おまけ話1(ある熟練探索者)
来年春、2巻出版決定!
1巻の売れ行きも好調なようです。
それもこれも皆様のおかげです。
感謝申し上げます!
ありがとう! ありがとう!
Amazonレビューもありがとうございます!
とても励みになっております!
うぃ〜。
ったく、世界が大変な事になってるってのによぉ、どうして酒は変わらず美味いんだろうなぁ?
なに、知らないって?
そんなこと言うなよ、少しは付き合えよ。
酒臭いから顔を近づけるなって?
つれねーなー、仲良くしようぜ。その気になれば、俺なんて簡単に跳ね除けられるだろ?
それとこれとは別の話だって?
ああ、流石に理性は働いてるんだなぁ。
いやよ、そこまで力をあるんなら、好き放題出来んじゃん。それこそ女侍らせて、嫌いな奴殺して回ったり、やりたい放題じゃん。
そんな事誰がするかって? 人を化け物みたいに言うなって?
仕方ないだろう。実際、お前に勝てる奴なんていないわけなんだからよぉ。
あっ、マスターこっちにも安いウィスキー頼むわ、ロックで。
なんで安いやつ頼むのかって?
そりゃ、そっちの方が印象に残んだろう。お前がその気になりゃ、高い酒なんて好き放題飲める。なら安くて不味い酒で、俺っていう奴を覚えておいて欲しいんだよ。
なんてな! 冗談だって!しんみりしたか? ガハハッ!
おいおい、怒んなって⁉︎
冗談っつっただろうが!
あっ、マスター違うんだ。安酒ってのは、そういう意味じゃなくてだな……。
ったく、お前のせいで怒られたじゃねーか。
理不尽?
理不尽の塊みたいな奴が何言っていやがる。
喧嘩売ってんのかって?
売るわけねーだろうが! 俺が死ぬわ!
そういや、うちの祖父さん、お前に会いたがってたぞ。
俺の祖父さんなんて知らんって?
平次だ平次! 天津平次!
初代探索者協会会長の天津平次だよ!
わかんだろ⁉︎ お前にナナシって呼ばれていたのが、俺の祖父さんなんだよ!
そうなんかって、なんか軽くない?
お前の事は、いろいろと話を聞かされたもんさ。話を聞いて、全部俺を喜ばせるための嘘だと思ったよ。
探索者をやって、そんなの絶対に不可能だと思ったからな。
空を自在に飛んで、想像を絶する化け物と戦う奴なんて、誰が想像できるよ。
だから、俺は、無理と決めつけた。
だけどな、それは俺にとって無理な話ってだけで、お前にとっては、そうじゃなかったってだけなんだ……。
はぁ〜……。
あ? 落ち込んでねーよ!
ニヤニヤしてんじゃねー!
腹立つなぁその顔。
それよりも、墓参りくらい行ってやってくれ。
祖父さんも喜ぶからよ。
ああ、場所は……知ってんのか。ならいいな。
……なあ、お前に……あんたにとって、ナナシはどんな奴だった?
は? 剣をパクッた奴?
ん? ああ、祖父さん言ってたわ。権兵衛に剣を返しておいてくれって。パクッたってより……まあ、それはいいか。
あの剣、黒い翼の天使に渡したけど、問題なかったか?
……そうか、やっぱりあれで正解だったんだな。
あっ、マスターおかわり頼む、こっちにも一杯。
それで、他に印象は無いのか?
無いって……そりゃねーだろう! こう、何かよう⁉︎ 無いのか、ほら、良い奴だったとかさ⁉︎
俺はどうなんだって?
そりゃ尊敬出来る人だったさ、何でも出来て、人を導く力を持っていた。ああなりたいと、思わせる背中をしていた。
分かってんじゃないかって?
……ああ……何だよ、お前も同じだったって事か。
ふっ、何だよ……
……面倒くせーな! そういうの、はっきり言えよ! その察しろみたいな雰囲気、お前の姿と合ってないんだよ! ていうか、酒の席でそれはやめろ! こちとら頭回ってねーんだよ!
ああ、分かってくれりゃそれでいいんだよ。
ったく、今度からは気を付けろよ。
今ので酔いが覚めちまったじゃねーかよ。
マスター、もう一杯。
んで、これからどうすんだよ?
はっきり言っとくが、お前の行動は世界から注目されているぞ。
今はマヒトさんが目を光らせているから良いが、それもいつまで待つか分からない。
言うことを聞かせる為に、馬鹿な事をするのは、一定数は必ずいる。家族を守るにも、一人じゃ限界があるだろう。
もしも、もしもこっちに連れて来るんなら、ミンスール教で守ってやれる。母さんに言って、探索者協会からも人を出す事は可能だ。
どうする?
なに、急に真面目な話するなって?
酔いが覚めるだろうがって?
おまっ! こっちは心配して言ってやってんの!
俺の心配する気持ちが分かんないかなぁ、この野郎は。
お、おう、素直にありがとうなんて言われると、こっちは何も言えなくなるな……。
マスター、おかわり。
なに、もう止めとけって?
いいじゃん! 次で最後にするからよぉ。
おっ、約束する約束する。これで最後な。
それで、護衛は……なに、最強の護衛が付いているからいらない?
それってどういう……まっ、いっか。
お前がそう言うのなら、大丈夫なんだろう。
んで、具体的にはこれからどうするんだよ?
世界征服でもするのか?
世界のパワーバランスが崩れた今なら、お前の力があれば確実だぞ。
そんな事してどうすんだよって?
世界征服って、男のロマンじゃないか。
世界を牛耳りゃ好き放題出来て……え、俺? 俺はどうなのかって?
やる訳ないだろう。
どうして、そんな面倒な事しなきゃいけないんだよ。
怒んなって、真面目な話が嫌そうだったから、和ませただけだろう。
それで、本当のところどうなんだ?
…………。
……そうか、でもそうなると、俺達に出来るのは応援する事だけだ。
とてもじゃないが、俺程度じゃ戦力にはなれない。
ダンジョンの攻略なんて、とてもじゃないが……。
うるせーよ、始めから期待してないって言やいいんだよ! 中途半端な慰めの言葉はいらないんだよ!
え、雑魚って?
うるせーーー!!!
くそっ、叫んだせいで喉がカラカラだ。
……うぃ〜、酒は美味いな。
そうだ、この言葉だけは送っとくよ。
良い探索を。
じゃあな、お前の幸運を願っているよ。
マスター、おかわり。
さっきのが最後? 違うんだって、今のは二人で飲む最後の分。これからは一人で……。




