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無職は今日も今日とて迷宮に潜る【3巻下巻12/25出ます!】【1巻重版決定!】  作者: ハマ
6.奈落の世界・世界樹(都ユグドラシル)

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奈落47(世界樹⑥)改

 近未来的な建築物を出て、整備された道を歩いていく。

 街灯はないのだが、上空に浮かぶ島や、周囲の木の一部が薄っすらと光を放っており、道を明るく照らしてくれる。


 奈落の夜は満月の地上並みに明るいので、そこまで不便は感じなかったのだが、文明の灯りに慣れると途端に暗く感じてしまう。

 やはり、文明とは偉大なのだと実感する。

 道ひとつ取っても、綺麗に舗装されており僅かに弾力性があって歩き易い。道の脇にはベンチも設置されており、休憩も出来る。水飲み場やトイレらしき物もあり、ホームレスでもやっていけそうだ。


「フゴー」


 何処からか獣の鳴き声が聞こえて来る。

 それも一匹ではなく、群れのような数の鳴き声が近付いて来ていた。

 こんな夜に近所迷惑なと思い、鳴き声の方を向くと、百を超えるオーク?の群れがいた。


 何故オークと断言できないのかというと、その群れのオークは四足歩行をしており、その目に知性が宿っていなかった。いや、それどころか生気を感じないのだ。

 動いているので生きてはいるのだろうが、根本的に何かが違っている。足りないと言っていいかも知れない。とにかく不完全で、歪なオークの姿をした生物だった。


 その群れは、道を一列に並んで移動しており、何処かに向かっているようだった。


 オークモドキの群れを見て驚いていると、毛むくじゃらの小さなおっさんに話しかけられた。


『何だお前さんは? さっさと列に戻れ』


 何だこの野郎、俺がこのオークモドキと同じに見えるってのか?


 毛むくじゃらのおっさんの姿は、ずんぐりむっくりとした体形に、体毛が多く生えており、特に髭を長く伸ばしていた。まるで、ファンタジー世界に出て来るドワーフのようだ。また、畑仕事をしているかのようなオーバーオールを着用しており、手にはそこそこ長い鞭を持っていた。


『なんじゃい、オークじゃないんか。じゃあ、豚の獣人か?』


 俺は手をボキボキさせながら準備運動を始める。

 初対面で喧嘩売られるのは、モンスター以外では初めてだ。

 その毛むくじゃらを、お前の血で洗って見せよう。


『お、落ち着け、冗談じゃ冗談!? イケメンなハイオークだったんで、つい揶揄ってしまったんじゃ!』


 余計悪いわ!ここまで殺意を抱いたのは、これで百回目くらいだぞ。


『結構多いんじゃな、大変な生活送って来たんじゃのう』


 やかましい。んで、このオークの群れは何なんだ?


『何って、さっきお前さんがオークモドキと言っておったじゃろう?』


 オークモドキ……なあ、こいつらって生きてるのか?


『……さあの、食料として造られただけの存在じゃからな、生きても死んでもおらんってところじゃろう』


 食料として造られたと聞いて、もの凄く忌避感を覚える。

 生命に対する冒涜などと講釈を垂れるつもりはないが、どうしても同意出来ない一線というものがある。

 それが、地上で行っている事と大差ないとしてもだ。


 俺が顔を顰めていると、ドワーフのおっさんが説明してくれた。


 このオークモドキは、ハイオークの魔力と微量の細胞を利用して造られているらしく、意思や魂と呼べる物は宿っていない。

 もっと言えば、生まれた時からこの姿らしく、昼と夜を一巡すると溶けて無くなるそうな。

 だからこそ、食料として使われる。

 それが、生み出されたオークモドキの使い道なのだそうだ。


『嫌な仕事だろうが、誰かがやる必要があるんじゃよ』


 ため息を吐いたドワーフのおっさんは、分かるだろうと俺に問い掛けて来る。


 確かにそうだ。俺が文句を言うのは筋違いだ。この土地にはこの土地でのやり方がある。先程までいた施設も、多くの種族が暮らしており、ともすれば殺し合いが起こってもおかしくはないのだ。

 オークモドキのおかげで食料が賄われて、平和が維持されているのなら、それは必要悪というより善なのだろう。


 しかし、だがなとも思う。


 どうして俺をオークモドキの仲間と判断したのかと。


 改めて殺意が湧き上がる。


『落ち着け、謝ったじゃろっ!? そっそうじゃ!良い所を教えてやる!』


 む?……良いだろう、さっさと連れて行け。


『恐ろしい魔力を持っておるのう、この儂をビビらせるとはやりおるわい、お主何者じゃ?』


 権兵衛だ。そういうおっさんは誰だ?


『権兵衛か、儂はブリュンヒルデ・テトス・トコリス・ユグドラシルザニールじゃ』


 ブリュ……何だって?


