ダンジョン攻略13
12月25日[無職は今日も今日とて迷宮に潜る3下巻】発売‼︎
能力封じの腕輪が取れないまま、俺はダンジョン探索を敢行する。
腕輪は、一定期間が過ぎたら外れるって言ってたけど、あいつらの一定期間の感覚がバグっているので、いつ取れるかは不明だ。
腕輪の効果でスキルが未だに上手く扱えないが、収納空間と限界突破はなんとか使えている。他には、自動人形生成と森羅万象は何となく使える気がする。
あと象徴なるスキルを意識すると、なんか外から入り込んでるなって感じる。気がする。たぶん。
はっきりとは分からないけど、ネオユートピアでの戦闘からこれがあったような気がする。たぶん。正直、自信は無い。
まあ、力になるなら良いや。
考えても仕方ないし、今はダンジョン攻略に集中しよう。
ダンジョン71階から、再び洞窟のエリアになっている。
洞窟の探索は20階以来で、かなり久しぶりな気がする。
これぞダンジョンって気がして、なんかテンション上がる。ごめん嘘ついた。はっきり言って面倒くさい。
洞窟は20階までと比べて、かなり広いのだけれど、光源が全く無い暗闇の世界だ。そのくせ明かりを灯せば、直ぐさまモンスターが襲って来るのでかなり厄介だ。
俺の場合、照らさなくても探索は出来るのだけれど、真っ暗な世界というのは精神衛生上よろしくない。それに、道を指し示すイルミンスールの杖は光を灯しているので、暗いままで探索なんて不可能だったりする。
スルスルという地面を擦るような音が接近する。
そちらに目を向けると、人型の上半身に蛇の下半身を持つモンスターが迫って来ていた。
これは、いわゆるラミアやナーガと呼ばれるモンスターだろうか?
ゲームなんかと違って、上半身は女ではなく化け物。暗闇の世界で、目は退化したのか失われている。その代わり鼻が大きくなっており、大きな口から細い舌が伸びていた。
体は大きく、蛇の部分と合わせたら十メートル以上ありそうである。
武器を持っているようだが、真っ直ぐ迫って来るのであれば脅威ではない。
杖先からラミアを撃ち抜かんと光を放つ。
ビー! と発射されたレーザーは、ラミアの腕に当たる。腕は消滅させるのに成功したが、それだけだった。
驚いた。
腕を失ったとはいえ、防がれるとは思っていなかった。
これは、ダンジョンの最下層に近いということなのだろうか?
真っ直ぐは危険だと判断したのか、ラミアは蛇行しながら迫って来る。洞窟内なので、所々に大きな岩があり障害物として機能する。
岩に身を隠しながら接近するラミア。
そんなラミアに向かって、岩越しから光を放ち頭部を撃ち抜いた。
仕留めた感触と共に、真上から降って来た新たなラミアもレーザーで貫き命を奪う。
このラミアはかなり遠くから跳躍して、俺を正確に狙って落下していた。
なかなか器用なことをする。
なんて感心していると、予想外の出来事が起こる。
ラミアの亡骸が地面に落下すると、それらは分裂して無数の蛇へと姿を変える。やがて地面を覆い尽くすほどの蛇の群れとなり、襲い掛かって来た。
俺はそれを動かずに見ていた。
何故なら、この蛇の群れは存在しないからだ。
幻覚。
それがラミアの技なのだろう。
幻覚を使うモンスターは他にもいた。
その時と同様に、空間把握がそこには何もいないと教えてくれる。
だから幻覚のはずなのだけれど、ガンガンと鎧に当たる感触がある。
おかしい、空間把握は反応していないはずだ。それなのに、まるで物体が当たっているかのような気がする。
俺は何か見落としているのだろうか?
……あっ、スキル使えてないんだった。
俺はレーザーでビーッと焼き払い、辺りを一掃する。
蛇いたわ。
俺のなんちゃって空間把握は、蛇を脅威に感じなくて、敵として認識していなかったようだ。
まあぶっちゃけ、何となくで気配を察知しているだけなので、まるで当てにならなかったりする。
はあ、とがっかりした呼吸すると、手足が痺れる感覚を覚える。
何だろうこれ?
