表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無職は今日も今日とて迷宮に潜る【3巻下巻12/25出ます!】【1巻重版決定!】  作者: ハマ
6.奈落の世界・世界樹(都ユグドラシル)

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

190/373

奈落51(世界樹10)改

 起きたフウマに跨がり空を行く。


「ヒヒーン‼︎」とフウマが痛かった、痛かったんだぞぉ‼︎ と訴えて来るが、喧しい早く行けとケツを引っ叩く。


 端末に示された浮島は、世界樹と呼ばれている大樹を挟んだ向こう側にあった。おかげで、結構な距離を移動しなくてはいけない。


 夜の世界とは違い、美しく巨大な建築物と緑のコントラストの景色は見ていて飽きるものではない。また浮島にも色々とあるようで、比較的地上に近いものは、地上と同じような建築物になっているのだが、上に上がれば上がるほど、行政機関でもあるのか大きな建物や施設が浮島一つを使っていた。

 その中でも一番上にある浮島は、世界樹よりも高い位置にあり、大きな魔力を発している事から、結界の維持に使われていそうだった。


 高速で進む景色だが、それなりに楽しむことが出来た。もっとゆっくりと眺められたら、凄い景色なのだと実感できたのかも知れない。

 いつか楽しめたら良いなと思いつつ、目的地に到着した。


 そこはまるで神殿のような造りをしており、その中央にはこれまた大きな塔が聳え立っていた。

 整備された幅の広い道には、多くの人々?が行き交っており、中には近くのベンチに腰掛けて談笑するエルフとドワーフの姿もあった。


 のんびりとした長閑な風景なのだろうが、様々な種族の姿が珍し過ぎて視線を彷徨わせてしまう。

 ここではない場所で出会っていたら、確実に戦っていただろう姿の者もおり、不思議な感覚に陥る。


 平穏が約束された場所ならば、どんな姿形だろうと分かり合えるのだろうか。

 これまでに奈落で殺し合った者達とも、もし出会う場所が、互いの状況が違っていたならどうだっただろうかと、どうしようもない事を考えてしまう。

 頭を振って、余計な事は考えを振り払い、ニールに教えてもらった場所に向かう。


 歩いていると、周囲の人? の会話が聞こえて来る。

 なんでも英雄なる人物が戻って来ているらしく、それはとても喜ばしいことなのだそうだ。


 英雄か……。

 それってヒーローだよな。

 やっぱり変身したりするのかな?

 そういうのだとフウマが喜びそうだし、俺も興奮しそうな気がする。

 ヒナタも何だかんだで、漫画とかが好きだったので興味を引くかも知れない。


 ちょっと見に行こうかな。

 ヒナタもそこにいるかもしれないし。


 そうと決まれば、近くのアルパカっぽい人に尋ねてみる。


 すんません、その英雄とやらにはどこに行けば会えますか?

 あっごめん驚かせて。

 言葉分かります? ドゥー ユゥーアンダースタン?

 分かる。OK OK

 それで、その、さっき言ってたヒーローショーをやっている所なんですけど、どこでやってますか?

 えっ、そんなこと言ってないって?

 いや、さっきヒーローが帰って来たって。

 英雄? ああそうだ英雄英雄! その英雄には、どうやったら会えます?

 え、会えないの? そもそも、本当に英雄が帰って来たのかも知らないと。

 そうですか、分かりました。教えていただき、あざっす。

 え、礼儀正しいですねって?

