奈落⑨(雪のち噴火)
山が噴火した。
おい、この野郎!なんで山に撃ったんだ!?
そこに山があるからだって?
山は標的じゃないんだよ!どうせ、あの銀髪野郎に対抗してんだろうが!
悔しくても物に当たるな! おかげで大災害だろうが!!
どうにもフウマは、あのデーモン?に対抗心を抱いているようだ。
最後に放った光の槍の威力に対抗する為に試したのだろうが、それはお門違いだ。
山を消滅させたあの魔法は、光の槍の力だけではなく、熊のモンスターの亡骸に残った魔力を利用してのものだった。
あのデーモン?単体では、あの威力は出せないはずだ。そうじゃないと、俺達が生き残れた理由にならない。
それが出来るのは、海亀のモンスターや巨大な蛇のモンスタークラスの化け物になる。あと、巨大な目玉のモンスターも出来そうだが、あれはそっち方面ではない気がする。たぶん。
火砕流から逃げるために空を駆けて行く。
普通に走っていては、地形の問題もあり追い付かれてしまうだろう。それに噴火しているのは、フウマが魔法で破壊した山からだけではなく、周辺にある山からも火が上がっているのだ。
先程までは青と白の世界だったが、今では大地は赤と土色が半分を占めており、白い雪は段々と侵食されている。
空は鉛色に染まり、先程までの恐怖を覚えるような幻想的な景色から、暴力的で命の脈動を感じるような景色に変わっていた。
火砕流が彼方此方から上がり、逃げ場が無くなると、フウマが結界を張り、俺が風属性魔法を使い可能な限り遠ざける。
まるで生き物のように動く火砕流。
モンスターよりも、よほど恐ろしい自然の脅威がそこにはあった。
そんな鉛色の火砕流から何かが飛び出す。
一見、飛魚のようにも見えるそれは、赤熱した岩石のような色をしており、尾鰭には溶岩を纏っていた。
その飛魚のモンスターは火砕流の中を泳ぎ、大きく飛び上がると、尾鰭を激しく振り、溶岩を飛ばして来る。
飛ばされた溶岩は少量だったが、飛魚から離れて俺に到達するまでには、視界が埋まるほどに増えていた。
ほうっとその飛魚に感心して、溶岩って熱いんだよなと呑気に構えて、モンスター多くねと嫌な気持ちになって、不屈の大剣に魔力を流して剣閃を飛ばす。
飛翔した剣閃は溶岩を切り裂き、奥にいた飛魚を砕いて始末すると、砕けた飛魚は火砕流の中に消えて行った。
これで、終わってくれたら良いのだが、当たり前のように次の飛魚が火砕流から飛び上がる。その数はかなり多く、恐らく群れで動くモンスターなのだろう。
それでも、雪のモンスターに比べたら可愛く見える。
あれは巨大な上に吹雪となって移動し、破壊光線まで放つ白い悪魔だ。しかも核が結晶一つ一つにあり、一気に消滅させるしか手はないという難易度高めのモンスターである。
その点、飛魚の攻撃手段は溶岩だけで、物理攻撃で倒せる相手だ。
なんてやり易いんだろう。
剣閃を飛ばせば砕ける飛魚のモンスター、フウマの風の刃を纏ったチャクラムでも倒せてしまう。
久しく忘れていた無双の感覚。
火砕流から跳ねる度に溶岩を放って来るが、そんなものに当たるほどフウマはノロマではない。空中を駆けるフウマの機動力は高く、追って来る火砕流を軽々と引き離せるほどだ。
だから安心して倒す事が出来る。
たとえ、飛魚を追った巨大な蛸のモンスターが現れても平気だ。
フウマの機動力を持ってすれば、軽々と避けて、避けて、避けに避けて、そして囲まれてしまった。
別に調子に乗っていた訳ではない。
風属性魔法を使った移動術は本物で、その能力もかなり高い精度を誇っている。
それでも、モンスターの数が多くなるとどうにもならないのだ。
火砕流という空高くに舞い上がる千度を超える死の灰。
それを海に見立てて、泳いで迫って来る凶悪なモンスター達。
それが見渡す限りあるのだ。
雪山といい、逃げるにはフィールドからして詰んでいる。
俺達を中心に強烈な風で吹き飛ばそうと試みるが、どうにも火砕流を操っているモンスターがいるようで、少し後退させるだけに終わる。
飛魚のモンスターが飛び出し、体が岩のように硬質化した巨大な蛸のモンスターが追う。他にも海の生き物っぽいモンスターが多くおり、特に体が鉄と溶岩で成り立っている鯱のモンスターは警戒すべきだろう。