辺りを見渡すと、燃え滓の蛇からは悪臭が漂っており、恐らく毒と思われる。
おう、毒耐性のスキルも使えないんだった。
治癒魔法を使えば、体の痺れは無くなるのだけれど、また呼吸をすると痺れ始める。
こりゃ、いつまでもここにはいられないな。
なんて思っていたら、新たなラミアが接近して来ていた。
時間の感覚が分からない。
暗闇のせいで、どれだけの日数が経ったのか不明だ。
疲れ具合からいって、そんなに経過していないと思いたいが、俺の体力は少しばかり桁違いなので参考にならない。
食事は三週間分消費しているが、腹が減ったら食べていたので、こちらも参考にはならない。
とりあえず、72階に向かう階段は見つけたのだけれど、一旦帰ろうと思う。どれくらい時間が経過したのか知っておきたいのだ。
同じ時間を掛けて地上に戻る。
行きと帰りは同じ道を通ったのだが、宝箱が別の場所に配置されていた。今回の宝箱の数は三十を越えており、過去最高である。
今更使うようなアイテムは無いのだけれど、あるのなら開けてしまうのが人の性だと思う。
そんで、地上に戻ると一月以上過ぎていた。
これは非常にまずい。
洞窟というフィールドでは、空を飛んで時間短縮も出来ない。走れば半分の時間で行けそうだけど、それでも時間が掛かる。
こんなペースで進んでたら、ダンジョン攻略する頃には日向が成人してしまうかも知れない。
これならもういっそのこと、奈落から逆走出来ないだろうか?
試してみようかと考えるが、それで良いのなら二号が忠告していただろう。恐らく正攻法で行かないと、ダンジョンの最奥には行けないのではないかと予想する。
それに、奈落に行った瞬間にやべー怪獣に襲われたらお陀仏だ。流石に試す気にはならない。
もう暗闇の中、爆走して行こう。
それしかないわ……。
ごめんな日向、少しの間離れるな。
そう言いながら、日向を抱き上げる。
すると日向は、「あー」と言葉を発してじっと俺を見ていた。
まだ一歳にもなっていないが、それなりに大きく育っていてる。魔力も杖のおかげで安定していて、魔力も形になる前に抑えられ、順調に量を増やしていた。
うーん……やっぱ幼少の頃に魔力を操ると、魔力量って爆発的に伸びたりするんだろうか?
今の時点でプロの探索者よりも多いので、このまま成長すれば成人する頃には俺を越えているかも知れない。
うん、ごめん嘘付いた。
たぶんそれは無理。
俺を越えるなら、魔法を使い続けて、器になる肉体を鍛えないといけない。
そもそも、俺は多数の加護っぽい物を受けている上、それを取り込んでしまっているので、俺と同じくらいになるには、もう人を辞めないといけないだろう。
お前は人のままでいろよ。
あと、変な男に捕まるなよ。
それと、護身術は柔道と空手を習えよ。
それから、危なくなったら男の急所を徹底的に狙って女の子にしてやれ。
あとそれから、何かあったら俺に言えよ、ちゃんとケジメ付けてやっから。
あとはそうだなぁ、ブラック企業には気を付けろよ。求人は信じるな、ちゃんと自分の目で見て確かめるんだ。いいな? 俺みたいに騙されたら、ダンジョン行きになっちまうぞ。
そう言い聞かせていると、母ちゃんがやって来て日向を奪って行った。
え、変なこと吹き込まないでって?
そんなことないって、これからの人生で大切なことばかりだって。
世の中大変なことばかりだからさ、少しでも日向の為になればと思って言い聞かせてんだよ。
そんなの必要ない?
あんたが不器用だからって、失敗したことを教えるなって?
あっち行けって?
母ちゃんは、しっしっと俺を突き放すような仕草をする。しかも、フウマもあっち側に付いており、「ブルッ」と俺を鼻で笑っていた。
ちょっと! 俺もあんたの息子ぉ⁉︎
日向と同じ遺伝子なの!
分かる⁉︎ 同じように失敗する可能性高ぇんだよ!
それを言うならさ、母ちゃんと父ちゃんが日向にパパママ呼びさせようとするの辞めろよな! あれ小学校で言うと恥ずかしいんだよ!
パパママと言ってしまい、古い記憶を呼び起こして悶絶しそうになる。
小学生の頃、先生を間違えてママ! と呼んでしまい、クラスメイトにママ呼びしているのがバレて揶揄われたのだ。
これが母ちゃんやお母さん呼びなら、まだギリギリセーフだっただろう。
ママはまずい。
男子の間では、ママと呼ぶのは幼稚園までみたいな空気がある。ママと呼んでいるのがバレた瞬間から揶揄いの対象になってしまったのだ。
マジで小学一年生は地獄だった。
今でも、十年に一回くらい夢を見るくらいにはトラウマになっている。
そんな黒歴史を日向に作ってほしくないのだ。
なっ、分かるだろ母ちゃん。
え? それは先生を間違えて呼んだからだろうって?
……確かに⁉︎
過去の自分の間違いに気付いて驚愕する。
そんな、なんてことない日々を過ごして、再びダンジョンに戻る。
活動報告にカバーイラスト公開しております。




