ネオユートピア26
本日、一巻が発売されます!
よろしくお願いします!
再び居酒屋に居座り、ワイワイと騒いでいる。
主に俺以外が。
「飲め飲め! 今日は田中さんの奢りだー!」
「これ食べて良いよ。話には聞いてたけど、かっこいいな!」
「きゃー! イケメンね、親に似なくて良かったねー!」
「まったくだ」
「お前らヒナタが困ってるから、余りウザ絡みするなよ」
そう、俺以外が盛り上がっているのは、何故かここにヒナタが来たからだ。
「あっ、これ美味いな。親父の味付けに似てる」
そう言って、枝豆を口に運ぶヒナタ。
枝豆なんて、誰がやっても同じ味だ馬鹿タレ!
なんてツッコミたいが、俺は黙って腕を組みトントンと指を叩いていた。
これは不満だと周りにアピールしている。
別に、ヒナタが構われているからとか、俺を無視して盛り上がっているからではない。
ここにヒナタがいる事態に、不満を抱いているのだ。
「田中さぁん、気持ちは分かりますけど、ここは気持ち良く飲みましょうよぉ。息子のヒナタと酒を飲める機会なんですよぉ」
騎士がウザ絡みをして来る。
確かにそうだな、と頷いて焼酎の入ったグラスを取りヒナタに向ける。
それを受け取るヒナタ、俺も焼酎のロックを手に持ちカランと掲げて、一気に飲み干す。
乾杯はしない、こんな状況を祝福なんか出来るかボケ!
俺に続いてヒナタも飲み干す。
「おえ〜、くっさ、不味いぞこれ〜」
「当たり前だ、これは大人の飲み物だからな」
お酒は二十歳になってからだ。
「俺は親父より年上だぞ」
「やかましい! 俺にとってはなぁ、お前はいつまで経ってもガキのままなんだよ!」
生意気言うんじゃない!
「何だよ、そんなの理不尽じゃん」
「理不尽だろうが、不倫しようが、俺はお前の親なの! 分かる? だから俺の言うことを聞け、いいな」
そう言うと、ヒナタは顔を顰めてそっぽを向いた。
俺はそんなヒナタから目を逸らして、もう一杯焼酎のロックを流し込む。
ぐは〜と臭い息が漂い、ヒナタが翼でバタバタとさせて風を送っていた。
そんな俺を見て、騎士と元がひそひそ話を始めた。
「なんか、田中さんいつもと違くない?」
「あれだって、顔を合わせ難いんだよ。カッコつけてあっさりやられちゃったから」
「あーねー、あれは恥ずかしかったね」
「うっさいんじゃボケー! 聞こえるように言ってんじゃねー!」
ちゃぶ台をひっくり返して、俺の怒りを主張する。
因みに、ちゃぶ台の上には何も乗っていない。ただそこにあっただけの代物だ。
「落ち着いて下さいよ田中さん、馬鹿なのがヒナタにバレますよ」
「おまっ! そういうのは、分かっていても黙っとくもんだろうが!」
東風がフォローになってないフォローをして、いろいろとバレそうになってしまう。
そんな俺達のやり取りを見て、「……親父」と残念そうな顔をしたヒナタがいた。
これはもう、俺がどんな人間なのかってバレて……。
「って! どうでもいいわそんな事! ヒナタ! どうしてお前までここにいるんだ⁉︎ 弱っても、あの男に負けるほど弱くはないだろう⁉︎」
分かってる。
分かって聞いてる。
でも、言わなきゃ気がすまなかった。
「……親父を連れ戻すためだよ」
「違うんだよ! そうじゃない、俺が言いたいのは……どうしてお前が……くそ!」
焼酎をもう一杯飲み干す。
それでも足りなくてビールを飲み干す。
でも、まったく酔えなくて、逃げる事が出来ない。
「……ヒナタ、お前は俺の子供だ」
「……うん」
「子供ってのはな、親よりも後に死ぬもんだ」
「…………」
「それなのに、どうしてここに来たんだよ。俺がそんな事されて、喜ぶとでも思ったのか?」
これは、ヒナタの行動を否定する最低な言葉だ。
それでも、やめて欲しかった。
ヒナタには、生きていて欲しかった。
俺なんかの為に、命を失って欲しくなかった。
ミスしたのは俺なのに、どうしてヒナタが犠牲にならなきゃいけないんだよ……ちくしょう……。
俺の気持ちを察したのかは分からない、だけど、ヒナタは情けない俺の姿を見てニッと笑っていた。
「うるさいぞ親父。親父が喜ぶとかじゃないんだよ、俺がこうしたかったからやってるんだよ」
それは、俺を気遣っての言葉だった。
「…………馬鹿野郎……悪い所ばっか、親に似ちまったなぁ……」
きっと、俺が同じ事を言われても、同じように返しただろう。
それが分かって、どうしようもなくヒナタを愛おしく思ってしまう。
どこで間違った。
どうしてこうなった。
そんな後悔の思いや原因は、今はどうでもよくなった。
周りも俺達を気遣ったのか、静かにしており、事の成り行きを見守っていた。
「親父、俺はさ、親父に拾われなかったら死ぬ運命だったんだ。俺が生きて、あの森で過ごした時間は、きっと奇跡だったんだよ」
真っ直ぐに俺を見て、柔らかく微笑む。
その顔が、幼い頃の顔そのままで懐かしくなる。
「ト太郎が気まぐれでやっただけかも知れないけれど、俺は心から感謝してる」
