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無職は今日も今日とて迷宮に潜る【3巻下巻12/25出ます!】【1巻重版決定!】  作者: ハマ
8.ネオユートピア

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ダンジョン攻略16

12月25日無職迷宮3下巻発売されます!

よろしくお願いします!

 目の前には、黒いスーツ姿の黒一が座っている。

 顔には胡散臭い笑みを貼り付けており、細い目が俺を見つめる。

 俺を見ながらも、父ちゃんと和やかに会話をしており、それが尚更俺を苛立たせる。


 父ちゃん、何でこいつと親しげに話してんだよ?

 え、恩人の息子?

 昔、父ちゃんがグレていた時に、改心させてくれたって?

 恩人はそのあと亡くなったけど、黒一とは成人するまで定期的に顔を合わせていたと。


 いやいやちょっと待って、黒一との関係とかより、父ちゃんがグレていたって方が気になるわ。


 そう伝えると、母ちゃんが写真を持って来る。

 そこには、バイクに跨っているリーゼント頭の若かりし時の父ちゃんが写っていた。まるで、十五の夜に走り出して、そのまま失敗しちまったような姿だ。


 こんな姿見たくはなかった。

 子供として、情け無い……。


 って、そんなことどうでもいいんだよ!

 それより黒一、用事が終わったのなら直ぐに帰れ。

 酷い言い方だって?

 うるせー、俺はお前が嫌いなんだよ。


 断固として黒一の存在を拒絶すると、困りましたねーと白々しい態度をする。そして、父ちゃん達を見て、「ご家族には伝えたくはなかったんですけど……」と不穏な言葉を発する。


「あなたを拘束します。『動くな』」


 途端に体が動かなくなる。

 言葉で相手の動きを縛る。これが、黒一のスキルなのだろう。

 だがな、そんなもん通用するかよ。


 俺を拘束している力を振り払うと、バチッと音が鳴り、同時に黒一の腕が弾けた。


 この現象に驚いたのは父ちゃんと母ちゃんだけで、腕が傷付いた黒一は平然としていた。


 こいつは、こうなることが分かっていたのだろう。

 だとしたら、黒一の目的はなんだ?


「申し訳ありません。上からの命令でして、一度試さなければならなかったんですよ」


 黒一は、傷付いた腕にポーションを振り掛けながら告げる。


「場所を変えて、二人で話しませんか?」


 俺はそれに頷くしかなかった。




 ベランダに出ると生温い風が頬を撫でる。

 あの暑い夏の日が近付いているのを教えてくれる。

 別に思い出なんて無いけどね。


 ネオユートピアの事件から一年近くが経っているが、未だに世界は混乱の中にある。

 日本には元からダンジョンがあるというのもあり、比較的落ち着いている。しかし、ミンスール教会には相変わらず人が列を成しており、ギルドは変わらず盛況なようだ。

 最近は、探索のノウハウを知る為に、海外からの渡航者も増えていると聞く。


 また、探索者の犯罪も増えており、警察や黒一が所属する探索者監察署も大忙しなのだとか。


 そんな大忙しな黒一が口を開く。


 何でも、俺に逮捕状が出ており、捕える任務を黒一が受けたらしい。

 しかし、俺を捕まえるなんて不可能なのは理解しているので拒否。他の職員に声を掛けても、返答は同じで放置が確定していたそうだ。


 だがここで、ある事件が発生する。


「世樹マヒトに似た人物が、他国で多くの武装勢力を束ねまして、それを制圧に乗り込んだ同僚が帰りませんでした。私も向かったのですが、これが手強くて命からがら逃げ帰って来たわけです」


 そう言って服を捲ると、腹を突き破られた大きな傷痕が残っていた。それから一枚の写真が出されると、そこには多くの人に紛れた二号の姿が写っていた。


 ……どうしてこれがあいつだと分かる?


 二号が行方不明になった時の姿は、老人だったはずだ。

 それなのに、どうして若い姿のこいつが二号だと分かったんだ。


「直接話をしたからです。それに、あの獣のような気配。これまで隠していた本性を、ついに現したのでしょうね」


 くくっと笑みを浮かべているが、拳が握りしめられており、恐怖を隠しているようにも見えた。


 二号は、この短期間で各国の武装集団をまとめ上げており、勢力を拡大しているらしい。

 保有する武力は、大国に匹敵するまでになっていて、とても放置していい状況ではないという。


「皮肉にも彼のおかげで、これまで起こっていた紛争は収まっています。だがこれは、大きな混乱の前兆のようにも感じられるのですよ」


 もしかしたら、大きな戦争が始まるかも知れない。そう、現実味のない言葉を告げた。


 うーん、二号がそんな面倒なことをするのか?

