ああ、間違いなく2号の奴だな。

 あんなの着弾したら、あそこにいた奴らは死んでただろうな。


 あの魔法はそれだけ凶悪だった。


 あれは宣戦布告なのかって?

 知らね。

 俺が防ぐのを見越してだったから、ただの挨拶じゃね?

 え、長剣を貸してくれって?

 嫌だ。大道があれ持ってても二号には勝てないって。諦めて、俺に任せとけって。

 それでも? いや、頼むって言われてもなー。


 正直、ト太郎が宿る長剣は誰にも貸したくない。ヒナタの形見でもあるし、可能なら武器としても使いたくはなかった。


 そんな俺の気持ちを知らない大道は、いいじゃねーかと寝袋のまま近付いて来る。

 こいつうぜーなと思っていると、外で異変が起こった。


 泊まっているホテルの外に、大勢の人が集まって来たのだ。

 集まった大勢の人達は、一般人がほとんど。

 探索者と呼べるほどの力を持った奴は、一人か二人しかいない。


 そんな彼らが叫ぶ。


 ここから出て行けと、私達の平穏を壊すなと心からの訴えを叫んでいた。


 もしもこれが、二号の作戦なら厄介極まりない。

 何せ、この群衆の一部は何者かに洗脳されていて、大勢を誘導しているからだ。

 しかも、その洗脳は感染して広がっている。

 洗脳された奴が、次から次に触れていくものだから、この暴動は規模が拡大して行くだろう。


 ったく、俺が嫌がることを熟知していやがる。


 俺は、襲って来る奴を容赦するつもりはない。

 だけど、洗脳された人は違う。自分の意思ではないし、そんな人達を傷付けたら後味が悪い上に、後悔に襲われる。

 必要ならやってもいいのだが、ここでやる必要性を感じない。


 とはいえ、これどうしようかと頭を悩ませる。

 街を出て行けばそれで片付くのだが、どうにも二号が仕掛けて来そうな気配がある。なんて考えていると、黒一達が部屋にやって来た。


 どうするんだと問うと、


「正面から外に出ます」


 別に悪いことしていませんから。そう黒一は当然のように言っていた。

 まあ、確かに何もやってないからな。


 黒一を先頭にホテルから出る。

 よく見ると、大きなカメラを持った人やスマホを構えている人もいる。

 彼らには洗脳された形跡が無く、単にこの騒動を取材しているようだった。


 そんな彼らがいても、黒一には関係無いと群集に向かって歩いて行く。


 コツコツとした足音が不気味に鳴り、その音だけで群衆は静まり返った。

 生物としての本能が訴えて来るのだ。

 大型の肉食獣を前にして、小動物が怯えるように。死を体現した存在が、その肩に触れるような錯覚を覚えてしまい、誰も動けなくなっていた。


 行きますよ。


 そう黒一が俺達に告げる。

 はっきり言って、俺は黒一よりも圧倒的に強い。

 でも、こんな形でこの空間を支配してしまうような真似は出来ない。

 誰も傷付けず、ただその場にいるだけで世界を支配する。


 こいつは、存在そのものがイカれている。


 そう思ってしまった。


 んで、そのイカれた奴の隣に、人を丸呑みしてしまいそうな獅子の化け物が現れた。

 

 突然だった。


 理解不能な出来事に、この場にいるほとんどの奴らが動きを止めてしまった。


 黒一は即座に動き出し、どこからか黒いトンファーを取り出す。

 だが、その動作さえも遅過ぎた。


 獅子の化け物はおもむろに腕を振り、黒一を殺そうとする。

 その爪はあまりにも鋭利で、黒いトンファーでは防ぐことは出来ない。


 だから、俺が動くしかなかった。


 収納空間から守護獣の鎧を身に付け、不屈の大剣を手に一人と一体の間に立つ。

 振るわれた腕を止めて、俺は獅子の化け物を睨み付ける。


 テメーいきなり何やってんだ?


 この獅子の化け物は、奈落で襲って来た奴だ。

 二号を襲って瀕死の重症を負わせた奴だ。

 そしてこいつは、二号そのものだ。


 獅子の化け物になった二号は、ニィと笑うと力を込めた一撃を放つ。

 爪の斬撃は群衆に向かって飛び、全てを切り裂こうとしていた。


 馬鹿野郎!


 リミットブレイクを即座に使い、地属性魔法を操り群衆の前に石の壁を生み出す。

 斬撃は石の壁を破壊すると、わずかに軌道が逸れて建物を破壊して上空へと消えて行った。


 崩れ落ちる石の壁。

 切られた建物は崩壊を開始する。


 悲鳴が上がる。

 洗脳されていたはずの群衆達は、急に正気を取り戻し、現状を理解して混乱した。


 化け物を前にして、怯え悲鳴を上げて逃げ惑う人々。


 そんな滅茶苦茶な状況の中で、二号は俺に攻撃を……することはなく、群衆を狙って動き出した。


 おいやめろ⁉︎ 何考えてんだ‼︎


 俺は二号を追い、その攻撃を受け止める。

 間近で呼び掛けるが、二号からの反応は無い。

 しかも、転移で移動して再び群衆を狙おうとしている。


 まさか、本当に心まで?

 今のこいつは、奈落で襲って来た頃の化け物のようだ。

 ただ弱者を弄び殺す。

 そんな最低な化け物と同じ……。


「リミットブレイク・バースト」


 二号が転移する先に向かい、現れると同時にその腕を切り飛ばす。

 血が舞い散り、返す刀で首を狙うが、その判断は誤りだったと悟る。

 舞う血から炎が吹き上がり、辺りに燃え広がったのだ。


 多くの悲鳴が上がり、炎に巻かれた人達が苦しみのたうち回る。


 くっ⁉︎


 二号と斬り結び、がら空きの腹に蹴りを見舞い弾き飛ばす。その隙に、治癒魔法を全力で使い、焼ける人々の命を繋ぎ止める。

 だが、炎は消えず再び焼かれて苦しませてしまう。

 炎を消そうと、周囲の人が砂を掛けたりしているが、一向に消える気配が無い。


 この炎は魔法だ。

 なら、その主導権を奪えばいい。


 以前まで、初見殺しの技として使っていた技術。

 魔力を波立たせる手段を覚えてから、めっきり使わなくなったが、俺が独自に開発した技術でもある。


 炎から上がる魔力に干渉して、一気に鎮火させる。

 更に治癒魔法を使って、倒れた全員の治療を行う。


 蹴り飛ばした二号の方を見ると、そこには誰もいなかった。

 獅子の化け物は、姿を消していた。

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― 新着の感想 ―
救世主狙ってるのかもしれんがハルトには知恵が欠けてるし補うパートナーもチームもいないんだぞ!ww ユグあたりよさげだろうけどこっちこれんしやっぱ向かんよね
マッチポンプ・プロパガンダ 自分じゃダメだから田中に託すのか
おっ?強引に救世主交代させる気か?田中さんは救世主は救世主でも、世紀末救世主伝説の方よ?
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