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無職は今日も今日とて迷宮に潜る【3巻下巻12/25出ます!】【1巻重版決定!】  作者: ハマ
8.ネオユートピア

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ダンジョン攻略11

これで今回の投稿は終わりとなります。

ゴールデンウィークのお供に、無職迷宮2巻をよろしくお願いします!

たくさんの購入報告ありがとうございました!

とても励みになっております!!!

 スキルが使えなくなった。

 いや、収納空間と限界突破は使える。あとは、光属性魔法も使えるな。


 リミットブレイクを使ったはいいが、上昇した身体能力を使い熟せなくて、動きが鈍ってしまう。

 おかげで防戦一方となり、ひたすらにミューレの攻撃を耐える時間が続いた。


 その間に、スキルでどのように魔力を扱っていたのか、思考の仕方、肉体の動かし方を再現して行く。

 落ち着いた状況で集中して出来たら、もっと早く達成していただろう。


 痛みで思考が途切れ掛けたりもしたが、治癒魔法を再現出来るようになり、少しだが怪我の治療が可能になった。

 思考を並列でするように意識して、幾つもの思考を同時に熟せるようになる。

 言うのは簡単だが、並列思考を再現するのが一番難しくて大変だった。しかし、この並列思考のおかげで、スキルの再現は加速する。


 治癒魔法の精度を上げて、傷を癒す。

 肉体の頑丈さを跳ね上げ、ミューレの攻撃も骨に達することは無くなった。

 空間把握が死角からの攻撃を捉え、見切りが全ての攻撃の軌道を読み取る。

 これまでの経験で培った魔力操作の感覚は本物であり、たとえスキルが無くとも、その技術は同等レベルまで昇華されていた。

 その魔力操作で行われる身体強化も、当然のように精密に行われており、最良の強化が行われる。


 光属性魔法は何故か使える。

 これはスキルとして得た物ではなく、ヒナタからの贈り物だからだろう。


 風を操る。

 五つの魔法陣を展開してミューレに向ける。


 ミューレは翼を大きく開いて、逃げる体勢に入った。


 速度は恐らく同等になるだろう。

 それでも、構わずに魔法を放つ。

 視界一面に広がる突風。

 強烈な風は大気を震わせ、地面を抉り、大地を削りながら進んで行く。


 大空へと羽ばたいたミューレだが、ここはダンジョンの中であり、有限の空だ。

 大地を巻き上げながら上空へと上がった魔法は、動きの止まったミューレに襲い掛かる。


 魔力の澱みが現れる。

 そこに向かって走り、大剣を振り抜いた。

 転移魔法を使って魔力の澱みより現れたミューレは、俺の動きを予想していたのか、双剣で防いてみせる。


 っらあーっ!!


 防がれた瞬間に必ず斬ると意志を込めて、力の限り不屈の大剣を振り抜く。

 ミューレとしても予想以上の威力だったのか、顔を驚愕に染めて、双剣を砕かれながら弾き飛んで行った。


 地属性魔法で鉄の槍を作り出し、魔法陣を展開する。


 そして、容赦なく射る。


 破壊の槍は一直線に突き進み、着地したばかりのミューレに接近する。


 それは苦し紛れだったのだろう。

 ミューレは植物を操り、斜線上に幾つもの大木を作り上げた。

 しかし、その程度では俺の魔法を鈍らせることは出来ない。


 大木を貫いた槍は、ミューレに接触して装甲を砕き、その身を再び弾き飛ばした。


 土煙が上がり視界を阻害する。

 遠くまで飛ばされただろうが、ミューレならば直ぐに戻って来るだろう。


 そう思っていたが、いつまで経ってもやって来ない。


 また何か仕掛けているのだろうかと慎重に進んで行くと、ボロボロになり力無く横たわるミューレを発見した。


 何やってんだ?

