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≪第九章―役立たず、雑用する―≫(3)

「済まない、待たせたね。アザルース殿」


 王宮の一室、部屋の真ん中に構えた人物にエルダがそう声を掛けた。

 彼はアザルース八世。この国の王。


「おぉ!お待ちしておりましたぞ!エルダ殿!それでその隣におられるのがかの有名な伝説の魔女殿!」

「あぁ、彼女が『伝説の魔女』ソフィア・モルガンだ」


 エルダがそう紹介すると、王やその周りに集っていた貴族たちから「おぉ!彼女が!」「これで王都も安泰だ!」と安堵の声が次々に上がった。

 しかし、王はその後ろに見覚えのある影を見つける。


「しかしエルダ殿。あなたを疑うわけではありませんがどうしてあなたの後ろにその男がいるのですかな?スバル・スコットランド。そやつにはもう二度と顔を見せるなと言っておいたはずなのですが」

「あ、あはははー。ど、どうも」


 ひたすら気まずそうにしているスバルであった。

 何だかんだ、彼が王都を出てからまだ一月。一年間染みついた「役立たず」根性が抜けきっているわけでは決してない。


「アザルース殿、この男をご存じなのですか?」

「えぇ、忘れられるものなら忘れたい男ですがな。よくもおめおめと顔を出せたものよ。この役立たずが」

「……っ!」


 スバルの肩が震えていた。

 悔しくてたまらなかったが今の彼に言い返す力はない。それに言い返したとしても何も始まらない。


「申し訳ないのですがエルダ殿、そやつを今すぐここから――」

「あんたさっきから聞いてれば!」

「やめるのじゃアリサ」


 王様に食ってかかろうとしたアリサをソフィアが制する。


「陛下、私の弟子の不始末。私の名に免じて許してやっては頂けませんでしょうか。もちろん魔物から王都は守って見せましょう」

「まぁ伝説の魔女殿がそう仰るなら……」


 王がそう矛を収めようとした時、ソフィアは「ただ」と言ってこう続けた。


「ここにいるスバル・スコットランドもまた私の弟子にあたる者。どうか今のセリフ、撤回して頂きたいのですが」

「えっ!?ソ、ソフィアさん!?」

「しっ、ここはワシに合わせるのじゃ」


 そのセリフにスバルは勿論驚いた。しかしそれ以上に驚いていたのは王都の上層部や王本人。


「……大変失礼ですがソフィア・モルガン殿。あなた程の方を疑うわけではございませんがその者は役立たずのオーク一匹倒せぬ男でございます。そのような者を弟子とはあなたの目や腕、そしてもちろん名を傷つけることになりますぞ」

「ではそのお言葉、そっくりそのままお返し致しましょう。この男の才を見抜けなかったこと、今回のことで必ずや後悔することになるかと」

「なっ!ソフィー!君があの男の為に汚れ役を買ってやる事なんて!」

「奴には弟子を二度助けて貰った恩がある。この程度は安いモノじゃ」


 王の物言いに感じるモノがあったのはなにもアリサだけではない。ソフィアもまた同じように感じるところがあったのである。


「ふん、ではせいぜい見せてもらうとしましょうか。その役立たずに何かできるとは思えませんがな!」


 王がそう言うと部屋中の貴族達は「違いない!」と声を上げ、続いて大声で笑うものすら現れた。


「ソフィー、君は……」

「済まぬ、エルダ。しかしワシにも通さねばならぬ義理があるのじゃ」

「まぁ期待しないで待っておきましょう。我らはあの魔物どもさえどうにかなればそれで構いませんからな!」


 その一声に続いて貴族たちも一斉に「ハハハハハ」と声を抑えずに笑い始める。

 当のスバルはと言うとただただあっけに取られていた。それと同時に、どうして俺なんかのためにとも感じていた。

 別に俺がただ我慢すれば良い。それだけのはずだ、と。


「スバル。お主がどのようなに扱われていたかはあえて聞かぬ。じゃがお主の力に気づけなかったのは奴らの方じゃ。胸を張れ」

「ソフィアさん……」


 スバルは果たしてその期待に応えられるだろうか、とそればかりを考えていた。

 それに王都の者たちは勿論、エルダもまたソフィアがそこまでして守るほどの者かといぶかしんでもいる。


「はぁ。ソフィー、君には本当に驚かされる。これで王都に直接被害が出たら私たちの立場も危ういぞ?」

「構わぬ。守り切ればよいのじゃろ?」

「全く、君と言うやつは」


 ただそれ以上にエルダはソフィアを信じていた。

 スバルのことなど信じられはしないが、ソフィアが信じると言うならエルダもまたそれを信じる彼女を信じる覚悟がある。


「では皆の下へ行こうか。ここにこれ以上いても仕方がない」


 そうして再び転移。今度はどこかのテント――王都を守っている兵士たちの最終防衛ライン兼簡易の治療室の中へと跳んだ。

 戦場特有の雰囲気がそこら中に立ち込めていた。

 しかしエルダやソフィアは慣れたもので、呆然とするスバルとアリサをよそにそそくさと行動に移していく。


「済まない、指揮官はいるか」

「――ん?お、おぉ!エルダ殿!陛下から話は聞いております!ではこれで我らも攻勢に出られるというわけですな!」

「あぁ、だがその前にこちらの状況を改めて聞かせて欲しい」

「かしこまりました。では――」


 こうして、今転移魔法で送られてきている魔物の種類、位置、前線の様子、負傷者の数、残っている戦力、様々な情報が共有された。


「なるほど。ではまだ状況はそこまで大きく動いてはいない、と」

「はい。ただお恥ずかしい限りですが、エルダ殿達から派遣して頂いている魔法使いたちのおかげでなんとか持ち堪えている状況でして。特に組織的な動きを徹底しているオーク共に対しては宮廷魔導師一個小隊を当てさせられており、魔法を使わない兵士達では足止めすらできておらず……」


 組織的な動きを取るオーク。スバルは何とか一人でそれらを撃退したが、その実それはかなりの偉業なのであった。

 特にスバルと違い「オークごとき」と舐めてかかっていた王都の兵士たちにとって、それは正しく寝耳に水。戦闘開始直後は、それだけで大きく戦線を後退させられるほどの打撃を受けていたのである。


「なれば残った未だ出撃しておらぬ兵力をここへ集めよ」


 話を聞いていたソフィアが指揮官の男にそう言った。


「し、失礼ですが貴方様は?」

「ワシはソフィア・モルガン。名前くらいは知っておろう?」

「な、なんと!?」


 そこにいた兵士たちは途端に色めき立った。王からはエルダと言う腕利きの魔法使いがさらに仲間を連れてやってくる。と言うことしか聞いていなかったのである。

 しかしその仲間がかの伝説の魔女となれば驚きもする。


「いやはや、まさか伝説の魔女様が我らに味方してくれるとは……。これは此度の戦は勝ったも同然ですな!」


 国の窮地に、救援へおとずれたのがおとぎ話の中の人物であればこうもなろう。

 とにかく兵士たちは大いに喜んだ。

エルダとソフィアの二人についてはとても便利なキャラですがそれ故に何を考えているのかさっぱりわかりません。300歳超の美人さんって何を考えているんでしょうか。

女性って難しいですよね。


ご一読頂き、ありがとうございました。

これからも定期的に上げられるように頑張ります。

もしよければブクマとページ下部、評価ポイントをお願い致します。励みになります。

あと批判も、というよりむしろ批判を待っておりますので感想等もお時間あれば頂けると幸いです。

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