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よく考えれば私はルークさんのことを何も知らない。
魔術師団に所属していることだけは知っているものの、どんな立場なのかとか、帝国のどこ出身なのかとか、そういうことは何も知らなかった。
もっとも、私は苗字も生まれた家もどうしてここへやって来たかも話していないので、ルークさん以上に自分のことは話していないのだけれど。
「それにしてもこんなに空気がよくなるなんてね。短期間にこんなに精霊が増えると思わなかった」
私がぼんやり考え込んでいると、ルークさんが言った。
「本当ですね。精霊がたくさんいる町は空気が澄んでいて気持ちいいですよね」
「全部セラちゃんのおかげだよ。セラちゃんがいなければ精霊が戻って来てくれなかったし、司教様も精霊嫌いなままだった」
「いいえ、そんな。私は大したことをしてません」
「してるよ! セラちゃん、もうずっとラピシェル帝国にいてくれないかな」
ルークさんは冗談とも思えない口調で言う。
ずっとラピシェル帝国にいる。
なかば衝動的に祖国を出てしまったので、この先のことをちゃんと考えたことはなかったけれど、それもいいかもしれない。
私はもうサフェリア王国では死んだことになっているはずなので、帰る場所なんてないのだ。
もし私の能力が少しでも役に立つなら、このままラピシェル帝国に置いてもらうのが最善なのではないだろうか。
「それもいいかもしれませんね」
半分無意識にそう呟くと、ルークさんはぱっと笑顔になった。
「本当に? そうしなよ、セラちゃんがずっといてくれるならみんな大歓迎だよ!」
「そうでしょうか……?」
「そうだって! この先定住するなら住む場所探し手伝うよ! 国籍偽造の準備とかも魔術師団でなんとかするし!」
話がやけに具体的になってくる。
というか不法入国したこと、ルークさんにはバレていたのか。
シリウスは私の肩で、「いいじゃん、そうしちゃいなよセラ」とはしゃいだ声で言っている。
「ええと、具体的な話はもう少し考えてからで……」
私が誤魔化すようにそう言うと、ルークさんはあからさまにがっかりした顔をした。
それから「真剣に移住を考える気になったらいつでも言ってね」と念を押して来た。
その後は特に移住の話はせず、ルークさんとベンチに座って他愛もない話をしながら、子供たちが遊んでいる様子を眺めていた。
とても長閑な光景だった。
しかし、穏やかな空間を壊すように、どこかから大きな音が聞こえてくる。
「……セラちゃん、向こうがなんだか騒がしくない?」
ルークさんも音に気付いたようで、後ろを振り返りながら固い声で言った。
音は教会の裏の道の方から聞こえてくるようだった。
たくさんの人が駆ける足音と、人々が険しい口調で何か話す声も聞こえてくる。
何かあったのだろうか。
事故? まさかどこかから兵が攻め込んできたとか?
ルークさんも警戒しているようで、立ち上がって音のする方を見ている。