 まだ戦えるだろう。


『ははっ、無茶を言う。私ではどうやっても勝てない、それは貴方も分かっているだろう?』


 …………。


『止めを刺さないのか? 私を生かしていたら、また襲いに来るかも知れないぞ?』


 ふざけんな。

 お前、最初から俺を殺すつもり無かっただろ。

 戦っていても、殺意どころか敵意も悪意も感じないんだよ。そんな奴を殺せるわけないだろうが。


 一番厄介なのは、敵意の無い奴だ。

 ダンジョンでも実感したが、俺はそいつらを殺せない。

 奈落に生きている奴らが、ダンジョンに取り込まれた別の世界の住人だったと知らされてからは、尚更だ。

 もう、理性の無いモンスターと見れなくなっていた。


『私だって気が変わるかも知れないぞ。それでも殺さないのか?』


 煽るなよ。どうやっても、お前じゃ無理だ。

 そもそも、俺を殺せないんじゃなくて、日向から魂を引き剥がす気も無いんだろう。


『…………そこまで分かるのか?』


 分かるんじゃない。

 ヒナタの復活の話を聞いて、俺だったらどうしたか考えただけだ。


『はははっ……同じ気持ちなのか。そうか……そうか……』


 呟く声は小さくなり、最後はまるで自分に言い聞かせているかのようだった。

 それから、俺を見て尋ねて来る。


『田中殿、もしも貴方が私の立場なら、どう行動した?』


 そんなん決まってんだろう。



 お前と同じように行動したさ。



 見知らぬ人の命と、大切な息子の命。

 百人だろうが千人だろうが、万人を犠牲にしてでも、俺はヒナタを復活させていた。

 だから、俺はミューレを責められない。


 俺の返答を聞いたミューレは、『そうか』と呟いて笑っていた。


 何か憑き物が落ちたような表情をしたミューレ。

 きっと、凝り固まった何かが解消されたのだろう。

 まあ、それはそれで良かった。

 

 でもな、こっちはそれで良くないんだよ。


 今度は俺の要求を告げようと口を開こうとする。

 しかし、新たに現れた気配のせいで言葉を詰まらせた。


 上を見上げると、ユグドラシルを守る守護者の姿があった。

 その数は多くはないが、一番弱いのがオリエルタという強者の集団だ。


 つーか、今更何しに来たんだこいつら。

 もう終わってんだぞこの野郎共。

 それとも何か?

 ミューレの加勢に来たってか?


 こんな集団で来るのなら、次は容赦しねーぞと気合いを入れる。


 俺が不屈の大剣に魔力を流していると、オリエルタが代表して降りて来た。


『お待ち下さい! 我らは田中殿に危害を加えるつもりはありません!』


 焦った様子のオリエルタだが、何も焦る必要はない。

 お前なら、たとえ敵意が無くても容赦なくやれるからな。


 自然と、手に込める力が増すから不思議だ。


『我らは、そこのミューレを連行する為に来たのです!』


 連行?


『はい、ミューレはユグドラシル様の命に背き、あなた様を襲いました。然るべき場所で、この罪は裁かなくてはなりません』


 ……それは、命を取ったりするのか?


『それは……ユグドラシル様が判断なされます』


 そうか……じゃあ、連れては行かせられないな。


 ミューレの前に立ち、妨害する。


『……何故ですか? ヒナタの生まれ変わりが襲われたのですよ。貴方はそれを許すのですか?』


 ああ、今回だけな。


『それで、ミューレを裁く必要は無いというのですか?』


 そうじゃない、それはそっちで勝手にやってくれ。

 ミューレには、こっちでやってもらうことがあるんだよ。


 これは大切なことだ。

 というか、責任を取ってもらわないといけない。


『では、何をしようというのです?』


 ミューレはな、俺の家を壊してんだよ。その修復と、母ちゃんに説明……あっ、ちょうどいいや、オリエルタお前も来い。母ちゃんに、ヒナタの説明をしてくれ。


『は?』


 この後、ミューレを治療して無理矢理立たせると、日向を回収して、オリエルタの首根っこ掴んで移動する。


 状況を飲み込めていない、他の守護者達が付いて来ようとしていたが、邪魔だからと帰ってもらった。


 それで、いざ実家に行こうとしたんだけど、向こうに行ったら絶対に騒動になるよなぁと思い、変装出来ないかと尋ねる。すると、可能だというので、こっちの人間の格好をお願いした。



 …………なんかムカつくな。



 いや、分かっていたんだけどね。

 ヒナタの容姿はオリエルタに似ていたし、ミューレも人間離れした美しさがある。

 その二人が人の姿をして歩けば、それはもう注目の的だ。


 これなら、直接実家に行った方が良かったな。


 実家に到着する頃には、すっかり夜になっていた。

 実家の周りは縄張りをされており、立ち入り禁止と表示されている。これは半壊していて、いつ壊れてもおかしくないからだろう。

 