「……どうしてだ?」
「親父に出会えたからな」
天井を見上げる。
ストレートな言葉が、こんなにも来るものだとは思わなかった。
「フウマもいてくれた。ト太郎も何だかんだで、俺を大切に思ってくれていた。ナナシも二号も遊びに来てくれて、毎日が楽しかった」
一度言葉を切ると、俺がヒナタを見るまで口をつぐんでいた。
「親父、俺はあんたに沢山の幸福をもらった。だからさ、今度は俺の番なんだよ」
そして、俺と目を合わせると、屈託のないとびっきりの笑顔を浮かべた。
「またな、親父」
俺は何かを言おうとした。
だが、何かを言う前に、全てが遠のいて行く。
待ってくれと必死に手を伸ばすが、その速度が早過ぎて空振りに終わってしまう。
見慣れた景色が無くなり、真っ白な世界に取り残されてしまう。
行ってしまった。
ヒナタが行ってしまった。
胸にある温もりは、ヒナタの物と同じだ。
感じる魔力もヒナタそのものだ。
「……バカヤロウ…………」
蹲って動けなくなってしまう。
こんな姿を見たら、きっと笑われてしまう。早く起き上がらないとと思っても、体が動いてくれない。
そんな俺に、声を掛ける存在がいた。
「行っちゃいましたね」
「……東風」
動けない俺の隣に立ち、東風は向こう側を見ていた。
「みんな次に行ってしまいました。多分もう、全員で集まる事はないでしょうね」
「次?」
「次ですよ、次の生に向かったんです。所謂、輪廻転生ってやつです」
「それはヒナタもか?」
「ええ、どこに生まれるかまでは分かりませんけどね」
「そうか……」
「……動けそうですか?」
「いや、無理だ。って言いたいけど、そうも言ってられないんだろう?」
足に力を入れて、勢いを付けて立ち上がる。
気持ちは沈んだままだが、そうも言っていられない。
ヒナタと次に合った時、情けない俺の姿は見せたくない。カッコいい親父のままで、もう一度会いたいんだ。
「ええ、今回の騒動は、世界に大きな影響を与えています。新しいダンジョンが出来るくらいなら問題なかったでしょうけど、奈落と繋がって、あんな化け物まで現れたんです。ダンジョンの侵食は早まりますよ」
「それはどれくらいだ?」
「さあ? 俺は専門家じゃないんで知らないです」
「おまっ⁉︎ 何でも知ってますよ、的な雰囲気作っといてそれはないだろう」
「仕方ないでしょう、俺だって知ってる情報から推測してるに過ぎないんですから。詳しい話は、二号にでも聞いて下さいよ」
完全に他人任せのくせして、不満そうな顔をする東風。
まあ、知らないのなら仕方ないな。
「んじゃあ、さっさと起きて話を聞くか」
「ええ、それでどうします?」
「何が?」
「ユグドラシルです。ヒナタが居なくなった以上、守る理由も無くなりましたよ」
何を分かりきった事を聞いているんだろうか。
もしかして、東風は俺を試しているのか?
「そんなん決まってんじゃん」
東風を真っ直ぐに見て答える。
「ヒナタが守ろうとしていたんだ。絶対に守るさ」
俺の返答に満足したのか、東風は俺の背中をばんばんと叩いて来た。
「流石田中さんっすね! そこに痺れますわ!」
「何だよ、俺が見捨てるとでも思ってたのか?」
「正直、少し思ってました。この世界で千里と幸せに暮らすのも、良いんじゃないかって思ったんです」
それを聞いて、そういう未来もあるのかなぁと考えてしまった。
でも、もう、俺は決断したんだ。
「うるさい、さっさと行くぞフウマ」
「照れてますね、……て、あれ? 田中さん気付いていました?」
驚いた表情の東風を見て、俺は言う。
「何となくな、性格違い過ぎるから分かり難かったけどな」
「言っときますけど、フウマの人格は俺じゃないですからね。フウマの視線を通して、俺が見ているような感じです」
一緒にするなと言っているが、俺からしたらどっちも同じだった。
だから、一言だけ言おうと思う。
「フウマ」
「何ですか?」
「いつも、ありがとな」
そう告げると、小さな馬がそっぽを向いていた。
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田中 ハルト(25+13)(卒業)
レベル error
《スキル》
地属性魔法 トレース 治癒魔法 空間把握 頑丈 魔力操作 身体強化 毒耐性 収納空間 見切り 並列思考 裁縫 限界突破 解体 魔力循環 消費軽減(体力) 風属性魔法 呪耐性 不滅の精神 幻惑耐性 象徴 光属性魔法
《装備》
聖龍剣 不屈の大剣(魔改造) 守護獣の鎧(魔改造)
《状態》
ただのデブ(栄養過多)
世界樹の恩恵《侵食完了》
世界亀の聖痕 《侵食完了》
聖龍の加護 《侵食完了》
聖天の心部
《召喚獣》
フウマ
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次の投稿は29日
その後の話6話+if物語1話でネオユートピア編はおしまいとなります。




