ダンジョン攻略15

　もう嫌。

　もうダンジョン行きたくない。

　終わりだと思ったんだよ。モンスターの強さもそれなりだし、ダンジョンの最深部に行ったと思ったんだよ。

　それなのに、次は海って……。

　あーたそれは無いでしょって思わない？

　しかも終わりが見えないの。

　そりゃ、これまでも終わりは見えなかったけどさ、これが違うんだよ。

　一度上空に上がって、イルミンスールの杖にゴールを指し示めしてもらったら、真っ直ぐに終わりなく続いてんの。

　流石に世界一周するような距離は無いと思うけど、ちょっと今回は心が折れたね。

　奈落の時はフウマがいたから乗り越えられたけど、一人だと精神的にきつい。

　一旦戻って休養を挟もう。

　メンタルケアが必要だって。

　扉の近くにあるポータルに乗って、地上に戻る。

　今回のダンジョン探索の成果は、ほとんど無い。

　あるとしたら81階に到達したことと、新しいスキルを試したくらいだろう。

　走りながらだったので、本格的に使う機会はなかったが、どういう能力なのかくらいは知れた。

【自動人形生成】は魔力を消費して、思い通りに動く人形を作り出すスキル。人形の形もイメージ通りに作れて、大きな龍の形をした物から小さなネズミまで可能だった。

　大きい物ほど魔力は消費するし、能力を多く与えると、その消費量は爆発的に増える。

　使い勝手は良さそうだが、現状自分より弱い物を生み出してどうするという疑問もあり、今のところ使う予定は無い。

　次に【森羅万象】だけど、これはやばい。

　森羅万象を発動すると、全てが俯瞰して見えるようになる。その上、感じ取る全てを掌握してしまい、思い通りに操れるようになるというブッ壊れ仕様。

　まるで神様のような能力だが、その分魔力の消費量も半端ではない。

　俺の魔力量でも連続使用は難しく、出来ても一日といった所だろう。

　それで十分だろうって？

　馬鹿野郎！ 森羅万象だけでこれだけなの！ アマダチなんて使おうものなら、半日も使えなくなるんだよ！

　連続戦闘が当たり前のダンジョンで、そんな能力使ってたら、あっという間に干からびて死んでしまうわ！

　これは、いざという時に使うべきスキルだ。

　それこそ、大怪獣のような化け物と対峙したときに使うべき能力だろう。

　ったく、順番からいって大きなドラゴンから貰ったスキルだけど、かなり厄介な物を与えられたもんだ。

　愚痴りながらも、あの龍に感謝しつつ俺は実家に戻った。

ーーー

　今の実家というか父ちゃん達の住まいは、駅近くのマンションに変わっている。

　元の家は、メディアで報道されたのもあり定期的に見学者が来ていて、戻れる状態ではない。

　家に入ろうとする輩もいたようだけど、何故か玄関に近付けないそうだ。それでも、しつこく潜入しようとすると、何らかの力で追い出されるのだそうな。

　俺が見た時は、そんな力は無かったはずだけど、オリエルタかミューレが機能を追加した可能性もあるな。

　あと、どうでもいいことだけど、元の家に狐が住み着いたらしい。

　フウマが「ブル」と大丈夫だと主張するので、まあ悪いことにはならないだろう。ただあの家が、狐に害を与えなければ良いなと思っている。

　そんなことをリビングで聞いていると、ピンポーンと来客を知らせる音が鳴った。

　来客を父ちゃんが応対しており、会話が聞こえて来る。

　久しぶりだねとか、福路君も歳を取ったねとか会話をしているので、昔からの知り合いなのだろう。

　ただ気になるのが、その来客の気配だ。

　俺の大っ嫌いな奴の気配に似ていて、無性に魔法をぶっ放したくなる。

「これお土産です。いえいえ、お気になさらずに。甚九郎さんもお元気そうで……、ええ、父の墓参りのついでに立ち寄っただけですので、はい。用事が済めば直ぐにお暇しますので……」

　そいつは和やかで胡散臭い笑みを浮かべており、服装は全て黒で統一している。

「お久しぶりです田中ハルトさん。実はあなたに相談があり、やって参りました」

　黒一。

　そいつは、まるで当たり前のように実家に上がり込んで来た。