 父ちゃんに連絡してみると、兄ちゃんの家に避難しているという。


 ミューレに家の修復しとけと指示を出して、兄ちゃん家に向かう。お邪魔しますと家に上がると、心身共に限界が来ていたのか、母ちゃんが横になっていた。

 フウマが治癒魔法を使っているので心配は無いだろうけど、早く日向を見せた方がいいだろう。


 ほいっと横になっている母ちゃんの目の前に置くと、日向が「あう〜」と唸る。

 それを見た母ちゃんはガバッと起き上がって、日向を抱きしめる。そして、こっちを振り向き、オリエルタを見て、


「誰っ⁉︎⁉︎」


 と驚いていた。



 ここからは、父ちゃんと母ちゃんと俺とオリエルタで話をする。家主の兄ちゃんには悪いけど、場所を貸してもらった上に遠慮してもらった。


 必要の無い事実を知るのは、少数でいい。

 偏見を持たれることはないだろうが、普通の親戚として付き合ってもらいたいのだ。


 収納空間からポットに入れているコーヒーを注いで、四人分用意する。足元にいるフウマには、コーラで良いだろう。


『……苦いですね』


 やかましい、水道水でも飲んでろ。


 文句を言うオリエルタ。

 そんなオリエルタを見て、ポカンと口を開けている両親。

 座っていても頭一つ大きく、明らかに日本人とは違った容姿をしていた。


「……ハルト、この方は、一体……」


 そう困惑する父ちゃんに、これからヒナタについて説明してくれる人だと告げる。


 オリエルタに、この子の前世を説明してくれとお願いする。

 俺が話しても良いのだが、生意気なヤンチャ坊主のイメージしかないので、説明する自信が無かった。


 先に、「本当なら二人には知らないでほしかった」と告げて、オリエルタにヒナタがどういう奴だったのかを話してもらう。


 その話の途中で、


 少し盛り過ぎじゃね?

 んなわけ無いだろう。

 あいつがそんなカッコいいわけ無いだろう。

 いやいや、それはないって。

 美化し過ぎてだって、マジで。


 なんてツッコミを入れていたら、何故か俺が追い出された。

 なんでも、うるさくて話が進まないらしい。


 納得いかんなぁと外で待っていると、フウマも追い出されて来た。

 なんでも、「ブル」「ヒヒン」とツッコミを入れまくって、うるさかったそうだ。


 話長くなるかなぁと思い、少し散歩に行くことにした。フウマに一緒に来るかと聞くと、漫画を読んで待ってると言うので、一人での散歩になった。


 はあ、とため息を吐くとひんやりとした空気が口の中に入って来る。

 夏も終わり、秋も半ばを過ぎて夜は肌寒くなっていた。

 世界は変わっていても、地元の景色は変わらない。

 いや、大きな洞窟が見えるせいで、景観を損なっている。やっぱり邪魔だな。あれをどうにかしたい。日向が生きる世界に、あれは不要な物だ。


 不要な物から視線を切って、ぶらぶらと歩いて行く。

 実家の近くのコンビニに寄って缶コーヒーを買って、ちびちびと飲む。


 もう話は終わったかな。

 そう思い、兄ちゃんの家に戻ろうとすると、何やら実家の方が騒がしくなっていた。


 何かあったのかな? と珍しい物見たさに足を向けると、そこは人集りが出来ており、全員ある建物を見上げていた。


 それは都ユグドラシルでも見たことのある外観をした建物で、SF映画に出て来そうな楕円形の形をしていた。


 そんな建物が、実家に建築されていた。



 俺は自分の失敗を悟った。

ここまでお読みいただきありがとうございました。

ただいま、ユグドラシル編を書き直しているので、次の投稿遅れると思います。3巻もあるので、八月までには投稿したいのですが、遅れたらごめんなさいm(_ _)m

あと、次で本編は完結する予定となっております。

あくまで予定です。

終わらなかったら、またお付き合い頂ければ幸いです。


ではまた。


ハマ

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― 新着の感想 ―
一連の改稿後に一気に読み返した やっぱり面白い
こんなに面白いのに終わってしまうのか。
 一巻はなかなか買えませんでしたが、二巻は本屋のランキング棚に並んでいて問題無く買えました。  のんびり読んでいこうと思います。
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