正直、火砕流に飲み込まれながら戦うのは不可能だ。常春のスカーフの結界が維持されている間は良いだろうが、それが解けた瞬間に焼かれてガスに侵されて、常に治癒魔法で回復しながらの戦いとなる。
結界もモンスターの一撃を受けたら解ける程度の強度しかないので、当てにも出来ない。火砕流だから地属性魔法で操れないかとも考えたが、残念ながら主導権が他にあるようで操れない。
だから常に風を操り、火砕流を近付けないようにしながら立ち回るしかない。
移動をフウマに任せて、俺はモンスターを相手するのに集中する。
魔法で火砕流の動きを抑え、飛び上がったモンスターの攻撃を避けて不屈の大剣で斬る。
モンスターの攻撃は溶岩や、無数の岩石の投石や体当たり。何かの魔法なのか、引き寄せられるような感覚に囚われたりもしたが、それも、魔力を感じた方向に剣閃を飛ばすと無くなった。あれで火砕流に引き込まれたら、かなり危なかっただろう。
無数のモンスター達を葬って行く。
無双出来て楽勝っ!なんて思っていたが、雪山のときと変わらず、いや、それ以上に危ない状態になって来ている。
モンスターの数もそうだが、火砕流の侵食を抑えられなくなって来たのだ。
その影響か、モンスターの数は更に増えており、とてもではないが倒し切れる数ではない。
こりゃダメージ覚悟で火砕流に突っ込んで、逃走を図るしかないかと考えていると、破壊の光が火砕流を突っ切って襲って来た。
ギリギリのところで躱し、避けた先で足を伸ばして来た蛸のモンスターを両断する。
穴の空いた火砕流から少しだけ見えた。
そこには、残っていた雪に王○のモンスターがおり、破壊光線を放って来ていたのだ。
穴を塞ぐ火砕流。
そして俺を殺さんと、次々と破壊光線が火砕流を貫いて行く。
しかし目標が見えないからか、その狙いはお粗末なもので、殆どの破壊光線が他のモンスターを倒し、火砕流を消し飛ばすだけに終わってしまった。
意図していなかっただろうが、俺からしたら救いの手でしかない。
破壊光線により開いた道に向かって飛び、駆け抜ける。
フウマは嘶くと黄金を纏い、チャクラムを展開して魔力の流れを作り出す。そしてそこに放たれた破壊光線を操り、近くのモンスターに向けて誘導する。
周囲で爆発が発生し、その勢いで火砕流が流れて行く。
ヒャッホーッと火砕流の海から抜け出した俺達は、その開放感からテンション爆上げ……出来るはずもなく、その抜けた先の光景を見て唖然とした。
今いる場所から後方は地獄のような火山地帯。
目の前に広がるのは、吹雪により全てを白い世界に染めようとする地獄のような雪の世界。
二つの世界が鬩ぎ合っており、まるで戦っているように見えた。
もしかしたら、この噴火はフウマの魔法の所為ではなく、元々この世界の在り方なのかも知れない。
まあ、そんな俺の感想なんて無意味なもので、モンスターは変わらず襲って来る。
ただ、俺対モンスターだけでなく、火山のモンスター対雪のモンスターの戦いも勃発していた。
縄張り争いなのか、天敵同士なのか分からないが、モンスター同士で戦ってくれるなら大歓迎である。
この隙を突いて逃げれたら万々歳だ。
なんて思っていたら、吹雪の世界から強烈なプレッシャーを放つ存在が現れた。
それは海亀のモンスターに匹敵するほどに巨大だった。
頭部の見た目は蠅のようで、八つの肢を持ち、四つの鎌を持つ。蠅のような顔なのに、羽は甲虫のような鞘翅を持っており、歪な白い虫型のモンスターだった。
その巨大な蠅のモンスターが羽を伸ばして鳴らすと、吹雪が勢いを増し火山の世界を飲み込んで行く。
それに伴い、火砕流も姿を消し、泳いでいたモンスター達は凍り付き、地面に落ちて砕け散る。
一撃で世界を侵食したモンスターは、更に進もうと羽を強く羽ばたかせた。
俺達はひたすらに逃げる。
あのモンスターが俺達に興味を持っていない今しか、逃げるチャンスがない。
もしも、標的を俺達に定められたら、海亀のときと同様に成す術なく捕えられて殺されるだろう。
必死に逃げる俺達だが、火山の世界にも新たな化け物が現れたせいで、足を止める事になる。
下を流れる溶岩からツノの生えた鯨の頭が現れる。
体にはゴリラのような手足が付いており、背中には無数の棘が生えていた。見た目は鯨のようだが、メタリックな体を持っており、大量の溶岩を纏っている。
その存在はこちらを一瞥すると、興味を失ったように蠅のモンスターに向かって飛翔した。
肝が冷えた。
