表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無職は今日も今日とて迷宮に潜る【3巻下巻12/25出ます!】【1巻重版決定!】  作者: ハマ
3.ダンジョン31階〜

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

115/373

百七十四日目

 朝から昼までは、明日の探索の準備をして過ごした。

 本日昼に鎧を受け取る予定で、調整がてら明日から泊まりで探索に挑む予定だ。

 泊まりと言っても、流石に年末年始まで潜るつもりはなく、二日間の探索で終わるようにしている。


 そんな計画を頭の中で立てていると、スマホが鳴った。

 画面を見ると、愛さんからの電話だ。



 はいもしもし、はい、はい、元気してます。

 報告?

 ああ、マッピングールのやつですね。はい忘れてないです。はい、明日から休み?

 じゃあ、報告は年明けで良いんですね。分かりました。

 物件も見つけている?なんの……ああ!忘れてた!

 すんません。マジあざっす!



 部屋のことを完全に忘れていた。

 愛さんに相談していて良かった。このままじゃ、来年の春には住む所を失っていたな。

 流石は愛さんだ。サス愛だ。愛さんは嫌がっていたが、俺はこれからも言い続けよう。


 時刻もいい頃合いになったので、アパートを出て武器屋に向かう。


 最近では、もうこっちに引っ越した方がいいんじゃないかと思うほど頻繁に、てか毎日来ている。

 今住んでる所は家賃が安くて選んだが、そろそろ立地で選んでも良いかもしれない。


 不動産屋の前を通ると、賃貸の値段が貼り出されている。


 う〜ん、高い。

 今払っているやつの倍以上だ。

 最近、地価が上がってきているのは知っていたが、こんなに早く影響が出るものなのか。

 払えない事はないが、これまでが安くて勿体無いと思ってしまう。


 まあ、物件選びにしても、愛さんからの紹介を見てからだな。




 これから手合わせ?


 武器屋に到着して、鎧を受け取ろうとしたのだが、武器屋の店主が約束通り、今から手合わせしろと言ってきた。


 いきなりだなと思いながら、どこでやるのかと尋ねると。


「そりゃダンジョンしかないだろう」


 やる気満々の様子の店主に、俺は落ち着けと制止して、鎧が本当に出来上がっているのか確認させろとお願いする。

 血気盛んなのは良い事だが、少しは歳を考えろと忠告したい。


 先に鎧を見せろと言う俺に、仕方ないなといった様子の店主は何故かドヤ顔だ。


 店主がカウンターの奥に消え、台車を押してやって来る。その台車の上には守護獣の鎧が乗っており、俺が付けた傷や斬った痕跡はどこにも見当たらなかった。まるで新品のような鎧がそこにはあった。


 うーん、カッコいい。

 甲冑ホブゴブリンの戦う姿を見て分かってはいたが、修繕され整備された鎧は一層厨二心に突き刺さる。

 しかも左腕の手甲には、見慣れた小盾、魔鏡の鎧に付いていた小盾が取り付けられている。


 まさかこれは……といったリアクションをしていると、店主がドヤ顔でその通りだと頷いている。


 また余計な事して俺の金使いやがったな!


「そんな事しとらんわ!」


 店主はそう言うが、前科があるせいで、どうしても怪しく見えてしまう。

 本当かなぁ?本当ぉに金取ってないよなぁ?


 俺の疑いの眼差しに、店主は顔を真っ赤にして否定する。


「この鎧はな、採算度外視で修繕と改造をやったんだぞ! 本来なら三千万貰っても足りんわ!分かったか小僧!」


 そうか、そこまで言うなら信じよう。


 で、誰が改造しろと言った。



 ダンジョン31階



 あれから目の泳いだ店主は、無料だからええやろなどと宣ったが、ここは責めどきだと思った俺は責めるに責めた。


 他人の物を勝手に改造して良いと思ってんのか?

 店としてどうなんだよ。

 これ弁護士頼んだら逆に金取れるんじゃね?

 弁償ってしてもらえるんですかねぇ?

 人の気持ち踏み躙った自覚はあるんか?

 俺とあのホブゴブリンの思い出を台無しにしやがって。


 などなどと嫌みったらしく責めたのだが、急に店主が鎧を元に戻すと言い出し、ハンマーを振り上げた時は流石に焦った。

 冗談冗談と言ってその場を収めたが、店主の目には殺意が芽生えていた。


 そして、ダンジョン31階で手合わせをするのだが、やはりその目には殺意が宿っている。

 まずいな、揶揄い過ぎたかもしれん。


 ちょっとだけ反省すると、不屈の大剣を構えた。

 俺はまだ鎧を使用していない。

 今回は手合わせということもあり、昨日も使っていた壊れかけのプロテクターだ。足には神鳥の靴を装備しているが、腕と足に防具があるくらいで、体の方はスカスカだったりする。


 まあ死ぬような事をする訳でもないし、大丈夫だろうと思っていたのだが……。


 怒りに満ちた店主の表情を見るに、殺しに来るかも知れない。

 ましてや30階のポータルに飛んだのだ、相応の実力を持っている事が窺える。


 店主の武器は一本の槍。

 色は鉄のような鉛色で、穂先から石突まで同色だ。体は動きやすさ重視の、軽装の装備で身を守っている。俺の記憶が正しければ、ビックアントの素材で作られた初心者用の防具のはずだ。

 他には、腰には魔銃用のホルスターを付けており、五発の魔銃用の銃弾が収まっている。しかし、魔銃自体は無く弾だけである。手合わせの邪魔になるだけとは思うが、外す気は無いようだ。