 最後に会った時は、人を殺すかも知れないと言ってたけど、ミューレの話を聞く限り心変わりしているようだった。人を救うとか言ってたらしいから、てっきり得意の治癒魔法で救っているものだと思っていた。


 もしかして、この短期間に考えを変えたとか?


 でも、どうしてわざわざ軍事力を得るんだ?

 あいつなら、一人で世界中の人間を始末することくらい出来るだろうに。


 なにが狙いだろう?


 俺は黒一に向かって問う。

 それで、俺に何の用で来たんだ?


「あなたに、世樹マヒトを止めてもらいたい」


 ごく普通の声量だった。

 乞い願うような感じではなく、ダメならそれでもいいやって感じの声音。

 黒一にしてみれば、これも仕事上のもので、二号の手で世界中が混乱に陥ってもどうでもいいのだろう。


 命を軽んじているこいつらしい声音だ。


 ただ、俺がどう印象を受けたのか顔に出ていたようで、黒一に否定される。


「ああ、勘違いしないで下さいね。私は別に、戦争が起きてもいいとは思っていない。多くの方に亡くなられると、私の楽しみも減ってしまいますから、可能なら戦争は止めたいんですよ」


 こいつの楽しみって言葉には引っ掛かるが、戦争を回避したいというのは本音なようだ。


 じゃあ、交渉って手段は選ばなかったのか?

 

「ええ、相手が探索者というのは判明していましたので、最初から粛清するのは決定事項でした」


 ……目的も聞かずに殺すつもりだったのか?


「はい、それが我らの仕事なので」


 淡々と答えるこいつを見て、やっぱり嫌いだなと思った。


 こいつの頼みで動くのは癪だが、二号が何かしようとしているなら、確かめに行く必要はあるだろう。


 それに、こいつが生きてここにいるってことは、そういうことなんだろうな……。


 えーと……ああ、マヒトってどこにいるんだ?


「……引き受けるのですか?」


 そうだよ。さっさと教えろ、ぶん殴るぞ。


「……資料を準備させます。明日、探索者協会までご足労願いたいのですが、可能でしょうか?」


 準備してなかったんかい。


「ええ、まさか受けていただけるとは思っておらず」


 その返答を聞いて、これは嘘だなと思った。

 こいつは、そんなミスはしない。きっと、何か目的があって、俺をギルドまで連れて行きたいのだろう。


 まあ、別にいいんだけどね。

 そう思いながら腹パンをして、黒一に治癒魔法を使う。


 腹パンを受けて、ゴフッ⁉︎ と嗚咽する黒一。

 その後の治癒魔法で、黒一に入っていた何かが出て来て、俺を見ると消えていった。


 今のを見て、黒一は無言で虚空を見つめている。

 何を見ているのか俺には分からないが、そこにあるのは、明確な怒りの感情だった。


 そんな黒一に、空気を読まずに尋ねてみる。


 なあ、俺を捕まえるって言ってたが、どんな罪状なんだ?


「ああそれですか、あれですよ。海外の旅行者を市中引き回しにした件です」


 ……それ、俺じゃないし。


 どうやら、冤罪で俺は逮捕されようとしていたらしい。

 まったく迷惑な話だ。


 そもそも、やったのフウマだし、市中引き回しされてた奴らも犯罪者だし、俺だったらあいつら生きてないし、今からでもやりに行ってもいいんだよ?


 殺意を抱いていると、俺の相手をするのが面倒になったのか、


「では、明日」


 と言って黒一は去って行った。


 なんだか、少しだけ寂しくなった。

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― 新着の感想 ―
どうせ2号には80階以降の攻略法聞く予定だったし…
父ちゃん!!ww 黒一って力はあるけど別に野心も何か為したいとかもないのがよくわかるな >「ああそれですか、あれですよ。海外の旅行者を市中引き回しにした件です」 なんで逮捕かと思ったらまさかのそれwそ…
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