『ブリュンヒルデ・テトス・トコリス・ユグドラシルザニールじゃ。ドワーフの名前は長いからのう、気軽にニールと呼んでくれ』


 このおっさんは、やはりドワーフのようだった。

 よろしくなニールと握手すると、良い所に連れて行ってもらう。


 道中で会話をするのだが、どうして念話を使わないのかと尋ねられたので、単純に念話の使い方を知らんからだと答えておく。というか、念話なんて初めて聞いた。

 それなのに、どうして言葉が理解出来るんじゃろうなとニールは悩んでいるが、そんなもん知らん。だから、パッションだろうと教えて上げる。


『権兵衛は情熱を良いように使い過ぎじゃないか?』


 良いんだよ、分からないものは大体パッションでいける。

 それよりも、さっき言ってた守護者って何だ?


『守護者を知らんのか? なあ、権兵衛は何処から来たんじゃ?』


 何処って森からだよ。森しかないだろう、ここの外って。


『森か……。 守護者じゃったな、守護者は言ってしまえば世界樹を守る戦士達のことじゃ』


 世界樹とは、遠くに見える大きな木の事で、この地を守っているそうだ。

 世界樹ユグドラシルに守られた都ユグドラシル。

 その世界樹を凶悪なモンスターから護る守護者。

 持ちつ持たれつの関係で、この地では安定しており、多くの種族が暮らしているらしい。

 豊富な食料に発達した文明。それを守る為に、皆が鍛錬して守護者になるべく頑張っているそうな。


 へーと鼻を穿りながら聞き流していると、横目で睨まれる。

 すまんがへーとしか言いようがない。

 確かに、奈落で文明を築いているのには驚いたし、ここが住み易いのは、先程までいた施設で理解している。だが、この地にヒナタ達が居ないのなら、俺たちは直ぐにでも出て行くつもりだ。

 だから、今説明を聞いても仕方ない。

 聞くなら、あいつらを見付けた後で十分だ。

 

 そんな俺の心情とは裏腹に、ニールの話はそれだけでは終わらない。


『この地にはな、三十六の種族が暮らしておる。人数もそれなりに多くてな、数十億もの民が住んでおる。皆が鍛錬に励んでおるが、森に出れば半数が死ぬじゃろう。森の外に行ける者となると、生き残るのはほんの一握りじゃ』


 一体何の話だと、遠くにある大きな木を眺める。

 気のせいかも知れないが、あの木から視線というか意識を向けられている気がする。


『皆が、この地を守る為に戦っておる。世界樹を守るのは勿論、ここに住む大切な仲間の為に、皆が戦っておるのじゃ。だがな、皆が必死に頑張っても守れないんじゃよ、この地のモンスターは強過ぎる……』


 ふーん、それで、何が言いたいんだ?


『別に何にもありゃせん、ただの独り言じゃ。この地は、我らにとって過酷だというな』


 はあとため息を吐いたニールの背中は、見た目以上に小さく見えた。


 下らない話をしたなとニールは言うと、今度は普通の雑談に移った。

 最近の人気の装備だとか、美味い店だとか、ギャンブルだとか、人気の役者だとか、歌だとか、とかとか、色々な話をしてくれた。

 明らかに、地上よりも進んだ文明のはずなのに、話している内容が地上と殆ど変わらない。何とも不思議な感覚である。


 話の尽きないニール。

 そんなに事情通のニールに、一つ尋ねる事にする。

 それは、ヒナタ達を知らないかという内容だ。


『白い翼のある子供と首の長い爬虫類。あとは権兵衛よりブサイクな奴か……心当たりがない訳じゃないが、最後のはまったく心当たりが無いな』


 ヒナタ達の特徴を伝えると、何やら知っているらしい。

 しかし、残念なことに二号の事は知らないようだ。


 とにかく、ヒナタ達に繋がる情報なら何でも良いので、教えてくれと助けを求めると、一枚のカードを懐から取り出し、何か操作し始めた。


『ほれ、これ持ってけ。目的地は登録しとる。それが権兵衛の望む場所へ連れて行ってくれるだろう』


 渡されたカードには、この地の地図があり、指先で操作すると立体的な地図が表示された。そこには、浮島の地形や施設も載っており、これがあれば、まず迷う事はないだろう。

 こんな便利な物があったら、マッピングールの出番がなくなってしまう。


 俺が収納空間から取り出した機器を、興味深そうに見るニール。

 また独り言で『どこも似たような物を作る』と呟いていた。


『それは、都ユグドラシルでしか使えんからな』


 ニールの忠告に、どうやらマッピングールの出番はまだあるようだと安心する。

 それなりに長く使っているので、かなり愛着が湧いてしまった。にしても、結構な期間使っているのに壊れないって凄いと思う。


 …………あれ?マッピングールって誰に貰ったっけ?


