ダンジョン攻略18
12月25日【無職は今日も今日とて迷宮に潜る3下巻】発売‼︎‼︎
パスポートが無くて、一時はどうなることかと思ったが、超法規的措置で出国が許された。
一応言っておくけど、俺はパスポートを作っていた。
でも、アパートが全焼した時に、一緒に焼けてしまったのだ。
海外に行く予定も無かったし、作る必要もないかなって思ってたら、まさかこんなことになるとは思わなかった。
「海外に行くと伝えたはずですが?」
黒一が笑みを浮かべて、静かに怒っていたのが面白かった。
でも、これは明らかに俺のミスなので、ごめんと謝っておいた。
俺に頭を下げさせやがって……放火した大学生、許さん!
なんて、今は刑務所にいるだろう大学生を恨みつつ、飛行機に搭乗する。
目的地は中東から変更されて、アフリカになっていた。
どうにも、二号は中東での活動は終わったらしく、ダンジョン出現で混乱するアフリカに向かったそうだ。
予防接種してないけど大丈夫かな? と少しだけ心配したが、探索者が感染するはずもないので言わないでおいた。
「ああ、体調が悪くなったら、迷わず治癒魔法使って下さいね。たとえ探索者でも、感染はしますから」
まるで俺の思考を読んだかのように、黒一が笑みを浮かべ言う。
無性に飛行機から降りたくなった。
飛行機の旅は長かった。
魔法で飛べば一時間と掛からない距離も、乗り換えと合わせて一日は掛かってしまう。
しかも、隣には黒一がいる。
いくらビジネスクラスでも、隣にこいつがいるのは嫌過ぎる。
黒一は、俺が話し掛けるなオーラを放っているのに、気にせず話し掛けて来る。仕切りがあるというのに、俺にだけ届くように声を調節して来るもんだから、CAに注意するよう頼んでも何もしてくれない。
これもう新手の嫌がらせだろう。
ちくしょう〜。
俺は耳栓にアイマスクをして、横になった。
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アフリカに降り立って最初に思ったのは、そんなに暑くないな。だった。
暑いかと言われたら暑いのだけれど、日本の夏の突き刺さるような暑さを感じなかった。
季節が良いというのもあるかも知れないが、それでも想像していたよりもずっと過ごしやすい。
この国には、一応政府と呼べる物はあるようなのだが、ダンジョンが現れたせいで機能しなくなったそうだ。
元々、武装集団なんかがいて治安は悪かったらしいが、更に悪化しているという。
理由は、一般人がダンジョンに入って力を付けたから。
銃器に対抗する手段を得て、各地で暴れ回っているそうだ。
政府はそれを抑え切れず、警察機関すらも機能麻痺しているという。
とはいえ、ここはまだ良い方らしく、目的の国は更に悪化しているらしい。
政府は無く、治安は終わっており、力の無い者は搾取されるしかない。略奪が当たり前の無法地帯だ。
二台に分かれて車に乗り国境を目指す。
今回は駄々をこねて、黒一とは別の車両に乗せてもらった。
大道と総司という男だらけのむさ苦しいメンバーになってしまったが、黒一と一緒よりは数百倍マシだ。
車から見る景色はどこか灰色に見えた。
人々は目に絶望を宿らせ、道端に座っている。ダンジョンには多くの人だかりが出来ており、中から運び出されるオークに大勢が群がっていた。
ダンジョンが出来て食糧事情は改善されているそうだが、恩恵はそれだけで、多くの混乱を引き起こしているようだった。
俺達の乗る車両に銃弾が撃ち込まれる。
前に座る総司という男が、何らかのスキルを使って銃弾を防ぐ。
その力は車両全体を覆っており、別の所から飛んで来た鉛玉も完全に防いでしまった。
銃火器が通じないのを見て、車両に何者が乗車しているのか察したのだろう。これ以上攻撃されることは無かった。
ダンジョンが世界中に現れてから滅茶苦茶だと、総司が愚痴っている。
それを聞いて、大道が申し訳なさそうな顔をしていた。
確実に来る世界の滅亡。
それが数十年後と、まだまだ猶予があるというのに、多くの人は絶望している。
日本や他の先進国ではそこまで見られないが、他の所では自棄を起こしている奴らが大勢いるそうだ。
どうにかならんもんかね、まったく。
街の景色は移り変わり、やがて何も無い荒野を行く。
道中の襲撃は二度あった。
どちらもダンジョンに潜った経験のある者達のようで、車で追い掛けて来た。
だが、黒一が剥き出しの殺意を向けると、恐怖でハンドル操作を誤り横転していた。
なんて酷いことをするんだろう。
俺だったら、優しくお帰りいただくのに、黒一は死を連想させるような極悪非道な行いをしている。
こいつはきっと地獄行きだろうなって思った。
車の移動で丸一日。
ひたすらに車を走らせて国境を越え、最初の街に立ち寄ると、話に聞いていたよりも栄えていて治安も良さそうだった。
おい、話が違うじゃないかと総司に苦情を言うと、三ヶ月前までは間違いなく崩壊していたという。
どういうことだ?
そう訝しんでいると、民間人っぽい女性が愛想良さそうに近付いて来た。
すると日本人かと聞かれて、何故か凄く感謝された。
他の人達も集まって来て、同じように感謝の言葉を告げられる。
どうして感謝されるのか分からず、OK OKと適当に返していると、総司からあることを言われた。
「田中さん、この人達が何を言っているのか分かるのか?」
…………パッションだよ。
いや、ごめん嘘。
適当に返しました、はい。
彼女らの話す言語を、俺は知らない。だけど、何を言っているのか理解してしまっている。
理由は知らん。
ただ、都ユグドラシルにいた頃から、他種族の話す言葉を理解出来るようになっていた。
心が繋がるとかではないが、念話に似た感じで通じるようになったのではないかと思っている。
……てか、うん、やっぱこれパッションだわ。
結局は情熱が全てを解決するんだなと、俺は学んだ気がした。
話を戻して、彼女らが言うには、日本の若者がこの街にやって来て、瞬く間に治安を改善してしまったそうだ。
暴れ回っていた奴らは真面目に働くようになり、小さな犯罪は起きても、殺人事件のようなことが起こらなくなったという。
彼がいれば、もっと良くなるわ。と希望を宿した目を輝かせていた。
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街を見て回る。
この街が復興したのは、間違いなく二号がいるからだろう。
何をしたのかは分からない。
でも、この街は昨日通って来た国よりも活力に満ち溢れている。
数十年後には世界が終わると知っても、毎日を懸命に生きようとする意志がある。
……なあ、二号を捕まえる必要あるのか?
そう疑問を口にすると、黒一は断言する。
「ええ、探索者が国外で活動するのは粛清の対象ですから」
まあ、こいつならそう言うだろうなとは思っていた。
仲間も連れ去られたようだし、二号の配下になった探索者もいる。そいつらをどうにかしても、黒一は仕事だからと言って平気で殺すだろう。
それは、対象がどれだけの人命を救っていたとしても、多くの人に慕われていても遂行する。
こいつは、そういう奴だ。
なあ。
「はい」
お前、やっぱ地獄に落ちると思うわ。
そう告げると黒一は苦笑を浮かべて、
「残念ですが、ここが地獄ですよ」
と怖いことを言っていた。




