ダンジョン攻略14
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ダンジョン75階を疾走する。
襲って来るラミアを強めのレーザーで消滅させ、72階から現れるようになったミノタウロスを地属性魔法で串刺しにして始末する。
73階から現れるケルベロスという、三つ首の大きな犬を光属性魔法で消滅させる。すると、74階から現れる地鼠鬼と呼ばれるモンスターが地面から現れ奇襲しようとして来る。なので、地属性魔法で地面を硬質化させて、身動き取れないようにする。
こうして進んでいるのだが、このモンスター達が弱いわけではない。
ケルベロスは強靭な顎に、冥府の炎を吐く。ミノタウロスも武人のように武器を扱い、その腕前は武器屋の店主とも良い勝負をするだろう。地鼠鬼は小さな体だが、群れで行動して、地属性魔法と背中の針には毒がある強力なモンスターだ。
ただ、俺が圧倒的に強いだけで、彼らも強者だ。
雪山で現れたような、卑怯な手を使って来る奴らとは違う真っ当なモンスター達なのだ。
くそっ、思い出すだけでもムカつくぜ。
友好的と見せかけて、俺をその場に磔にする。そして、あわよくば一緒に住もうよとかまで言ってくる始末だ。
とにかく、やり難くて仕方なかった。
もう、あんな奴らが現れないことを祈るしかない。
なんて考えていたら、77階にそんな奴らが現れた。
片手を上げて、俺にヤッと挨拶をして来る。
色白の肌に、場違いなタキシードのような服装。赤い目に尖った牙。しかし、その目には知性が宿っており、こちらを攻撃する様子は無い。
吸血鬼。
恐らく彼らはそう呼ばれる種族だろう。
流暢な日本語を喋っており、何でも前に来た男から習ったという。
前に来たって、それもう二号しかいない。
他にもいるかも知れないけど、特徴を聞く限り二号で間違いなかった。
爆走する俺に話しかけて来たのは、吸血鬼の始祖らしき奴で、自分のことを特別な存在だとアピールしていた。
ああそうかと、さっさと始末しようとすると、交渉がしたいと言い出した。
そんで招かれたのは、洞窟の中に建てられた城。
三十何階かで見た城と作りが似ており、現れるモンスターの強さは違っても同じ世界なのだと実感する。
城の中には多くの吸血鬼がおり、それぞれが何らかの仕事をしていた。
出された食事は、71階から79階までに現れるモンスターの肉と、栽培した野菜を使った物で、悔しいがかなり美味しかった。
それで、吸血鬼の始祖との話なのだが、簡単に言ってしまうと命乞いだった。
ただ違うのは、己の命を差し出す代わりに、他の吸血鬼を見逃してほしいというもの。
何でも、「私は死んだとしても復活出来るが、この子達はこれだけの命だからね」ということらしい。更に、始祖が死ねば、俺は更なる力を手に入れることが出来るという、魅力的な提案を受ける。
その提案を俺は拒絶する。
俺は別に、襲って来なければ命を奪うつもりは無いし、始祖の命にも興味は無い。
更なる力ってのには興味あるけど、それって新しいスキルのことだろう?
今あるスキルもまともに扱えてない上、封印までされているので、現状では手に入れても仕方ない代物だ。
もしかしたら役に立つかも知れないけど、もしもなんて考えていたらキリがない。
というわけだから、んじゃ。
そう言って城から出ようとするのだけれど、始祖から引き留められる。
「悪いが、それじゃ外の子らを守れない。貴方には受け取ってもらうよ」
始祖はなにを思ったのか、己の体を血液で切り裂き、再生しようとする肉体にも攻撃を加えて絶命してしまった。
俺は、それを唖然と見ていることしか出来なかった。
どれほどの覚悟でこれを成したのだろう。
いくら復活するからといって、なぜこれだけのことをするんだ?
吸血鬼の始祖だからか?
他の吸血鬼を守る理由はなんだ?
分からない……。
分かるのは、足元に転がるスキル玉を拾ったら、始祖の要求を飲まなければならないということ。
ふざけやがって……。
俺はスキル玉を拾うと、城を出て探索を再開した。
ダンジョンの難易度が途端に増した。
76階で現れるヴェノムスライムに加えて、吸血鬼が暗闇から奇襲を掛けて来る。
ヴェノムスライムのみを光属性魔法で倒して、吸血鬼を蹴り飛ばす。続く奴も殴り飛ばして、再び走り出す。
襲って来るモンスターを殺せないというだけで、やる行動が増えてしまった。
運が良いのか悪いのか、光属性魔法は吸血鬼と相性が良い。
いや、良過ぎる。
レーザーが掠っただけで腕が消滅するし、灯している光量を増やすと肌が焼け爛れる。
始祖との約束が手を出さないとかだったら、もう詰んでた。というか、約束を諦めて全て薙ぎ払っていた。
あー面倒い!