その存在の熱波で結界は消失し、モロに受けて肌が爛れてしまったが、治癒魔法を使うのも忘れて恐怖に震えていた。
何でこんなに巨大怪獣のような化け物達が出て来るんだ。
心の中で悪態を吐きつつ、早く離れようとフウマの腹を蹴る。
するとフウマがぐらつき、そのまま地面に落下を開始した。
なにが起こったのかとフウマを見てみると、白目を向いて気絶しており、使っていた風属性魔法が切れていた。
先程の巨大怪獣のプレッシャーにやられて気を失ったのだろう。気持ちは分かるが、今は頑張ってほしかった。ここでフウマの機動力を失っては、あの巨大怪獣達の喧嘩に巻き込まれてしまう。
俺は昇竜の戦輪を回収しフウマを脇に抱えると、風属性魔法で横向きの竜巻を作り出し、それに乗って移動を開始する。
しかしながら、俺にフウマほどの移動速度は出せない。魔法の威力や展開速度は俺の方が上だが、単純な風属性魔法の扱いはフウマの方が圧倒的に上手いのだ。
これがフウマだったら、戦いの余波を避けつつ逃げ切れたかも知れない。
だが、今、移動しているのは俺である。
背後で巨大な質量を持った二体がぶつかり合う。
光線のような冷気と、レーザーのような熱気が辺りを焼き凍らせる。更に爆発、破壊して地形を変えて行く。
この光景を見ると、熊のモンスターの爆発が可愛く見えて来るから不思議だ。
チラリと大怪獣の方を確認すると、蠅の鎌が横薙ぎに振られ、鯨の腕がそれを掴み引きちぎっていた。更に互いの口が開き、辺り一帯を蒸発させそうな程の濃密な魔力が凝縮して行く。
ああ、これはまずいな。
そう思ったとき、収納空間からあるものを取り出していた。
二つの馬鹿げた魔力がぶつかり、音を置き去りにして辺り一帯を消し飛ばして行く。
俺一人では、どんなに防御に徹しても数秒と掛からず蒸発していただろう。そんな破壊の余波を海亀の甲羅に張り付いて、必死に耐えていた。
そう、俺が収納空間から取り出したのは、巨大な海亀のモンスターの甲羅だ。
俺が知る限り、最も硬く最も頑丈な存在。
野球ドームよりも巨大なそれにしがみ付き、吹き飛ばされそうになるのを必死に耐える。
本来なら、この場にいるだけで焼かれて死ぬだろうが、フウマの付けた常春のスカーフの『装着者に適した温度に保つ』という効果のおかげで俺達はまだ生きている。
海亀の甲羅の中には、まだ中身が残っており、良い感じに焼かれたそれがかなり良い匂いを出していた。
こんな死にかけの場面なのに、ぐうとお腹が鳴る。
死に掛けているから、尚更本能に訴えて来るのかも知れない。
破壊の一撃の余波が止み、辺りにあった山が全て無くなっていた。その先にあった雪も無くなっており、どれだけ恐ろしい攻撃だったのか教えてくれる。
そんな地獄のような世界に残ったのは、巨大な怪獣の二体。
そして、海亀の甲羅。
その海亀の甲羅がドクンと鼓動し、目玉が生まれた。
俺は泣きながら、背後で勃発した三つ巴の怪獣大決戦から逃亡を図った。
ーーー
ウルル(巨大な虫のモンスター)
雪の世界の守神。今回は虫の姿をしているが、様々な姿に変化する。体の頑丈さはそれ程でもないが、雪がある限り幾らでも再生可能。世界に顕現する条件は、雪の世界が一定範囲侵食されたとき、奪い返そうと現れる。
※嘗て何処かにあった文明を滅ぼした存在。
ーーー
炎帝龍(鯨のモンスター)
火山を彼方此方で巻き起こす龍。高火力の攻撃と高い耐久力を誇る体を持っている。弱者に興味は無く、強者に反応して現れる。神を狩る龍。傍迷惑な龍。
※嘗て何処かにあった世界では崇拝の対象だった。
ーーー
田中 ハルト(24)
レベル 37
《スキル》
地属性魔法 トレース 治癒魔法 空間把握 頑丈 魔力操作 身体強化 毒耐性 収納空間 見切り 並列思考 裁縫 限界突破 解体 魔力循環 消費軽減(体力) 風属性魔法 呪耐性
《装備》
不屈の大剣 守護獣の鎧(改)
《状態》
デブ(各能力増強)
《召喚獣》
フウマ
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フウマ(召喚獣)
《スキル》
風属性魔法 頑丈 魔力操作 身体強化 消費軽減(体力) 並列思考 限界突破 治癒魔法
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