 ええまあ、昔からよく言われます。


 そう自慢げに胸を張ると、アルパカっぽい人は、


『ハイオークでも、ちゃんとしているのはいるのね』


 と、何か勘違いしていそうな言葉を吐いて、去ってしまった。


「……ブルル」


 固まってしまった俺に、ちょこんと触れるフウマ。

 どんまい。そう同情される気持ちが、とても辛くなった。


 少しだけ落ち込みながら、目的地に到着した。


《アーカイブ》


 または記録保管庫という言葉が頭に浮かぶ。

 これも、表に掲示されている文字を見て起こった現象で、文字自体に魔力が宿っているのを見るに、オクタン君達がいた施設の物と同じなのだろう。


 ニールはここに行けと言っていたが、ここで人探しでも出来るのだろうか。


 まあ、試しに入ってみるかと進もうとして、足を止めてしまう。

 入り口はあるのだが、透明な膜のような物が張られており、これが自動で開くのかと待っているのだ。

 だが、一向に開かない。もしや休館かと心配になってしまう。


 試しに触れてみると、そこには何も無いかのように通り抜けてしまった。

 スキル空間把握では、確かにここに物質があると反応しているのに、結果と反応の違いに戸惑ってしまう。


 とはいえ、通り抜けられるなら問題無い。


 どっこいしょと通り抜けると、その先には幼稚園っぽい施設があった。


 …………おう。


 思わず漏れた声には、そうじゃないという思いが乗っていた。


 確かにヒナタの特徴を伝えるのに、翼のある子供と説明をしたが、どうやったら幼稚園に行き着くのだろうか。


 幼稚園の中では、翼を生やした子供達がワイワイ飛び回って遊んでおり、先生らしい奴が魔法で補助をして、子供達が怪我をしないようにサポートしていた。


 うーん、この頃のヒナタも同じように飛び回っていたが、こんなにフラフラとはしていなかった。

 俺やト太郎が、風を使って吹き飛ばしたりしていたせいか、バランスを取るのは上手かった記憶がある。


 翼を生やした子供達は地面に寝転んだり、屋根に張り付いたり、追いかけっこしたりと遊んでいるが、その内の一人が俺に気付いたようで指を差してキュルルルーと鳴いた。


 懐かしいなと思いながらも、やはりヒナタもこの地の住人の仲間なのだろうと確信する。

 ならば、ここに来ている可能性は高いのではないだろうか。


 俺は頷いて、ヒナタ達はきっと居るはずだと希望を抱く。そして、飛んで来た子供達を優しい風で巻き上げて先に進んだ。


 幼稚園を過ぎて神殿の中を突っ切って行くと、高く聳え立つ塔にたどり着いた。

 その塔の前には、円形の床が設置されており、御用の方はどうぞという内容が伝わって来る。それに従い床に乗ると、ニールに貰った端末が反応する。


『二級管理者相当の閲覧を許可します』


 機械的な音声が鳴ると、塔の扉が開き上階に向けて床が浮かび移動を開始した。


 塔の中は薄暗く、所々に青白い照明が設置されていた。

 そこから高く高く上がり、ゆっくりと停止すると横にスライドして壁に向かって移動する。

 思わず飛んで逃げようとするが、その先に壁が無いと空間把握が教えてくれる。


 黒い壁を通り過ぎると、その先には白い部屋が待っており、急に明るくなったような気がして目がチカチカする。


 白い部屋の中央にある椅子と机の場所まで来ると、床は自動で停止した。ここで終わりという事なのだろう。


 少しの距離を歩いて椅子に座る。

 目の前にある机にはカード型の窪みがあり、ここに端末を嵌めるようになっていると理解する。手に持った端末を机の上に置くと、自動で動き出し窪みにハマった。


 すると、端末から植物の根が生えてきて、あっという間に部屋を覆い隠してしまう。

 そして、一気に植物が引くと、そこに現れたのは実家の懐かしい俺の部屋だった。

 机も椅子も昔使っていたものに変わり、使い慣れたタブレットまで置いてある。


 俺はそれを見て、ふうと息を吐き出し、余計な事は辞めろと魔力を手に込め振り払う。


 今のは、俺がリラックスし易い場面を用意したのだとは理解している。だが、そんな物は必要ない。


 今欲しいのは、望郷の念ではない。

 ヒナタやト太郎、二号を探す手掛かりなのだ。


 元の白い部屋に戻った場所で、声が脳に直接届く。