 やばい、結構な期間ダンジョンにいるせいで、地上での関係を忘れているような気がする。

 親族や友人関係は覚えているが、それ以外が曖昧だ。

 住んでた場所は、自信はないが覚えている。

 つーか、長い事行方不明になっていたら、失踪届けやら、死亡届けも出されている可能性すらある。

 地上に戻ったら戻ったで面倒そうだな。


 腕を組んで悩んでいると、ニールが言っていた良い所に到着したようで、おいと背中を叩かれる。


 到着した場所は、オークモドキが水を飲む為にある場所らしく、ニールの鞭によってオークモドキが行儀良く並んでいた。


 これはあれだろうか。

 ニールはここで殺して欲しいのだろうか?


『おい!早とちりするんじゃない⁉︎ 落ち着け、その魔力を引っ込めろ!!』


 大量の汗をかいて、落ち着けと宣うニール。

 何をそんなに怯えているのだろうか、どうせ一瞬で終わるのだから、何をやっても変わらないというのに。


『違うからな!別に権兵衛を馬鹿にしている訳じゃないからな!』


 じゃあ何だというのだろう。

 オークモドキが並んでいる、俺をオークモドキと間違えたニールが良い所に連れて行くと言ったのだ。

 俺をオークモドキとして扱っているも同然ではないか。


 右腕に魔力を込めていき、バチバチと音を立て始める。

 まるで、俺の怒りを表しているかのようだ。


『待て!?これを見ろ!』


 焦った様子のニールは、近くにあったレバーを倒す。

 すると、その水を溜める場所に、女王蟻の蜜が流れ出て来たのだ。


「フゴッ!フゴッ!」


 その蟻蜜を舐めるや否や、興奮した様子のオークモドキ達。蟻蜜をガブガブの飲んでいき、オークモドキ達はその体を更に肥大化させて行く。


 何だこれは、これじゃあまるで◯と千◯の神隠しの親みたいじゃないか。


『ほれ』


 その光景に慄いていると、ニールが蟻蜜の入ったコップを手渡して来た。

 差し出されたコップを一口飲み込むと、クィーと喉から鳴る。間違いなく女王蟻の蜜だ。

 まさかとは思うが、こうやって太らせて食べる気なのだろうか。オークモドキと呼んでいるが、実は元は……。

 なんて恐ろしい妄想をしてしまうが、ニールが自らも蜜の入ったコップを持ち。


『この蜜が飲めるのは、ここだけだからな。皆んなには内緒じゃぞ』


 クィー!生き返るわい、これが若さを保つ秘訣よい。そんな事を言って本ドワーフも女王蟻の蜜を飲み干しているので、それは無さそうだ。


 だが、今の言葉で気になる事が出て来た。

 ここの住人は、女王蟻の蜜は飲めないのかという疑問だ。

 女王蟻の蜜は森の中を通っており、誰でも飲める物のような気がするのだが、今の言葉だとそうでもなさそうだ。


『この生命蜜を飲めるのは、成人した時と子を宿した時に限られる。それ以上の摂取は意味ないからの、摂り過ぎても依存するだけじゃて』


 そう言いながらも女王蟻の蜜を飲むニール。

 こいつは、既に蟻蜜中毒に陥っているのではないだろうか。


『それにな、これは世界樹様が己の為に生み出した蜜だからのう、普通の者が飲み過ぎると弊害が起こってしまうんじゃ』


 何ですと?


 クイーンビックアント。

 それは、世界樹がビックアントを改良して作り出したモンスターであり、世界樹へ栄養を運ぶ為に存在する。

 世界樹の力により、各階のダンジョンに送り込まれたクイーンビックアントは、あらゆる手段を使ってダンジョンからエネルギーを吸い取り、蜜を生み出しているそうな。

 クイーンビックアントの蜜は世界樹の為の蜜であり、それ以外の者には栄養があり過ぎるのだとか。


『余り飲み過ぎるとな……太るんじゃ』


 そんなん分かっとるわい!


 真面目に聞いて損したと思い、蟻蜜を飲む。

 女王蟻の蜜は、色々と使われているようで、世界樹の栄養の他に、都ユグドラシルのエネルギーとして使われたり、結界の維持に使われているらしい。


 ふーんと聞いていると、空が段々と明るくなって来ていた。

 どうやら夜が明けるようだ。


 それと同時に、強烈な雷が空を駆け抜け、それから逃れるように高速でフウマが飛んで行く。


 何やってんだあいつ?


『なんじゃ!?』


 急激な変化に驚いたニールが声を上げる。

 そんなニールに、もう行くわと別れを告げて空に浮かぶ。


『ちゃんと行くんじゃぞー!』


 そんなニールの言葉を背に、俺はフウマを追いかけた。







『……まったく、嵐のような奴じゃ。それにしても、今のはミューレか……何やっとんじゃ彼奴は』


 オークモドキ達と取り残されたニールは、ため息を吐いて蟻蜜を飲む。

 そして、近くの木に触れると、その姿をエメラルド色の髪を持つエルフの少女へと姿を変えた。

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二人の邂逅はやはりこれよなーオーク餌か?ああん??w
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