 店主が左足を前に出し腰を落とすと槍を構えた。

 その構えは流れるように行われた。まるで一種の芸術作品のような構え。その姿は、どれ程の鍛錬を積んで来たら出来るのか、俺には想像も付かなかった。


 店主の纏う雰囲気が変わる。


 武人。

 一言で表すならば、正にそれである。

 これまでにも、武人コボルトや甲冑ホブゴブリンのように武に精通したモンスターと戦い、人であれば新島アキラと戦った。

 それらと比べても分かる。

 武器屋の店主は、別格の存在だという事を。


「……リミットブレイク」


 これは手合わせだ。殺し合いではない。

 しかし、油断すると殺されるんじゃないかという緊張感が俺を襲っていた。


 互いに構えて睨み合う。

 それなりに離れているのに、妙に距離が近く感じる。


 はっはっと息を吐き出し、さあ行こうとすると、視覚にある情報と、空間把握と見切りで感じ取った情報の齟齬に混乱する。

 店主は構えて立っているはずなのに、スキルでは近付いて来ていると認識していた。


 そして、視覚情報が間違いだと気付いたのは、店主が槍を突き出す動作をした時だった。


 焦りながらも大剣で受け、後方に大きく飛んで槍の間合いから逃れる。


 スキルは確かに働いていた。

 それでも、そのスキルを信じきれなかった俺の落ち度だ。


 俺は再び不屈の大剣を構えると、集中して店主を見据えた。





 うん、無理。

 この店主、黒一よりも強いかもしれない。

 武器の技量においては、比べるのも烏滸がましいほどの差があり、スキルでカバーして何とか攻撃を凌ぐので精一杯だった。


 ならば魔法でと、死角から殺すつもりで魔法を使ったのだが、背後に目でも付いているのか、当たり前のように対処されてしまった。


 それでもとトレースと見切り、空間把握、並列思考を使い店主の動きを学んでいったのだが、学んで即座に真似るのは不可能なように、対処するのにも限界があり、段々と攻撃を受けてしまう。


 こりゃあかんと、岩壁で店主を囲って急いで離れた後、俺が使える最大級の威力を誇る魔法を使用した。

 爆発、分裂、速度上昇の魔法陣を展開して石の槍を作り出す。そして、岩壁が砕かれると同時に放ったのだが、掛け声と共に下から上に薙いだ槍に誘導されるように、上空へ上がって行き爆散してしまった。


 何したんだよ、このジジイは……。


 理解不能で、もう唖然とするしかなかった。


 再び武器による攻防に移ったのだが、今度は俺から来いと手でクイッとやられて挑発されてしまう。


 俺はそれに応えるように、不屈の大剣に魔力を込めて、横一文字に剣閃を飛ばす。更に追いかけるように、風属性魔法で不可視の刃を無数に向かわせる。

 それらが店主に向かって着弾すると同時に、俺は走り出す。

 砂埃が舞い視界が遮られているが、空間把握は店主の位置をしっかりと捉えており問題は無い。


 石の杭を店主の正面から出して攻撃すると、背後から強襲する。


 魔法の杭を斬り払った店主は、振り返ると同時に俺の振り下ろしを長剣で受け止められた。


 そう、長剣で受け止めたのだ。

 先程まで持っていた鉛色の槍は無く、穂先から持ち手の部分まで鉛色の長剣に変わっていた。

 そんな物持っていなかったはずだと、一瞬混乱するが、やる事は変わらんと攻め立てた。


 何度も何度も大剣を操り、注意を逸らすために背後から、横から、足元から魔法で攻撃するが、その全てが無駄に終わる。


 そして、大剣を振り下ろして鍔迫り合いに持ち込み、苦し紛れに神鳥の靴に鉤爪を生やして蹴りを放つのだが、これがいけなかった。


 店主の持つ長剣の質量が減ると同時に、もう一本の剣が生まれた。

 やばいと思った時にはもう遅く、神鳥の靴を斬り飛ばされてしまう。


 靴が斬り飛ばされるとは読んで字の通りで、つまりは俺の足も土踏まずの辺りから失われてしまったのだ。


 店主はしまったという顔をしているが、俺はそれどころではない。

 風属性魔法で、俺と店主の間に突風を巻き起こすと、大きく背後に跳んだ。


 地面に着地すると同時に、斬られた足元から血が噴き出る。だがそんな事はどうでもいい。そんなもの治癒魔法で治す事が出来る。

 だが、神鳥の靴はどうだ?

 斬られた右足の部分に魔力を送るが、まったくの無反応。更に言えば、無傷の左の方に送っても鉤爪が出てこなくなっていた。


 これはどういう事だ?

 これは手合わせではないのか?

 確かに殺すつもりで攻め立てたりはしたが、それは俺の攻撃が届かないと、なんとなく察していたからだ。

 店主は俺なんかよりも遥か高みにいる。

 そう理解していたから、俺は容赦なく攻めたのだ。

 店主もそれに応えるようにしていたし、今の俺の蹴りも下がれば避けれたはずだ。


 じゃあ何で斬り飛ばされたんだ?

 これ一千万円超えのアイテムだぞ?


 俺は神鳥の靴を脱いで裸足になると、力の限り責め立てた。

18時幕間投稿

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
もちろんただでバージョンアップしてくれるよなあ!
がんばれ(´・ω・`)
[一言] 面白い
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