『質問は?』


 ヒナタという名前の人物を探したい。


『現在の都ユグドラシルにヒナタと登録された人物は17万1982人います。特徴を選択して下さい』


 純白の翼が背中にある。あとは金髪でキュルルとよく鳴く。


『現在の都ユグドラシルで特徴と合う者は182人います。表示なさいますか?』


 頼む。


 すると、白い部屋一杯に人物の顔が表示される。

 それは男女問わず大人から子供まで表示されており、その中にはヒナタらしき人物は見当たらなかった。


 はあと溜息を吐いて、表示された顔の一つに触れると、その人物の全体像と名前から年齢、何かの成績まで詳しく表示されていた。


 その中で気になる項目がある。

 種族:天使


 いや、天使っぽいなとは思っていたが、本当に天使だとは思わなかった。

 天使って言ったら、神秘的で頂上的な存在だというイメージがあったので、どうしてもヒナタのイメージとは結び付かなかった。


 天使という項目に触れてみると、更に詳しく表示され、どういう存在なのか教えてくれる。


ーーー

天使

聖龍の手により生み出された種族であり、世界樹を守護する為に遣わされた存在。高い戦闘能力、機動力、豊富な魔力量を誇り、都ユグドラシルの中で最も優れた種族の一つであり、最初の種族……etc

ーーー


 かなり詳しい内容が頭の中に流れて来る。

 情報量は多いが、興味を示さなかった内容は流れて消えて行く。何とも不思議な感覚だ。


 この検索内容が、都ユグドラシル限定だとしたら、ヒナタはここにいないという事になる。

 結局は無駄足だったのかと、再びここのシステムに問い掛ける。

 この検索結果は、現在居る者のみなのか、過去も含めたものなのかを。


『範囲を過去のものを含みますか?』


 頼む。んで、もう一回ヒナタを検索してくれ。


 そうお願いすると、検索結果の人数が少し増えただけだった。更に純白の翼をと追加したのだが、検索結果は変わらなかった。


 ダメかと諦めて、次にト太郎を検索する。

 するとハイオークとペットのトカゲの二件がヒットした。言うまでもなく外れである。

 最後に二号を検索した結果。

 愛獣二号という、何とも性に関して旺盛な人物の通称がヒットした。つまり無駄足である。


 よく考えたら、ト太郎と二号の本名を知らないので、正確に検索する事が出来ないのだ。


 打つ手無しかと肩を落とす。

 もう用は無いので退出しようかと考えて、待てよと思い付いた。

 ここなら、奈落から脱出する方法が分かるのではないかと。


 今、この状況で地上に帰ろうとは思わなくても、知っておいて損はないはずだ。


 この世界からの脱出方法を教えてくれ。そうお願いすると、二箇所の階段の位置と世界樹による転移が可能だという情報が流れて来る。

 他にも脱出方法はある可能性は高そうだが、今判明している手段がこれしかないそうだ。


 因みに階段の位置は、ここから十万キロ以上離れている火山の麓。もう一ヶ所は、それ以上に離れた死の草原にあるらしい。


 …………草原って、最初に落ちた所じゃね?


 うおおぉぉおおああぁぁ!!

 どう表していいか分からない感情が、俺の口からはみ出てしまう。

 訳の分からないまま死の草原を選択して、詳しく情報を見る。


ーーー

死の草原

どこまでも続く平坦な草原。地面に起伏は無い。気温は一定であり、草がよく育つように調整されている。キラープラント、クレイクラウンの二種のみが生息する地であり、生き残るのが困難な地。アクーパーラの餌場……etc

ーーー


 間違いないじゃんと思わず机を叩いてしまう。

 アクーパーラなる物を選択すると、巨大な亀の姿が頭に流れる。

 間違いなく収納空間で食料と化しているアレである。


 帰れたのだ。

 あの時、立ち止まって草原をくまなく探していれば、この地から脱出できていたのだ。


 あいつらを見つけ出すまで帰る気はないとはいえ、こんな事実を知らされては、脱出する気を失ってしまう。


「ヒヒーン!」


 隣でフウマが嘶声、俺に活を入れる。

 そうだな、過ぎた事を悩んでも仕方ない。他にも調べる事はあるのだから、早くするべきだ。


 ありがとなとフウマの頭を撫でると、そうじゃないと否定される。


 腹が減ったから何かくれって?

