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翌朝、私は何とも心地良い気分で目を覚ました。
今日から約束した通り、レピドの町へ行って精霊に力を送ることになっている。
朝になるとルークさんが迎えに来てくれたので、馬車に乗ってレピドの町まで向かった。
町に着いたら広場まで向かい、そこで遠くにいる精霊の気配に向かって力を送る。
力を送っていると、初日と同じように精霊が怯えながらもこちらに集まって来た。
意識的に魔力を抑えて、初日と同じように精霊たちに向かって「怖くないよー」と話しかけてみる。
初日は私が笑みを向けた瞬間逃げ出してしまった精霊たちは、今日はほんの少しだけ近づいて来てくれた。
やっぱりまだ怖がられているようで、手を伸ばした瞬間逃げられてしまったけれど。
「う、嬉しい……! 初めて精霊が寄って来てくれたわ! すぐ逃げちゃったけど!」
『結局逃げられてるじゃん。だからセラはあんな弱虫の精霊と関わらなくていいんだって』
感動のあまり声を上げたら、シリウスに不機嫌そうに肩を噛まれた。けれど、私は長年嫌われてきた精霊に少しでも好かれたのが嬉しくて、感動を抑えきれなかった。
ルークさんはそんな私たちを見てけらけら笑っていた。
それからも私はルークさんに連れられ、毎日レピドの町に通った。
日が経つごとに精霊は少しずつ増えていく。同時に町を覆っていた淀んだ空気もゆっくりと澄んでいくのがわかった。
「すごいよ、セラちゃん! こんなに短期間でこんなに精霊が帰ってくるなんて! 瘴気も随分薄くなっている!!」
ルークさんは町を眺めながら明るい声で言う。
「お役に立ててよかったです。このまま行けばまた人が住めるようになるでしょうか」
「うん、きっとなるよ! このくらいの瘴気ならもう一般人が歩いても平気かも。あぁ、本当にセラちゃんに会えてよかった。町がこんなに早く改善するなんて!」
ルークさんは笑顔でそう言ってくれる。
今まで褒められることなんてほとんどなかったので、なんだか照れてしまった。
しかし、褒め言葉にぽわぽわしていた私に、ルークさんはとんでもないことを言い出した。
「そうだ、セラちゃん! 今度一緒に帝都に行こうよ! 陛下や皇女様にセラちゃんの活躍を報告しなきゃ!」
「え、いや、それは……!」
ルークさんは名案だとでもいうようにそう提案してくる。
しかし、私には出来るはずもないことだった。
陛下や皇女様とお会いするなら、どこの誰だかは秘密ですなんて通らないだろう。きっと素性を詳しく調べられるはずだ。
そうしたら、私がサフェリア王国のシャノン家の娘で、王太子の婚約者だったということがわかってしまう。
せっかく身投げしたことにして、祖国から逃げてきたというのに。




