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現世堂の奇書鑑定  作者: 長埜 恵
エピローグ
93/99

5 新たなる事件1

 翌朝、少し寝坊したオレの階段を降りる足取りは重かった。けれど肝心の檜山さんはとっくに起きていて、オレに気づくなり朗らかに笑いかけてくれた。


「おはよう。なんか目の下にクマできてない?」


 そうかもしれないな。結局、あのあとさっぱり寝付けなかったし。

 でも、昨晩のオレの醜態については全然気にしてないようだ。ありがたいような、もうちょっと気にして欲しいような。オレは無意識に触っていたおでこから慌てて手を離した。


「あれ、パソコン使ってるんですか?」

「うん、ちょっと調べたいことがあってね」


 パチパチとキーボードを叩きながら、檜山さんは答える。そこでオレは返事もそこそこに、フラフラと洗面所へと向かった。


「顔を洗ってきたら……すぐ朝ごはんにしますね……」

「いいよ、もう一回寝ておいで。今日は丹波さんも来るし、彼女の件が終わるまで店は開けないつもりだから」

「オレも同席します……」

「いや、この件は僕一人で対応す……おや何これトロイの木馬?」

「ダメなやつそれ!」


 悪名高きウイルスソフトの名前に眠気も吹っ飛び、パソコンを奪い取る。画面にはいくつか英語のサイトが開かれていて、以前オレが入れたウイルス対策ソフトが大暴れしていた。

 ……何を調べたかったんだろう。通常運転の檜山さんに、オレは思わずため息をついた。


「パソコン、丹波さんの件でも使います?」

「う、うん。ちょっとだけ」

「……オレも、同席します」

「あ、はい。お願いします」


 本以外のことは、からっきしの人なのである。オレが来る前はどうやって生きてたのか不思議に思うけど、逆に本さえ関われば完璧にできるので食うには困らないのかと一人納得した。

 そうやってやれやれと頭を振っていると、ぽつりと檜山さんが付け加えた。


「……ま、君がいてくれたら、莉子さんも早く諦めてくれるかもしれないしね」


 それがどういう意味なのか、ついまだ回らない頭を使って考えてしまう。昨日のやりとりを思い返すに、やっぱりまた事件が発生したのか……。

 でもそんな余計なことを考えている間に、檜山さんはまたパソコンを触っていた。おかげでオレは朝っぱらから、画面を埋め尽くすセクシーなお姉さんに対処する羽目になってしまったのである。









 やがて時計の短針は十の数字を指し、いつものスーツに身を包んだ丹波さんが現世堂にやってきた。


「わざわざごめんなさいね、正樹さん。早めに終わらせるようにするから」

「ええ、お願いします」


 颯爽と店内に入ってきた彼女に、椅子を勧めながらオレも小さく頭を下げる。しかし、丹波さんはオレを見るなりギョッとした顔になった。


「慎太郎君も同席するの!?」

「はい、檜山さんがパソコンを使うので。その、まずいですか?」

「ええー……まずいはまずいけど、関係無いといえばそんなことはなくて……ううーん」


 あれ、オレも関係ある話なのだろうか。

 尋ねると、少し迷った後で丹波さんはチラリと檜山さんに視線を送った。檜山さんは頷き、オレに向き直る。


「それじゃ僕から言おうか。慎太郎君、このことは絶対他言無用でお願いしたいんだけどね」

「は、はい」

「……実は、またVICTIMSが盗まれたんだ」

「え、ええええーっ!?」


 目玉が飛び出そうなほど驚いた。嘘だろ、どうしたんだ警察。

 でもそれを口にする前に、丹波さんが割り込んできた。


「も、勿論厳重に保管されてたわよ!? 以前あんなことがあったんだもん、監視も強化してしっかり金庫で守ってたわ!」

「そうなんですね。じゃあなんで盗まれたんですか?」

「それが、どうも上層部が関わってるみたいで……」

「ってことは、また警察による盗難なんですか」


 オレの問いに、気まずそうに丹波さんは肯首した。やっぱりどうしたんだ、警察。

 しかし、今回は少しばかり事情が違うらしい。檜山さんがパソコンを操作しながら教えてくれた。


「まあまたしても、警察が操り人形になったのには違いないんだけどね。今回の主犯は、帆沼君じゃなくて別の男だよ」

「もう見当がついてるんですか?」

「うん。……ところで、慎太郎君は麻井紋まいもんグループって知ってる?」


 知ってるも何も、日本有数の巨大グループ企業である。デジタル事業を中心として様々な方面にも手を伸ばしているグループで、その影響力は凄まじく噂では政界にも食い込んでるとかなんとか……。


「で、そこがどうかしたんですか?」

「なんでもね、莉子さんが言うにはこのグループの重要人物が警察に圧力をかけて、VICTIMSを盗ませたらしいんだ」

「ええっ!? ま、まさかグループの社長とか!?」

「……の、息子らしい」


 檜山さんがパソコンの画面をトントンと指で叩く。そこには件の麻井紋グループのウェブサイトが表示されており、檜山さんと同じか少し若いぐらいの男の人が映っていた。

 忌々しそうに画面を見ながら、丹波さんが言う。


「そう、この男よ。この男が、VICTIMS窃盗事件の主犯である可能性が高いの」

「根拠はあるんですか?」

「……彼は、かつて熱狂的な帆沼呉一の信者でね。捜査網から漏れていたから、私も完全にノーマークだったんだけど……」

「え、帆沼さんの……」

「ああ、安心して。帆沼呉一はこの件に関しては全くの潔白だから。むしろ彼の忠告のおかげで、ようやく隠蔽されていたVICTIMSの件が明らかになったぐらい」

「あ、良かったです。でも隠蔽されてたんですか?」

「そりゃ上層部が関わってるんだもん、表沙汰にするわけないでしょ」

「確かに」

「……それにしても、帆沼君が進んでそういったことを話してくれていたとは」


 少し意外そうに檜山さんが言う。けれど丹波さんは、首を横に振った。


「彼曰く、前々からこの男を危険視してたらしいわね。正樹さんを手に入れるために多くの人を操った彼だけど、完全にとはいかなかったみたい。唯一、その男だけは帆沼呉一の手を離れて歩き始めてしまった。

 男の姿は、まるで信仰にも近かったって帆沼呉一は言ってたわ。男は彼を偶像化し始め、嫌気が差した帆沼は男を拒絶し、そして……」

「――お前は、帆沼呉一に相応しくないと言い出したんです」


 突然割って入った低い声に、オレと檜山さんは驚愕した。振り返った入り口に立っていたのは、パーカーを目深にかぶった背の高い一人の男。

 その唇には、見覚えのあるピアスが光っていた。

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