ダンジョン攻略17
ごめんなさい、短いです。
12月25日3下巻発売!
翌日、ギルドに到着すると黒一が立っていた。
黒一の隣には、見覚えのない男女と……、
……麻布先生?
なんで麻布先生が、こんな奴と一緒にいるんだ?
俺が駆け寄ると、麻布先生は困ったような笑み浮かべて挨拶してくれた。
俺もおはようございますと返事をするが、内心それどころではない。
ちょっ⁉︎ 麻布先生、なんでこいつらと一緒にいるんですか⁉︎
俺の問い掛けに答えたのは、麻布先生ではなく黒一だった。
「麻布さんは素晴らしい技術を持っていまして、是非仲間にとスカウトしたんです。打診を快く引き受けて下さりましてね、私の部下として働くようになったんですよ」
お前に聞いてねーよ。
麻布先生、こいつに何か弱み握られてるんすか?
先生が言ってくれたら、俺、あいつやってやりやすよ。
いやもうマジで、嘘でもいいんでポロッと言って下さいよ。
次の瞬間には、俺の拳がめり込んでますから、試してみませんか?
え、違う?
助けてもらってる?
嘘でしょ……。
こいつが人助け? 部下だから当然なのか? いやでも、こいつならブラック企業よろしく、人を酷使して使い捨てるだろうきっと。
それとも何か?
こいつが、理想の上司とでもいうのか?
いやいや、そんな馬鹿な。
黒一に限ってそれはないって。
麻布先生、正直に言って下さいよ。俺の精神を安定する為にも、こいつを殺してくれってお願いして下さいよ。
そう説得するが、麻布先生は「本当に大丈夫だから」と取り合ってくれなかった。
大変残念である。
仕方ないと諦めて、黒一達に告げる。
んじゃ行こうぜ、海外まで行くんだろう?
「少々お待ち下さい。天津さんも、もう直ぐ到着する予定ですので……」
天津は確か、ナナシの苗字だったはず。
その姓を持っているのは、俺の知る限り二人。
ギルドの会長である天津道世。
それともう一人が……。
「よう、待たせたな」
ミンスール教会の関係者である、天津大道だけだ。
ナナシの血縁者なだけあり、顔立ちだけでなく立ち居振る舞いまで似ている。長剣の無いこいつでは、強さの面では心許ないが、それでも人類に取っては最高峰の強さを持っている。
お前も来るのか?
そっか、二号が心配だもんな……。
もし、もしだ、二号がお前の知っている奴じゃなくなってたら、お前はどうする?
ああ、平気で人を殺すようなヤバいやつになってたらって話だ。
「考えたくはないが、終わらせてやりたい。あの人は俺の師匠だからな、弟子の俺がやるべきだろう……」
大道の言葉に、そっかと返しておく。
最悪の場合、俺が二号を殺す。
恐らく、こいつには殺せない。
俺が言っても説得力は無いかも知れないが、最後は躊躇うような気がするのだ。
そう決意したのだけれど、決意しているのは大道も同じだった。
「あんたじゃマヒトさんは殺せないだろう? だから、俺がやるよ」
苦笑する大道。
仕方ないからやってやるよ、という態度を見て、俺もムキになってしまう。
やってやるし! 足腰立てなくして、連れて帰るし! お前と一緒にすんじゃねーよ!
と、つい本音を口走ってしまった。
いやね、前にも言ったけど、絶対躊躇すると思うんだよね。だからもう諦めた。
もう動けなけなくなるくらい殴り倒して、そんで引き摺って連れて帰って、徹底的に説教して責任を取らせる。
そう決めてたら迷う必要もないし、絶対にこっちの方がいいだろう。
それじゃあ、手続きをしましょうと黒一が言う。
何の手続きかというと、探索者が国外に出る時は、探索者協会か政府機関で出国手続きをしないといけないそうだ。
ほいほいと必要な書類にサインして、手続きを行う。
あとは、この書類を出国手続きの際に提出するようにと渡された。
これで行けるのか、簡単だな。
と思ったら違った。
本来なら、一月前までに手続きをして、犯罪歴などを調べられてから許可が出るそうだ。
今回は緊急措置ということで、許可が出たらしい。
なあ、装備品とかはどうするんだ?
流石に飛行機に武器は持ち込めないだろう?
ああ、やっぱり持ち出せないのか。
今回は特例で認められていると。
「本来なら、探索者監察署の職員だけなのですが、今回の事案がそれだけ重大なものだと認識されたんです」
二号はどんだけのことやらかしてんだ。
人類を救うとか言ってたらしいけど、何がやりたいんだよ。救世主どころか、敵認定されてんじゃん。
探索者協会を出て空港に向かう。
車中で、知らない二人から自己紹介をされる。
男の名は道念総司、女の方は宮塚影美というらしい。
それと、どうも俺は二人と会ったことがあるらしく、「おっ、お久しぶり、です……」と怯えながら挨拶された。
なんか、心が傷付いた。
その上、黒一が無駄なフォローまでして来て「影美さん、いわゆる見える人でして、田中さんに怯えているわけではないので安心して下さい」と、俺に何か取り憑いているかのような恐ろしいことを言いやがった。
お祓い行った方が良いのかな?
どこか、お勧めの神社ありません?
そう聞いても、「ひっ⁉︎」と怯えられてしまう。
どうやら、俺に取り憑いている悪霊は、探索者を怯えさせるほど恐ろしい存在のようだ。
気まずい車中で、俺は外を眺めて黄昏れる。
誰からも話しかけられることなく時間は過ぎて行き、空港に到着した。
それから出国手続きをするのだけれど……。
パスポート?
何それ?
残念ながら、俺はパスポートを持っていなかった。