 蜜を飲んでから何も食べてないんだよって?

 おまっ!もうちょっと空気読めよな、ほらよ。


 収納空間から海亀の肉を使った角煮を取り出して渡す。調理してそのまま入れているので、熱々である。

 ついでに女王蟻の蜜を寄越せと言うので、コップ一杯分を渡した。


『ここでの飲食は控えて下さい』


 あっはい。


 フウマは角煮を丸呑みして蟻蜜で流し込む。

 ゲフッと汚い声を出すので、風を起こして臭いを吹き飛ばした。


 さあ続きをしようと思い、ふと疑問が湧いた。


 何でヒナタの名前の数がそんなに変わらなかったのかと。


 この地が百年やそこらで出来た物なら納得するのだが、もしも千年も前からあったとしたら、もっと数に動きがあってもいいのではないかと思ったのだ。


 何かきっかけがあったのではないだろうか。

 ヒナタの名前が人気になるような何かが。


 それを尋ねる。

 ヒナタの名前が広がったきっかけは何かないのかと。


『英雄ヒナタ』


 その情報と共に、銀髪の男の映像が映し出された。

 黒い翼に黄金の瞳、長剣を武器に多くのモンスターを倒し、都ユグドラシルを守護する姿が。


ーーー

ヒナタ

母:キューレ 父:オリエルタ

英雄候補だったキューレの子であり、聖龍により育てられた救世の存在。これまで襲来した三体の災害級モンスターを退け、世界樹を守護した英雄。

※これ以上の閲覧は管理者一級以上の権限が必要です。

ーーー


 まさかと思い調べたが、残念ながら人違いならぬ天使違いだった。

 てか、こいつは昔に襲って来た奴だな。

 デーモン引き連れていたので、悪者だと思っていたが、この地では英雄と謳われているようだ。


 はっきり言って全く理解出来ない。

 世界樹を守って英雄と称えられるのは分かるが、どうしてデーモンと一緒になって襲って来たのかが分からない。


 正直、今の俺でも勝てるとは断言できないほど強い。

 そもそも、銀髪の男の底を見た訳ではないので、強さを判定する事も出来ない。


 つーか、何でヒナタって名前なんだよ。被ってんじゃん、完全に。


 今度、ヒナタに会ったら、別の名前に改名しよう。

 銀髪の男と同じ名前なんて、縁起が悪すぎるからな。


 そう思いながら、震える体を抑えて聖龍という文字を選択する。


ーーー

聖龍

世界樹を生み出し、世界に恵みを齎した神なる龍。森羅万象を操り、世界を守護していた。×××××年前にダンジョンに世界が取り込まれてからも、この地を守り続けた守護龍。英雄を育てたあとから、その姿を消している。一説では転生の準備を行なっているとなっている……etc

ーーー


 良かった、違った。

 聖龍がト太郎かと思ったが、姿形が違い過ぎているので、まず同一である可能性はない。

 聖龍は三対の翼を持つ巨大な龍。

 それに対してト太郎は、首の長いマッチョな肉体だ。似ても似つかないどころか、比べるのも烏滸がましい。


 ワンチャン、ほんの少しでも同一の可能性があるかなと思ったが、まるで違っていて安堵した。


 はあと息を吐き出して、今ので気になった“ダンジョンに世界が取り込まれる”というものを選択する。


 そして、そこで得た情報は、かなり衝撃的なものだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