吸血鬼共を殴り飛ばして、蹴飛ばして、引き摺り回して、投げ飛ばして無力化する。
本来ならこれが魔法一つで済むと思うと、コスパ最悪で発狂しそうだ。
始祖の野郎、これが狙いだったんじゃないだろうなぁ!
俺の歩みは確実に遅くなっている。
律儀に約束を守る必要はないのだが、それだと負けた気がして、もっと嫌だ。
とにかく、走って走って走りまくれ!
あいつらに追い付かれないくらい速く駆け抜けるんだ!
俺は一陣の風となりダンジョンを駆け抜けた。
そして囲まれた。
うん、こうなるのは分かってた。
いくら俺でも、ずっと全力疾走っていうのは無理。吸血鬼はどこにでもいる上、負傷しても回復すると追って来るので、いずれ囲まれるだろうなとは予想していた。
ったく、こっちが強く出れないと思って付け上がりやがって。
「リミットブレイク」
杖に灯した光を強くして、吸血鬼共を焼いて弱らせる。
そこを殴り飛ばしていき、無力化する。
腕や足くらいなら再生するのも分かったので、容赦なく破壊する。
生き地獄を味わうかも知れないが、そこはもう、お前らのボスである始祖の野郎を恨んでほしい。
オラオラと全員戦闘不能に追い込むと、一人の吸血鬼に話し掛けてみる。しかし、目には知性はあっても言葉は通じず、何を喋っているのか分からなかった。
ごめん、何となく理解出来たけど、恨み言ばかりだったので殴り飛ばした。
その後も、78階79階と吸血鬼に囲まれたが、同じように撃退して先を急ぐ。
恐らく、ダンジョンの終わりが近い。
80階に到着した俺は、ひたすらに走ってボス部屋に到着した。
途中で現れたモンスターは、とにかく風属性魔法で吹き飛ばして後退させた。
吸血鬼とその他を区別していたら、時間が掛かって仕方がない。だから、全てを等しく壁に叩き付けて後退させる。その隙に駆け抜けて、ボス部屋の前まで来た。
どうしてだろう?
俺は泣いているのだろうか?
これで終わりだと思うと、心に来るものがあるのかも知れない。
始祖の馬鹿野郎のおかげで、ここまで苦労を掛けられた。次に会うことがあったら、問答無用で殴り飛ばそう。
俺はそう決めて、ボス部屋の扉を開いた。
ここのボス部屋には空があった。
それほど広くはないが、真っ平らな空間があった。
そんな部屋の中央に立っていたのは、太った男。
俺と同じように杖を持ち、鎧を着込んでいる。
ああ、こういうのね。
物語で定番の自分自身と戦うってやつね。
合図は無かった。
あえて言うなら、俺が欠伸をしたからだろう。
「アマダチ」
白銀の刃が全てを飲み込み消滅させる。
こちらに向かって動き出した奴の姿も消えており、静寂だけが残されていた。
少しすると次の階に続く扉が現れ、足元にはスキル玉が転がる。
物語の主人公達は、どうして真っ向から自分自身と戦うのだろう。こういうのは、相手の力を発揮させる前に一撃必殺で決着を決めるべきじゃなかろうか。
己を超えるために、あえて戦うのもありだろうけど、俺はノーサンキューだ。
それに、あれは俺とは違っていた。
目の前にしても脅威に感じなかったし、アマダチにも反応していなかった。
いくら予備動作無しで放ったとはいっても、俺なら避けられた。あれが俺なら、俺ならどうするか理解したはずだ。
だからあれは、俺の劣化コピーでしかない。
スキル玉を拾って、俺は扉を開く。
恐らくこれで、ダンジョンは終わる。
この先には、二号の言動を制限した何かがいるはずだ。
長い永いダンジョンは、俺を強くして様々な出会いと思い出をくれた。
別れという悲しみも憎しみも体験したけれど、それも含めてダンジョンという場所なのだろう。
それももう終わる。
俺は達成感を胸に、ダンジョンの最深部にたどり着いた。
そう思っていた時期も、私にはありました。
扉を開いた先には、広大な水平線が広がっていた。
俺は泣きながら撤退した。
田中 ハルト(25+13)(混沌)
レベル error
《スキル》
地属性魔法 トレース 治癒魔法 空間把握 頑丈 魔力操作 身体強化 毒耐性 収納空間 見切り 並列思考 裁縫 限界突破 解体 魔力循環 消費軽減(体力) 風属性魔法 呪耐性 不滅の精神 幻惑耐性 象徴 光属性魔法 悪食 勇猛 自動人形生成 森羅万象 血液操作 多重存在
《装備》
不屈の大剣(魔改造) 守護獣の鎧(魔改造) イルミンスールの杖 能力封じの腕輪
《状態》
ただのデブ(栄養過多)
世界樹の恩恵《侵食完了》
世界亀の聖痕 《侵食完了》
聖龍の加護 《侵食完了》
聖天の心部
スキル制限中
《召喚獣》
フウマ
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